ファティマが乱れて
ファティマはお姫さまに当てている手を掴んで、
「この手、熱い!何か、変なこと、しているでしょ!?」
「......」
オレの手を触って、熱がなく何も変わってないことが分かって、表裏をしげしげと見て、おまけに臭いを嗅ぐ。手の臭いは、たぶんキミのお姫さまのよだれの臭いだぞ?いや匂いだぞ。あ、さっきオレの出したのも出て来ているんだ。ということはやっぱり臭いだな。
「おかしい。手がすごく、熱いと思ったけど」
そうか、やっぱり効いているのか?ここは正直に言った方がいいだろうな。
「実は、手からファティマに魔力を流してた」
「魔力を、流す?どういうこと?」
「うん、手から相手の身体に魔力を流してみて、相手が魔力持ちだと反応があるんだよ。魔力が身体の中を流れ出すと、身体が熱くなったり、気持ち良くなったりする。ファティマはもしかしたら魔力持ちかと思って試してみた」
「え、私が魔力持ち?そんなこと、初めて言われたよ」
「そうだろうな。たいてい、初めはそういうことを言う」
「でも、わたしが魔力持ちなら、お客さんみたいに、呪文が使えるの?」
「それは分からない。使う呪文と使用者の相性みたいのもあるしな。やってみないと分からない」
「そうなの。どうして私が魔力持ちと分かった?」
「いや、まだはっきりとは分からない。さっき少しやってみたら、ファティマが熱いと言ってただろ?あれならイケそうだ、と思った」
「ホントに?なら、続けて」
オレの手をもう一度、お姫さまのところに持って行った。中指をトンガリくんに当て、クリクリ回しながら魔力を少しずつ流している。
ファティマは眉を八の字にしながら、腰をくねらせる。指のせいか魔力のせいか、分からないような。でも魔力は流れ込んでいる。ふふふん、これから楽しい展開になるんだろうなぁ。トンガリくんから開いた魔力のパイプが、ファティマの身体の中に広がって行くのが感じられる。目をつぶって、空いた手でファティマの腰を抱き、指先からの情報に集中する。
ファティマは、
「うんんん、あぁぁ、うぅぅぅ」
なんて言ってるけど、それは無視。ファティマの身体に細いパイプが広がって行く。初めはお姫さまの周りだったのが、腹に広がり、胸に繋がり、手足、頭に広がって行く。血管とは別の流れが生まれて循環しだしている。所々ある引っかかりを、少しずつ流れるように、障害物をトントンと叩きながら整流化を進める。
ファティマはオレの肩にしがみつき、指が肩の肉に食い込んでいる。耳元でファティマの「はぁはぁはぁ」と荒い息づかいが聞こえている。発熱量がスゴくて、汗の量がスゴい。そしてお姫さまからもねっとりとした液が溢れて溢れて。
「ダメ、もうダメ、やめて、ねぇ、お願い、もう止めて、死んじゃう、わたし、おかしくなって、ねぇ、もう止めて、あぁぁぁ、んんんん......」
ガクガクガクと身体を震わせて、全身の力が抜けた。肩に食い込む指の力が抜けた。失神した?いや、薄目開けてオレを見てる。
「こ、こんなの、おかしいよ。身体が、熱くて、身体の中、グルグル回ってる。ね、私、おかしいよ、変だもの、私、どうにかなっちゃう、壊れてしまうよ、どうしよ?ねぇ、どうしよ?」
と訴えてくる。ちょっとやり過ぎたかな?と反省して、魔力を止めると、ファティマは「はぁーー」と大きく息をついた。全身汗まみれ。口でパクパク息をしている。お姫さまの方もパクパクしている。こんなとき、息子が入っていたら、食いちぎられちゃうかも知れない。
この盛り上がっているときに、コツ、コツ、コツとドアがノックされた。
「お姉ちゃん、もう帰るよ?終わった?どうしたの?」
と声を掛けてきた。そうだ、ハチセに今晩泊まっていくって伝えてなかった。ファティマはベッドから立ち上がろうとして、ふらついてベッドにドスンと座る。そのまま服を被って、ヨロッ、ヨロッ、としながらドアに向かって歩いて行った。
やっとドアに着き、ドアを開ける。
「お姉ちゃん、どうしたの?大丈夫?また何かされたの?ひどいの?歩ける?」
ハチセが矢継ぎ早に質問するけど、ファティマは立っているのがやっとのようで、肩で息をしながら、ハチセを部屋に引っ張り込んだ。ハチセは何が起こったのか良く分からず、ファティマの顔を見たり、腕を見たり、服の中を見てファティマの身体に異常がないか調べている。一昨日の殴られたというのが気になって、今日もそういう目にあったんじゃないかと心配している。
「だ、だいじょうぶ、ひどいこと、されてない、から」
とファティマは言ってるけど、とてもそうは見えないわな。
ハチセはオレの睨んで、
「あんた、お姉ちゃんに、何、したの?さっきは、いい人だと思ったけど、そんなこと、なかったんだ。お姉ちゃん、こんなにして!!」
とひどく怒ってる。いや、オレはファティマをいい気持ちにしただけなんだよ?ファティマがハチセの手を持って、
「だいじょうぶ、だって。何も、悪いこと、されてない。すぐに、元に戻るから。そこに座って」
と言い、ハチセを椅子に座らせ、ファティマはオレの横に座った。
「隣のビクトルはどうした?」
と聞くと、
「眠った。4回もして、疲れて眠ったよ。朝まで起きないよ、きっと」
おーーーー!!ビクトルくん、スゴいね!?キミの頑張りをサラさんに聞かせたい。あなたの息子はこんなに成長しましたよ、って。ゼッタイ言わないけど。
「あんた、お姉ちゃんに何したのよ!?」
としつこく聞いてくるので、ファティマが魔力持ちかも知れず、調べていたという話をする。そうすると、やっぱりこういう話には食いついてくるわけで、
「ねぇ、アタシには魔力あるかな?」
と手の平を返して聞いてきた。
「いや、オマエはないと思う」
「どうして分かるのよ!?」
「分かるから分かる。ファティマにはあるけど、オマエにはない!」
ここは曖昧なこと言ってはだめだ。断言しておかないといけない。
「そっか。アタシはないのか?」
目に見えるくらいガッカリしている。
そんな反応は無視して、父親と兄を治療したことを告げ、ファティマとハチセがここに泊まっていっていい、と告げられたことを話す。
「だから、ハチセはビクトルの部屋に行って一緒に寝てやってくれ」
「えーーー無理だよぉ!」
「どうして?」
「だって、ベッド狭いし、あいつ、すごく寝相悪くてさ、無理だよぉ」
「隣の部屋のベッドはここより狭いのか?」
「うん、部屋だって狭いし、ベッドに1人寝るのがいっぱいいっぱいだよ。それに、ビクトルって言うの?終わって、横になって少ししたら大の字になって寝ちゃったから、アタシが寝るとこなんてないよ」
「そうかぁ。じゃあ......」
とオレが言ったとき、ファティマが、
「ハチセは向こうで、寝な。寝るとこなけりゃ、床に寝ればいいんだから。朝になったら、朝食食べた後、お父さんと兄ちゃんが迎えに来る、から」
と言う。まあ、もっともなことを言うけど、床に寝ろとは。
「お姉ちゃん、そんなこと言うなら、お姉ちゃんがあっち行って寝ればいいじゃん」
「え、私?私はお客さんと、一緒に寝ないとダメ、だから。今だって魔力を、教えてもらってたし。これから教えてもらうし」
「え、いいなーーー。あたし、教えるのみたいよぉぉぉぉ!!」
「お客さんの前でワガママ言わないの!!」
「えーーー見るだけだよぉーー邪魔しないからさぁぁぁ!?ねぇ、いいでしょう!あ、そうだ、お客さん。ねえ、見てても良いでしょう?」
「見るだけ?」
「ダメよ、ダメ!!あっちに行って」
オレの返事を遮ってファティマが叫ぶ。そりゃそうだろう。あれを見せるわけには行かないだろう。でもあんなことしなければ、良いんでしょう?
「大丈夫。もう1度魔力は通っているし、あんなことはないから」
とオレが言うと、ファティマが耳打ちしてきた。
「ホントに?でもあそこを触るんでしょ?あそこから魔力を流すんでしょ?」
「いや、もうあそこでなくても良い。手を握るだけでいいから」
「そうなの?それならいいけど」
「やったぁ。じゃあ、アタシは邪魔しないからね。部屋の隅っこでみているから」
さあ、再開しましょうか。




