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キシニフ4

 結論らしい結論も出ず、場当たり主義と言っていい対応をすることになった。腹も減ってないけど、とりあえず夕食を食べなくちゃいけない。食堂に行こう、と思ったらバゥが、

「マモル様、今から行ってきます」

 と堂々と言いやがる。どこに?と聞くまでもない。バゥよ、今のこの現状の一端はオマエにも責任があるんだからね!?少しは反省しろよ!と言いたい......。


 食堂に降りていくと、娘たちはもう席について食べていた。それを横目で見ながらバゥは

「行ってきまぁぁぁーーす!」

 颯爽と振り切った笑顔で出て行った。

「何あれ?」

 とユィが聞くから、

「キレイなお姉さんのいるところに行った」

 と答えるとモァが

「ユリさんに言ってやろ!」

 と言うけど、

「言ったところで、こたえないと思うよ?ムリムリ」

 と返したら

「あれは病気かしら?」

 と珍しくスーフィリアが発言した。

「できなくなる呪文を掛けてみようか?」

 とミンが怖ろしいことを言うので、男3人揃って、

「「「できるのか!?」」」

 声を合わせて聞いてしまった。

「うん、試したことないけど、アノンさんから教えてもらったよ。万一、危なくなったら使いなさいって、ね。でも、それを掛けるときは、相手に触らないといけないから、困るなぁ。バゥに触りたくないもの」

 とミンが言うと、他の女子3人も、

「イヤよねぇ、バゥに触るなんて」

「そうだもん、あの脂ぎってる身体に触るのってイヤだもん」

「ホントです。ゼッタイにイヤです」

「顔がねーー。目つきだってイヤらしいし」

「村でだってさ、人の奥さんのお尻触ってるし」

「ニタニタしてさぁーー」

 と大変な悪評価を頂いているバゥさん。生理的嫌悪ってヤツですか。陰で女子にこんなこと言われているのって、本人知らないんだよなぁ。もし、知ったとしてもアイツは何も変わらないとは思うけど。


 その後、オレたち残った男の食事は、文字通り砂を噛むようなという例えがぴったりの食事だった。


 翌日は朝食を終えて宿で待機していると、辺境伯の部下が訪れて来た。部下の方の顔が財布に見える気がする。

 オレたちがついて行く必要はないのだが、宿にじっとしていてビクトルの顔を見ていても気が滅入るばかりなので、娘たちの荷物持ちとして出かけることにする。ヨハネも同行する、護衛ということで。


 娘たちは宣言通り、まず服屋でたっぷり時間を使い、村の女の人や子ども向けにお土産ということで、次から次へと店を巡り、総計でほぼ店1軒分を買い上げた。数百着を買ったか?とにかく、オレは買ったモノをポケットにしまう、そして買う、しまうの連続でドンドン買っていく。1着当たりの単価は大したことないのだろうが、とにかく買う数がすごくて、最初は量販店みたいなところで買い出したので、辺境伯の担当者は冷静な顔をしていたが、次から次へと女子たちが買い続けたので、目を白黒という表現がぴったりな感じで、買った服を記録している。後から店の売り上げをアップしてもらえば良いのに?と言うと、それをすると必ず水増しされるからダメなんだそうです。


 とにかく、高級店には目もくれず、庶民向けの店で村で使えるような服をどんどん買っていく。これほどポケットを持っていて良かったと思うことはない。オレグがリーナさん向けのお土産の服を買おうとしたら、それについては選んであげるけど財布はオレグのを使いなさい、という厳しい区分をユィから言い渡される。ユィって子は、そういうところは真面目に線引きするのよねぇ。


 スーフィリアは黙って従っているけど、ユィモァに服を取っかえ引っかえを着せられ、それはそれは疲れた顔をしていたけど、不満や拒否したりしないのは大したもので、あの姿勢は見習うべきであると思いました、ホントに。


 そしてまた夜が来て、冒険者のバゥはまたお出かけになり、重苦しい夜が明け、いよいよ辺境伯の館に向かいブカヒンに帰る船に乗る日が来ました。娘たち4人は上機嫌できゃっきゃきゃっきゃと賑やかしいのだけど、男4人はヨハネを除いて暗く重い沈黙を抱えている。バゥはしかめっ面をしているが、夕べもお姉さんの所に行ってたから、ニヤけるのをガマンしてしかめっ面にしているようだ。こいつ、金は持ってたんだよな。最初にオレから金を巻き上げたのは、もらえるもんならもらっておこうと考えたんだろうし。


 館に着くと、オレから順に馬車を降りて中に入って行く。待たされることなく奥に通されて、辺境伯はにこやかに待っててくれた。今日も奥さまが辺境伯の横に立っている。

 辺境伯は一昨日よりも具合が良くなっているのか、

「良く来てくれた。一昨日より多少具合が良くなった気がする。指がより曲がるようになった気がするのだ。さあ、見てくれ」

 と言い、腕を前に出してきた。

 ミンが、

「失礼します。『Cure』」

 と言いながら、腕に魔力を通し始めた。

「ミン殿に治療してもらうと、とても気持ちが良い。全身に活力が流れるような気がする。そなたも診て頂いたらどうだ?ミン殿、よろしいだろうか?」

 と横の奥さまに言う。奥さまは、

「まぁ、よろしいので?」

 と躊躇いながらも、やって欲しそうな顔で聞いてきた。これはイヤと言うことできないでしょ?それにオレが触るわけにいかないので、ミンにやってもらうしかないでしょう。ミンは、好感度マシマシの笑顔で、

「分かりました。しばらくお待ちください」

 と奥さまの方を見て言うものだから奥さまは、

「ミンさん。やっぱりウチに来てくれないかしら?」

 目がマジになっている。前は半分本気くらいだったけど、今は何とかして取り込めないかしら?という気が見て取れるンだよなぁ。


「しかし、ミン殿がポツン村に帰ってしまえば、私は誰に診てもらえば良いのだろうか?」

 と辺境伯がミンに聞くが、これはミンだって答えられないだろう。だもんでオレが代わりに答える。

「申し訳ありませんが、ミンをここに置いていくわけにもいきませんし、ここに来させるわけにもいきません。ですから、辺境伯様にはポツン村まで来て頂けないかと思うのですが。ここからブカヒンまで船で1日、ブカヒンから馬車で1日かけてポツン村に到着致します。ポツン村にいらっしゃれば、治療のついでに冷たくて美味しいビールが飲めますよ。キンキンに冷やしてますから、これが旨いです。是非、1度ご体験ください」

「うーーん、ビールかぁ......魅力的であるがなぁ。往復3泊すれば良いなら、行っても良いか?頻繁に行くことはできないが、たまになら?」

 奥さまの顔を見るとコクンと頷いておられる。なら、

「ぜひ、奥さまもご一緒にいらっしゃてください。美味しい料理もありますから」

 と後押ししておく。奥さまはこの後の人生で、このままではこの街の外に出ることはないだろう。それなら辺境伯に連れられてウチの村に来るくらいしたって良いだろう。


 さて、奥さまの治療も終わりました。残るはアレですよ、アレ。辺境伯も忘れていなかったようで、横の人に耳打ちしたら、その人は後ろに下がり部屋を出て行った。辺境伯が言う。

「先に謝っておかないといけない。実はモァ殿から2人の名前を挙げられていたが、1人しか連れて来られなかったのだ。1人はすでに身請けされていて、幸せに暮らしておるそうなので、お断りしたいと申したそうだ。無理に連れて来ることもできたのだが、一応タチバナ男爵に聞いてみようと思ってな。どうだろう、連れてきた方が良かったか?」

 と聞かれたので、一応モァや娘たちの顔を見ると、コクンと頷いている。これは同意ということで、

「辺境伯様、すでに身請けされ、幸せに暮らしているというなら、連れて来て頂く必要はございません。それで、その身請けされたのは2人のうちのどちらの娘なのでしょうか?」

「分かった。実は私としても領民の幸せを壊してしまうのは気が引けてな、断りたいと思っていたのだよ。あっと、それでな名前は、ハンナと言う娘の方だ。もう1人のミワという娘はもうすぐ来るから待っていてくれ」

 

 ハンナが身請けされて来ないという言葉を聞いて、後ろの方から盛大なため息が聞こえた。後ろの重い空気が一気に明るくなったような気がする。ミンが「ちっ!」と舌打ちしたような気もしたが気のせいか?モァは残念そうな顔をしているし、コイツらは修羅場を期待していたんだろうなぁ......まったくもう。


 そして、

「失礼します」

 と言う声と共に、先ほど部屋を出て行った人が戻ってきた。後ろに小さい女の子、いや女性を連れて。

「「「「え!?」」」」

 娘たちは絶句し、男たちも驚いている。オレも驚いた。この世界に来て初めて見る服装。日本にいるときは散々見て珍しくなかったけど。


 ミワさんは、髪の毛は黒でおかっぱボブにしていて、服装は黒のスーツスカートで足元も黒の低いヒール。肩に就活バッグを掛けている。要は就活用のスタイル一式をしている。化粧は薄化粧だが、頰を少しピンクにしている。口紅も少し紅くしているが、娼館にいるときに比べると、全体にかなり薄い。


「よろしくお願い致します。ミワコ・ドウシマです」

 と言い、ペコリとお辞儀した、腰で90°曲げる日本式のお辞儀をした。オレは見慣れている(と言っても久しぶりなので、かなり新鮮だけど)が、オレの連れはみんな驚いて声も出ない。さすがに辺境伯の館にいる人たちは前もって見ていたのだろう、オレたちが驚いているのを見てニヤついている。一体コレは、どこの国の衣装だ?って思っているだろう。そのくらいこの世界の常識からすると奇妙奇天烈なんだから。第一、膝小僧が見えてるから、


 驚いている連れを1人1人ミワさんに紹介する。ミワさんが1人ずつ、

「よろしくお願いいたします」

 と言えば、我に返って返事している。モァがオレの服を引っ張って、

「ねぇ、ミワさんっていくつなの?」

 と聞いてくるから、

「さぁ、オレも聞いていないから分からないけど、30近いと思うよ」

 と言うと、娘たちは

「「「「うわぁーーーー!!」」」」

 と絶叫してしまった。失礼なやっちゃなぁ。でも同感です。こんなベビーフェイスだったっけなぁ?と思ってるオレ。娼館にいたときに比べてだいぶ幼く見える。若く見えるのじゃなくて、幼く見える。これは日本人ゆえの特徴ですかねぇ?


 娘たちは一応挨拶はしているものの、ミワさんを凝視して、ミワさんがオレの横に来たのを取り巻いて見つめている。

「ミワさん、就活中にこっちに来たのですか?」

 と聞くと、

「そうなんです。就活中で企業巡りしていたとき事故に遭って、こっちに来てしまいました。就活中の服をそのまま残していたので、それを着てきました。驚いたでしょ?」

 にっこりしながら聞いてきた。


「はい、驚きましたよ。でも、よく残ってましたね。オレの服とか降りたときに着た物、持って来た物、みんななくしてしまいましたよ」

「そうですか、それは残念ですね。ほら」

 と言ってバッグから出したスマホはi〇hone!!懐かしいなぁ?

「これ、動くんですか?」

「いいえ、バッテリー上がったから無理なのです。予備のバッテリーも持ってたけど、そっちも空っぽなっちゃって、使えなくなっちゃったから。持ってても仕方ないんだけど、捨てられなくて、ずっと持ってたんです。これを見ると、就活頑張ってたなぁーーって思い出すんです」

 とi〇honeを見ながら言う。そっか、2011年頃だっけ、スマホ用のソーラー充電器ってなかったのかなぁ?


「ねぇねぇ、2人で何を話しているの?」

 モァに聞かれて、2人の世界に没入しているのに気がついた。

「ごめん、つい懐かしくて。辺境伯様、ご尽力ありがとうございました。ミワさんを連れて帰ります。是非、辺境伯様は奥さまをポツン村に連れていらっしゃってください。歓迎いたします」

 と深々と頭を下げた。

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