ミワさん4
ミワさんと娘たちの話がずぅーーーーーと続いていて、ブカヒンの宿に入っても止まらない。R〇yのページの表紙から念入りにミワさんが説明し始めて、写真のことやら紙のことやら、そしてモデルさん、衣装、ヘアスタイル、グルメなどなど、ありとあらゆることの質問があって、ミワさんが答えている。ミワさんの会話を漏れ聞いていると、ミワさんは就活で出版社関係を狙ってたようだけど、全滅したようなんだな。カバンの中には出版社の封筒が入っていたし。
とにかく、オレたち男どもそっちのけで、女性陣が食事の時も話を続けている。宿の食堂でも話が止まらない。ミワさんは宿に入って、さすがに就活スーツからこの世界の一般的な服装に着替えている。行く先々で、見ず知らずの男どもがミワさんの膝を見ること見ること!チラチラっと見て顔を赤らめる少年や、あからさまに嫌悪感を見せるおばさん方たちなど、胸は見せても膝は見せてはいけないという不思議な服装マナーがある。胸なんて、もう少しで乳輪が見えそうなんだぞ!嬉しいけど。
男が集まって食事をした後、
「マモル様、今晩、外出してもよろしいでしょうか?」
と声を潜めてバゥが聞いてきた。バゥだけでなく、オレグもビクトルもオレの反応を見ている。女性陣は向こうのテーブルで集まって話をしている。
「別に行きたいなら行ってくればいいけど。もしかして、オレグもビクトルも行きたいの?」
2人がコクンと頷く。顔がすごく真剣。これを逃したら、2度とチャンスは来ない、なんて顔つきで必死さが滲み出ている。
「行ってもいいけど、彼女たちがオマエたちのいないことに気が付いたら、なんて言えばいいの?」
3人は考えてオレグが、
「旅も最後なんで、3人で外に飲みに行った、と言ってくださいませんか?」
「おお、それがいい」
「お願いします!」
ビクトルまでが真剣な顔して頼んで来た。村に帰ったら、自由なこともできないしねぇ、好きにしてくればいいよ。でもそんなウソなんてすぐにバレるって。
「じゃぁ、行ってくればいい」
「「「ありがとうございます!!」」」
3人が力強く立ち上がった。勢いありすぎて椅子が倒れてしまった。おっと、娘たちが「何があったの?」的な視線で見ているじゃないですか。その視線を浴びて、バゥが何か言いに行ってる。要は「酒飲みに外出する」と言っているだろうけど、女性たちは疑っている目つきですよ。でも男3人は、頭の中がお姉さんのことでいっぱいになってるせいだろうけど、微妙な視線も気にならず、意気揚々と玄関を出て行った。
オレは思うんだよなぁ。ユィかモァがオレグやビクトルの服か持ち物にGPSを仕込んでいるんじゃないかって。そのGPSにはマイクも付属していて、どこに行ったのか音声で分かるようになっているんじゃないかって。それに誰か『Mark』を取得しているかも知れないし。でも地図がないと、どこ行ったか分からないけど。バゥは......きっとユィ、モァはバゥの服にさえ触りたくないだろうな。
男3人が外に出て行く後ろ姿を見たユィとモァが、ほんの少し笑ったのをオレは見逃さなかったよ。サラさんとリーナさんにチクるんじゃないかなぁ?2人とも笑って許してくれる、なんてことはないよなぁ。だって、ビクトルは1回失敗しているんだぜ。それに懲りずにまたチャレンジするって、あいつは怖いモノ知らず、冒険者だよなぁ。やっぱり頭で分かっていても、ビクトルくんの下半身が言うこと聞いてくれないんだろうなぁ。気持ちは分かる、すごく良く分かるよ。でもね、今のキミだけは自重すべきだったと思うけどな。
ほら、娘たちのオレを見る目、ちらちらと目を細めて見るのが、なかなかのものなんだから。
食事も済んだし、部屋に戻って寝ようかと思ってたら、オレがブカヒンに来たことを知ったリファール商会のペドロ会頭がやって来た。オレの方から案内出していないのに、なんとも良い耳を持っておられるようで、供1人だけ連れてやって来られた。
オレはどうせ暇なので、相手してもらって時間を潰す。
「お供の男の方たちはいらっしゃらないのですか?」
と聞いてこられたので、
「せっかくブカヒンに来たので、外に飲みに行きました」
と答えると、ペドロ会頭はピン!ときたようで、
「それでしたら部下に案内させましたのに。ご遠慮されなくても宜しいのですよ?なんなら、マモル様も今から行かれますか?」
などと悪いお誘いをしてこられる。
「いえいえ、あそこの女の子5人が私の監視役なので、どこにも行けませんから」
と丁重にお断りする。
ペドロ会頭はミワさんを見て、
「あの娘さんは初めて見ましたね。ポツン村にいらっしゃいましたか?」
さすが一流の商人は違う。ポツン村の住人の顔と名前を把握しているんだろう。
「違います。キシニフで偶然会って、同じ『降り人』同士ということが分かったので、連れてきました。ポツン村に連れて行こうと思ってます」
と言ったが、会頭は。
「そうなんですか、そう言われれば似ていますね」
という反応。何が似ているんだろう?
「男爵様は不思議そうな顔をしていらっしゃいますね。私から見て、お二人は似ていらっしゃいますよ。まず髪の毛の色が漆黒色と言うのか、黒色の髪の毛の者もいますが、お二人ほど濃い黒色の髪の毛を持つ者はおりませんよ。それに、肌の色が我々とは違います。あと肌のきめというのでしょうか、違います。あと失礼なことを言いますが、顔が平板でして、我々の方が彫りが深いというのでしょうか、眉と目が離れていると言いますか、私どもと違う点がありまして、一目見れば我々とお二人は違うことが分かりますよ」
「そうですか?自分で思う以上に人には違って見えるものなのですね」
「ご自分ではあまり意識されていないと思いますが、私から見ると男爵様は『降り人』ということが分かりますし、男爵様が『降り人』と知っている者からすれば、あの娘さんが『降り人』ということが一目で分かります」
解説されて分かる現実である。
ペドロ会頭が気を使ってくれて、娘たちのテーブルに飲み物や果物を差し入れしてくれた。それを受けて、娘たちがペドロ会頭のところに一人一人挨拶に来た。ミワさんがペドロ会頭の前に立つと、ペドロさんはミワさんの顔を見てからオレの方を見て、やっぱりそうですよ、っていうような顔をした。
結局、バゥたちはオレが寝る前には帰って来なかった。
翌朝、食堂に降りるとバゥたち3人はすでに朝食を食べており、朝だというのに盛り上がっている。もちろん、話の内容ってのは夕べ、相手の女の子がああだった、こうだったという話で、夕べの娼館からの帰り道に散々話をしてきたろう、と思うけど、一夜明ければ語り足りないと思うんだろうなぁ。酒を飲みに行くと言っていたのに、こんなに声高らかにしゃべっていたら、誰でも分かるわい!!
そのテーブルからかなり離れて、娘たち+ミワさんの5人が朝食を取っている。時折、娘たちがバゥたちを見るけれど、その目つきがもう、汚れ物を見るような、というのか嫌悪感丸出しの目で見ている。これは村に帰ったら、皆に言いふらされるんだろうなぁ。バゥたちの武勇伝が広まって、一部の男連中は甲斐性あると見るかも知れないが、大部分は、お馬鹿さん、と思うんじゃないだろうか。サラさんとリーナさんは......オレグ、ビクトルが甲斐性ある、とは見てくれないだろうなぁ、トホホ。
バゥたちを見て、男ってバカな生き物だよなぁ、と思いつつ朝食を取る。もちろん、オレはバゥたちのテーブルで食べているが、バゥたちはオレそっちのけで、夕べの武勇伝を語っている。というか、夕べ参戦しなかったオレに対し、夕べはいかに相手の娘が良かったのか聞かせようとしているような気がする。キミら、天国と地獄は背中合わせ、という言葉を知らないんだよね。
食事が終わってから、ビクトルもオレグも昨日までとは打って変わって、娘たちが距離を取って会話が絶無となった。ビクトルが近寄って話しかけようとしたら、娘たちが逃げて行く。ビクトルは最初、なんでだろう?と思ったようだが、バゥに教えられ目に見えて落ち込んだ。が、バゥがまた夕べの話を蒸し返すと、3人でまた盛り上がっている。本当に、本当に!こいつらなんてバカな生き物なんだ!?いや、こいつらというか、男と言うモノは、である。もちろん、オレも含めて。でも仲間に入りたくない。
ビクトルくん、この報いは当分続くから肝に銘じておきたまえ。




