応援するという
足取り軽く進むイワンの後ろ姿を見ると、こいつの精力は無限なのか?と思うなぁ。中国の皇帝の後宮に妻妾が千人、二千人とかいうのはイワンを見ていると理解できるような気がする。こいつなら、一晩で5人でも10人でも相手できるんじゃないだろうか?でも、そんなヤツが国の頂点だと、そっちの方で財政が傾くんじゃないだろうか?でも戦争やって、人を死なせて金を使ってという非生産的なことをするよりは、よっぽどマシかも知れないような気もする。
夕べも一昨日も、ヨハネと話してはいないが、妖しいヤツらは近づいていないと思う。もう中止になったのか、人材尽きてしまったのか。そんなにイワンを殺したいなら、堂々と軍でも警察でも派遣して、冤罪で捕まえてしまえばいいのに、と思うけど、イワンは一応、大公様の一行に含まれているから、外交官特権?で無闇やたらに捕まえたりすることはできないようだし。それに、襲って来たのが、国としてとか政府としてなのか、1個人が意図したものか分からないけどな。1個人なら闇から闇へ葬るしかないだろう。
何事も無く、帝都に向かう道を進む。だんだんと周りに人が増えてきた。さっきまでは離れて前後を歩く旅人や、追い越していく馬車があったのだが、4人の旅人たちがオレたちと同じ歩調で進んでいる。ただし、この4人から殺意は感じられず、敵意もない。むしろ、好意に近いものがにじみ出している気がする。
これはオレたちに近づこうとしているとしか、思えない。ヨハネも感じたようで、イワンとの距離を縮めた。4人からイワンを守るように、道の左側を歩く。
このまま歩き続けるのは神経がすり減りそうなので、休憩取って様子を見ることにした。
「ちょっと、休憩しよう。小腹が空いたし、喉も渇いた」
「「「はい」」」
オレたちは止まったが4人は止まらず、進んで行く。オレたちに顔を向けもしない。ヨハネに目線で4人へ向けると、ヨハネも相づちを打ってきた。ミンは無言だが、不機嫌そうな顔をしている。たぶん、感じている。イワンはいつもと変わらないので、何も気づいていないのか?
4人は100mも離れたか、距離を取って休憩し始めた。
何も起きないので、オレたちは休憩取って歩き出す。4人の側を通り過ぎようとしたとき、1人がうずくまっているのが分かった。腹を押さえて痛がっている、ように見える。道行く人は、オレたちの他にもいるが、誰も関心を示さない。まさか演技ではないよな?
4人のうちの1人がオレに、
「申し訳ありません、薬を持っておられませんか?」
と声を掛けてきた。殺意はないが、そんな困ったようでもない。腹が痛そうにしているのは演技か?オレたちを呼び止めるための芝居をしているのか?ここで無視しても良いが、ミンが反応しそうな雰囲気を出していたので、オレが先に返事をする。
「薬は持ちませんが、呪文の治療はできます。ごくごく初歩のものですけどね」
「そうですか、すみませんがお願いできないでしょうか?朝は良かったのですが、だんだんと腹が痛くなってきて動けなくなってしまいました」
「わかりました。診てみます」
と言って寝っ転がっている男のところに進む。腹が痛いと言うけれど、顔は歪めていても脂汗をかいているようでもなく、痛みがあるようでもない。がここは一つ、流れに乗って出方を見ることにする。
そいつの腹に手を当て、
『Cure』
と唱えた。ちょっと魔力が多くて、腹を中心に光が生まれた。昼間だけど、周りに分かるくらいの光を作ってしまった。4人から「おぉっ!!」と歓声を頂きました。オレは腹痛とかは、あまり自信なかったけど、効いたかな?あれ、この人、足の具合が悪そうな?
「もしかしたら、足を痛めてないか?膝が痛そうな気がするが?」
と言うと、そいつは目を開いて、
「そうなんです!実は膝がずっと痛くて......」
「やっぱり!ちょこっと直しておくから」
と言うと、後ろの方から「またマモル様のお人好しが」というつぶやきが聞こえた。もう、乗りかかった船だから良いでしょうが。膝に手を当て、
『Cure』
と唱えると、膝が光る。
「おぉ、膝が、膝が楽になった!ずっと膝の所に違和感あったのだが、なくなったぞ!」
すっごく嬉しそうに言う。他の3人が羨ましそうに見ているから、
「あんたらも何か具合の悪い所あるんなら直すよ?」
と言うと、
「実は手が......」
と言って手袋を外して、手を出してきた。小指の先がなくなっている。これは切断したんだろう。まだ時間が経ってないと思える。一昨日か3日前か?簡単に血止めして何か塗っただけか?
手を取り、
『Clean』『Cure』
と掛ける。
「おぉ!痛みがなくなったぞ。手の先の神経が戻ってきた!?」
と喜んでもらえた。次の人は服を広げて腹に巻かれている包帯を見せる。腋腹の包帯に血が滲んでいる。
「こんなケガで、よく歩いてきたね。『Clean』『Cure』どう?」
呪文を掛けてすぐ、腹の傷を叩いて「痛くない!」と叫んでいるよ。まあ、効いて良かったね。残りの一人は手をブルブル振って、「私は結構です」と言っている。ならいいか。
「すみません、これくらいしか手持ちが無くて。これで許してください」
と銀貨3枚を紙に包んでくれた。紙、というより封筒?の上に載せてくれた。オレとしては何に包んでも、銀貨もらえるなら異論はないし。
「ありがとうございます」
と言い、ありがたく受け取った。そのままポケットに入れて、
「もう良ければ、先を急ぐので失礼します」
と挨拶すると、
「助かりました。過分な治療までして頂きありがとうございました」
と頭を下げて頂いた。
しばらく歩き4人と十分距離を取ってから、さっきの封筒を取り出す。外には何も書いていない。オレに渡されたから、オレが開封してもいいんだよな?
中には便箋が1枚だけ入っていた。サラッと読んで、イワンに渡す。イワンが読み、片眉を上げている。イワンは便箋をオレに返してきた。
「中身が中身だから燃やすぞ。いいか?」
「はい、お願いします」
便箋を受け取って『Fire』と唱えて燃す。
「何が書いてあったのか、教えてくれないの?」
ミンが聞いてきたけど、これは言えない。首を振って、返事する。実はオレにもよく分からない。中身は帝都にいるナワリヌイという人物がイワンの力になると書いてあっただけだった。具体的にどう力になるのか、ナワリヌイという人物は誰なのか、何も書いてなかった。オレには何も分からないが、イワンは深刻そうな顔をして何か考えているようだから、あれで分かっているのだろう。
歩きながら聞くというのは、漏洩の心配があるだろうから、今晩宿に入ってから聞くことにしよう。あれっきり、4人組は近づいてこない。ただし、距離を取って帝都に向かう道を歩いている。




