メルトポリの戦役後2
美少女4人に囲まれて少年が和気藹々と話をしている、と言うように端からは見えるだろう。しかし、ビクトルは汗をダラダラ流して言い訳している。ビクトルはどこから話を聞かれていたのか分かっていないだろうけど(階段を背にしていたから)、「私も一緒に行きたかった云々」という所を言い切ったところでは、すでに階段に美少女の顔が並んでいたのよ。だからオレは諭すように声を潜めていったのに、ビクトルにしてみれば、いたくカンに触ったので余計にヒートアップされてしまったので。
狭いテーブルの周りに5人の男女が座っているから、オレの座る余地はないので、オレは隣のテーブルで聞いていないような顔をして聞き耳立ててる。モァとユィはだいたい事情を知っているようで、悪い色のオーラを身体から浮かべながら、ビクトルをねちくらねちくらと問い詰めている。たまにビクトルがオレの方を見るけど、あれはきっとオレに言われて仕方なく、ということを言いたいけど、それを言ったら、今後はオレの出張のときに連れて行ってもらえないだろうって、考えているんだろうなぁ。スーフィリアは背中しか見えないから、どんな表情しているか分からないけど、たまにオレを見るミンの視線の厳しいこと。オレを睨んだって何も出ませんから。
気が付いたら、階段の所からオレグが下の様子を窺っている。ビクトルが美少女4人に囲まれて天国状態かと思ったらどす黒い不穏な空気が漂っているのを感じて、このまま降りていいものかどうか判断を迷っているのだろう。ビクトルくん、これが大人ってものですよ。このまま進んではいけないと判断して、勇気ある撤退を選ぶということも重要なんです。猪突猛進なんて勢いだけなんだから、大きい声で言えば良いってもんじゃないのよ。
オレグをクイクイと手招きすると気が付いてくれて、恐る恐るという雰囲気をまとい、存在感を極力消しながら降りてきた。ビクトルたちのテーブルとは十分な距離を取って、遠回りしながらやってきた。
オレグはオレの飲んでるテーブルまでやってきて声を潜めて
「何があったんですか?」
と興味津々ながらも、自分に飛び火しないように、見て見ぬ振りをする体で聞いて来た。
「うん、バゥがね、娼館に行ったんだけど、その後ビクトルが起きてきて、一緒に行きたかった、と叫んだんよ。それをね、モァたちが聞いてて、ビクトルが責められているという図ですな」
「あーーー、それは大変ですねぇ。バカにもほどがあるなぁ~~こんな所で、そうなるかってやつですよね!」
「うん、ビクトルは盛りが付いているから、行きたくてしょうがなかったんだよなぁ」
「確かに、最近のビクトルは調子に乗ってるからなぁ。彼女たちは、特にモァさんとユィさんは機会あれば、ビクトルに一発ガツンと言ってやろうと思っていたんでしょうね。2人が虎視眈々とビクトルが網にかかるの待っていたんですよ、きっと」
「そうなのかな?」
「たぶん、そうですよ」
「そっか。オレグは行かなくて良かったのね?」
「何を聞いてくるんですか?私なんで妻一筋ですから、聖人君子の見本です。妻以外の女なんて見向きもしませんから!!」
ここは大いに絡みたいところだけど、たぶんオレたちの会話もユィモァは耳をダンボにして聞いていると思う。めったやたらなことはゼッタイに言えない。注意一秒ケガ一生という言葉が、この場に当てはまりますよ、まったく。
オレは十分飲んだし、部屋に帰ろうかと思って、ビクトルたちのテーブルを見ると、ビクトルはテーブルに突っ伏しているがな!?モァと目が合い、モァはVサインをしている。うーむ、Vサインってこういうときに使うために教えたんじゃないんだけど。オレにはなんのおとがめもないようで、内心モァたちに感謝して階段を上がる。これでタイミング良くバゥが帰ってこないように祈ろう。
冷静に考えると(きっとビクトルも思っていると思うが)、4人娘たちとビクトルは恋人でも彼女でもなく、義兄弟姉妹という関係なだけで、ビクトルが何をしようととやかく言われる筋合いのものじゃないんだよ。犯罪犯そうとしているわけでなく、バゥに連れ立って、娼館に行こうとしただけなんだし。娼館だって合法的なもので、以前のバゥみたいに安くあげようとして、身元不明のお姉さんとどうかしようとするわけじゃないんだしね。
そう言っても、ユィモァからすればビクトルというオモチャで日頃から遊んでいるのに、今日新たなネタが加わって、大喜びということなだけだし。たぶん、ビクトルがキレて開き直ってお終い、ということだと思うけど。
これはポツン村に帰ってから、サラさんの前でもビクトルの「大人になった宣言」が披露されるんだろうか?モァがモノマネしてくれそうな気がする。別に誰もとやかく言わないし、ビクトルも大人になったなぁ、くらいの生暖かい目でしばらくの間見られるくらいで済むはずだから。
その晩は酔いもあって快眠したよ、久しぶりに。
翌日はザーイに滞在して休みにした。夕べ一晩寝て起きて、まだ身体がだるかったし、みんなも同じことを言っていたし。バゥの野郎だけは腰痛をニヤけながら言ってたけど。バゥよ、今晩も行くんだろうけど、今晩の分は自前で払えよ。
この後の予定では、キシニフ辺境伯領に行くことが決まっている。ミンが治療したフメリニ辺境伯の腕の経過を見に行くということで明日移動し、明後日お伺いすることになっている。術後経過が良ければ、歓待して頂けるということになる。
そしてその後が問題なのだ。きっとビクトルは期待しているんだろうなあ。昨日、あんなことがあっても、ビクトルの若くみなぎる下半身は引き寄せられているのだと思う。オレもミワさんと何とかしたい、いやミワさんを何とかしたい。あの店に行く大義名分が何かないか?とひたすら考えている。
たぶん、夕べのビクトルに対する苛烈な取り調べで、娼館にオレと一緒に行ったということは白状させられているだろう。ユィモァとスーフィリアは、そういうことは『貴族の嗜み』ということでオレの行動を理解している、いや、理解してくれていないだろうか?でも、ミンがなぁ、猛烈に反発してきそうな気がするんだよなぁ。アノンさんを嫁にすると言ったとき、かなりの低温視線で見られたし、しばらくはまともに口を聞いてもらえなかったし。大きくなったらオレの嫁になると言ってたのは、子どもの頃の戯言とは言え、心理的に義理の娘というより、年の離れた実の妹的なポジションにあるし(たぶん)。
どうしようかなぁ?下半身事情からすると行きたくてたまらないんだけど。朝起きたらパンツが濡れていた、などという大惨事だけは避けたいし。




