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メルトポリの戦役15

 スーフィリア側が満足?の行く結果になったのでモァの方を向く。その途中にスキンヘッドの口を開け、呆然としている顔があった。そうですね、目の前であれを見ると驚くんですよ。見ると聞くのと大違い。昨日は離れて見ていただろうから、スーフィリアの凄さが分からなかったでしょう?まぁ、無理もないですから。


 それで、モァの方はだいぶサキライ帝国軍が近づいて来ている。けれど、モァさん、まったく慌ててませんよね。万が一、魔法が発せられなかったなら?なんて考えたりしないんだろうか?ゼッタイ、ということはこの世にはないんですよ。二重、三重に検査しているのに不良が出る、なんてことをオレは経験しているんですから。


 昔、日本でサラリーマンをやってた頃、サプライヤーの東南アジアの工場で、連続して不良が出て、うちの品証部まで出張って工程洗い直しても、問題は見つからず、最終検査工程を二重、三重にしても、その後もポツポツ不良が流出する、ということがあったのよ。

 結局、会社の待遇に不満持ってた現地採用のバイトが、腹いせに昼休みに出荷箱の中に不良品を入れてたのを、偶然職長が発見したことで対策となった、と聞いたコトがある。だから、過信は禁物なんですよ、モァさん。でも、きっと、自分が不発でもオレがなんとかしてくれる、って思っているんですよね。後工程で検査しているから大丈夫、っていうのと同じような気もするんだけど。


 それで敵があと5mくらいまで近づいたとき、モァの前にかざした両手の平から、どえらい雷が飛び出した。空気を切り裂く雷(なのかなぁ?)だから、音がすごい。バリア越しでさえも、音が大きくて馬が動揺しているが、バリアの外の帝国軍の兵士はみんな耳を押さえて座り込む。その中で、モァの正面にいた兵士は槍や剣から雷を身体に吸い込んで、一瞬身体全体が発光した。マンガで見る、雷が落ちて感電したとき、身体の中の骨が見える感じ、アレに近く身体が白光化して見えた。

 

 白光化は一瞬で、消えた途端兵士たちは皆、崩れ落ちる。操り人形の糸が切れたように地面に倒れた。身体には傷が残っているわけではないが、プスプスという音が聞こえてくるような気がする。兵士たちは、きれいな身体のまま、でも不自然な体形のままで倒れ込んでいる。腕や脚があり得ない角度で曲がっている。それがモァを起点に60°くらいの扇状の範囲で起きている。周りの兵士は唖然として動かない。時間が止まったようだ。


 モァが右を向くと、そっちの方面の兵士たちは「ギョッ!」とした顔で逃げ出した。それを見てモァが左を向くと、そちらの兵士も逃げ出す。そしてオレたちを攻めて来たサキライ帝国軍は全面的に潰走し、正面にいる集団だけが残っている。もちろんそれは、主力部隊なんだし、それが全部オレたちに襲い掛かってくるなら、オレたちは助からないだろうと思う、きっと。


 左側は焦げ跡と氷の塊が残っており、火傷でうめいている兵もいる。右側はショック死した兵たちが転がっている。死体を回収したそうな顔をしているのが、ずっと向こうにいるけど、怖くて近寄れないんだろうな。


 そういうのは無視してヒューイ様が前に進むと、正面の敵軍に緊張が走る。自分たちが仕掛けておいて、それが跳ね返されたら怖がるなんてのは、どうしようもないと思うのだが。最初から友好的に対応してくれれば、あんたらは死者を出さずに済んだのに。


 敵軍から1人の身分の高そうな者が出て来た。そして、

『何しに来た?』

 と聞いてきた。が、周りでは「何と言ったんだ?」「言葉違うぞ?」「サキライ語か?」という声が上がっている。そうか、オレは脳内変換されているから気づかなかったけど、これは言葉違うのか。ちょっと感動してます。

 そうするとスキンヘッドがヒューイ様に耳打ちしている。スキンヘッドはあんな顔して、サキライ帝国の言葉が話せるのか?人は見掛けによらないとよくぞ行ったものである。


『昨日の戦いで捕虜を得た。条件次第で返すが、どうか?』

 とスキンヘッドが答えている。すごい、やっぱり通訳のためスキンヘッドが選抜されたってことか。スキンヘッドを見ていると、人というものは顔だけで人となりを判断してはいけないという好例である。


 出て来た男はちょっと考えて、

『我が軍には敵の捕虜となり、辱めを受けるような者はいない。捕虜になった時点で、誇りある帝国の民ではない。そのような者がいるなら殺してくれて構わない』

 などと過激なことをおっしゃる。またスキンヘッドはヒューイ様と相談して、

『捕虜の名前はメフナット・アヤンと言うが、本当に殺していいんだな?』

 ヤンの言った捕虜の名前を聞いて、男は見るからに動揺した。偉いさんのご関係の方だったんでしょうね?それを殺せと言って、後悔しているんだろう。


『ちょっと待て。上に聞いてくる』

 と言い、男は後ろに引っ込み兵士の中に入って行った。一応、交渉が始まったと思って良いだろう。連れて来るのはさっきの男の高官、たぶん司令官あたりだろう。一応は失礼ないように下馬して待つ。そして、しばらく待っていると、男は1人高そうな服を着た太っちょを連れて来た。こいつは総司令官か?


『メフナット・アヤンを捕まえたというのは本当か?』

 これがまた、横柄な口調で聞いてきた。どいつもこいつも、口のきき方を知らない。言葉は分からなくても、口のきき方で嫌なヤツというのは自然と伝わるので、誰もが嫌そうな顔をしている。

『本当だ』

 とスキンヘッドが答えると、

『アヤンが捕まったという証拠があるのか?』

 スキンヘッドがヒューイ様から小剣を渡されて、男に見せる。男は小剣を見て黙っていたが、

『確かにアヤンの物だ。敵の捕虜になったということが国元に分かれば、アヤンの家族は酷い目に合う。アヤンは死んだ方が良い。殺してやってくれ』

 と言った。


「あちゃー」

 と思わず口を突いて出た。オレが会話を理解しているとは誰も思っていなかったようで、オレの顔を見てくる。

「マモルくんは、分かってたの?」

 とモァが良く通る声で聞いて来る。こういうとき通る声というのは困りものだ。それになぁ、公式の場でオレのコトをクン付けで呼ぶなっての!皆ニマニマしているだろうが!


 一応オレは気にしていないような顔をしながら、ひそひそ声で、

「分かる。転移してきたとき、会話は分かるように神様にしてもらった」

 と答えると今度はユィが、

「それなら、そのときもっと字を上手に書けるようにしてもらえば良かったのに」

 と余計なことを言いやがる。どいつもこいつも、もう!!クスクスと娘たちが笑っている。世の中、そう上手くいかないんだって。キミたちもきっと、大きくなるとそのことが分かるからね。


 オレの事情はともかく、会話は進む。

『では、メフナット・アヤンは始末していいのだな』

『構わん。戻って来てもヤツに良いことはない。捕虜になっても家族には悪いことばかりだ。それなら敵と戦って死んだ方が良い。名誉の戦死ということになる。残った家族は私が面倒みよう』

 不名誉な捕虜より名誉の戦死の方が、残された家族も迫害を受けることがないということのようで、気の毒だけど彼には死んでもらうしかないのか。

 太っちょが残った家族の面倒をみる、というのは言葉通りなら良い話なのだが、こいつイヤらしい顔で言う。すけべったらしいというのか、そっちの気持ち満タンで言ってるような気にさせられる。パラハラのセクハラしそうな顔をしているんだが、それはオレの知ったことではないし。


「それでは帰ろうか?」

 交渉は決裂したし(戦闘があった所でもう交渉の余地はないようなものだったが)、とにかくヒューイ様が言い、馬に乗ろうとしたとき、太っちょが、

『さっきの魔力を発した者は誰か?』

 と聞いてきた。ヒューイ様が顎をしゃくって教えてやれ、という風をされたので、

『この3人です』

 と娘たちを教えた。太っちょは驚いた風ではあったが、

『その3人。サキライ帝国に来ないか?今の待遇よりもっと良い待遇を保証しよう。貴族になれるぞ。どうだ?』

 とヘッドハンティングしてきた。こういう場でそんなことを言ってくる神経が信じられない。こいつはこれまで同じことをやって成功体験があるってことか?でないと言ってこないよな?サキライ帝国がヤロスラフ王国より上で、誘われたら必ずサキライ帝国に尻尾振ると思い込んでないか、コイツ。それに転移してきた3人を亡くしてしまったので、代わりに3人を採用したいと言うことか?しかし通訳を聞いた娘たち3人が、

「いや!」

「いやです!」

「......」

 とひどく冷たい口調で言い放つ。


 スキンヘッドが通訳するまでもなく、ニュアンスで分かったのだろう。太っちょは苦虫を咬んだような顔になった。オマエ、娘たちの顔を見て、スケベそうな顔をしているんだもん。まずそこからダメだって。さっきのスキンヘッドの例もあるから、外見で人を判断してはいけないのだが。


 このまま帰ろうか、という時、一つ気になったことがあったので聞いてみた。

『メルトポリに住んでいた住人はどうなった?』

 太っちょはニカッと笑って、

『なんだ。オマエの知り合いがあの町にいたのか?それは残念だったな。みんな殺したよ、みんな。あそこに住んでたのは人じゃないんだ。邪教の教えに染まったヤツらだ。だから生かしておく必要がないんだぞ。帝国から逃亡していた邪教を信じる徒を殺しただけだ。それがどうした?あんなヤツらなんぞ、千人殺そうが、2千人殺そうが、なんてことはない。神の祝福を受けていないヤツらは全部地獄に落ちるのだ。

 あいつらに穴を掘らせてな、自分が埋められる穴を掘らせて、そのまま土を掛けて生き埋めにしたんだよ。オマエの知り合いも死んでるさ。邪教の輩にかける情けなんてひと欠片も持っていないぞ。泣き叫んで助命を乞い願うヤツもいたが、皆殺しだ。ははは、女は殺す前にさんざんなぶり者にしてやったよ。オマエの女もいたのか?それは悪いことをしたなぁ』


 クッソみたいな顔で言いやがった。聞いている途中から、ファティマやハチセたちの顔が浮かんで来て、怒りがこみ上げてきた。

『オレの女はいなかったが、知り合いはいた』

『そうか。ヤツらの中には金持ちも貧乏人もいた。全部ひとくくりで殺したよ、ははは。知り合いがいたのは残念だったな。そいつもきっと、兵隊たちに必死で助命しただろうが、誰も耳を貸さなかった。あんなクズたちの言葉なんぞ、耳に入らない。オマエらのような、邪教徒と同じだよ。私からみれば、オマエらもあのクズだちと同じだ!!』

 太っちょは言ってるうちに、気分が高揚してきたんだろう、言いたい放題だ。オレは太っちょに向かって近づきながら、

『おまえ、私を侮辱したな。大公国の男爵たるマモル・タチバナを侮辱した。使節団の副使たる私を侮辱したということは、後ろにいらっしゃる正使のヒューイ子爵を侮辱したことになるし、ヤロスラフ大公様を侮辱したことと同義である!!

 この侮辱を黙っていることはできない。オマエの命をもって、罪をあがなってもらう!!』

 太っちょとオレの会話が、どれだけヒューイ様に伝わったかどうか分からないが(スキンヘッドは一生懸命通訳していたようだが)、

「ヒューイ様、こいつから侮辱されました。名誉を守るために、こんな人の皮を被った畜生を殺してもいいですか?」

 と聞くとヒューイ様はちょっと眉を寄せたが、

「良い。やってくれ」

 と一言あった。


 オレはポケットから剣を出して、太っちょに向かってズンズンと歩いて行く。太っちょは

『なんだ?私を殺す気か?私を殺すと全軍で攻めて来るぞ。本気を出せばオマエらなんぞ、アッという間に殺されてしまうぞ。いいのか?本当にいいのか?後悔するぞ!!』

 と言いながら、後ずさりをする。バカめ、あれだけ言っといて何もないことないだろう?オレたちが全滅しようが、オマエを殺さないと示しが付かない。それはオマエだって分かるだろう!!


 太っちょの護衛に付いてきた兵士が剣を抜き、オレに斬りかかってくる。相手の剣がなまくらだったのか、オレの剣に怒りの魔力が乗っていたのか分からないが、護衛の1人がオレの振り下ろした剣を受けようとしたが、剣を両断し、剣もろとも護衛を斬った。続けて斬って来る護衛の腹を両断し、次に来た護衛に対して下から斬り上げる。斬ったヤツの血を浴びるが気にならない。

 何人斬ったのか分からないが、最初に来た男と太っちょの2人だけが残った。最初に来た男が、腰を抜かし這いながら逃げていく。それを無視して、太っちょの前に立つ。

 

 腰が抜けたのか、座り込んで漏らしている。

『あわわわ、すまん、しゃ、謝罪する!助けてくれ、頼むから、助けてくれ!わ、私は、サキライ帝国の......』

 と太っちょが言ったところで、袈裟懸けに斬り捨てた。


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