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村に対して動きがあります。

どの時代でもそうですが(もちろん、日本でも)人を人と認めない状態が認められていることが存在します。

その人たちに対して、体制やその傘下に生活する人々は、それを是としており、その人たちがどのような仕打ちされようと、問題と思わないという事実があります。

それに対し、この小説の中で何かしようとは、思わないのですが、そういうものもあるということだけを伝えています。


 皆さん、きっと色々あったのでしょうが、夜はふけ、朝になる。


 いつも通りの明るい朝です。

 もぐもぐと美味しく朝食を食べていると、イワンさんがいらっしゃいました。目が真っ赤です、いやだ、お話を本気にしないでくださいよ、フィクションだって何回も言ったじゃないですか。でも、泣かせようと思って話していましたけど。


「マモル様、ポリシェン様から、朝食の後、宰相様のお屋敷に伺うから部屋に来るようにと言われております」

「はい、分かりました。伺います」

 ポリシェン様の部屋に行き、すぐ馬車に乗り込み出発しました。


「マモル、リューブ様はとにかく、大変お忙しい方なので、今回も余り時間を取れないと思うが、そこはよく理解しておいてくれ。マモルの持って来た情報が極めて有用ゆえ、いろいろと考えておられるようだから、今回は具体的な話になるかも知れないが」

「分かりました」

「ところで、マモル、夕べの話はいろいろと考えさせられる内容であった。話を聞いた後、妻と話をしたのだが、我が家だけでも、もし隣国が攻めてきたときにどのように対応するのか、考えておこうという話になったのだ。隣のヤロスラフ王国とはすでに50年ほど平和が続いており、戦争の記憶も薄れている。しかし、ゴダイ帝国は皇帝が替わってから、好戦的になり、ヤロスラフ王国とも戦っている。未だ我が国と戦争に至っていないからと言って、戦争が絶対に起きないという保障はないのだから。戦争に備えよ、と言うと、笑う者もいると思うので、まずは我が家だけでも備えをすべきであろうな。

 知ってのとおり、私は第3騎士隊の隊長であるから、万が一戦争になったときは、前線に立ち、兵の戦闘に立って指揮をしなければならない。ということは、戦傷の可能性も高く、もしかしたら死ぬこともあるやも知れぬ。

 そのとき、残された家族がどのように生きていくのか、考えておく必要があると気づかされた。金銭面だけでなく、人的な面でもな。騎士爵は貴族と言えども、多くは生活が苦しく、突然の親類の不幸など、金銭の出入りがあると困ることもある。そこで、騎士爵みんなで助けあうようにしている。ただ、それは平時のことであり、いざ戦争ということになると騎士爵もみな戦場に行くのだから、そのようなときにどうするのか、あらかじめ決めておいても悪くはあるまい。すぐには決まらないが、序々に準備しておけば良いのだ。男爵になったからと言って、外見は変わったが、内情はあまり変わっていないのだ」

 とポリシェン様が、オレに聞かせるというか、独り言のような台詞を言っておられるうちにリューブ様のお屋敷に着きました。


 前回と同じく、庭の一角にポリシェン様と2人、ぽつねんと立ってリューブ様を待っています。

 お屋敷の奥から、コツコツコツと走るような軽い靴音がやってきます。柱からひょいと顔を出したのはマリヤ様です。

「おはようございます、ポリシェン様。おはよう、マモル」

「「おはようございます」」

「ねぇ、早速だけど今日、マモルは私にお話をしてくれるのかしら?」

 ポリシェン様がイヤイヤと首を振りながら

「マリヤ様、本日はリューブ様に呼ばれまして参上致しましたので、マリヤ様にお話する時間はございません」

 それを聞いたマリヤ様が、頰をプンプンに膨らませた。


「あら、おかしいわよ!昨日、ポリシェン様のお宅に伺ったとき、アンナ様が機会があれば、いつでもお話をお聞かせするでしょう、と言っておられましたよ!」

 え、そんなこと言っておられましたっけ?

「え(っと動揺するポリシェン様)、妻がそのようなことを、申し上げましたか?」

「ええ、おっしゃいました!!私が『もう少し、もう少しお願い致します』と申しましても、アンナ様は『また今度にいたしましょうね』と冷たく言われまして、私をお屋敷から追い出されました。

私はもう残念で残念で、いつもはおやさしいアンナ様が、あんな冷たい仕打ちをされるなんて、どうされたのかと思い、夕べはベッドの中で泣いてしまいました」


 マリヤ様、話を盛り過ぎですよ、現場にポリシェン様がいなかったからと言って、奥様はそこまでのことは言ってませんって。マリヤ様、この年で、この手練手管、怖ろしい子。

「それは......大変失礼なことを申し上げ......その、申し訳ございませんでした。妻にはよく叱っておきます」

 それで気が晴れたのかマリヤ様は笑顔になって、

「いいえ、叱られなくても良いのです。私にちょっとマモルのお話を聞かせていただくだけでよろしいのですから......」

 マリヤ様、その下から見上げるようにポリシェン様を見る、おもねるような視線は誰かに習ったのですか?自得なら怖いものがあります、天性ですか??あざとい、という言葉をご存じでしょうか?マリヤ様がマウント取って、ポリシェン様に話をしていると、奥からリューブ様とお付きの方がいらっしゃいました。

 

「なんだ、マリヤ?どうしてこんな所にいるのだ?邪魔だから奥に行ってなさい」

「おじいさま、実はマモルはとてもお話が上手なのです。それで、お話をしてくれるようにポリシェン様にお願いしていたのです。何でも、隣国が攻めてきた辺境伯領に住む騎士爵の一家が主人公だそうで、とても面白いのだそうです」

 可愛い孫娘にダダをこねられると、大甘のおじいちゃんは負けてしまう。それは時代、場所を問わないんだな。


「わかった。わかったから、あっちに行っていなさい。後でその話は聞いてやるから」

「ダメです、おじいさま。ポリシェン様とマモルに約束してください。そうしないと、私は眠れないのです」

 マリヤ様はリューブ様の袖を掴んで、引きちぎるんじゃないかってくらい振り回す。


「何を言っているのだ、わかったから、腕を取るな、ぶらさがるな。コラ、後ろから乗ってくるな。いやはや、ポリシェン、マモル、済まないな、わがままな孫娘で。わかった、わかったから、マモル、明日の夜にでも来て話をしてくれるか?時間はどれくらいかかるのか?何、1時間半ほどか、なら夕食を食べ、マリヤが寝るまでの時間にちょうど良いであろうから、済まぬが来てくれないか?これ、マリヤ、あっちに行きなさい。邪魔をするんじゃない、ワシはこれから大切な話をするのだから、向こうに行きなさい」

 はぁぁぁぁぁ、マリヤ様のおじいさま転がしの手際の良さを、とくと拝見致しました。なんと見事な、お付きの方も、ポリシェン様も苦笑ばかりで、どうすることもできないですが、重要なことが決まりました。明日の夜ですか。


「さあ、マモルよ。例の話の続きをしよう。それと、この者がこれから例の物の担当をしていくアンドレイ・ブロヒンだ。これから私がいなくとも、ブロヒンと話を進めてくれれば良い。私の元にはブロヒンから報告があがるようになっている。よろしく頼む」

「はい、分かりました。マモルと申します。よろしくお願い致します」

「アンドレイ・ブロヒンだ。よろしく頼む」

「さて、マモル。前回の話の続きだ。あの村の近くの森にたくさんの木が自生しており、そのうちの何本かを村に植生したということだったな」

「はい、たぶん根っこが生えていると思います」

「それでだ、あれは生える場所を選ぶ、とマモルが言っていたので、とりあえず、あの村で木を増やして生産し、並行して木をあちこちに植えて、育つかどうか見て行こうと思っている」

「なるほど、私もそう考えておりました。私のいた世界でも、種から苗を大量に作り、それを鉢に移し替えて、植える場所に持って行って育て、また種から苗を作るという方法で増やしていきましたから、ますはあの村で増やすのが良いかと思います」

「それでだ、あの村の住民は邪魔だから、追い払い、領都から人を派遣して開拓していこうと思うのだが」

「え、それは上手くないと思います」

 おっと、宰相様は極めて村に対して冷たい。ひどく簡単におっしゃられた。何とかしないと、みんな追い払われて死んでしまうぞ。


「なぜだ、その村にいるのは犯罪者の子孫であるから、死のうがどこに行こうが、誰も困らないぞ。ヤツらから見れば殺されないだけマシな措置であるのだから、何も問題はあるまい?」

「お言葉を返しまして申し訳ございません。あの村で生きていくのは、大変に過酷なものでございます。そこに、いきなり領都から人が来て、オマエらここからどこか他に行けと言われましても、まず生きていけるかどうか、かなり難しいであろうと思います。

 それなら、まず元々住んでいて環境に慣れている彼らに木を増やさせてみた方が良いと思います。あそこは危険、汚い、臭いの三つのこれはキョトンとされてましたの揃った場所なので、まずはあそこに住んでいる者を使うのが良いと思います。

 彼らに目標を与え、それを成すよう努力させる方が良いかと愚考致します。ただ、現在のあの村の状況は、生きていくのがやっとですから、食料等の支援をして木を増やしたり、例の物を増やす時間を当てれば良いではないでしょうか?」

「ふ~~む、ヤツらはろくに字も読めない、バカばかりでないのか?そのような者たちが我らの意図するように、やっていけると思うか?」

「はい、私もしばらく暮らしておりましたので、ある程度可能かと思います。そのためには、よき指導者を置き、進捗をチェックし報告させることが重要でしょう。私のいた世界では報連相と申しまして、報告・連絡・相談が重要と言っていました。それを欠かさず行えば良いと思います。

 ところであの物を、何かもっと言いやすい名前にしたいと思いますが、いかがでしょうか?あの物と言っていても、間違った物を考えているかも知れませんし、そんなことでイヤな思いをすることも、したくありませんので」

「確かに、あの物と言って違う物を思われていても困るし、マモルに何か腹案があるのか?」

「はい、私の世界では、あれをペッパーと申しておりました。白い物をホワイトペッパー、黒いものをブラックペッパーと呼んでおりましたが」

「ペッパーか、よいであろう。あれは以後、ペッパーと呼ぶことにしよう」

「はい、ありがとうございます。あの村の生活水準はとにかく、ひどい物ですから、そこのレベルを上げて、領都の人が普通に住めるようになってから、移住を考えても良いかと思います。あの村の周辺は獣が多くいて、かなり危険ですし、いきなり行って生活するのは無理だと思いますので」

「わかった。とりあえずはペッパーとチョウジを領内で生産できるようにしよう。領内で作れると、辺境伯領も潤うぞ。マモル、ブロヒンと調整して進めてくれ、頼んだぞ」

「はい、分かりました。ブロヒン様、よろしくお願いいたします」

「マモル、明日にでも打合せをしたいので、また来てくれるか?そう言えば、マリヤ様と約束をしていたから、ちょうどいいではないか?」

「そうでしたっけ?」

「何をイヤな顔をしているのか?では明日の午後頼む。今日はこれで終わりだ」

「マモル、明日も頼んだぞ。あと、済まないがマリヤの頼みもよろしく頼む。時間が合えば私もお話とやら、聞きたいのだが。悪いがマリヤの我が儘に付き合ってやってくれ」

 リューブ様から念を押され、用事が終わるとお二人は早足で屋敷の中に入って行かれました。一応、要件は終わったようなので、帰ることになります。


 玄関へ歩いて行くと、やはり出ましたマリヤ様!!飛びついて来る。

「ポリシェン様、マモル、もうおじいさまとお仕事の話は終わったの?」

「はい、済みました」

「なら、マモルは私にお話してちょうだい。ポリシェン様は帰られて構いませんから。後で、うちの馬車で送ります」

「マリヤ様、突然そんなことをおっしゃられても、マモルの準備が整いませんから」

「明日は明日で、今日は今日。すぐ終わる話で良いのです。何かお話をしてちょうだい」

 ハァ......こういう我が儘を言う偉いさんの孫とか、いますけどね。

「何か、簡単なもので良いですか?」

「ええ、簡単ですぐ終わる物で良いですから、お話しなさい」

 はぁ、仕方ないです。で、1分で終わる、浦島太郎の話をしました。あまりのつまらなさにマリヤ様、ポリシェン様呆然。だから言ったでしょ?面白くないって。あ、言ってなかった?????まぁいいでしょ?話をしたんだし。

 ポリシェン様を促して、逃げるように帰ってきました。


「マモルよ、さっきの話はひどくつまらなかったのだが、明日の夜は大丈夫なのか?」

 ポリシェン様が心配しておられます。

「大丈夫です。昨晩までポリシェン様にお聞かせした話をします」

 それでポリシェン様も眉を開き、

「あれかぁ、まぁ我が家と同じ反応が見れるであろうな。しかしあの話が終わった後の愁嘆場が大変であろうな。まあ、よろしく頼む」

「はい、帰って練習いたします」

「ああ、頑張ってくれ」

 というお言葉を頂いたので、夕食を挟んで夜まで、そして次の日の朝ごはんを食べてからリューブ様のお屋敷に伺うまで、リハーサルを続けました。リハーサルは誰に聞かれても構わないので、アンナ様のところにたまたま?遊びに来た体のタチアナ様とそのご両親(ポリシェン様の義父母ですね)を相手に聞いてもらい、お三方に涙を流して帰って頂きました。

 一緒にアンナ様も聞いておられましたが、さすがに2度3度聞けば、涙も枯れるということでしょうし。タチアナ様に対して『何、涙してんのよ』的な反応をされていたのが印象に残りました。



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