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ポツン村拡大首脳会議

 その夜に村の方針を決める会議が持たれた。

 ロマノウ商会のセルジュ会頭たちとの昼の会議をした面々に加えて、カタリナとアノン、バゥとミコラ、福音派からシモン、そして女性代表としてバゥの妻のユリとイリーナ、マモルたちが来る前のポツン村の村長マルセルが出席していた。


 会議は当然紛糾した。未だ、噂の域を出ていないような話だけで、確定したことが何もないということ。要はまだ確かなことがないのだから、コトが起きてから対処すれば良いのでないか?という話になり、しばらく様子を見よう、という流れになりそうだったが、リファール商会のペドロ会頭の言った一言が会議の流れを変えた。

「昼の会議が終わった後、ブカヒンから連絡がありました。クルコフ子爵様が軍を編成し、戦争に備えることに決定されたそうです。この村にも招集があると思われます。ポツン村に対して招集される兵の数は15から20人の間になると思います。今後の状況次第では増える可能性もあるので、事前に招集名簿を作っておかれるとよろしいと思います」


 その言葉を聞いて、会議の出席者は戦争が近いことを認識した。そして、もしポツン村の近くで戦闘があったらどうするのか?という前提で話し合うことになった。


 ミワは「受け入れてもらえるのなら、避難した方がいい。ブカヒンでもヘルソンでも避難しましょう。無理に戦う必要なんてないんだから。みんなで安全な所に逃げましょう」と考えていた。


 しかし、意外なことにユリとイリーナから避難せず村に留まって対応するという意見が出た。二人は前の凶賊を撃退したことを理由に防備を固めておき、いざというときはビール工場に籠城して帝国軍の通過をやり過ごそう、と主張した。

 確かに帝国軍がポツン村に攻めて来たとしても、村を落とすことが目的でなく、村の先にあるブカヒンを攻めることが目標になるはずなので、ポツン村を攻略することに時間をかけることは無駄なのである。そう考えると、もし帝国軍が村を攻めることをせず、通り過ぎるだけで済んでしまう可能性がある。それを息を潜めて待てば、帝国軍はいなくなるはずだろうと予想された。


 ユリとイリーナの2人はどこに逃げても同じだろうという思いがあった。逃げると言って、どこに逃げるの?ブカヒンと言っても、帝国軍がブカヒンを攻めると同じじゃないの?逃げたところが安全なの?逃げたところで、どうやって生活するの?という思いがある。この世界では、災害などから避難したとしても、避難先で居住地や食糧を提供してくれることはないのが当たり前。今回、ブカヒンでポツン村の者たちを受け入れると言っても、居場所は提供されても、その日の食事から自分たちで調達しないといけない。ポツン村だから居住地が提供されるので、他の村の場合、そのようなことは一切言われないのである。

 マモルは貴族でも例外的に平民に対して庇護の意識が強いが、普通の貴族領主というものは土地、建物と言った固定資産に対して外からの攻撃に反応するが、住んでいる領民たちが多少減ったところで苦にもならない。平民なんぞネズミが増えるように自然と増えるモノだと考えるのが普通だ。だから、今回の避難するというのは、ブカヒンの領主が言っているのでなく、リファール商会とロマノフ商会が好意で申し出ているということは村の者には分かっていた。


 昼の会議の後、オレグがバゥ、ミコラと帝国軍がユニエイトから来てブカヒンを攻めようとした場合、ブカヒンのクルコフ子爵がどこでそれを迎え撃つのか、戦場を予想していた。

 3人とも、ポツン村の先が戦場になるだろうということで一致した。となると、自然とポツン村が補給基地になり、陣地として構築され、クルコフ子爵様の軍の補給のため運用されるだろうと、話しているのをユリとイリーナは聞いていた。3人は、その場合ポツン村の住民は自然と軍の間接人員として動員されるだろう。その時点で村人がどこかに避難するという選択肢はないだろうな、と話をしていた。バゥのこういうときの勘というのは外れないとユリは思っている。日頃は女にだらしなく、ユリのヒモに近いバゥだが、こういうときだけは頼りになる。


 ユリとイリーナはバゥたちが話していたことを全部言わないが、とにかくポツン村から避難することは止めようと説いた。

 会議に出ている者が一人一人意見を聞かれる。サラが司会しているので、意見は言わず、カタリナは「皆さんの意見を聞いてから発言します」と言った。アノンは「私は早々にブカヒン近郊に行った方が良いと思うけどね」と言い、ミワが意見を求められた。

 ミワもアノンと同じ意見だったが、言っていいのかどうか分からない。アノンの発言の重さというのは村で生活し始めてよく分かっている。しかし、ユリの発言力もそれ以上に重いことも知っている。ユリやイリーナがマモルたちと一緒に村を立ち上げたグループの一員ということ。それがいかに重いのか知っている。それを考えると何を言えば良いのか分からない。そして結局、

「私は、新参者でよく分かりません。皆さんの決定に従います」

 と言ってしまった。皆の流れに乗って、皆の意に添うように息を潜めて従う小市民的な役割に自分を落とし込んでしまった。人の上に立ち、人を導くことなんて、前の世界でも、この世界に来てからも一度もない。


 会議ではバゥ、ミコラも村にいることを選択し、村から避難することはアノンだけが言っただけであったので、最終的にカタリナは村から避難しないことを決定し、ロマノウ商会のセルジュ会頭、リファール商会のペドロ会頭に決定を告げた。


 ロマノウ商会のセルジュ会頭の所は、チェルニの支店から連絡をもらっていた。チェルニ領主のポトツキ伯爵軍がユニエイトに向けて軍を発したとのこと。その軍にはヤロスラフ王国人には見えない人間が多数混じっていること。そのヤロスラフ王国人に見えない者たちはゴダイ帝国人と推定されること。軍の数は1万前後と思われることが伝えられている。いよいよ戦争が始まったとしか思えない。


 セルジュ会頭はそれをゴダイ帝国のサマラ出張所と帝都ブロジ出張所に向けて伝書鳥を発する。どちらかで大公に伝われば良いということで。マモル宛てで私的連絡としてカタリナに子どもが生まれたことを付け加えてある。

 いよいよヤロスラフ王国の存続を懸けての戦いが始まった。


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