表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
489/755

メルトポリの戦役13

「あの光りを放つ者たちはタチバナ男爵と同じ『降り人』だったそうだ」

 と言われた。やっぱりそうだったんだ。戦闘中チラッとみただけだし、でも日本語聞こえてきたから、そう思ったんだけど。


「彼らは1年程前に現れたそうだよ。3人一緒に降りて来て、王位継承争いしている皇太子側に囲われて、反皇太子軍を倒す中心的な役割を果たして、皇太子を皇位に付けるのに大きく貢献したそうだよ。その貢献で貴族になったそうだが、ヤロスラフ王国侵攻があると聞いて志願して来たらしい。帝国内の戦闘が終結して、もっと人を殺したくて来た、というのが動機のようだ。それで3人が来たのが昨日で、到着を待って今朝攻めて来たそうだ」


 『もっと人を殺したい』というのが動機。帝国内の皇位を巡って戦争あって、どれだけ人を殺せば、そういう考えが生まれるんだろうか?内戦だって大勢殺しただろう?それの精神的な負担ってないの?前世で何があったんだ?もう、殺人快楽者?になってしまってたん?


 オレの思いとは別に説明が続けられる。

「我が方に、3姫のような魔力持ちがいるとは思わず、攻めて来たそうだ。まさか、『降り人』3人が死んでしまうようなことになるとは想定しておらず、わが軍を簡単に蹴散らしてザーイまで攻め込む予定だったようだな。サキライ帝国軍がザーイを占領したなら、海上から軍を運んでくる計画が立てられていたそうだしな。ここで我々がサキライ帝国軍を止めたというのは大きな意味がある。

 『降り人』3人が入った軍は、サキライ帝国内の戦争では当たる所負け知らずで、戦えば必ず勝ち、3人が前線に立ち魔力を放つことで、敵が逃げ出すということの繰り返しだったと言っていた。しまいには、3人が軍頭に立つと敵が逃げ出すくらいだったそうだ。

 それがまさか、『降り人』3人の光を防がれるとはサキライ帝国の誰一人も思わなかったそうだ。1人の光も防げる者はサキライ帝国にはいなかったのに、3人合わせた光も防がれるとは想像していなかったそうだ」


 そうでしょうね、オレだって防げるかどうか分かりませんでしたから。周りはね、余裕持ってるように見えたかも知れませんけど、オレ的にはイチかバチかで余裕なかったです、ハイ。


「防がれただけでなく、あんな威力の魔力の呪文を叩き込まれるとは思ってもいなかったし、備えてもいなかったそうだしな。もし備えていても、あれなら誰も防げないと思うがな」

「サキライ帝国にはああいう、雷や氷、炎を扱う者はいないのでしょうか?」

「扱う者はいるらしいぞ。だが、あそこまでの威力を持つ者はいないと言っていたな。いるのを知っていたら攻めなかったと言っていた」


 なるほど。よく聞く話ですね。こんなことになるなら攻めなかった、という反省というか、言い訳というか。


「と言うことで、今後サキライ帝国軍の方から攻めて来ることはないだろう。近く撤兵するだろう」

「どうして撤兵すると分かるのですか?」

「一つは補給が途切れているそうだ。手持ちの食糧ではもう保たないようだ。もう一つはメルトポリの人間をサキライ帝国に送ったからだ」

「メルトポリの住民を帝国に送った?なぜ?なんのためでしょうか?」

「帝国に送り、帝国から逃亡した者はこのようになると見せしめにするということらしい。帝国の内戦で、隣国に逃げた者が多いらしい。帝国に戻るよう呼びかけているが、戻ろうとしないようだ。だから、逃げた者を戻すために見せしめに処刑すると言っている。今の皇帝の反対勢力だった者たちが国外に逃げたが、その親類縁者が帝国内に残っている者も多い。その残っている者を処刑すると脅し、国外に逃げた者を呼び戻すという意図もあるという。国外に逃げた者は財産持って逃げているから、その財産を没収しようという意図もあるしな」


 なんと言うことか。ファティマやハチセたちは帝国に送られたのか?処刑されるのか?捕まえられたということは、当然兵士たちの慰み者になっているのでないか?あんな何も持っておらず抵抗もできない者たちをどうしようというのだ?

 もしかしたら彼女らは、サキライ帝国軍がやって来た時、どこかに逃げていなかったのだろうか?


「メルトポリに住んでいた者たちは、サキライ帝国軍が来る前に逃げていなかったのでしょうか?」

「そこまでは分からないな。ザーイ軍の中にはメルトポリの住民もいたと聞いているが、抵抗しなければサキライ帝国軍も無茶をしないだろうと考えて残った者もいたと聞いたぞ。しかし、サキライ帝国軍は最初からメルトポリの住民を人として見ていなかったようだから、生かそうが殺そうが容赦なかったようだ。抵抗したものは皆殺しにしたと言っていたぞ。住民の中には財産を差し出して、助命を望んだ者もいたようだが、サキライ帝国軍にしてみれば、そんなつもりは最初からなかったようだ。財産を収奪して、殺してしまうというのも当たり前だったようだ」

「酷い」

「そうだな、そこまでやるのか?と思うが、帝国の中にはいろいろな民族がいる。皇帝や為政者たちは多数派の民族から成り立っているが、少数民族の扱いは酷いそうだぞ。少数民族たちだけの信仰もあるそうだから、為政者から見れば異民族、異教徒だから少数民族なんぞ死に絶えようと、どうなろうと構わないという考えだ。

 それを考えると、ヤロスラフ王国が単一民族で良かったな。少数民族がいないわけではないが、サキライ帝国のように弾圧したりしていないぞ」


 ひどい話を聞かされて、言葉も出ない。これってやっぱりオレが日本出身というのがあるんだろう。オレの親の世代でも戦争体験がないし、戦争が起きたとき、どのようなことが起こるのか知らない。太平洋戦争が終わってアメリカ軍が進駐してきたが、あの占領政策は例外中の例外だって誰か言ってたな。ソ連軍に占領されたベルリンは、ソ連軍が略奪しまくったっていう話だ。ソ連軍が個人の家に突然入って来て、女がいれば犯し、めぼしい物があれば強奪していくという。それが日常茶飯事だったって。それに比べればアメリカ軍に占領された日本は天国だったって。誇張もあるだろうけど、真実から遠いわけでもないだろう。

 ファティマたちがどうなったか心配だが、調べる方法もない。ファティマの兄は腕が立ちそうだから、ザーイ軍に入ってないだろうか?入る時、家族を連れてこっち側に来ていないだろうか?無事であることを願うのみ。


「それでだ、こちらに人質がいることを敵に知らさないといけなくてな。明日、マモルに敵軍に行って来て欲しいのだ。なに、今から手紙を書くので、明日それを届けてくれれば良い。まともにいくと、敵軍の中に入れられて、いろいろと聞かれるだろう。こちらの事情はそのまま答えてくれて良い。誇張する必要もない」

 なんてこった......ここに来て、営業時代の交渉スキルを発揮せよ、と。オレはメンタル弱いのに。初対面の相手ってホント、苦手なんですよ。それにオレ、この時代のしきたりとか、知らないからヤバいんですよ。


「もし、興味があるなら3姫を連れて行ってもいいぞ。どうせ、暇なんだし、3姫ならどこに連れて行っても危険ということはないだろう。どんな護衛よりもあの3人の方が安心だろう?聞いてみればいい」

 なんちゅーことを言われますか?あの3人プラスのミンに聞いたらゼッタイ行きたいというに決まってますって。ユィモァなら行かないなんて選択肢はないですから。ほら、連れてきたバゥが「冗談じゃないでしょう!?」って顔しているモン。行って無事に帰って来れる気がしません。


「何も言わないということは、了承したと言うことで良いんだな。呉々も敵軍の偉いさんは殺さないようにしてくれよ。そいつを殺してしまうと、撤退する、帰国するという判断する者がいなくなってしまうからな。暴れるなとは言わないが、ほどほどにしておいてくれ」

 とおっしゃるバンデーラ様。あなた、オレのことをどのように見ておられるのでしょうか?オレはどこに行っても、特に何もトラブルを起こしておりませんぞ。異世界ノベルの主人公にありがちな、行った先々でトラブルを起こすなんてことしておりませんがな。トラブルの中に放り込まれる、というだけのことですよ?


 トホホです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ