表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/755

ポリシェン家でのお話

今回は、ポリシェン家でのお話だけです。

もし、私たちが徒手空拳で転生したとしても、あまりに昔だと、持てる知識もまるで役立たないのではないでしょうか?

マモルは農学部出ですが、現在の農業は科学的に管理され、農機具頼りで、自作農である私が江戸時代、明治時代に転生しても、何の役にも立たないであろう、と思われます。ですから、農学部で得た知識を生かせる場面というのは、限られたものになると思います。

 夕食も終わり、いよいよお話の時間となったのですが、またポリシェン様からオレに連絡事項がありました。

「マモル、宰相様が明日来て欲しいそうだ。午前中に「少し時間が取れたそうで、話を聞きたいということだ」

 それを聞いてカタリナ様が反応した!

「まぁ、マモルは宰相様にまでお話をするのですか?だからマリヤ様がいらっしゃってお話をおねだりされたんですね!」

 すみません、これは余技ですから。これで身を立てられるのなら、それで越したことはないのですが、世の中、そんな甘くはないでしょう?


 さっそく、ポリシェン様から反応が

「カタリナ、そんなことはない。いくら、マモルの話が面白くとも、宰相様はそれほど暇ではないのだよ」

「え、それではどうしてマモルを呼ばれるのでしょうか?」

 カタリナ様の質問に顔をしかめるポリシェン様。

「それは、いろいろあってな、今は言えないのだ」

「そうですか。マモル、絶対にマリヤ様には私たちの聞いたことのない面白い話をしてはいけませんよ!そうしないと、マリヤ様はまた、うちにいらっしゃってお話をおねだりされます。度重なると、お泊まりされてお話を聞きたいと、きっとおっしゃいますから!」

 カタリナ様から強く強くクギを刺される。それを聞いた奥様も

「そうですわね、今日のマリヤ様もおねだりを繰り返されてやっと帰っていただいたから、大変なことになりますわ。私からもお願いするわね、マモル」

 う~~ん、それはお話を独り占めして、他の人に優越感を持ちたいだけのようにも思えますが、来てもらうと迷惑なようですし。自分の知らないことを、人が知っているということが許せないだけですよね。


 とりあえず、今日のお話を始めます。


 ミハエルとナターシャは老執事と老メイドの4人で暮らし始めました。2人は外に出ても何もできないし、貴族の子どもと分かると敵国の兵士たちに何をされるか分からないので、老執事がどこからともなく調達してくる食料に頼って生活しています。

 老執事が聞いてきた話によると、辺境伯軍は敵軍の勢いになすすべも無く、叩きつけられ敗れたとのこと。辺境伯軍の兵士はほとんどが死んだりケガをしたため、領都まで帰りついた者の方が少なかったそうです。敵兵たちの勢いはそれはスゴいもので、領都の中の金持ちの家が略奪にあったり、酒場で飲み代を払わないことも少なくないということでした。


 老執事の語る話に2人は、父の生きている可能性がどんどん小さくなっていることを感じ、自分たちの将来について暗雲が漂っていることを憂いました。

 2人がずっと家の中にいるので、母親に似て身体の弱かった妹はだんだんと具合が悪くなって、ベッドに寝ていることが多くなりました。


 ある日、いつも食料を抱えて帰ってくる老執事が、いつもより遅く、そして顔や身体にケガをして帰ってきました。聞くと、街を警備している敵兵に目を付けられ、殴られて食料を取り上げられたそうです。そして、街で噂を聞いてきました。国都から国王軍が領都に向かっているらしい、とのこと。領都が戦場になるかも知れない、ひどく物騒なようです。その晩は何も食べるものがなく不安な夜を過ごしたのでした。


 翌朝、老執事は足を引きずりながら食料を調達に出かけました。老メイドも食料を捜しに出かけました。2人は留守番していますが、ミハエルは妹の大好物のドロップではなく飴を隠してあったので取り出してきて食べさせます。妹は久しぶりの飴に大喜びで舐めています。

 老執事と老メイドはなかなか帰ってきません。2人は心配でなりませんが、家から出ることができず、待つしかありません。夜になって、やっと老メイドが帰ってきました。老メイドはほんの少しの食料を持ってきました。そして、驚く話を聞いてきたのです。


 領都では国王軍が領都に向かっていると言う情報が広く信じられており、その噂を信じて、辺境伯軍の生き残りたちが領都の中で挙兵し、敵軍と戦い始めたそうです。領都のあちこちで火事が起き、燃えている家も少なくないそうです。辺境伯軍の残党と言えども、土地勘があり勢いがあるので、敵軍と互角の戦いをしているそうです。ただ、戦いは至る所で行われているため、民間人も巻き込まれる者が多く出て、犠牲者もいるそうです。

 なかなか帰って来ない老執事を心配していると、夜になってやっと息もたえだえで大けがをして帰って来ました。

「坊ちゃま、お嬢様、この近くは戦場になっております。この家も明日は戦場となるかもしれません。明日は安全な場所に行きましょう」

と息も絶え絶えで言いました。


 しかし、老執事はこれまでの無理がたたったのか、ケガのせいか夜半に息を引き取りました。2人と老メイドの3人は夜が明けたら、どこにあるのか分からない安全な場所に行こうと準備していたのですが、夜明け少し前に家に兵士が入ってきて、3人を追い出します。老メイドが兵士たちを止めようとして簡単に殺されてしまいます。残された2人は、ミハエルとナターシャは家を追い出されます。

 ミハエルとナターシャに行く宛てはないのですが、ミハエルはナターシャの手を引きながら、戦場と反対の方向に逃げて行きます。


「皆さん、夜も遅くなりましたので、残りは明日にしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 恐る恐る言いますが、何も反応がありません。奥様、カタリナ様、レーナさんはしくしくと泣いていますし。ポリシェン様、ご子息のヨハネ様、イワンさんも肩をふるわせながら泣いておられるようです。


 日本でも「空気を読まない」と職場の女の子からよく言われていたオレとしては、言ってはいけないような気もするけど、ここで終わらないといつまでも終わりそうにないので、あえて聞きます。

「すみません、そろそろ......」

「「「「「「......」」」」」」


 う、う、う、どうしよう?どうすれば、この場が収まるんだろうか?

「あのう、そうしたら、続きをお話しましょうか?」

 禁断の一句を言ってしまった......。

「その代わり、明日のお話はお休みで良いということであれば?」

 皆さん、コクコクと頷きます。でも、この後ハッピーエンドでなくバッドエンドになるんですけど?恨みます、高〇勲監督。いやこれは、自分のアレンジ力の足りないせいなのか?どっちにしろ、続けるしかないです。


 この後、住処を失った2人は街をさまよい歩きます。やっとのことで、焼け残った家の跡にナターシャを住まわせ、ミハエルは食料を捜しに行きます。街は焼け残りばかりで露店しかなく、お金も持っていないので、買うこともできず、盗むしか調達する方法はなく、見つかって殴られたり、蹴られたりしながら、やっと少しの食料を手に入れてナターシャの所に戻ります。しかし、ナターシャはずっとろくに食べておらず、過酷な生活が続いているせいで熱が出て、何も口にすることができません。ミハエルはナターシャを医者に診せようと考えますが、金もなく医者自体がどこにいるのか分かりません。仕方なく、頭に水で冷やした布を当て看病します。

 しかしナターシャの熱は下がらず、さらに具合が悪くなります。ミハエルはナターシャから離れず、ずっと側で見ていますが、だんだんと息も弱くなっていきます。もう食べさせる物もなく、食欲もなくなったナターシャにミハエルは缶に残った最後の飴を(ドロップではなく)を舐めさせます。

 ナターシャは幸せそうに、美味しそうに舐めています。しばらく舐めていて、なくなるとまた眠ってしまいました。ナターシャの息は弱く、か弱いものになっています。ミハエルは缶の中に飴の砂糖の粒が残っていたので、缶の中に水を入れ、砂糖を溶かしてナターシャに飲ませると、ナターシャは嬉しそうな顔をして飲み込み、意識を失ってしまう。

 ミハエルは看病疲れで、つい眠ってしまいました。目が覚めたときナターシャはすでに息がありませんでした。でもナターシャは微笑んだまま、死んでいました。父親が戦場に行ってからの苦労を感じさせない笑顔を見せてくれました。

 ミハエルは泣いて泣いて、涙が出なくなるまで泣きました。どれだけ時間が過ぎたか分からないけれど、外で兵たちの戦う音や声がしてきました。逃げることも考えましたが、もうどこも行く所もなく、逃げる力もない。このままずっと、ナターシャと一緒にいようと決意します。外では争う音がどんどん大きくなり、多くの人の怒鳴り声が聞こえます。

 ついにミハエルのいる焼け跡にも兵たちが入ってきて、戦闘を始めました。どちらが敵兵で、王国の兵かも分かりません。ミハエルに気がつく兵もいますが、汚れて動かないミハエルを見て生きているのか死んでいるのか分からず、かかわる余裕もなく戦っています。ミハエルは逃げる気にならず、ナターシャを抱きしめて動きません。しかしついに、ミハエルの背中に矢が立ち、胸を通り抜ける。血が口の中に出て、ゴボっという音と共に吐き出してしまうが、周りは誰も気にせず戦いは続いています。

 ミハエルは意識が薄らぐにつれ、父、母、ナターシャ、執事、メイドが近くに立ち、自分を見ていてくれているのが分かりました。

「父上、母上、ナターシャ、みんな待っててくれたんだ」

 手を伸ばそうにも、伸ばす力もなく、静かにまぶたを閉じ、意識がなくなり、魂がみんなの待つ天に召されました。


 しばらく戦闘は続いたが、ついに国王軍が敵国軍を領都から一掃しました。辺境伯が帰ってきて、領都の被害を調べるが、あまりのひどさに声も出ないくらい領都は荒れ果てていました。役人が領都の被害状況を調べ、死んだ者を記録しています。ミハエルとナターシャの死体を確認し『氏名不詳、男子1人、女子1人』と記録して、次の場所に移動していきました。誰も2人を弔うものはいませんでした。


 以上で終わりです。

 あ、蛍が出て来なかった。でもタイトルを『火○るの墓』と言ってないし、イワンさんに聞いただけだからいいか。


 誰も何も言わない。

 どうしよ、この雰囲気どうしよ。すすり泣く声だけが響きます。なんか部屋の中だけでなく、ドアの外でも泣いている声が聞こえるんだけど。


 これってオレがいても,どうしようもないような気がすんだけど?

 どうしよ、これはいなくなった方が良いように思うし?

「話は終わったので、部屋に戻らせていただきます、おやすみなさい」

 何か声がかかると思ったけど、何もなく、しかし部屋のドアに到るとドアは開いており、メイドさんたちが死屍累々と(死んでないけど)泣いていた。


みなさん、おやすみなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ