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ミワさん6

 あと小一時間でポツン村に着く、と言う頃、お花摘みタイムとなった。それで、娘たちが真っ先に行ったのは、お花摘みでなかった。オレとミワさんを馬車に残し、娘たち4人がデモ行進のように横並びに腕を組んで、男どものところに歩いて行った。


 何を会話していたかは分からないが、最初ニヤニヤとしていた男たち3人がだんだんと顔色が悪くなり、顔に意気消沈という文字が見えるくらいの表情になってしまった。ミンがバゥに触ろうとすると、バゥが躱す。それに対して、モァが電撃を発動して(誠に容赦ないモァさんです)バゥがぷすぷすと音がするような顔をして動きを止めた。バゥの頭にミンが嫌そうに触り、ミンの手から光が発せられた。たぶん、立たない呪文が使われたのね、お気の毒に。

 バゥがされるのを人ごとのように見ていたオレグとビクトルだったが(たぶん、自分たちは警告だけで、まさかされるとは思っていなかったか?)、モァが何か言うと両手を前に出し、イヤイヤして振っている。しかし、モァが2人に電撃を見舞うと観念したようで、大人しくなりミンの手を受け入れた。ミンの手から光が発せられた。

 オレグは今晩、リーナさんに夜の帰宅のご挨拶ができないのね、きっと。それって明日も明後日もかしら?まさかと思うけど、あの光が発せられた髪の毛に影響はないのだろうか?と余計なことを考えていた。完全に対岸の火事です。


「タチバナ様、私は娼婦であったことが知られても別に構わないのですけど。こんなに頑張って頂いても、私は何もお返しできないのに。モァ様たちに申し訳ないです」

 とミワさんが言うから、オレはイヤイヤとクビを振りながら、

「気にしなくていいから。そもそもミワさんを身請けするって言い出したのはモァなんだし」

「そうなんですか!?」

「うん。オレ自身はもう少し金を貯めてから、と思っていたんだけど、成り行きでああなっちゃってね。もちろん、身請けするつもりはあったから、早いに越したことはないと思うけどね。ただ、今のタイミングって、実はもうすぐ子どもが生まれる予定なんだよ。だから、妻にあまり刺激を与えたくなくてね。もう3人も妻がいて、どうのこうの言えるような立場じゃないと思うんだけど」

「あ、もうすぐ出産されるのですか。では、私を連れて行かれるのは良くなかったのではないですか?私を見られて奥さまがショック受けられると思うのですけど、よろしいのでしょうか?やっぱり私はポツン村に行かない方が良いかしら?かと言って、ここで自由にされても私は行く所がないので、やっぱりポツン村に連れて行ってもらわないと困るのですが」

「そうだよねぇ。ここまで来ればどうしようもない、当たって砕けろだって思っているんだけど、実は胃が痛くて」

「わかります。私も3人いらっしゃる奥さま方にどんな顔してお会いすれば良いのかしらって思うと、胃が痛くて」

 お互い、胃の痛い者同士です。ミワさん胃薬は持ってなかった。


「う~~ん、そこはオレもよく分からん。日本にいたときだって独身だったしなぁ」

「あら、タチバナ様は独身だったのですか?」

「そうだよ。しがない商社マンで社畜だった」

「あ~ぁ、困りましたね。でも、この世界じゃ、男の人の数が少ないから、お金ある人は持てるだけ妻を持ってる人もいるし、そうやって男の人が女の人を養っていくようにできてますからね」

「そっか。じゃあ、そういうの、そういうもんだと受けとってくれることを期待してようっと」

「そうしましょう。さっき、モァ様たちも言っておられましたが、この世界は未亡人の女の人も多くて、それで子どもいる人も多いから、女の人はみんなで助け合って生きて行くというのが当たり前のようですよ。私も娼館にいた時間長いので世情のことを詳しく知ってるわけでもないですけど」

「そうだよね、この世界、平均寿命が40才なんだから」

「でも日本は平均寿命が80才超えてますけど、アフリカの方は50才ちょっとの国がいっぱいあると聞いたことありましたよ。日本だって明治時代の頃の平均寿命は40才くらいだったって、何かで知った記憶があります」

「そっか、そういうのはこの世界と変わらないかも知れないな」

「はい」


 ミワさんと話をしていたら、娘たちの男たちへの伝達事項は終了したようで、鼻息荒く娘たちは帰って来た。モァが満面の笑顔で拳を見せて、

「これで大丈夫だから!」

 と、のたまう。他の娘たちも重々しく頷いている。それに比べ男たちは足取り重く、引きずるようにして歩いてきた。バゥは息子さんの辺りを押さえているけど、あれはどうしたんでしょうね?イヤイヤ、沈着冷静な息子さんで安心じゃないですか笑。


 オレの思いなんて関係なく、

「取引は成立したわ。ミワさんの秘密を守ってもらう代わりに、男どもの夕べのことは喋らないことにしたの」

 とモァさんがおっしゃる。

「でも、アレが立たないようにしたんじゃないの?」

 とミンに聞くと、いかにも嫌そうに、

「うん。一応そうしといた。でも可哀想だから、明日の昼には解除してあげることにした」

「オレグは喜んでたよーー今晩は旅で疲れたって言ってごまかすんだって、言ってたけどね笑」

 とユィさん。まぁ、それくらいで許してやってください。あとは馬車の中では、昨日と同じR〇yの話が続いた。


 そして、いよいよ馬車がポツン村に着いた。昨日のうちに、村に帰ることを連絡していたから、村の玄関口には人だかりができていて、今か今かと待っていてくれた。待ちきれなかった子どもが馬車の所まで走ってきている。馬車の中を覗こうとする不埒な子どももいるんだけど、そこはポツン村のローカル・ルールでセーフなのである。窓から馬車を覗いた不埒な子どもは、ミワさんを見つけるとハッとして、そのまま馬車から離れて、村に向かって走って行った。別にお化けがいたんじゃなく、村民でない、見たことのない人がいただけなんだけど。


 馬車が村に入ると歓声が上がった。バゥたちは渋い顔をしているけど、村に入って少しだけ綻んでいるけどね。

 オレが馬車を降り、娘たちも降りると「おかえりなさーい」なんて声がかかったけど、最後にミワさんが馬車を降りると場が静まりかえった。あれ?アノンさん登場の時とは違うぞ?古くはオクナさんとか、村の教会に来たマヤさんが登場したときも、こんな静まりかえったりしなかったぞ。


 前列のカタリナ、サラさん、アノンさんの視線が痛いです。ミワさんを見てオレを見て、もいちどミワさんをみる。ここはオレがなんとか説明しないといけないんでしょうね。身請けしたのはモァなんだから、と言いたいところなんだけど、元々はオレのルートから繋がっているんだから。


 1歩前に出て、

「えーと、この人はオレと同じ『降り人』のミワさんです。今日からこの村に住みますから、よろしく」

 と話した途端、ガヤガヤガヤと村人の皆さんが話し出した。カタリナ、サラさん、アノンさんは一様に呆れた顔をしている。カタリナは大きくなった腹を両手で抱えながら、ため息ついているし、サラさんは「またか」と言ってるような?アノンさんは「やっぱりね」というような顔をしているけど、3人とも一応怒っていないようで幸甚です。


 ミワさんが前に出て、

「ミワです。よろしくお願いいたします。タチバナ様がおっしゃられた通り、私も『降り人』です。でも、タチバナ様のように色々なことができるわけではありません。皆さまに教えて頂き、少しでもお役に立てるよう頑張っていきたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 といかにも日本人というような挨拶の言葉を述べ、頭を深々と下げてお辞儀した。村人からはパラパラと拍手があった。『降り人』というのは、心配したけど一目で分かったようだ。でも戸惑いの方が多いのかも知れない。『降り人』を一生に1人見るのも稀なのに、この村には2人も揃ったんだし。ミワさんは自分に大した能力はないと婉曲に言ったけど、たぶんすごく期待されているのだと思う。過剰な期待は持ってもらわないように、よーくよく話しておかないといけないね。


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