ポリシェン様一家に話をする時がきた
いつもありがとうございます。
もし、この時代の方たちと暮らしたら、我々にはストーリーテラーとして生きて聞けそうな気がします。テレビや雑誌で見たり読んだりしている内容をそのまま話せば良いのですから。
夕食もつつがなく?終わり、ポリシェン様家族4人と執事のイワンさん、メイド長のレーシさんも一緒です。
さあ、日本アニメの金字塔、火〇るの墓を語ります。
騎士爵のお父さんと病弱だけどやさしいお母さん、11才のミハエルという真面目で責任感の強い息子に4才のナターシャというちょっとお転婆だけど愛らしく可愛い娘と説明すると、みなさんから強く同意を頂きます。やはり、モデルが目の前にいるのだから、人物描写は楽ですよね。
さて、この家族は貧しいけれど、慎ましく家族4人と年老いた執事と同じく年老いたメイドの全部で6人で暮らしていたと話すとイワンさん、レーシさんもコクコクと頷いて同意してくれます。火〇るの墓は太平洋戦争末期の設定でしたが、設定は今のこの世界そのものにしました、あくまでもフィクションですから。
一家は幸せに暮らしていたけれど,突然隣の国が攻め込んで来て、国境は突破され、どんどん隣国の軍隊が攻め込んで来て領都に迫っています。辺境伯は至急、領軍を組織し、敵と戦います。当然、一家の柱である、お父さんも家族を残して領軍の一員として前線に向かいます。領都には前線から激戦の模様が刻々と伝わってきますが、辺境伯軍は準備不足の上、多勢に無勢で大敗してしまい、多数の戦死者を出し、指揮をしていた辺境伯も行方不明になります。
一家のお父さんの安否が心配されますが、戦場から帰ってきた兵隊たちが、お父さんが敵兵と戦い、死んでしまったという情報をもたらします。
元々身体の弱かったお母さんは、それを聞いて心労のあまり寝込んでしまいます。子どもたちはまだ小さく、何もすることができず、家でじっとしているしかありません。執事とメイドの2人は一生懸命、お母さんを看病し、食べ物をどこからか捜してきて、一家を支えます。
しかし戦況は更に悪化し、ついに敵軍が領都に入ってきました。そのとき、ついにお母さんは亡くなってしまいます。親類縁者が、子どもが2人残された家を見かねて、引き取ることを申し出ます。子どもたちは、この生まれ育った家で生活したいと思いましたが、収入がなく財産もないこの家では、暮らしていくことができないため、仕方なく執事とメイドに暇を出し、親類に引き取られることを決断するのでした。その後は、明日の楽しみに、と言って、皆さんを見ると、皆さん涙目でこっちを凝視しています。娘のカタリナさんは奥様にもたれかかって、泣いています。
この設定って共感を得るんだ、と思っているとポリシェン様が
「この話は、明日にならないと聞けないのか?もう少し話をしてもらえないだろうか?」
とおっしゃいます。皆さん、頭を強く上下して同意を訴えてきます。えー、でも話の続きを聞くと、余計泣けますよ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけですよ、と強く念押しして話を続けます。
親戚に引き取られた2人は、最初は温かく接してもらいました。しかし、領都は隣国の占領下にあるため、貴族とは言え暮らしはだんだん厳しくなります。そして、様々な制限が暮らしの中に浸透するにつれ、色々と不都合が起きてきます。そのため、引き取られた邪魔っ子(この意味はすごく良く分かるらしい)の2人には親戚の家族から、心ない言葉が浴びせられ、使用人たちも2人に対して冷たく当たるようになります。2人はだんだん、この家に自分たちの居場所がなくなってきたことを自覚し、ついにこの家を出ることを決断するのでした、次に続きます。
「2人はどこに行くのだ??」
え、それは内緒です、ポリシェン様。
「2人が可哀想です。どうしてもっと暖かく接してあげれないのでしょうか?」
と、奥様。息子様はただじっと涙をこらえています。カタリナ様は奥様に抱きついて泣いておられます。イワンさんとレーシさんもうつむいて泣いておられるんですよね。恐るべし、火〇るの墓。高〇勲監督、一級品の原作は時と世界を越え共感を得ています、ありがとうございます。心の中で頭を下げます。
「これはなんというお話なのだ、、昨日はまだ、涙をガマンできたが、今日は無理であった。マモルよ、2人はこの後幸せになるのだろうか?この2人が我が子どものように思えてならぬ」
いえいえ、もっと不幸になるなんて言えません。
「そうです、2人が可哀想でなりません。もし、この辺境伯領も隣国と戦争になれば、私たちも同じ境遇にならないとも限らないのですから」
奥様、そこまで共感されるというか、やはりリアリティーのある設定なんですね。平和ぼけしているオレと戦争が身近なこの世界では違うんですね。
おずおずとイワンさんが
「マモル様、お2人はどこか行かれる宛てはあるのでしょうか?私どもでお引き取りするわけには、いかないでしょうか?」
と尋ねてこられます。横でメイド長のレーシさんもコクコク頷いています。お二人とも、というか皆さん、これはフィクションですから。免疫がないということは、なんと怖ろしいことなのか。
とにかく、この場は終了させて頂き、続きは明日ということで、オレは自分の部屋に戻らせてもらった。
翌朝は朝食を食べていると、メイドの皆さんの見る目が違います。やっぱり聞きたかったのでしょうか?娯楽がないですもんね、オレの拙い語りでも、原作さえしっかりしていれば感動を誘えるという典型的な例ですね。何か言いたそうだけど言えない、的な雰囲気が漂いながら、朝食が終わり、いつも通り剣の練習をする。
剣の練習を終え、汗を拭いているとイワンさんがやってきた。
「マモル様、マモル様の読み書きの勉強と言うことなのですが、旦那様に相談しましたところ、お嬢様の勉強を見て頂いているタチアナ様にお願いしたらどうかという話になりまして、一度タチアナ様がカタリナ様に教えておられる様子を見られてはいかがでしょうか?タチアナ様は国語、算術、歴史を教えておられますので、マモル様はここに来られて間もないわけですから、いろいろな知識を学ばれた方が良いであろうと旦那様もおっしゃいました。
タチアナ様は奥様アンナ様の実の妹ですので、身元も間違いありませんので。マモル様、いかがでしょうか?」
オレは誰に習おうと一緒だと思っているから、実際に教えている人がいるなら、一緒に教えてもらえば尚更好都合だと思う。
「そうですね、タチアナ様さえ良ければ、私も是非教えていただきたいです」
「分かりました。タチアナ様に伺いますので、明日当家にいらっしゃいますので、その時ご返事致します」
オレはこの世界では赤ん坊と同じだから、とにかく何でも教えてもらいたい。外に出れないから、外の知識を知りたい、よろしくお願いいたします。
「ところでマモル様......」
「はい、何でしょうか?」
「今晩、話されることは決まっておりますでしょうか?」
と覗き込んでくるイワンさん、顔が近いです、怖いです。
「ええ、最後まで決まっていますよ」
「なんと、最後まで決まっているとは。そうですか......大変申し上げにくいことなのですが、そのう、あのう、今晩語られるお話を、少し、ほんの少しで結構ですからお聞かせいただけないでしょうか?」
「私もぜひお願いいたします!!」
お、おどろいた、横合いからレーシさん!!
「私は、夕べお話を伺って、この後坊ちゃんとお嬢様はどうなるのか心配で眠れませんでした。今夜お話を伺う前に、少しでも心の準備をしておきたいのです。ですから、ぜひお願い致します」
「私からもお願いいたします。いつもは寝床に入るとすぐに眠ってしまいますが、夕べはなかなか寝付かれませんでした。お願いいたします」
「ダメです」
「「え?ダメと......」」
「ええ、ダメです。だって、ほらカタリナ様だって、こっちを見てますよ。あれはたぶん、イワンさんたちと同じことを考えていらっしゃいます。ここでお話すると、皆さんにお話するのと同じじゃないですか。ですから、夕食が終わるまで、お待ちください」
「......そうですか、仕方ありません。待っております」
「分かりました」
ということで、レーシさんと柱の陰から様子を伺っていたカタリナ様はいなくなるのでした。
「イワンさん、一つ質問があるのですが」
「マモルさま、なんでしょう?」
「はい、この世界では蛍はいるでしょうか?」
「蛍?あの尻が光る虫のことですか?それでしたら、おります。領都では少ないのですが、私の生まれた街では川の縁に、季節になると、たくさん現れて光ったものですが、それが何か?」
「いえ、お話にはこれが重要なのです」
「なんと、それは楽しみです。これは誰にも言わないようにしましょう。私とマモル様の秘密ですね?」
「そうです、秘密ですから。重要なポイントです」
さあ、今からリハーサルをしよう。できる男は手を抜かず、事前練習もたっぷりするのだよ。
というわけで、あっという間に夕食を終え、お話の時間になりました。
「マモル、お話の前に言っておくことがある。宰相のお孫様のマリヤ様を覚えているだろう?」
「はい、最初にお話したお方ですよね」
「そうだ、マリヤ様がどうしても続きを聞きたいと言われて、突然であるが、明日当家にいらっしゃる。それで、そのときマモルが前の話の続きをして欲しいのだ。これは宰相様からの依頼というか、命令だな」
「分かりました。特に用事はないので大丈夫です」
と答えたところ、横から奥様が入り込み、
「あなた、明日マリヤ様が当家にいらっしゃるのですか?」
「そうだ、突然の話だが、マリヤ様はマモルが宰相様のお屋敷にすぐに来るものと思っておられたが、待てど暮らせど来ないので、しびれを切らして宰相様に泣きつかれたらしい。それで宰相様も仕方なく、マモルと会いに行って良いといわれたようだ」
待てど暮らせどと言っても昨日の話ですけど?
「まぁ......それは、どうやっておもてなしすれば良いでしょうか?お茶菓子は何をご用意いたしましょう?」
奥様、何もそんなに大げさにしなくても、と思っていたらポリシェン様も同じ事を思っていたらしく
「マリヤ様はあくまでもお忍びでいらっしゃるので、そんな大事にする必要はないぞ」
と言ったら、奥様のスイッチを入れてしまったようで
「何をおっしゃるのですか!!マリヤ様は宰相様のお孫様ではないですか。あなたを男爵にしてくださった方のお孫様となると、何もせず済ますことはできません!!」
と力の入った宣言が出てきた。
「レーシ、何か良いお菓子はあったかしら。明日、朝一番にマリヤ様が喜ばれそうなお菓子を買ってきてちょうだい。それとカタリナもご挨拶しないといけないから、何を着れば良いかしら?マリヤ様は明日、いつ頃いらっしゃるのかしら?」
「さあ、よく分からないが、午前はたいていお勉学の時間のようだから、午後になると思うぞ?」
「なんと不確かな!でも、これは仕方ありませんね、午後からいらっしゃると考えて用意しましょう。明日はタチアナが来る日だったわね。でも、タチアナは午前だったから問題ないわ。タチアナの授業が終わってから、マリヤ様と私とカタリナの3名でマモルのお話を聞くことにしましょう」
と決定されました。オレの話を聞くだけなんですけど、以前は25才の風采の上がらないサラリーマンでナレーションとか一切経験のない男の拙い話なんですけど、そんな肩に力を入れて準備されると、本当に申し訳ないのですが......。
「さぁ、とにかく明日は明日。今日はこれから、マモルのお話を聞きましょう!!」
すみません、もっと気楽にオレの話を聞いてくださいませんか?
2日目の火〇るの墓は、さらにポリシェン家に寄せてアレンジさせてもらう。
ミハエルはナターシャの手を引いて、こっそりと親戚の家を出た。親戚の者たちや使用人たちは2人が出て行くのを知っていたようだが、知らないふりをしていたようであった。2人の持ち物はナターシャの抱えた熊のぬいぐるみだけ。もちろん、2人に行く宛てなどなく、領都をさまようばかり。さまよう2人が結局行く場所は、両親と暮らした楽しい記憶のある家だけだった。
家の前に立つと、家は空き家のままかなり傷んでおり、窓は穴が空いていた。2人は途方に暮れて立ちすくむ。どれだけ、そこに立っていたのだろう?そこに思わぬ人が2人に声を掛ける。
「これは......お坊ちゃまとお嬢様ではないですか?」
それは、家族でここに住んでいたときの老執事であった。どうしたのだろう、使用人たちは、みんな解雇したと親戚の人は言っていたのにとミハエルは思った。老執事は家の奥に入って行くと、奥から老メイドを連れてきた。老メイドが2人を見て
「これは、なんと......お坊ちゃんとお嬢様ではありませんか?またお会いできる日が来ようとは!」
老メイドの声を聞いて、ナターシャは老メイドに飛びつき、泣きじゃくる。ミハエルもずっとガマンしていた涙が溢れた。
ミハエルは2人にこれまでのことを話した。2人は黙って聞いていたが、大きなため息をつき語り始めた。
「お2人がご親戚に引き取られまして、すぐにそのご親戚に頼まれたという者がやってきて、家にあります金目のものを根こそぎ持って行ったのでございます。もしかしたら、ご親戚の方はこの家の財産が目当てだったのかも知れないですね。
私たちは、いつかお2人がこの家に戻っていらっしゃるのでないかと思い、お待ちしておりましたのです。外には隣国の兵隊たちがウロウロしており、食料の配給も滞りがちなのですが配られておりますし、なんとか4人で暮らしていけると思いますので、ご親戚の方からも敵兵からも見つからないように暮らして生きましょう。旦那様は戦場でお亡くなりになられたと言われておりましたが、間違いということもあります。ここで待っていれば、きっと旦那様は帰っていらっしゃいますよ」
ということで、2人は老執事、老メイドと暮らし始めるのでした。
一応、今晩はこれで終わりということでお開き、と言ったのですが、どなたも立ち上がらず、特にイワンさんとレーナさんはさめざめと泣いております。特にレーナさんは声を上げて泣いておられて、すごく罪悪感があるんですけど。
「す、すみませんが、これで私は部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」
「待て、マモル。一つ聞きたいことがあるのだが、良いだろうか?」
「はい、なんでしょうか?」
「イワンから、この話の最後は決まっていると聞いたのだが?」
「はい、決まっております」
「では、2人は、ミハエルとナターシャは幸せになるのであろうか?」
「......それは、そのう、お察しくださいませんでしょうか?」
「なんと!!」
カタリナ様が泣きながら奥様に
「お察しくださいとは、どういうことなの、お母様?」
と聞いておられます。もう、聞かないふりをして「失礼します」と一礼して廊下に出ました。そこには、よ、よ、よと泣いているメイドさんたちがいました......。




