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肉を食べるぞ!

 肉を出して焼いてくれるよう依頼したけど、これは店にとっては何の儲けにもならない。単に手間が増えて、料理が出なくなったので損をするのである。そこで、普通はいくらくらいなのかも知らないのだが勢いで、

「誰もタダだって言ってないぞ!一皿大銅貨1枚だからな!食べたいなら、金払えよ!!」

 と客に向かって怒鳴った。「えーーー!?」という声は出たけど、みんな不味い料理にウンザリしていたんだろう、次々に注文し始めた。オレは嫌そうな顔をしている女将さんに向かって、

「女将さん、オレと店で半々でどうだ。塩と胡椒まで渡して半々だぞ。それならいいだろう?あんまり肉をケチるなよ」


 半々と分かった途端、女将さんの表情が笑顔になった。燃料費と手間賃だけなんだよ?それで半々なら言うことないでしょうが。

「済まないねぇ。あんたに何も返すものがないけど、良いのかい?肉やらなんやらタダ同然じゃないか?」

「いいよ。でもオレたちの分はタダだぞ」

「もちろんだよ、ありがとうよ」

 厨房のオヤジさんは死にそうな顔をして肉を焼き始めた。肉の種類にもよるけど、大銅貨1枚の肉って普通は肉100gくらいにはなると思うので、5kgあったら大銅貨50枚くらいにはなると思うんだけどなぁ?


 なんて心配はおいといて、席に戻るとボスが頭を下げてきて、部下たちも口々にお礼を言う。もてなす側なのに、もてなされる側に気を使ってしまって、という気持ちなんだよなぁ。見知らぬ土地でお客さんを接待するとき、店のアテがなくて、営業所の若手とかに聞いたらハズレだった、ということに似ているけど、この村に食事して酒の飲めるところはここしかないんだから、どうしようもないよなぁ。


 肉が焼かれて、まず最初にオレたちのテーブルに持って来た。思ったより大きな肉で安心した。臭いを嗅ぐと、胡椒の香りがしない。

「女将さん、胡椒かけてないの?」

 と聞くと、女将さんはバツの悪そうな顔をして、

「どんな案配で胡椒をかければいいか分からないから、掛けてないんですよ」

 と言い訳した。なるほど、と思うけど、これはもしかしたら、胡椒をかけずに済ませて、ネコババしようという気じゃないのか?

「じゃあ、自分でかけるから持って来て」

「え、あ、はいよ」

 ちょっと、女将さんが慌てたような動きしたけど、結局持って来た。ボス以下5人は胡椒に興味津々である。やっぱり、胡椒は帝国でも下々まで行き渡ってなくて、金持ちしか使えないんだろうな。


 さっさっさっ、とテーブルの上の皿に掛けて回る。見ている女将さんの顔が渋くて笑う。ヨハネ、ミンは平気な顔で、イワンはワクワク顔である。

「さあ、食べてくれ!」

「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」

 声が揃って、肉をパクつき出すと、ボスたちは目を見張った。でしょ?こういう反応なんだよね。ヨハネとミンは通常運転である。イワンは食べるのが初めてというわけではないので、そんな感激していないし。オレたちと旅するようになって、毎日料理に使っているからね。


 ボスたちから口々に感謝が伝えられる。肉が飛ぶように売れ、女将さんと娘さん?は忙しく店の中を飛び回っている。肉が売れると、あのクソマズいエールも同じように売れている。オレはもうエールを飲む気がないけど、イワンは喜んで飲んでいる。イワンが追加を頼むと、必ず娘さん?がジョッキを運んで来て、イワンの肩に胸を、一当て二当てしていく。そうなるとイワンもデレデレして調子に乗ってまたエールを頼むという悪循環。

 ボスたちはたぶん、イワンが誰か知っているのだろうか?イワンのすることを見て、げんなりした顔をしているんだなぁ。気持ちは分かるよ、すごく。コイツがこの国のトップになるかも知れないと思うと、こんな田舎村の飲み屋の娘さん?に相好崩しているイワンでいいのか?って思うんだよねぇ。それを知らなくても、1人盛り上がっているイワンを見ると、周りは引くわな。


 そろそろ食事も終わったし、エールもたっぷり飲んだ、ということで引き上げようかという雰囲気になってきた。そのとき、娘さんがイワンの耳元で何か囁いた。イワンはニマッと笑う。なんだ?夜のお誘いがあったのか?と思った時イワンが嬉しそうに、

「タチバナ様、銀貨1枚だそうです」

 と言う。

「え、何が?」

「だから銀貨1枚だそうですよ、彼女が」

 あ、彼女は商売するってことね!

「銀貨1枚って、時間はどうなの?」

「たぶん朝まででしょう。特に何も言われなかったし」

 そうなんだ。でも、こんな田舎で一晩銀貨1枚って高くないかなぁ?イワンはニコニコしているっていうのは、その気ってことか。あれ?イワンは金持ってないから、そのお金はオレが出すってことか?ボスたちはオレたちの会話を聞いて唖然としている。キミたち、ここでイワンと近しくなったことって幸せだったのかねぇ?知らなくて良い部分も目に入ってくるんだよ?イワンだって、若い絶倫の男なんだから、そういう機会があれば必ず飛び込んじゃうんだよな、今は。


「行っても良いですか?」

 臆面もなく聞いてくるイワン。呆れつつ、ヨハネに村の状況を聞いてみる。

「ヨハネ、この村の中に危ない気配ってないよな?」

「そうですね、感じられません」

 ひとまず安心して、イワンに致す場所を聞いてみる。

「イワン、どこかって聞いたの?」

「この店の2階ということです」

 なるほどね。よくあるパターンです。交渉がまとまれば、お姉さんと一緒に2階に上がっていくやつですね。それを見ている酒場の客がやっかみ交えて、冷やかすというか罵声というか声を上げるってやつ。


「待て、見てみる」

 と言い、この建物をチェックする。ヨハネに聞いたけど、自分でも確認する。外にいるのは福音派の者か?妖しい気配の者はいないな。ヨハネも同時に探っていたようで、

「マモル様、問題ないと思います」

「なら行っていいよ。ほれ」

 と銀貨1枚を渡す。

「ありがとうございます。タチバナ様もいかがですか?必要なら呼ぶと言ってましたよ」

 なんと、枠に余裕があると。でも、まさかあの女将さんが出て来ないよな?ボスの部下が行きたそうな顔をしているが、役目上立候補できないのだろう。

「オレはいいよ、ミンがいるから」

 ミンが聞き耳立てているのに無理だって。子ども(ミン)の見てる前で、女遊びする親ってNGだと思うぞ。

 

 と思ったら、ナゼかミンが顔を赤くして腕を掴んできた。あれ、オレ何か余計なコト言ったのだろうか?ヨハネはヤレヤレと言う顔をしているし。イワンは「やっぱりね」というような顔をしている。ボスたちも納得の表情というか、したり顔というのか、複雑な顔をしている。

 イワンの誘いに乗りたそうな顔をしていた兄ちゃんだけは、すごく羨ましそうな顔をしている。あれ?もしかしたら、オレの言ったこと、「ミンがいるから」というのは「ミンという、女がいるから」って受け取られたの?えーーオレとミンの年じゃ、それは不自然でしょう?でも、ミンは喜んで胸の間にオレの腕を挟んで、肩に頭を乗せているし。

 どうしたらいいのだろうか?




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