メルトポリの戦役6
「げげっ!!」「うぇぇっ!?」
と可愛いがセリフが酷い声が聞こえたので振り返ったらモァが口を押さえて、まん丸な目で驚いていた。オレらの前に、身体が半分だけ残った兵士の死体が横たわっている。腕が1本とっちらかっている。血だまりができている。
横のユィだって声は出していないものの、衝撃で固まっている。ミンもスーフィリアも身動き一つしない。自分が敵に攻撃するのと、敵から攻撃を受けたときの衝撃が段違いに違うことを体感したようだ。
こっちからも何か反撃しないと、敵を勢いづかせるばかりだ。それに味方に、こっちにも同じように魔力をぶつけることができる者がいるということを知らせないといけない。
「モァ、向こうに届くか?」
と声を掛けると、モァはハッとして首を振り、
「ちょっと無理。遠すぎると思う」
「そうか、なんとか近づかないと無理か?」
「そうね。もう少し、なんとかもっと、もっと近くに」
「スーフィリアもそうか?」
「はい。この距離だと届かないわけではないと思いますが、威力がないと思います」
「そうか。じゃあ、なんとかしないといけないな」
「ちょっと。どうして私には聞いてくれないの!?」
とユィが叫んできた。
「だって、ユィは遠距離攻撃できないでしょ?」
「それは、そうだけど。一応聞いてみるのは礼儀ってものでしょ?」
「ユィなら何かできるの?」
「もっと近づかないと無理」
「だよねぇ」
モァがチャチャを入れてきた。余裕出て来たかな?
そう感じたとき、
「助けてくれ!!辺境伯様が!」
「辺境伯様が直撃受けて手を!?」
辺境伯軍の一団が駆け込んで来た。辺境伯に何が起きたか?ヒューイ様が、
「辺境伯様がどうした?」
と聞くと、
「辺境伯様が光の直撃を受けて、腕を、腕を落とされて......」
「いや、違う!皮一枚でつながっている。なんとかならないか?」
「出血多くて、血が止まらない」
「大公様の軍に治療士がいると聞いていて......」
「うちのは光に呑まれて死んでしまった」
「き、消えて、消えてしまったぁ」
誰もが絶叫に近い感じで状況を説明している。
「ミン!」
「ハイ!!」
「マモル、頼む」
クルコフ様に導かれて、ミンと一緒に辺境伯の部下たちの輪の中に入る。部下たちが持っていた布包みを下ろして開けると、そこには血まみれの辺境伯がいた。出血の量が半端ない。腕は?腕は左の上腕が真っ赤になっている。千切れている?いや、聞いた通り、皮一枚が付いているのか?血が出ている。
辺境伯の横に座り、上腕を見る。
「この腕は元には戻らないぞ?くっつけることはできない」
と怒鳴ると、
「分かっている。付いてるだけでも良いんだ!何とかしてくれ!!」
「分かった。できるだけのことをやってみる。ミン!!」
「ハイ!」
ミンがオレの横に入ってきて
「マモル様、どうしましょう?」
「腕を繋げてみる。オレが持っているから、切れた所を治療してみてくれ」
「ハイ、やってみます」
血だらけの腕を持ち、皮を切らないようにして切り口を合わせる。キレイに切れている。オレの所にきた光は柱のように見えたが、辺境伯のところに向かったのは光の刃のようなものだったのか?
オレが腕を持ち、切り口に合わせたら、ミンが魔力を溜め、
『Cure』
と唱える。オレの『Cure』に比べてキラキラの濃度が濃い。患部に魔力が集中している。魔力が患部に吸い込まれているように見える。
キラキラがだんだんと薄れ、消えた。ミンが、患部に手を当てたまま、
「はぁ......」
と洩らして、前にぐらっと倒れてきた。オレは腕を放すことができないので、
「おぉっ!?」
と思わず声を発すると、ミンの横にいた辺境伯の部下が気が付いて、
「おっと、失礼します」
ミンの肩を支えてくれた。
「すまない、ありがとう。ミンの魔力が切れたようだ」
「いえ、これくらいのこと何でもありません。実は私、魔力切れというのは、初めて見ました」
「ミンを空いてる所に横にして休ませてやってくれないか?オレは手が離せない。それでこの玉をミンの腹の上に乗せてやってくれ」
両手が使えないが、ポケットからニュっと魔力玉を出した。それを見ていたヤツは、ギョッとしていたが、
「はい、分かりました」
と言い、横に寝かせたミンの腹の上に乗せた。土の上に直接寝かされるかと思ってたら、毛布の上に寝かせてもらってる、ありがとうございます。魔力玉を腹に乗せると、ミンの身体に魔力が浸透し始め、魔力玉の色が紫から青に変わり、緑になっていく。
オレは辺境伯の腕を抱えたまま
『Cure』
と唱えて魔力を流し続けている。上腕がつながってきている気はしないが、止血はできているような気がする。早く復活してくれ、ミン!
「次のが来る!マモル、次のが来るぞ!!」
ヒューイ様が叫ぶが、今オレが手を離すと辺境伯の腕は取れてしまいそうだ。敵軍の中に白い小さい光が生まれている。
「ヨハネ、頼む!バリア張ってくれ!」
叫んだ。後で考えると、バリアってこの世界の人は知らないんだった。でも、意志は伝わって、
「了解しました!」
とヨハネがバリアを張ろうとしたとき、
「私に任せて!!」
ユィが叫んで前に飛び出す。
「ラウラ様、危ない!?」
悲鳴混じりの声でスーフィリアが叫ぶ。咄嗟のことで、本来の名前を叫んでしまってた。けれど、誰もそんなこと気が付かず、とがめもしなかったが。
ユィは前に出て、氷の塊、直径2mもあろうかというものを我々と敵軍の間にポン!と出す。少し下がって、もう1個。さらに下がり1個。さらに下がって2個。計5個の氷の塊をオレたちの前に置いた。
正直言って、これで保つのか?という気がする。ヨハネも同じだったようで、氷の塊の後にバリアを張った。それでも足りないような気がする。しかし、これしかない。それとは別に、こんなデカい氷の塊を5個も出して、ユィはなんともないのか?
「来た!!」
誰かが叫んだ。敵軍の中に白い灯りが見え、成長して大きくなった途端、こっちに向かって光が伸びてきた。あっという間に氷の塊に当たった。1個目が消し飛ぶ。2個目が少し時間かかって消える。3個目はさらに時間がかかる。さすがにエネルギーが消耗しているのか?しかし通ってしまうと、オレが、いや、ミンも辺境伯もその部下たちも丸ごと死んでしまう。
3個目の氷の塊が消え、4個目の氷の塊に届いた時、明らかに送られてくるエネルギーが失われてきた。4個目の氷の塊が半分ほど無くなったとき、光が消えた。
「保った......」
「何とかなった」
誰もが心の声をはき出した。みんな保つと思っていなかったんだ。オレでさえ、無理だと思ってたから、それは素直な反応だろう。が、とにかく攻撃を止められたことは大きい。ユィが
「やった、やった、やった!」
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。しかし、喜んでいる暇はないだろう?いつ、次のが来るか分からない。
「ユィ、次のに備えてくれ。氷を出してくれ!」
「はーーーい!」
防げたせいだろうが、ユィの声が明るくなった。そして、横にも10個並べ縦に5列並びの氷の防壁を作ってしまった。氷のせいで辺りがひんやりとしてきた。
さっきも思ったけど、こんだけ氷を作ってなんともないのか?魔力が底を付かないってのは、どんだけもっているんだ?
太陽が顔を出してきて、だんだん明るくなってきている。そして周りに兵がいないことが分かってきた。いったい、前にたむろしていたヤツらはどこにいったんだ?左のザーイ軍は完全にテントなどを残して、無人になってしまっている。はるか後方に移動していて、さっきの光の柱が届かない所まで後退したってことか?右の辺境伯軍は倒れている兵士たちが残っている。誰も助けにいこうとしないまま、うち捨てられている。残りの兵はと見ると、これもはるか後に後退して固まっている。
後退したヤツらは、一応戦場に残ってはいるが、戦おうという気概が感じられない。辛うじて戦場にとどまっている、という程度に見える。敵前逃亡という汚名は被りたくないので、戦場から逃げずにとどまっている、という感じである。
それで肝心の大公軍だって、オレらの前にはほとんど兵がいない。いると言っても倒れているだけ。オレらの前がパックリと開いて、無人の原っぱが広がり、敵軍から丸見えとなっている。この場所が敵に突出している位置になってしまっている。こんなんで敵軍が攻めて来たら戦えるのか?
この場にいる誰もが、その気持ちを共有していたと思う。




