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急展開を迎えます

いつもありがとうございます。

村にマモルは帰って来ましたが、マモルの立ち位置によって、村の運命が左右するということが知らされます。上の人から見て、ゴミはゴミということです。

 2人は酒を飲みながら領都のことや隣国、王都のことを話していた。今回は村に行って調査してくるだけだから、余り気負わず気楽なんだろう。


 2人にこの国の宗教について、教えてもらった。ポリシェン様のお屋敷にいたときは宗教臭がほとんどなくて、生活の中で礼拝したり教会に行ったりしているように見えなかったのだが、これだけ人間が集まる世界に宗教が入っていないことはないと思っていたが、召使いの人たちはオレに説明してくれなかった。

「神さまが......」

 というワードがほとんどだったけど、教義がどうのと言った話を聞いたことはなかたった。


 この国にはキーエフ真教という国教があるという。領都には教会があり、緩やかな教義のようだ。異教徒の存在を認め、異教徒も将来にはキーエフ真教徒になるであろう、教徒候補の群れという見方で、迫害せず緩やかに加護を与えることで感謝され、いつか改宗するであろう、というものの見方のようである。異教徒であるから弾圧されたりすることはなく、異教徒としての登録と異教徒税を納めれば、普通に生活できるとのこと。


 地球の一部の宗教のように、信仰は寄付の金額によって判断されるなどという不可思議な教義はないようで、本人の信仰心に応じた寄付をするそうである。週1回の教会での礼拝と1日朝夕の場所を問わない礼拝を必要とする宗教のようである。

 オレのような異教徒がいる前で礼拝をするのでなく、教徒が集まって礼拝しており、ポリシェン様の屋敷の中に家族が礼拝する場所と使用人の礼拝する場所があったそうだが、オレは異教徒であったので、そこに入ることも招かれることもなかったそうである。オレは一切誘われなかったけど、あれはナゼなのだろう?

 領民の税金の中に教会に回す金が入っているようで、領から一定額の金が教会に行くようである。キーエフ真教以外の宗教では国からの援助がないので、自腹で調達する必要があるので、信者からの寄付によって生計を立てているようだ。


 隣国(ヤロスラフ王国という)はキーエフ正教という、大本はキーエフ真教と同じ宗祖が始めた宗教だったが、宗祖の子孫に受け継がれているうち、あるとき子孫の中で教義の解釈をめぐり、ケンカが始まり、分裂し真教と正教に分かれたそうで。真教がこの国、正教が隣国に深く浸透しているそうである。

 ブロヒン様に言わせると、教義というより集まる寄付金の分け方で争いが起きたんだろうと言ってた。2人から見ると、違いが分からないくらいの教義の解釈なので、末端の信者からするとどっちもどっちだけど、害はないから問題ないということらしい。現に領都にいる正教徒は隣国からの移住者がほとんどということだった。宗祖の言葉を集めた聖典があり、信徒はいついかなる場合も聖典を持ち歩く義務があるようで、お二人に聞いたら自慢げに『my聖典』を見せてくれた。村には教会も聖典も何もなかったと言うと、あそこは犯罪者の子孫の村であり、犯罪を犯すと、その時でキーエフ真教の庇護から外されてしまう、という考え方によるものらしい。

 信仰を持たざるもの、というのは人間として認められないようで、そこから来たオレも、今だ人間の範疇に入らないようである。それなら、あの村の住民は隣国のキーエフ正教を信仰すればどうなの?と思ったけど、それを言ったらもめそうなので、空気を読んで言わなかった。


 この国の中には、過激な思想をもつキーエフ教原理主義なるものもあるそうで、これは聖典の厳密な解釈を行い、それに沿った生活をするというもののようで、何かと言えば問題を起こす組織らしい。ただ、これは地下に潜んでいるので、中々実態が掴めないとのこと。

 どこの世界も宗教というものは似たり寄ったりなんですね。


 次の日の朝早く、オレたちはミコライの街を出発した。ミコライの街を出るとき、なぜかロマノウ商会のセルジュ会頭が門の所にいて、見送りをしてくれた。意図が掴めないが、今のところ何も害はなさそうだけど、気になる。


 道中、特にイベントもなく村に着いた。久々に戻ってきた村は、オレの鼻に厳しい。毛皮をなめす臭いやら汗や大小便の臭いやら、ありとあらゆる臭いがしている。生活臭と言えばそうなのだが、それはきつめに振れているんだよね。調査隊の皆さんも村には近寄りたくないようで、あまりいい顔していないし。そのうちジンとバゥが出てきた。


「ジン、久しぶりだな」

「これはポリシェン様、前回いらしてからそんな日も経っておりませんが、どうされましたか?お、マモルも一緒か、ということはマモルに関係した実のことということですか?」

「そうだ、宰相様のご命令で、まずこの村の現状について見てこいと言われてな。それで彼を連れてやってきた」

 と言いブロヒン様を紹介された。

「ブロヒンだ」

「ブロヒン様ですか、私はジンと申します。これはバゥと言い、2人とも領都で衛兵をしており、そのときの上司がポリシェン様でした。よろしくお願いいたします」

「うむ、よろしく頼む」

「ジン、いつも通り駐屯場を使いたいので、門を開けてくれるか?」

「了解しました。こちらです」

 2人に先導されて。駐屯場に入る。奥の方にオレの植えた胡椒の木が見える。1本だけ小さいように見えるけど、あれは栄養の与え方の差か?でも順調に伸びているように見える。葉は一度落ちて、新芽が出てきているように見える。あれ、横にも小さい木が見えるけど、あれは後から植えたのかな?


 馬車を止め、荷物を下ろす。皆さん、テキパキと動いてますねぇ、あっという間にテントが立ち、住める所ができてしまう。調査団一行様は村の中に入りたくないのは見え見えで(そりゃそうですよね、臭いから)、駐屯場で村からなるべく離れた場所にテントを建てている。今晩はこれで作業は終了で、明日は胡椒やチョウジの木の生えている所を見に行くそうで、ジンが案内を命じられていた。


「おーーーい、マモル」

「ポリシェン様、ジンが呼んでおりますので、行ってもよろしいでしょうか?」

「ああいいぞ。村に女がいるなら、村に泊まっていいぞ」

 おっと、物わかりの良い上司でありがたい。

「ありがとうございます。そうさせて頂きます。では失礼します」

 一礼し、ジンのいる方向に向かう。調査団はブロヒン様の他は知らない顔ばかりなのだが、やはりみんな村の者に対して、明らかに見下した嫌悪感のこもった目で見ている。この村に来るのもイヤイヤ、命令だから仕方ないと言った姿勢が見え見えだ。


「ジン、改めて久しぶりだ」

 ジンとハグする(その前に『Clean』を掛けたが気づかれない)。

「あぁ、そんなに時間は経ってないはずだが、ずいぶん経ったような気がするな」

「どうだ、みんな変わっていないか?」

「相変わらず、貧しいままだよ。マモルがいなくなってから、獣が捕れなくなって肉がまた食べられなくなっちまってな、みんなマモルが帰ってくればいいのに、って言ってたさ。アンもノンもミンまで寂しがっていたぞ。どうしてミンまで寂しがるのか、みんな不思議がっていたがな、ははは」

「そうか、へへっ」

「でもな、オレはオマエが帰って来ない方がこの村にとっては良かったと思ってたよ」

「え、そうか?どうして、帰って来ない方が良かったのか?」

「そうなんだ。この話の続きは人の聞いてる所では、できない。さぁ、婆さまとバゥが待ってるから行こう」


 そう言ってジンはドンドンと先を立って歩き出した。村の中に入っていくと知った顔がオレを迎えてくれる。アン、ノン、ミン、ドン、隣のおばちゃん、井戸端にいつもいるオバチャンたち、知ってる顔ばかりが「お帰り」と言ってくれる。

 この世界に来て初めて住み初めた場所がここだから、臭い汚い危険の3K揃っているけれど、やっぱり懐かしい。

 ジンに先導されドンドン進んで行くと婆さまとバゥが待っていた。挨拶もそこそこに婆さまの小屋に入る。


 ジンが聞いてきた。

「さっそくだがマモル、今回の調査隊の来た目的が何か知っているか?」

「目的?ポリシェン様から説明されたのではないのか?」

「聞いた。しかし、あれは正式な話で、実際の目的が違うことがあっても不思議じゃないんだ。特に、この村という場所ではな」

「いや、オレが聞いているのはポリシェン様の言ったことと同じだぞ」

「そうなのか。じゃあ聞くが、この話はどのくらいの偉い様まで行っているんだ?」

「辺境伯領の宰相様にお会いして話をしたが?」

「そうか、宰相様とはどんな話をしたか、聞かせてくれるか?」

「あぁ、いいよ。宰相様には事前に胡椒が渡されていて、この村でオレが見つけたということが知られていた。それでチョウジを見せて説明した」

「ふむ、それで宰相様は何と言われた?」

「最初は、ここに専門の人たちを送り込んで任せようと考えておられたようだが、オレはこの村の人間がまず苗木を育てて、それで成功したなら、国中に広めたらどうか?と提案したら、こういう調査団を派遣しようということになったようだ」

「ふぅぅぅぅぅむ、そうか」

「そうか、とは?」

「マモルの提案を認めて頂けたなら、良いのだが、たぶんそんな都合良くは行かないような気がする」

「そうか?オレの提案の通りにはならないか?」

「そうだなぁ、マモルの言うとおりに進めばいいのだが、たぶん宰相様の言われた方針で進むのだろう。宰相様が1度口にされたことを、どこの馬の骨とも分からないような者が言ったからって、変えることはない。そんなことをすると宰相さまの沽券に関わるからな。

 ということは、この村にオレたちはいられなくなるな、きっと。それくらいで済めば良いが、最悪の場合、全員殺されるかも知れんな」

「そんなひどいことをするか?」

「たぶんな」

「まさか?」

「その、まさかがきっと起きる。こういうことは最悪のことが起きるものと考えておいた方がいいんだよ」

「そうか、でもなぜだ?」

「それは金だよ。胡椒がここで採れるようになればどえらい利益が出るから、それを独り占めしたいんだよ。それにオレたちみたいな人間以下のゴミみたいな者を関わらせたくないのさ。オレたちが触った物を口に入れたいなんて、誰も思わないからな。

 たぶん、マモルが領都に行っても、どこにも行かず誰にも会わず、ずっと屋敷の中にいたんじゃないか?」

「そうだ、良く分かるな」

「まぁ、そうなると思ったけどな」

「そうなのか?」

「たぶん、宰相様はどこかの商人と組んで香辛料の生産から流通まで一手に握るつもりだろう。まぁ、宰相様はその利益は辺境伯領に吸い上げるつもりだろうが、そこにオレたちがいると邪魔なんだよ」

「邪魔なのか?」

「そうだ。オレたちは聞いたと思うが、罪人や罪人だった者の子孫だ。だから、この領内ではいないものとされているし、まぁ汚らわしいものなんだ。触ることはもちろん、話す事も汚らわしいし、一緒に暮らすなんて、あり得ない話なのさ。だから、オレたちと何か一緒にする、ということや、オレたちを使って何かするというのは宰相様やお貴族様たちには絶対あってはならないことだ。

 マモルがこの村に帰ってこないということなら、マモルはこの村から離れて他の所を回っていくことになって、偉くなっていくことが考えられるんだよ。

 オレの願いでは、マモルが胡椒やチョージのことで実績を上げて、マモルが偉くなって、この村の領主様になって帰ってきてくれることだったのだが、こんなに早く帰ってきたということは、マモルがこの村の領主ということはなくて、単なる案内人ということだろう」

 なるほど、そういうことか。ジンはよく考えてるな。


「そうだな、たぶんオレは案内人だな。そういうことか、早く帰ってきたということは」

 オレの言葉を聞いてジンは眉をしかめながら、

「たぶん、そうなんだろうな。残念な結果しか見えなくなったな」

「なら、どうするんだ?この後」

「調査隊が調査して帰って見込みがあると判断されたら、今度は農業専門のヤツらと兵士が来て、この村を統治するだろう。それで、しばらくオレたちを使って、だいたい技術を習得したら、オレたちを始末する。そうしないと、どこか余所にやって秘密がバレるとうまくないだろうし」

「そんなバカな!始末されると?会った人はみんないい人だったけど、そんなことするかなぁ?信じられないけど、この世界だと、そういうものかなぁ。オレは前の世界の常識の中で生きているから、理解できないだけなんだろうな。

 そうかぁ、それなら胡椒とか、オレは見つけなければ良かったなぁ......?」


 オレの言葉を聞いてジンは、

「まぁ、仕方ないさ。オレたちみたいな者が、いつまでも生かされているのも不思議な話ではあったんだけどな。それでだ、オレたちも死にたくないから、手を考えた」

「手を考えた、とは?」

 ジンは周りを見回し、

「ヤツらには絶対に秘密だぞ。マモル、オマエが絶対に必要だし、オマエが同意してくれないと実現しない話だ」

「オレがか?」

「そうだ、要だ。よく聞いてくれ。ここにいたら、みんないつかは殺されるのは分かっているから、隣の国に逃げる」

「え、逃げる?隣の国に?」

「そうだ、隣の国に逃げる。村のみんなで、だ」

「そんなことできるのか?」

「あぁ、できる。実はある程度話が付いている」

「そうなのか?どうやって?」

「隣の国の迎えが近くまで来る。それに合流して逃げるんだ。そのためにマモルが必要になるんだ。マモルのおまけでオレたちが逃げれるようなものだ」

「オレは何をするんだ?」

「向こうはマモルという『降り人』という存在があるから、この話に乗ってくれてる。だから、マモルがいないと向こうは話に乗ってくれないんだよ」

「オレか?オレにそんな価値があるのか?」

「そうだ、向こうの国境近くの街の領主が『降り人』なんだそうだ。だからだよ」


 なんと、『降り人』がいた。




これだけ考えて準備しているジンという人間は、もし上手く使うことができれば、非常に役に立つ人間であるということです。世の中には、高い能力を持っていても正当に評価されない人を多く見てきました(62才ですから)。また、能力を持っていても、現在の立ち位置で満足しており、上に引っ張られて責任を持たせられるのがイヤという人もいます。そういう、いろいろな考えの人たちを、いかに上手く使うか?というのが上に立つ人の器量ということになるのだと思いますが、いかがでしょう。

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