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朝食、ビクトルと

 達成感に震えてファティマを見ると、薄目を開けて笑っていた。知っていましたよーということで、私も仲間に入れてくれれば良かったのに、ということではないですよね。耳をすませてみると、隣のビクトルの部屋はまだ動きがない。カタリとも音がしていないので、まだ寝ているということだろう。夕べの連発が効いたのでしょうか?こういうとき、人は誰でも自分のことを棚に上げ、人のことを勝手に言うものである。

 

 孝行息子がポロっと排出されたので、息子とハチセの腰の辺り一帯に『Clean』と掛けた。

「あ、気持ちいい。すっきりしたよ」

 ハチセの言葉に、頷いているファティマ。この後、この2人に朝食を食べさせないといけないのだが、食堂に連れて行っていいのかしらん?ビクトルの前にハチセを出していいのか?オレが連れて現れたらビクトルは何と思うのだろう?どうしよう、ハチセに今からビクトルの部屋に行けと言うべきなんだろうか?朝のビクトルくんをなだめてやってくれと言うべきなんだろうか?でも、ハチセはオレと致したばかりだし、ファティマに頼むべきか?どうしたもんだろうか? 

 ハチセを後ろから抱きながら、悶々と考えていたら、ハチセ越しにファティマが顔を出し、

「どうしたの?何を、考えてる?もしかして、隣の男のコト、考えてる?大丈夫よ、気にしなくていい。隣の男、お客さんの家来、でしょ?ハチセをお客さんが見て、気に入ったから、呼んだ、と言えばいいよ」

 とアドバイスされた。

「こんなこと、よくあること。私たち、2人呼ぶ、男もいる。姉と私たち3人呼ぶ、貴族もいる。私たち3人並べて、家来の前でする。叩く男もいるし、叩かれるのを好きな男もいる。だから、お客さん、何も気にせず、普通にしていればいい」

 うーーん、なんかオレはえらいものと同列に語られているけど、要するに気にせず平然としていれば良いということか。後はビクトルが、自分の中で消化してくれるということだ。


「一つ教えて欲しいんだが、2人は何才なんだ?」

「お客さん、嫌なこと聞くのね。あたし(ファティマ)が17でハチセが15よ」

 そうですか、オレの半分ね。なんも言えなくなった。元の世界では......。


 そんなこんなで朝食に食堂に降りていくと、すでにビクトルが席に付いており、ハチセを見ると目をまん丸にして驚いた。口まで開けて、魂が抜けかかってビクトルだけ時間が停止した。でもファティマとハチセは、男のそういう反応は慣れているようで、ファティマがビクトルの肩をパンパンと叩き、ハチセがビクトルの手を取って自分の胸に当てる。そのまま、胸の上で手をグルグル動かすと、ビクトルの口に魂が戻った。うん、女性の胸ってものは偉大なものである。


「マモル様、彼女はどうして?なぜいるのですか?」

 魂が戻ってからもしばらく、陸に上がった魚のように口をパクパクさせていたビクトルがやっと語った言葉が、それだった。やっぱりね。ま、ここは真摯に説明しようじゃないか。

「夕べ、このファティマがハチセを呼びにきただろ?」

「この人、ハチセというのですか?」

 ビクトルの言葉に、「名前も聞いてないんかい!」とツッコミをいれたくなる。が、ここはしらっと、

「そう。ビクトルの相手したこの子を、呼びに来ただろう?」

「はい」

「その時聞いたかもしれないけど、この子の父親と兄がオレに部屋に来ていたんだよ。それで、ファティマとハチセと父親と兄をまとめてオレがキレイにして、治療したんだ。それで、感謝されて金は払えないから、この子らを置いていくので、朝まで一緒にいていいと言って帰っていったんだ」

「治療って何か病気を持っていたのですか?」

 もしや誰かさんと同じ病気を?と頭をよぎったかも知れないビクトルくん。

「いや、父親が咳き込んでいたので治したついでに、3人も治しておいた。病気持っていたかもしれないから、予防のためだ」

「そうですか」

 あからさまにホッとした表情を見せるビクトルくん。

「それで、ビクトルが寝たあと、ハチセが帰ろうとファティマを呼びに来たんだ。その時に、ハチセに今晩は泊まりで、朝食食べて帰ればいいと言ったんだよ。それでビクトルの部屋に戻るように言ったら、ビクトルはもう寝てて、ベッド狭いから寝る場所ないって言ったんで、オレのベッドに寝かせたんだよ」

「え、3人で寝たのですか?」

「あぁ、3人で寝た。ファティマを真ん中に挟んでね。ビクトルが起きてれば、ビクトルの部屋に行かせたんだけど、もう寝ていて起きそうもないって聞いたから、仕方なく。ベッド狭かったけど、ガマンして寝たんだぞ」

「そうですか......」

 一部事実をねじ曲げて伝えたが、そこは素直に受け取ってくれた。残念そうな顔をしているのは、もし自分が起きていてハチセが戻って来たら、そのまま朝まで過ごせて、朝にもう1度、と思ったからだろうな。若いんだもの、朝にもう2回かも知れない。夕べの4回戦の疲れなんて、まったく見えないビクトルくんだし。


 ファティマとハチセは朝食を食べる食べる。欠食児童のように、バクバク食べる。オレたちが半分くらいしか食べてないのに完食したので、追加でもう1食づつ頼んだら、それもペロリと平らげた。やっぱり、満腹するくらい食べれるのは、滅多にないことなので食べれるときに食べておこうと言うことだそうで。


「マモル様、迎えに来てますよ」

 とデニルさんが言いに来た。

「はい、これ。取っておきなさい」

 と言い、大銅貨2枚を渡すと、2人ともすごい喜びようで、

「お客さん、また呼んでくださいね!次はもっと色々しますから。ぜったい満足していただけますからね」

 と営業スマイル満開で帰っていった。いえいえ、あれで十分満足でしたから。ビクトルは物足りなかったかも知れないけど。


 今日もまた、デニルさんの馬車に揺られ国境に向かう。国境と言っても、この世界に地図があるわけじゃないし、明確な国境線というものがあるわけもない。山並みが海に入り込む所辺りが国境になっている。向こうからこっちを統治するのが大変だし、こっち側がヤロスラフ王国になっているというだけだろう。


 サキライ帝国側の方から旅人がやってくる。

「この人たちは、サキライ帝国からの商人ですか?」

「そうだな。この先は通商路としてサキライ帝国と結ぶ重要な街道だからな」

「何を運んでいるのですか?」

「ん?織物とか、陶磁器とか、工芸品とかかなぁ?前は香辛料が入って来てたが、今やこっちからサキライ帝国に持って行っとるぞ」

「香辛料ですか?」

「あぁ、最近のヤロスラフ王国の香辛料は混ぜ物が入ってなくて品質が良いって、言われているからな。マモル様んとこのだよ。砂糖もなぁ、ヤロスラフ王国みたいな白い砂糖ってのはできねぇらしい。金持ちは1度白い砂糖使うと、次からはメンツってものがあって、黒いのは使えないようだぜ」

「それはありがたいことです。どんどん使って欲しいです」

「あれにはザーイも助けられているからな。サキライ帝国に行くのは、香辛料も砂糖も1度ザーイに集められて陸送するのと、船で送るのとあるんだよ。サキライ帝国のヤツらにしてみれば、自分とこで作れれば良いのにって思って、どうやってるか探りに来やがるが、ポツン村までは入れねえようだぜ。砂糖の方だって公爵様、いや大公様だったか、工場を秘密管理しているって言われてるぜ。

 だからよう、ゴダイ帝国がヤロスラフ王国と戦争して、ハルキフやセベスを取っただろ?あんな風にヤロスラフ王国と戦争して、どっか少し頂いちまおう、って思ってるみてえだぜ。例えばオデッサとかよ」

「オデッサ?」

「ああ、オデッサだよ。知らないのかい?ザーイの川を挟んだ向かい側の町さ。ヤロスラフ王国の海軍基地があって、そこは第2王子の領地だな。それか、この辺りだよ。なんにせよ、ヤロスラフ王国の中に小さい町でも領地が欲しいんだぜ。

 夕べ泊まったメルトポリだってサキライ人の町じゃねえか。そこがヤロスラフ王国から迫害されたって言って、サキライ人を守るためだって言って、こっちに攻めて来ることがないとも言えないな」

「でも、メルトポリの人たちはサキライ帝国で迫害されて逃げて来たのに」

「そうだよ。でも、攻めて来るときの言い分なんてのは、どうでも良いんだよ。サキライ帝国の臣民が隣国で不当に貶められているって名分があればいいのさ。実際がどうかなんて、国のお偉いさんには関係ないんだよ」

 どの時代でも同じ事言って戦争始めるんだなぁ。と言うか、この時代でも戦争始める時って、やっぱり大義名分を必要としたってことに驚いた。




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