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イワンは黙ったままで

 転がっている敵のケガ人や死体は横の森の中に放り込んでおくことにした。トドメを刺さなくても、森の獣たちがやってくれるでしょう、というヨハネのアドバイス?に従って。人手は大銅貨1枚で手伝いを頼んだら、あっという間に10人集まってきた。うーん、2人か4人くらいで良かったけど。

 手伝いを頼んだ中に気のきいた人がいて「敵の持ち物をどうしますか?」と聞いてくるので「好きにしてくれば良いよ」と言うと手伝いの人たちは喜んで、ワラワラと敵の身体検査をしている。

 さらに、「こいつらはあそこから出て来たから、何か残しているんじゃないのか?」という声が上がった。もうオレたちの知ったことじゃないと思うので、無視して出発することにした。たぶん、そんな簡単に見つかるような所に隠しているわけがないと思うけど、知ったこっちゃない。もしかしたら、敵がまだ残っているかも知れないよ。あんまり欲をかくとロクなことがないと思うんだけどなぁ。


 さっきまで快活に話していたイワンが、何か考えるように黙りこくっている。別に黙っていても構わないのだが、敵の襲来に思い当たるものがあるのか?ミンにちょっかいださなければ、話そうが黙ろうがオレはいいんだけど。


 そのまま宿泊する村に着いてしまった。予約しているわけでもないので、いつも通り高そうな宿屋から空きを聞いて回る。宿がないと最悪1つのテントに4人寝ないといけない。けれど、そんな混んでいるようでもなく村で一番高級そうな宿で2部屋が確保できた。高級そうと言うのは言いすぎで、村長の家の空いている部屋を使って旅行客を泊めているという感じのものなんだが。とにかく、これまで通り、オレとミンが1部屋で、ヨハネとイワンが1部屋という割り振りにする。

 一応、食堂で夕食を取ることができた。泊まり客だけでなく、村の男どもが酒を飲みに来ているようだから、それなりに賑わっている。

 夕食のときもイワンは何も話さない。ずっと黙ったまま。怪しいよなぁ。これって、今晩、そして明日以降も襲われるというフラグを上げているようなもんじゃないか?言えない事情があるんだろうが、少しは話してくれないと動きようがないような気もする。頼まれた以上、捨てていく訳にもいかないんだし。


「イワン、キミのことだが、我々に話せるだけのことを話してくれないだろうか?昼間襲われたのも、キミが狙われたような気がするし、もしそうだとしたら今晩からどうするのか考えていかないといけないし」

 イワンは逡巡していたが、

「それはですね......確かに昼間に狙われたのは私だと思います。私も襲われるとは思っていなかったので、まさかと思ったのですが。えーーー私の身分については、申し訳ありませんが、お話しできかねます。ホントに大変申し訳ありません。ただ、決して皆さんの敵に回るようなことはありません。私を帝都に連れて行って頂けることで、皆さんのためになることです。ですから大公様も私の同行を許可されました。正直言って、こんなに早く私がハルキフを出たというのが分かるとは思っていなかったのですが」

「何を言っているのか、曖昧すぎて良く分からないのだけど?とにかく、ハルキフの司令官から頼まれているし、キミが狙われていると分かったなら、キミの護衛を中心にして移動するんだけどね」

「もうしわけありません。ご迷惑をお掛けします」

 とイワンは頭を下げるけど。頭を下げたくらいで片付く問題じゃないと思うのだけどなぁ。


 ヨハネが声を潜めて、

「マモル様、昼間の者たちは軍に所属するものではないと思いますが」

と言ってきた。

「軍人でないというのはなぜ?」

「軍人があのように沈黙を守ったまま、民間人を襲撃することは帝国ではありえません。私の経験からするとあれは裏の人間かと思います」

「裏というのは、例えば暗殺部隊とか?でもどうしてそんなことが分かるの?」

「私たちは、帝国にいたときはシュタインメッツ様の私兵として諜報活動を行っておりましたので、そのような者たちがいると知っています。そのような者たちは表に出てはマズいので、互いに顔を合わせることはありませんでしたが」

「そうなのか?」

「暗殺に特化した部隊があったかどうかは知りませんが、そうそう暗殺する対象が存在したとは思えませんので、どこかの権力者の諜報部隊や工作部隊、影の護衛隊のようなものかも知れません」

「工作部隊?」

「はい。諜報は情報を収集しますが、工作は相手に対して攻撃する部隊です。それが心理戦だったり実際の攻撃であったり色々あると思いますが。護衛隊はそのままの意味です。実際に私もそういう仕事をしていたわけでなく、シュタインメッツ様は情報を欲しておられたので、武力を必要とされることはほとんどなかったのですが」

「ということは昼間のヤツらは、誰かの私兵か何かってことか?」

「帝国には貴族はいないので、皇族のどなたかの私兵か組織でないかと思いますが詳しくは分かりません。確かに貴族はいなくなりましたが、上位の公職を世襲する名家というのは残っておりますから」

「それはそうだね。分かったとしてもどうしようもないけど。こんな村では帝国軍もいないから、護衛してもらうわけにはいかないし」

「いたとしても無理でしょう。大変申し訳ないのですが、男爵くらいの地位で帝国軍が護衛してくれるとは思いません。もし、してくれたとしても、数名程度で護衛する位なら、むしろ邪魔になるかも知れません」

「そうだろうなぁ。こんな田舎の帝国軍が精鋭のはずがないもんなぁ」

「大公様に追いつくまでは自分たちの身は自分で守るしかないようです。今晩から警戒していきましょう。夜も警戒するとなると昼は騎馬や徒歩で移動というのは難しいでしょう。馬車を仕立てませんか?」

「そうだな。金がかかるけど仕方ない。だが御者はどうする?ミンはできないぞ。イワンは?」

 ヒソヒソと話をしていてもイワンには丸々聞こえていたとみえて、

「申し訳ありません。わたしは馬を扱えません」

 と首を振りながら言ってきた。そうかい、キミは何ができるのかい?と心の中で質問した。残念すぎるイワンくん。ミンは、馬さえやっと乗れているのに馬車を操るなんて、そもそも無理だわ。


「ヨハネ、馬車を調達してもオレとオマエは御者をするわけにいかないし、残り2人は無理と来ている。村人を雇うというのは無理だろう。身元なんてどうか分からないし」

「仕方ありません。昼の戦闘で矢を射た者の他に福音派の者が同行しておりますから、その者を村で雇ったと言う体にしましょう。福音派の者が同行していると敵に知られたくないのです」

「そうか。済まない。なら、今晩は交代で見張りをしようか?」

「分かりました。見張りはどこで?」

「互いの部屋でやろう。交代するとき壁を叩いてくれ。合図は2度だ。了解したら3度叩き返す。それでいいだろう?」

「分かりました」


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