ミン、魔力尽きる
ケガ人、死人がドンドン持ち込まれてくる。見境なしにとにかく診てもらって、ということらしい。死人が持ち込まれたのは、オレたちのやってることを見て、もしかすると蘇生するかも知れないと思ったようだ。
ミンは少女にかかりきりとなっている。オレはその他大勢を診て、取りあえず血止めくらいしといて、足りない時は後でまとめてミンに治療してもらうことにした。こんな野戦病院みたいな、と言うより野戦病院そのもので、そんな高度な医療なんてできるわけがないし、期待もされていないだろうしな。
さっきからイワンが周りをウロウロしているが、何かの役に立っているわけでなく、役に立ちたいけど何もできないのでウロウロしているだけと言うことだ。役に立ったのは、オレとミンの前に立て邪魔したヤツを殴った時だけだ。
家の下敷きになった者はわりと軽傷が多いが、直接熊と対した者は死んだか重傷である。両方合わせてもオレが診たのは20人プラスといったくらいだ。しかし、ミンの診ている少女はなかなか終わらない。ミンの抱えている魔力玉の色がもうすぐなくなるだろうと思われる時、
「終わり!もうダメ......」
と言いながらミンが倒れた。周りにいた村人が、
「おぉ!?」
「どうした?」
「あんた、大丈夫か?」
ミンを抱きかかえながら声を掛ける。けど、ミンの意識がなくなって顔色が悪くなっているのを見てオレに、
「アンタ、この子、どうしたんだ?大丈夫か?」
泣きそうな顔で聞いてくる。さっきまでつっけんどんな対応してたのに、手のひら返した対応になっている。
「大丈夫じゃないけど、魔力が尽きただけだから、しばらく横にしておいてくれ。腹の上にこれを乗せてくれ」
と言い、代わりの魔力玉を渡そうとしたら、
「何言ってんだよぉ!?あんなぁ具合悪そうな娘さん診てやってくれよぉ!」
と言う村人に押されてミンの前に出された。そう言われれば何もしないわけにもいかないので、取りあえずミンの額に手を当て、ミンに魔力を流す。オレが診ても何も変わらないので、魔力を流して回復を早めるだけなんだけど。
こんな時だけど、ミンに魔力を流すのは久しぶりだったなぁ、と思う。ミンの手を取り、帰ってくる魔力を感じると、ミンの魔力の色彩が感じられる。ノンに近いけどミンの魔力だ。ミンに構っていなかった自分を少し反省。ミンの意識が戻るまでここままでいさせてもらうことにした。
そこへヨハネが耳打ちしてきた。
「マモル様、村の外で同朋が敵と戦っているようです」
「そうなのか?」
「はい。敵は4人のようです。それくらいなら問題なく駆逐できます」
「すまんな、面倒掛ける」
「いえ、このくらいお役に立たないと、ポツン村に住まわせて頂いているお礼になりませんから」
当然だ、というくらいの顔で言う。村に住まわせているというだけで、こんなに感謝され犠牲を伴っているのに、それを当たり前って言うのは今までどんな過酷な生活を送って来たのかっての。
それはともかくお願いすることがある。
「ヨハネ、悪いが村の外の馬車の所に敵を1人縛ってあるので、連れてきてくれないか?そいつから誰に命じられて襲ってきているのか聞きたい」
「分かりました」
ヨハネが行こうとすると、
「私も行く!」
とイワンのバカが言う。どうしてこいつが言う!?
「バカ!オマエが行ってどうするんだよ。村から出たところを襲撃されたら元も子もないだろうが!!」
「そうか......」
まったく、何か役に立ちたいと思うんだろうが、オマエはジッとしているのが良いっつうの!そんで、それくらいでショボンとするな!ショボンと!
「それと、ヨハネ。ククンの遺体はオレのポケットに入れてあるから葬るときは教えてくれ」
「そうですか、ありがとうございます」
ヨハネは一礼し馬車の方に向かって走って行った。
治療については、ケガ人はいなくなったようで、みんな壊れた家の片付けを行っている。死んだ村人の埋葬の準備も始まっている。
そのとき、
「あの~~あんた様は病人を診ることもできますかね?うちに病気の子どもがおってです、できれば診てもらえんかと思いまして。あ、でも、なんもお礼するもん、ないがですけれど」
としわくちゃのばあさんが語りかけてきた。うーん、オレとしては得手不得手というとちょうど中間くらいで力任せだけど、やらないよりは良いだろうし、このばあさんはさっきのオレのやってたのを見ていたんだろうから断るのは気の毒だし。
「いいよ。案内してくれ。イワン、付いて来い」
ミンを背中にしょって、ばあさんの後に付いていく。村のメインストリートは旅人を泊めるように、いくらか見た目の良い外観の家が並んでいるけど、その裏はあばら屋と言っていいような家並みになっている。
もう暗いのに、ばあさんは灯りも点けず歩いて行く。でもオレはとても足下が暗くて歩けない。ミンを背負ったまま、転んだりするとえらいことになる。
『Light』
と唱え、目の前に小さい光の玉を出した。ばあさんは目を剝いて(シワだらけの顔なので、シワの奥の目を見開いたと思う)、
「アンタ、すごいねぇ。こんなんもできるんかね!」
と褒めて頂いた。しかし、灯りが周りの家を照らすと、その家の傷み具合がより一層分かる。




