現地調査
いつもありがとうございます。
まずは現地に行って、目指す物を確認しないといけませんよね。
三直三現は基本ですから。
『降り人』がいる、他の地に。会ってみたい、もちろん!!
ジンが続ける。
「向こうは、この話に半信半疑なんだよ、当たり前だがな。向こうの興味あるのは、オマエの知識と香辛料だ。まず、マモルが向こうに行くことで信用してもらう。そして、その後、オレたちが香辛料の種と苗を持って向こうに行くんだ。向こうでも胡椒を育てることは、できていないようだ」
向こうも胡椒が採れてないのか?ここから種を持って行って、向こうで育てるということか?この村の人たちも、隣の国では犯罪者の子孫というレッテルから逃げられるということか。
やっと筋書きが見えてきた。でも、いつの間にそういうネットワークができていたんだ?
「一応、話は分かったが、どうやって隣の国と話を付けたのか?」
「もともと、向こうと辺境伯領は商売しているから、人の行き来があるんだ。この村は中継地だから向こうの人間とは知り合いができてくるのさ。
何もなければ、何もなく終わるんだが、万が一何かあったときのために、こうやって、使う手を準備してあるんだよ。それで、伝えるのは鳥に手紙を持たせるのさ」
あぁ、伝書鳩なのか。なら、あっという間に隣の国に届くのか。
「この村にしても、向こうも持ちつ持たれつになっているんだよ。向こうがこっちに攻めてきたときは、この村が連絡することになっているが、もし、辺境伯領から向こうに攻め込むことになったら、知らせることになってんだよ、ははは」
「あれ?それって辺境伯領に対する裏切りじゃないのか?それに、この先に隣国との間に、もう一つ宿場があると聞いているが?」
「裏切りっていうほど、恩恵を受けてるわけじゃないことは、マモルだって見てれば分かるだろ?それに隣の国からもここは援助してもらってるんだよ。それに先の宿場だって、ここよりもっと隣の国に寄りかかっているさ。こっちの国は宿場にかろうじて生きて行けるくらいの援助しかしないが、隣の国から水面下で人並みの生活ができるようなくらいの援助が来てるらしいな。宿場は隣の国に生かしてもらってるのさ」
「そうなのか......」
「あぁ、オレたちは逃げるが、宿場のヤツらは逃げないのさ」
「え、どうしてだ?」
「ヤツらも逃げると、オレたちが隣の国に逃げたと分かるじゃないか。だから、オレたちだけが、ある日突然いなくなったように見せるんだよ。家財道具や着る物、みんなそのままにしてな、そこに住んでた人間だけがいなくなったように見せるんだよ。宿場のヤツらは誰も通っていないと言ってもらうんだ」
「はぁーーーーなるほどね」
「そういうことだから、マモル、頼むな、ふふふ」
「具体的にはどうするんだ?」
「明日の朝、向こうに連絡の鳥を出す。返事が来て、マモルをいつ迎えに来るか分かる。それで、マモルが向こうに行く。たぶん、向こうは隣の宿場まで来ているはずだ。だから、宿場まで行けばいいが、たぶん途中まで迎えに来ると思う」
「そこにはオレ1人で行くのか?」
「そうだ、悪いが1人だ。たぶん、誰が付いて行っても、マモルには足手まといにしかならないだろう。だから、1人で行ってくれ。歩いて半日くらいの所まで迎えにくると思う」
「うううううう、もしかしたら途中でオレが死ぬかもしれんぞ?その時はどうするんだ?」
「その時はその時だ、仕方ない。みんな、ここで死ぬさ」
「もし、オレが無事向こうに着いたとして、途中まで迎えに行くにしても、村のみんなは無事合流地点まで来れるのか?」
「あぁ、それがな、獣が嫌がる物がこの村にあるんだ」
「そうだ、嫌がる物だ。獣がひどく嫌がる臭いのするものがあるんだ。前にマモルがここに来たばかりのとき、身体を悪くしたとき飲ませたものがあっただろ?あの臭いが獣は嫌がるらしい」
あれかぁ!アンでさえ臭いといったヤツ。そりゃ、人間でもひどい臭いですがな、あなたたちでさえ、嫌っているのでしょ?
「あれを身体に塗って行けば、獣は近寄ってこないだろう。調査団がこの村を出てから、戻ってくるまで最短でも10日くらいあるだろうから、その間に行く予定だ」
「もし、調査団が領都に帰るとき、オレを連れていくと行ったらどうするんだ?」
「それも考えてある。マモルは前日に身体の具合が悪くなったと言うんだ。それであの煎じ薬を飲め。あれは飲んだ後も、身体の中からものすごい臭いが出てくるんだよ。だから、オマエを残して行くというはずだ」
確かに、あれと一緒に馬車に乗ろうと思わないわな。でも、オレがあれを飲むんかい!!あれを、あれを......。
「分かった。ただ、向こうの話もまともに信用できない。何か向こうの本気を証明するものを示してもらおう。
そうだ!向こうの『降り人』の名前を聞いてくれないか?その『降り人』がオレの住む世界の人なら、それなりの特徴が名前にあって、オレが聞けば前の世界にいた人かどうか、分かるだろう。そうすれば、向こうが本当の事を言ってるのかどうか、分かると思う」
「分かった。聞いてみる。話はこれで終わりだ。後はメシを食って、オマエの小屋に行け。アンが待ってるぞ」
ジンにニマニマと笑われながら、婆さまとバゥからは生暖かい笑顔をもらって婆さまの小屋を出て、自分の住んでた小屋に来た。
小屋に入ると、アンがいた。この臭いも久しぶりだ。やっぱり臭いし、汚いなぁ、懐かしいけど。アンが夕ごはんを持って来た。領都にいたときとは雲泥の差だ。向こうに比べると、ここのごはんはゴミに近いのだが、それでも懐かしい。オレは前の世界で差別ということを余りリアルに感じることが少なかったけど、ここでは厳然とした事実として存在してるし、個の力ではどうすることもできない。この国でいるとゴミ扱いが、隣の国に行けばゼロではないが人間に近くなれるということだろうか。
その夜は久しぶりにアンを抱いた。観覧者や聴取者がいようと気にならなかった、すっと禁欲していたんだから仕方ないさ。領都に行って、キレイなご婦人や美少女に囲まれてずっとガマンしてたんだもの、自分で自分を褒めてやりたいさ。
読んでいただきありがとうございます。山登りをされる方はご存じでしょうが、道なき道を行く、藪の中を進む、という場合ほんの数百mでも一時間以上かかることが当たり前です。まったくの、ディスクワークしかしたことのない人を連れて山に入ると、すぐに動けなくなるのは自明の理です。




