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村に入り治療する

 カリンという少女の人の側にミンが行こうとすると、村人が通してくれない。そして、

「あんたらは誰だ?何をするんだ?」

 男が険しい顔で怒鳴る。こいつはオレが大熊と戦っていたのを見てないんだろうか?ほとんどの村人が家の中に引きこもっていたんだし、それは仕方ないってことか?見たこともない男と少女がいきなり村の少女に近寄ってきても、いったい何をするか分からない、そんなこと許すことはできないってことだろう。


「ミンは治療の呪文を使える。そこを通してくれ。早く診れば治るかも知れない」

 と言うが信じてもらえない(当たり前だが)ようで、さらにひどい剣幕で怒鳴ってくる。


「信じられるか!?こんな村の人間に呪文を掛けてくれたって、払う金はないんだ。それにどうせ、効きやしないんだろう?呪文掛けたって言いやがって、ウソつきやがって騙すんだろうが!!金だけ取っていくんだろうが!」

 ひどい言われ方をする。この男の言うのが、普通の治療の呪文を使う者の有り様なんだろう。前にオレグも言ってたよな。


「金はいらない。とにかく早く診せろ!」

 オレは言うが男はどかない。両手を広げて、ミンとオレを通さない。その横を女が通って、少女の側に行く。そして少女の口に何か入れる。あれが、腹を下したときに飲ませるという飲み薬か?まさか効くとは思わないが、万が一効けばいいのだが?


 しかし、当然だが薬が効いたように見えない。ま、そんな早く効くような薬は劇薬だろうから、それも考えものだし。


「ダメ!?」

 女が泣く。周りの村人が聞いたことのない言葉で祈り始める。この村の人間にすると、これ以上の治療はないのだろう。祈って治せるなら医者はいらんよな。でも、第三者から見れば、ミンも祈って治すのかも知れん。

「通せ!!この娘なら治せるかも知れないんだ!少しでも早ければ、助かる可能性はあるんだ!早く診せろ!」

 と男に訴えるが、男は鬼のような顔をして、首を振る。コイツ、殴ってやろうか?

「死んでしまうぞ!そこをどけ!」

 と男に言うが、

「オレたちに金はないんだ!」

 と吐き捨てるように言う。そういうことか?と納得したとき、横からイワンが飛び込んで来て、男を殴り飛ばした。男が転がる。祈っていた者たちが、祈りを止めオレたちを見ている。目に恐怖が浮かんでいる。


「行け!診てやってくれ!私が責任を取る。早く治してやってくれ!」

 殴った拳を押さえながらイワンが叫ぶ。オレはミンを抱えて、村人の輪の中に入っていく。村人がフリーズしてオレたちを見ている。ミンは村人の反応を気にせず、カリンと呼ばれた少女の腹の上に手を当て、

『Cure』

 と唱えた。当てた手から光が生まれる。ミンの魔力が少女の腹に吸い込まれていく。少女を囲んでいた村人が声を失って、ミンを見つめた。手の光が消えたら、ミンはまた

『Cure』

と唱える。手から光が生まれ、女の腹の中に吸い込まれていく。

「ふう」

 ミンが手で額の汗をぬぐう。

「どうだ?」

「うん。お腹の中がぐちゃぐちゃになっている。胸の骨も何本か折れている。マモル様、魔力玉出して」

「分かった。足りなくなったら言ってくれ。まだ他にもケガ人がいると思う」

 ミンは紫色の魔力玉を膝に抱えて、

「うん、頑張る!」

 オレたちのやり取りを村人たちは息を飲んで聞いている。村人はみんな、この少女は死ぬだろうと思っていたんだろうが、今は少し希望が持てると思ったのかも知れない。さっき飲み薬を持って来た女が、

「お助けを......」

 と泣きながら訴えてくる。イワンが偉そうに、

「治りそうか?助けてやってくれ!」

 と偉そうに言う。こいつ、地が出て来たか?オマエに言われなくても助けるって、オレじゃなくてミンだが。


 ミンは片手を心臓の下に、もう片方の手を丹田の辺りに置いた。そしてゆっくりと、

『Cure』

 小さい声で魔力を込めて流す。その時、

「ガトンが、出て来た!!」

 という声が上がって、

「どけどけどけ!!」

 と言われながら戸板に乗った男が運ばれてきた。顔色はそんな悪くないが、身体中埃だらけ傷だらけだ。顔をしかめているが、意識はある。

「オマエはどこが痛いんだ?」

 と聞いたら、

「な、なんでえ、オマエは?何をするんだ?するのはいいけど、オレたちは金はねえぞ!!いてて、身体中、いてえんだよ!家の下敷きになったんだ。あぁ?カリン?カリンか?大丈夫か?アレはあんたの娘か何かか?オレはいいから、カリンを助けてやってくれ!頼む!」

「オマエ、うるさい。頑張ってるから黙ってろ。声がデカいとミンが集中できない」

「おお、すまえね。とにかくだ、頼む!頼むぜ!」

「うるさい!」

「すまん......」

「じっとしていろ『Cure』」

 オレの手からミンほどではないが、光が発せられる。

「おぉぉぉぉぉ!!」

 いちいちうるさい、こいつ。別に痛いわけじゃないだろ?いちいち反応しなくて良いっつの!騒いで治るんなら騒いでもいいが、うるさくて邪魔なだけなんだって。それでも、

「おぉ?治ったか?や、良くなったか?コイツはいいぜ。でも悪いが金はねえぜ。それでもいいなら、治してやってくれぇ!」

 

 次に運ばれてきた者は左手を肘から先をなくしていた。大熊に食われたか?オレには血を止めるしかできない。

「すまんが、血止めするしかできん。ガマンしてくれ」

 左手をなくした男は、気を失っている。誰かから左手を縛って血止めしている。オレにできるのは力業で血止めするだけだ。まず、

『Clean』

 傷口を消毒し、次に魔力を手に溜め傷口に当て、

『Cure』

 と流す。光と共に漏れていた血が止まり、傷口がみるみるうちに修復され、皮がついてくる。

「うわぁー!?」

「なんじゃこりゃぁ!?」

「すげえ!」

 反応は様々だけど、一様に驚いてくれている。


「コレで終わりだ。傷口を塞ぐことくらいしかできん。ほれ、他にケガしたヤツがいたら診る。連れて来い」

 横にイワンがぼーっと右手の拳を抱えたまま立っていたので、拳に『Cure』と掛け、

「ヨハネを呼んできてくれ」

 と頼む。イワンは目が覚めたようにビクンとしたが、言われるままヨハネを連れて来てくれた。ヨハネは直したといっても、まだ万全というわけじゃないな。


「ヨハネ、すまんが敵が入ってこないか見張っててくれ。オレはミンのサポートに集中する。襲うんなら今の時間帯が一番都合が良いはずだ。頼む」

「分かりました」

 と返事するヨハネの横からさっきのガトンが、

「なんだ、あんたは敵持ちか?あんたの周りを村のもんで固めて、あんたに近づかないようにすれば良いんだな。任せとけ!」

 ドンと胸を叩くが、オマエは調子良いだけであんまり役に立ちそうにない気がするんだよ。


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