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サラさんのご両親の家に訪問する

 なんとか朝食を終え、やっとサラさんのご両親のお宅に向かって歩く。この道中でアビルお姉さんに会わなければいいなぁ、と思いつつ。そういうフラグを上げると会ってしまうというのは良く知っているし、体験している。でも今はまだ午前の早い時間だしアビルお姉さんの職業が職業なので、今はお眠りになっているのではないだろうか?それに夕べは商売繁盛だったろうし、お疲れでとても外に散歩されるということはないのでないかと思うのだが。よって遭遇する可能性はかなり低いと思うが、これは希望的観測すぎるだろうか?


 手頃なお菓子の箱詰めを途中の店で買い、あとは砂糖と胡椒を渡せば久々の娘婿の訪問としては十分なお土産と言えるのでないだろうか?


 どうでも良いことなのだが、ミンがオレにべったりとくっついてきている。オレの左腕を両手でガッチリ固めて、多少主張がはっきりするようになった膨らみの双丘に、オレの腕が左に当たるように右に当たるように、抱えている。それがどうしたと言うのだ、そんなことしたからって、進展あるわけじゃないんだぞ。


 突然の訪問だったけど、ご両親は在宅しておられた。そして大変喜んでいただき、今度はビクトルを連れて来てね、とお母さんが言うとミンは嫌な表情を見せていたし、ミンがビクトルと一緒になってくれれば、と言われたら小さい声で「ゲッ!!」と言っていたけどな。


 そのうち、おばあさんが出て来られた。オレには型どおりの挨拶をされたけど、ミンに対しては、結構な反応をされて、

「どれ、一つ呪文を伝えようかね?」

 と言われる。うーーむ、オレにはつれない態度なのだが、どうしてミンにはこんな好意的な反応なのだろうか?

「今日は大公様に付いて来ているそうな。これから帝都まで行くのだろう。だとしたら怖いのは毒かのう?それの呪文を教えてあげよう」

 とあっさり、みんながいる場所で言われた。あれ?呪文の伝授は前に入った、かなり怪しい部屋はどうなったんだろう?変なお香のような匂いのする部屋で呪文が言い渡されるんじゃないの?と思ったら、ミンは違ったことを考えていて、

「毒というのは解毒ということですか?それは『Cure』で効くとアノンさんから聞いていますけど?」

「確かに『Cure』でも効くんじゃが、強い毒じゃったら、毒に効きのある呪文の方が良いんじゃよ。それに効率が良い。それでな呪文は『Detoxify』と言うんじゃ。マモルにも聞こえたか?」

「はい、聞こえました」

「ということはマモルにも使えるじゃろう」

 なるほど、たしか日本にいたとき、デトックスという言葉を聞いたことがあったけど、これが解毒ということだったのか。ミンは小さい声で『Detoxify』と繰り返している。教えてもらったのは良いけど、使うことがないことを願うよ。赤痢とか食中毒になったら、どっちを使えば良いんだろう?やっぱ病気なんだから『Cure』だろうな。『Detoxify』は毒物を使われたときの対応ということなんだろうし。


 おばあさんは呪文を教えてまた、奥に戻っていかれた。もう、魔女という表現がぴったりだと思う。ミンも長生きするとああなるのだろうか?


 その後はご両親と近くのレストランに昼食に連れて行ってもらった。オレ以外は蚕料理をお食べになられましたよ!?オレは丁寧にご遠慮して(涙々)菜食料理を頂きました。肉だと思って食べたら蚕だったとか、冗談じゃないし。ミンに言わせりゃ、オレも蚕料理を頼んで、出て来た蚕はみんなミンが食べて残りをオレが食べれば良いというけど、それをやったら何も食べるモノがなくなってしまうでしょうが?ミンの蚕好き、虫好きはあの村の時からだもんなぁ。オレがあの村で初めて蚕を口にしたとき、飲み込めず口に入れたままだったのを、そっと出して後でミンに食べさせたら、嫌がりもせず食べたくらいなんだし。

 ご両親も「こんなに美味しいのにねぇ」とおっしゃいますが、世の中苦手なモノは苦手なんですよ、はぁ。


 蚕は別にして、食後は和気藹々と話をして、ご両親と別れた。帰り際にもう1度「ビクトルの顔を見たいから今度連れてきてね」と言われました。ええ、連れて来ようと思いますが、会うと驚きますよ。あの汚れを知らない美少年が、汚れきった青年になろうとして。ヒゲも生えてきているし、なにより下半身が汚れきっているから。この町に連れて来たら、アビルお姉さんの店で無双しそうな気がする。おっと、オレグだって魔王状態だったし、叔父と甥で最強コンビとなるんだろうか?ありそうで怖いわ。


 ミンと町を歩いていると、フラグを上げたせいか、まだ明るいのに通りの反対側にアビルお姉さんの姿を見掛けてしまった。レーダーには知ってる人反応が出ていたので怪しいと思ってたので、避けようとしたが、ナゼか左腕を固めているミンがアビルお姉さんのいる方に誘導するのである。まさか、ミンはアビルお姉さんのいることを知って引っ張っているのか?まさかと思うが、どんどん距離が縮まっている。


 ついにアビルお姉さんに発見されてしまった。お姉さんは何かを見て眉を寄せていたのが、オレを見た途端、パッと笑顔になった。けれど、オレの横にミンがいるのを見て、一転して知らんぷりしてくれた。いやいや、気の付く人ですよ、今朝の誰かさんとは大違いでTPOというものをわきまえていらっしゃる。

 そのまま話しかけられることもなく、すれ違った。そして、心からの安堵が全身に広がった時ミンが、

「ねぇ、マモル様。さっきの女の人って知り合いなの?」

 ミンが気づいていた。しかし、ここは知らぬ存ぜぬで押し通すしかない!!

「は?何のこと?どの女の人のことを言ってるんだ?」

 オレの返事に、ミンは抱えていた腕から手を放して、グーでオレの腹にパンチしてくる。


「あれ?気が付かなかった?さっきすれ違った女の人が、マモル様の顔を見て、一瞬すごく嬉しそうな顔をしたんだよ。すごい親近感のある雰囲気があったんだよ。そうね、ミワさんがマモル様を見るときみたいな?だからさ、マモル様は気が付かなかったかも知れないけど、知ってる人なのかなぁ?と思ってさ」

 なかなか鋭い所を突いていらっしゃるミンさんです。ここでごまかしきれない、などと弱気になってはいけない。初志貫徹あるのみ!!

「いや、分からなかったなぁ?オレの知ってる人だったら声を掛けてくると思うから、黙っていたというのは、人違いだったんじゃないのか?」

 とゴマしておく。が、ミンが

「え、そうかなぁ?かなり親密そうな雰囲気出していたんだけど?(ミンが振り返り後ろを見て)ほら、まだこっち見てるよ!きっと知ってる人だって!!」

 と言われて、顔を両手で挟まれ、無理矢理後ろを振り向かされる。首がゴキゴキっていう音がしたんじゃないか?って思うくらい回されて、後ろを見てみると、アビルお姉さんはいなかった。

「どの女の人だ?」

 とボケる。そんなのいないぞ、と言うと、誰のことを言ってるか認識しているということになるので、ここはボケる。曖昧にしておかないと辻褄が合わないのだ。

「え、あれ?いなくなっちゃった。どうしたんだろう?さっきまでいたのになぁ。気のせいだったのかな

 アビルお姉さん、ナイスです!振り返ってると聞いたときは死んだかと思いましたよ。これで平安な日常に帰れると思ったのも束の間、肩をポンと叩かれ、

叩かれた方を見たらアビルお姉さんがいて、

「タチバナ様、またいらっしゃってくださいね」

 とおっしゃられました。助けてぇぇぇぇーーー!?


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