貴族の生活とは?
「もう一方の貴族の家はキュロット伯爵家と言いまして、ひとり息子のロミオがおりました。年はジュリエットより少し上でした」
と、おなじみの話をする。この世界はこういう話はほとんどないそうである。後で聞いたところ、かつての英雄が怪物を倒したとか、建国して国を大きくしたとか、男主人公が中心で勇ましい話ばかりで、ロマンスや女性が主人公の話ってのはゼロなんだそうです。
マリヤ様とポリシェン様の2人に対して話を進める。ロミオがジュリエットと出会い、スケコマシのロミオが振られたばかりなのにジュリエットに惚れ、ジュリエットもロミオに一目惚れし、舞踏会の終わった後ロミオがジュリエットの館に忍び込んで、ジュリエットの独白を聞く、というところまで話をしたところで、リューブ様が戻っていらしました。
リューブ様はマリヤ様がいたので驚いたようですが、そこは可愛いくて目に入れても痛くないお孫さんなので、どうしてここにいたのか聞くこともなく、ちょっと怪訝そうな顔をしただけで「席を外しなさい」と言っただけだった。
マリヤ様は、これから面白くなってきたところで話が中断されたので、ひどく残念そうだが、残念オーラを全身からにじませながら部屋から出ていかれた。
「マモル、済まなかったな。さぁ、続きを話してもらおうか」
「はい、分かりました」
と、ちょっと前まで『ロミオとジュリエット』を熱弁していたとは、思えない(とポリシェン様は思ったと思う)態度で胡椒の話をする。
「あの粉を作るには、土地と気候が重要な要素を占めます。まず、温かい気候であること、暑くて雨が多いと最適ですが、ここはそれほど暑くないですよね。雪が降る土地はちょっと無理だと思います」
「そうか領都辺りはどうであろうな?」
とリューブ様がポリシェン様に聞くと
「リューブ様、たぶん領都はあの村よりは幾分寒くなっていると思います。むこうでは上着はいりませんが、こちらでは上着を着ていても暑いと感じませんから」
と答えた。それを受けて、オレは続けた。
「申し訳ありませんが、領都に私は住んだことがないので分かりません。とにかく現在はあの村が適しているということです。それとあの村で別のものも見つけましたので持参しました。私の住んでいた所ではチョウジという呼びなのですが、この世界では違うようです」
「なに、他にまだあったというのか?見せてみろ!」
「はい、これです」
と言ってチョウジの甕を出す。
「これは、ク......ではないか?」
「そうです。私のいたところではチョウジと呼ばれていました」
「ふむ、そうか。それなら、我々の間ではこれからこれをチョウジと呼ぶことにしよう。それで、このチョウジも多くあるのか?」
「まだ、それほど調査したわけではないのですが、やはり土地が適しているのでしょう、複数の木がありました」
リューブ様が黙って考え込まれる。
「マモルよ、これからあの物を辺境伯領内で作っていきたいと思うが、どうしたら良いと思うだろうか?」
「そう問われると思っており、考えておりました。あいにく私はこの世界に来たばかりなので、よく分かりませんが、方法としてはまず、あの村で生産を確立して、その方法を他の地域に拡大していった方が良いと考えます。現在のところ、あの村でも自然に生えているだけなので、人の手で木を増やしていけるかどうか分かりません。人の手で増やす手段を確立していくのが、遅いようでも確実で早いのではないでしょうか?」
ジンとバゥの小便で育ててます、なんて言えないですしね。
「ふうむ、そうか。マモルの言う方法も一つであるかも知れん。私が思うには、あの村に農業の専門の者たちを送り込んで、その者たちに栽培させ苗を広めようと思っていたのだが。あの村なら秘密が漏れる恐れもないかも知れぬが、どうしたものか。それで、あの村の者は、これが何であるか知っておるのか?」
「いえ、話してはおりません、ジンとバゥのみが知っております」
「そうか......」
リューブ様は胡椒の方を指さし、
「これを使って、マモルは何か食べたことはあるか?」
「この世界に来てからは、あの村で1度だけです」
「あの村で1度食したのか?」
「はい、私の知るものとどのくらい違う物か確認しようと思い、村で肉を食べるときに試してみました」
「ふむ、どれでどうであった?村の者も食したのか?」
「はい、村のみんなで食べましたが、味は私の知るものと同じでした。ですからチョウジも私がかつて食した物と同じ味であろうと思います」
「分かった。マモルの案を検討してみることとしよう。どうするかは、追って知らせるから待っておれ。今日は以上だ、ご苦労であった」
「はい、分かりました。それと宜しければ、一つお伺いしたいことがあります」
「なんだ?」
「リューブ様が着ておられる服は絹でできているように見えますが、領内で絹織物の生産がされておりますでしょうか?」
「ほう、これが絹織物と分かったか?マモルはその方面も造詣が深いのか?それはともかく、残念なことに絹織物は領内では生産されていないのだ」
「そうですか、それは生産する意思がないということでしょうか?それとも生産したくともできない、ということでしょうか?」
「ふむ、それは生産したくともできない、ということだ。マモル、済まぬがもう時間だ。その話は後日にするので、また呼ぶから待っておれ。今日はよく来てくれたな、期待以上の成果があった。ごくろうであった」
ということで、リューブ様は奥に消えて行かれました。
ポリシェン様と2人馬車に向かい、テクテク歩いていると、ポリシェン様から告げられました。
「マモル、先ほどマリヤ様にした話の続きを家でしてくれないだろうか?」
え?
仕方なく、屋敷に帰って話すことになりました。屋敷に戻ると、ちょうど奥様とお嬢様がいらっしゃったので、3人に最初から話しました。
改めて言いますが、こういうラブロマンスというのは、この世界にはないそうです。ですから免疫というものがないので、オレの拙い語りでも、ラストシーンを語ると皆さん、涙を流して頂きました。いえ、3人だけでなく部屋の隅に控えていたメイドさんも泣いていました。ヒックヒックという嗚咽が聞こえましたから。
この話はフィクションなのですが、貴族の方にすれば我が身に置き換え、リアルなお話のようですね。奥様、お嬢様、なぜかポリシェン様からも賞賛の言葉を頂きました。聞いていたメイドさんが、みんな泣いていたので、奥様が他のメイドたちにも聞かせたい、とおっしゃられ、ナゼか夕ごはんの後に広間にみんなを集めて、執事さんも集めて、話をしました。そしてまた、皆さんに泣いて頂きました。聞くのは2回目の奥様、お嬢様もまた涙を見せておられました。メイド長さんは「このような話は聞いたことがあります、確かマウリポリ領の〇〇様と△△様が~」と語り始め、余計リアルになったのかも知れません。
涙が収まった所で、メイドの皆さんも仕事に戻って行かれたので、やれやれ、と肩の荷が下りて、さぁ寝ようかと思ったら、お嬢様のカタリナ様がつかつかとやって来られ「他のお話もしてちょうだい!」と言われるので、困ってしまい、ポリシェン様の顔を見ると「聞きたい!!」という顔をしておられるし、奥様の顔を見ても「是非!!」という顔をして、期待満面で何か話をしないと場が収まらないという雰囲気なので、仕方なく浦島太郎、ではなく『木馬が〇った白い船』を話しました。さすがにこの話はポリシェン様は涙されなかったのですが、カタリナ様は泣かれ、なぜか奥様も涙されました。一応、これでお開きということになったのですが、明日もお願いね、とカタリナ様から約束させられ、何か準備しておかないといけなくなりました、トホホ。
ポリシェン様邸の3日目の朝です。本当に寝心地の良いベッドで、食事も美味しく頂いています。食事を少し残して、猫型ロボットの4次元ポケットにしまい、アンに食べさせてやりたいです。
お屋敷から出れないのは残念だけど、元々休みの日は一日中部屋にいても気にならなかったので、問題ないです。が、それは日本の話で、ここはネットがないので、スマホがあってもなにもできない。いや、スマホがあっても充電できないし、せめてソーラー充電器を持って来ていれば、カメラくらいは使えたのだけど、とにかく暇で仕方がない。
そこで、朝ごはんを食べた後、庭で剣の練習をすることにしました。素振り、リュービ(龍尾)とやり始めるとすぐに汗をかきます。上半身裸になって、夢中になって剣を振っていて、ふと気が付くとメイドさんたち数人の熱い視線に気が付きました。屋敷の2階からは奥様とカタリナ様まで見ています。いやん、恥ずかしいですって。
この世界の貴族の女の人たちは、とにかく胸から上の露出がすごいんですわ!胸から下は足下までスカートで隠されているんですが、奥様のドレスなんて、もう胸が溢れるんじゃないか?ってくらい盛って、先っぽ見えそうなくらい露出しているんですから、目の毒です。カタリナ様だって、日本人とは違って年齢以上の胸の発達があって、これでもか!ってくらい露出しているし。さすがにメイドさんたちは、ポリシェン様が関心示さないようにするためか、首までのシャツを着てますけど。奥様とカタリナ様はセックスアピールしているつもりはないでしょうが、とにかくオレには辛いです。オレは、部屋で1人慰め『Clean』を使うという、魔法の無駄打ちになります。
それはともかく剣の練習が終わると、セバスチャン、もといイワンさんがタオルを持ってきてくれたので、汗を拭きながら世間話をします。話をしていて、オレが文盲であることを伝えると、さすがにそれはまずいであろうと言うことで、ポリシェン様に相談して先生を紹介してもらうことになりました。普通の異世界ノベルでは主人公に神さまが会話と読み書きのスキルで与えられるのだけど、オレは会話だけで、読み書きは何もスキルがもられなかったんだよね。
剣の練習が終わると、ほんとに何もすることがないので、魔法の練習をするがすぐに終わってしまう。呪文が思い浮かばない、という高い壁があるので、進まないという現実。
仕方なく、今晩のお話の準備をしておこうと思い、イワンさんに紙とペンを持って来てもらう。やはり紙というのは貴重なものだそうで、1枚だけもらう。これは羊皮紙ですね。これは高いでしょう。オレは小学生6年生のとき、卒業証書を自分の漉いた和紙で作るという体験学習があり、卒業証書用の和紙を作りにいった経験があるだけなので、和紙なら作れると思う。でもきっと、役に立たないと思うけど。確か,和紙の原料になるのはこうぞ、みつまたの木だったよね、あるかなぁ。
それはともかく、今晩のお話を考えよう。何が良いのかずっと考えていた。ラブロマンスは元々読んでる量が少ないので、あまり思い付かない。ベルサ〇ユの薔薇、という貴族社会にぴったりの長編があるが、これは長すぎるし、革命が起きて貴族がどんどん殺されていくという内容だから、たぶん良くないでしょう?それに、どこまで語って、終わればいいのか見当つかない。これを語れるくらいなら、オレはこの世界でストーリーテラーとして生きていけそうな気がする。吟遊詩人って、これだっけ?何かいいの、ないでしょうか?と誰と問うわけでもなく問いかけるが、もちろん返事はないですよね。
お涙ちょうだい、切ない話、この世界でも共感を得られるような話、冒険談はNG、う~~ん、ないかなぁ???マンガ、アニメ、何かないかな?シンデレラ?白雪姫?やっぱり貴族様には親近感が得られるかな?とりあえず、この線で攻めよう。日本昔話は向いていないよね。でも一晩で終わってしまうから、2度3度要求されてしまいそうだし、長編で何かないかな?ふたりの〇トロの再演は苦しいし、何か?宮〇アニメ、より広い視点で......スタジオ〇ブリでなにか、戦争?火〇るの墓?あ、これが良さそう。主人公と境遇さえ近ずければいけるかも?
設定はもちろん、この世界で戦争中。主人公たちは騎士爵の子どもで、お父さんは戦争に行ってお母さんは死んでしまったから、親戚の貴族の家に身を寄せる。しかし、貴族の家も主人が戦争に行って、生活は苦しく、2人は邪魔者扱いされ、次第に居心地が悪くなり......。いけそう、でも、騎士爵だと家来もいるだろうし、親戚に身を寄せなんてないだろう?う~~ん、この世界が分からない、こんなとき頼りになるのはたーーすーーけーーてーーイワ~~~ン(犬のようだ)
コンコンコン。
「お呼びでしょうか?」
「イワンさん、教えて欲しいことがあり、お呼びしました。お時間はよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫でございます。何をお教えすればよろしいのでしょうか?」
「夕べ、皆さんの前で話をしましたが、その後カタリナ様から今晩もお話するようにお願いされました」
「はい、そうでございました」
「それで、話を考えているのですが、私の考えている話が、この世界で不自然かどうか知りたいのです。私はこの世界に来て、まだ日が浅いのでこの国の常識が分からないので教えてください」
「おぉ、マモル様はお話を自分で考えておられるのですか?すごい才能をお持ちですね!承知致しました。私のできる限りのご協力をさせて頂きます。それで、どういうことでしょうか?」
「この国の貴族の生活ですが、皆さん、ポリシェン様のように召使いを使い、生活されているのでしょうか?
ポリシェン様は以前、騎士爵であったけど男爵に昇進されたと話しておられたのですが、騎士の時も今のような生活だったのですか?」
「そうでございますね、使用人については一般的な話として男爵位の貴族様は旦那様と同じように多くの使用人を使っておられますが、騎士爵位の方は多くの場合、使用人は男が1人、女が1人か2人です。騎士爵というものは貴族ではありますが、体面の割には収入が少なく,無位無官であれば収入が本当に少なく、大きい声では言えないのですが、奥様が内職をされている場合も多くあります」
「そうなんですか?」
「はい、平民のように表立って奥様を働かせるわけにはいかないので、隠れてと申しますか、表立つことのない仕事をなさいます」
「それはポリシェン様の奥様も内職をやっておられたのですか?」
「はい、奥様は女性にしては珍しく算術に長けていらっしゃっいましたので、商家の帳簿の計算をされたり、確認をされたりしておられました。奥様の仕事は早くて確かだということで、仕事の代金は比較的高額だったのですが、引く手あまたでございました」
「へぇーーすごいですね」
「これは本当にマモル様の胸の中に仕舞っておいて頂きたいのですが、ポリシェン様が衛兵隊の隊長職のときの俸給は本当にわずかでございまして、時には奥様のお仕事の方が大きい額になることもございました。ですから、旦那様が男爵になられ、奥様が仕事を辞められると商会に伝えた時は、非常に残念がられ、引き留めの話もありました。それくらい奥様のご評価は高いものでございました」
「もしかしてロマノウ商会とか?」
「よくご存じですね、その他にもいくつかありました。
奥様が外に出られるわけにはいかないので、私が商家に仕事を取りに行き、奥様が仕事され、私が返しに行っておりました。その頃は、使用人は私と現在のメイド長のレーシの2人だけだったのですよ。現在のお屋敷を見ると想像できないと思いますが、本当に慎ましく暮らしておられました。私も執事というよりは、奉公人でして、それこそ木を買ってきて薪割りをしたり、ゴミを出したり、何でもしましたよ」
「そうなんですか、この住まいからは考えられないですね」
「それで、マモル様が考えられるお話と、貴族様の生活がどのように関係しているのでしょうか?」
そこで、火〇るの墓の設定をイワンさんに聞いてもらう。男の子と女の子の名前くらいは決めておかないといけないと思い、この国と関係ないということを強調するために、ロバートとリンダという名前にしようと思っていると話すと、あまりにも聞いたことない名前でまったくの絵空事に聞こえます、とダメ出しされる。やっぱり、共感を得られるような名前の方が良いでしょう、とのこと。
それなら、イワンさんに名前を考えてもらって、男の子はミハエル11才、女の子はナターシャ4才ということに落ち着きました。あらすじは、イワンさんにも内緒にしておいて(後で一緒に聞いてもらうし、楽しみは残しておくべきでしょう?)、他は大丈夫でしょうと太鼓判を頂きました。




