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メルトポリの戦役8

 敵軍の左から騎馬隊が出て来た。そして、オレらに向かって一直線に駆け出して来ている。真正面にいる魔力持ちのヤツの射線を遮らないように、斜め方向から突っ込んで来る形を取っている。


「弓隊は?」

 とクルコフ様が叫ぶが、オレらの後ろに避難している兵士たちは、手ぶらで逃げてしまっている。装備は全部、元いたテントの周りに置いて逃げている。その装備はテント丸ごと光の餌食になって、消滅してしまっている。残っているものもあるだろうが、逃げるときに踏みつけられたり、テントが倒壊して下敷きになって、どこにいったのか分からなくなっている。要するに、弓隊なんてものは存在しない。それに盾だって、とっちらかってなくなっている。槍だって、アッチコッチに散らばっている。

 そんな逃げた兵士が持っているのは、小剣がほとんど。手ぶらという者だっている。こいつら、騎馬隊に襲われたら、何ら抵抗手段なく、殺される未来図しか思い浮かばない。後方の馬車を並べて、盾の代わりにするくらいしかないだろうが、とても間に合いそうにない。


 と言っても、手をこまねいているわけにもいかないので、小隊長クラスの者が後ろに走っていき、兵士に指示を出している。呆けていた兵士も自分の身を守るためだし、物理的な攻撃に対してはこれまで経験していることなので、指示に従い動き始めた。しかし、騎馬隊が目がけてきているのは、オレらのいる場所なのだ。こちらに向かって突撃している。


「ユィ、騎馬隊の前に氷を並べてくれ!」

「ハイ!」

 オレの指示に即座に反応して、ユィがゴトン、ゴトンと氷の塊を並べる。これは横1列だけで十分だ。

「ユィ、人が通れる分だけ隙間空けて」

 とモァが指示を出す。

「分かった」

 ユィが氷と氷の間に人一人分の隙間を空け、塊を並べる。

「マモルくん、魔力尽きそうだよ。魔力玉をちょうだい」

 さすがに十数個の氷の塊を出したところで、魔力が尽きそうになったんだろう。さっきから70個くらいは出しているんじゃないか?無理もない、顔色も青くなって見えるし。

「ほら、使ってくれ」

 こんなにホイホイ魔力玉を渡せるのは、辺境伯の宝物殿でもらった大小バラバラの魔力玉のお陰である。


 あのときもらった魔力玉の中には、丸でなくて凸凹のある物も多かったのだが、魔力を貯めるには丸、できるだけ真球に近い形でないといけないというアノンさんのアドバイスを信じて、村にいる間一生懸命夜なべ仕事で玉を研磨していた。アノンさんの言うには、丸でなく凸があると、そこから魔力が漏れやすいなんだそうだ。だから真球が理想なんだが、オレの素人仕事で、とにかく磨いた。磨いて磨いて、磨きまくった。その結果、大小様々な大きさの魔力玉がポケットの中に入れてある。ポケットの中に入れておけば、自然と満タンになって維持されている。子どもたちのポケットには、魔力玉を入れておくのは、まだ荷が重いようで、大きいのはオレが全部持っている。


 ユィが渡された魔力玉を膝に抱え、頭を魔力玉に載せ体育座りで休憩モードに入った。大公様の軍のスタッフの皆さんも魔力玉から魔力を補充するのが認知されたようで、そっとされている。肩に毛布掛けてくれる人もいる。


 まだ距離がある敵の騎馬隊(200m以上はあるだろう)に向かって、ヒューイ様が矢を射る。シューーーと飛んで行き、先頭の隊長とおぼしきヤツは避けたが、その後ろの兵士に命中した。そして、そいつは馬から転げ落ちる。


「やったーー!!」

 味方から歓声が上がる。それはそうだ、やられっぱなしだった味方が、初めて挙げた戦果なんだから。ヒューイ様は続けて矢を射る。これだけ離れているにもかかわらず、騎馬兵を打ち落とすだけの威力があるというのは、やっぱりスキルということなんだろう。

 2人目、3人目と射落とした所で、敵も盾を構えだした。距離があるから矢の射線が見えるようで、落とされている。

 騎馬隊が近づいて来ている。100mを切ってしまった。馬は早い、これはオレが前に出て戦おうか?その時、


「スゥ、やるわよ!」

 モァが氷の間に立ち、手に何か黒い塊を持ち詠唱を始めた。

「てんにおわせらるる、いかづちのかみよ、われのねがいをかなえたまえ。われはいかずちのかみのけしん、みおな・やおすらふなり。いま、われのねがいをききたまえ。Rail Gun!!」

 モァの手の平に乗っていた黒い塊が消えた。そして線を引き騎馬隊に吸い込まれ、騎馬隊の先頭の兵士の盾に当たり、穴を開ける。

「ギァァ!」

 先頭の兵士が絶叫を上げ、落馬した。その後ろの兵士も一呼吸の後、落馬した。モァの飛ばした塊が先頭の兵士で止まらずに後ろの兵士まで突き抜けたということか?あの塊は2~3㎝ほどなかったか?あれが人の身体を突き抜けるって、どういうこと?どれだけのスピード出たの?

 続けて、モァが撃ち出す。

「Rail Gun!!」

 敵がまた落馬する。さすがに敵も縦に並んでいると重なって倒されるので、横に並んで来た。モァが撃つも1人づつしか倒せなくなっている。1度に2発3発と撃つことはできないのね、モァさん。でもおかしいぞ、RailGunって呪文でもなんでもないと思うが、どこから出てきたんだ?


 騎馬隊は5騎脱落したが、それにお構いなしに突撃してくる。距離が50mを切りそうだ。スーフィリアが右手を上げ、手の上に魔力を溜め始めた。みるみる魔力の玉が成長してきて赤みを帯びてくる。オレの炎の玉と違って、これは熱い。周りの氷が溶け始めているよ、スーフィリアさん。オレの顔も熱くなってるが、スーフィリアの手の平って熱くないのだろうか?炎の玉が30㎝ほどになったとき、

「エイっ!」

 と叫んでスーフィリアが右手を振って炎の玉を投げた。炎の玉は重力がなくて、空気抵抗を受けないかのように真っ直ぐに飛び、騎馬隊の直前に落ち、爆発した。ナパーム弾が落ちて、炎の破片が飛び散るのと同じ景色が目の前に広がっている。それを見てなんてキレイなんだろうと、感動してしまった。炎のクラウンリングと言っていいのだろうか?たぶん、その場にいた者はみんな見とれてしまったのでないかと思う。目を離すことができない。それくらい、着弾して広がる絵図はスローモーションで鮮烈なものだ。


 しかし、炎の塊が目の前に落ちた騎馬隊は、そんなのんきなことを言っていられるわけもなく、飛び散る炎を避けようとするが、パニックになった馬が言うことを聞かず制御できない。そしてシュルシュルシュルと飛んでくる炎を浴び、火だるまになる。落馬して転がり、火を消そうとするが辺りに水もなく、暴れ回ってしまいには動かなくなる。それが何度も繰り返される。


 騎馬隊は横に広がっていたとは言え、真ん中の10数騎が一瞬で火だるまになって消え失せた。両側の20騎ほどずつ残っているが、炎の爆発を見た馬が狂乱状態となっている。暴れて騎士を振り落とし、暴走している馬がほとんどだ。


 阿鼻叫喚、と言えばいいのか、なんと表現して良いのか分からないが、その原因のスーフィリアの顔を見ると無表情で、炎の照り返しで顔が赤く染まっている。スーフィリアの他の誰もが無言で地獄絵図を見つめている。肉の焼ける臭いが漂ってきた。

「味方で良かった」

 誰かが呟いた声に深く同意する。


「突撃だぁーー!!」

 オレらの後方から、剣を持った一団が飛び出し、騎馬隊の残りの兵たちに襲いかかった。


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