ついでに父親と兄ちゃんに
ガタ、ガタ、と階段を上がってくる3人の足音がする。1人がコホコホと乾いた咳をしているが、これがファティマの父親ってことか?もう1人は呼んでもいないのに来た兄か?
コツ、コツ、コツとドアがノックされ、
「失礼します」
とファティマに続いて、男が2人入って来た。背が高くて、がっしりしている。背は2人ともおれより少し低いくらいだから170㎝だろうか?年くってる方は痩せているが、若い方はがっしりしてイイ身体つきをしている。
2人はクンクンと鼻を鳴らして、臭いを嗅いでいる。フフフン、この部屋は無臭だろう?と思ったが、考えてみると、致した後だった。栗の花の臭いがするだろう?ファティマのあのお姫さまの臭いもするんだろう?
「あんたが、胸の病を、治してくれるのか?」
父親の方が言ってきた。兄の方は黙ったまま、オレを睨んでいる。それは人に物を頼む態度か?という気もするが、ここは知らん顔スルーする。
「オレは医者じゃないので、完治できるかどうか分からない。たぶん一時しのぎで、しばらく楽になるだけだろうと思う。それでも良ければ治してみるが。それでもいいか?」
オレの呪文はアノンさんほどの効果はないと思う。魔力の多さに任せて治療しているので、完治なんてとんでもない。オレがいなくなったら、また元に戻るだけだろう。だから、今だけ治してみせて、目の前の不具合の上っ面だけ治すということだ。言ってみれば、オレの自己満足のような側面もあると思う。一時しのぎだけれど、それでも良ければやってみるのだ。そもそも無料だし。
「それでいい。頼む」
父親が頭を下げた。
「分かった。ならやってみよう。近くに来て、頭を下げてくれ」
オレが言うと父親が、コホコホ咳をしながらやって来て、片膝を付き頭を下げた。その頭に手を乗せ、まだ髪の毛が残っているが、白髪の多い、ろくに洗ってないような髪の毛の乗った頭に手を『Clean』『Cure』
と続けて掛ける。キラキラとした光の滴が手から落ちる。ファティマはさすがに慣れて、兄が驚く様に「へへーーん。私は知ってるよぉー」てな感じで見ている。
掛けられた父親の方も目をぱちくりして、しばし呆然。でも、咳をしていないことに気が付いて、
「あ、これは?咳が止まった。胸のつかえが、なくなった?あ、あ、あ、あ、治った?治ったか?あ、ありがとうございます!!」
と土下座してくれた。
「いやいや、これはたぶん、一時的なものだから。あんまり期待しないでくれ。それから、そこのファティマの兄さん。ついでにあんたもやりましょう。こっちに来て」
「え、オレ?オレはどこも悪い所はないぞ?」
と兄ちゃんが言ってるけど、父親が
「せっかく、やってくださると、おっしゃっているんだ。つべこべ、文句言わず、やってもらえ!」
と言えば、ファティマも
「そうよ、兄ちゃん。文句言わず、やってもらえば。すっごく気持ち良いんだから。それに、どっか悪い所あっても、分からないだけかも知れないでしょ?ほら、ほら兄ちゃん!ほら、ほら、ほら」
と兄ちゃんの背中を押す。
「ちぇ!」
と言いながら、兄ちゃんは不承不承前に出て来て、片膝付き頭を下げる。この頭も、いつ洗ったか分からない頭だ。
『Clean』『Cure』
キラキラキラと光の粒が落ちる。ほらな、兄ちゃんの服までキレイになっただろうが?頭髪なんて、洗ったばっかりみたいになったぞ。痒みがなくなったんじゃないか?フケも出なくなったと思うぞ?
そんな兄ちゃん、目をぱちくりしている。
「身体が痒くなくなった。何でだ?あ、肩が軽い、痛みがなくなった。おお、回る回る。膝の痛みもない。ずっと痺れていたんだ。でも、治ってるぞ?」
どこも悪くないと言ってた兄ちゃん、実はいろいろあったんだよな。肩をグリグリ回し始めた。膝を曲げて屈伸している。
「イヤ、あんた、スゴいな。疑って、悪かった。ホントに済まねえ。許してくれ」
ペコペコと頭を下げる。
「ほら、終わったから出て行ってくれ。ほれほれ」
と言うと、父親が、
「本当にありがとう。こんなにしてもらって、オレたち、あんたに渡すものが何一つない。せめて、娘たち(娘たちだって?)を一晩好きにしてくれ。明日の朝、迎えにくるから、悪いが朝メシを食わせてやってくれないか?ホントにありがとう、恩にきる」
と言った。続けて兄ちゃんの方も、
「オヤジの言う通りだ。こんな、すっきりした気分になったの、久しぶりだ。いや、生まれて初めてかも知れない。本当にありがとう。オレの名前はエイギンという。この町で何かあったら、オレの名前を出してくれ。悪くはならないと思う。恩に着る」
と頭を下げた。父親の方も咳が止まったことが、えらく嬉しかったんだろう、何度も頭を下げ、部屋を出て行った。
残されたファティマは、ヤレヤレといった表情だったが、
「お客さん、本当に、ありがとう。父の咳がしなくなったのって、いつぶりか分からない。あんなに、嬉しそうにしてるなんて。
父が言った通り、明日の朝までいるから、私を好きにして。ほんとにありがとう」
正座して床に両手を付き、頭を床に付くくらい下げ、日本式のお礼をしてくれた。
「いや、いいよ。オレからすれば、大したことないから」
「そんなこと、ない。すごく嬉しかったから。朝まで、好きにしていいから」
と言い抱きついて来た。夜は長いなーー朝までするわけでもないけど、まぁ、ゆったりしっぽりしよっと。
その時ファティマが、気が付いた。
「あれ?さっき、父と兄ちゃんは服を着たまま、呪文掛けていた、よね?でも私と妹、服脱いで、素っ裸になったよ?どうして?おかしいよ?」
と言ってきた。確かに、それはそうだ。ニマニマしたファティマが
「ね?妹の裸、見たかった?だから?」
そう言われ見ればそうだけど、見たくないかと言われれば見たかったし。男の汚い裸なんて見たくないし。当然と言えば当然のことである。
「当たり前だろ?女の裸は見たいけど、男の裸は見たくない。その代わり、魔力の使い方が違ったから。男の方は服を着たままだったから、魔力を多く使ったんだ」
ファティマは「ほんとにぃ~~?」
という顔をしている。そんなこと、どうでも良いだろ?減るもんじゃないし、ファティマだって、父親や兄の裸を見たくないだろうが?
そんなことを言ってても仕方ないので、服の下から手を滑り込ませ、お姫さまに当てる。そして、ちょこっと魔力を流してみる。
オレの相手をする女の人はたいてい魔力持ちというジンクスがある。ミワさんは分からないけど、異世界転移しているから可能性は大きい。最初の女のアンは持ってなかったけど、今みたいに丁寧に魔力を流したりすることができず、結構荒っぽかったから、開発できなかったのか、と今は思っている。微量の魔力を流せていればもしや?という気がしている。
それで、そのジンクスに乗っ取り、ファティマのお姫さまに手を当て、弱い弱い魔力を流してみる。当てているだけだから、魔力持ちじゃないなら、何も感じないはず。
それで流して見る。少しずつ、少しずつ。
ファティマはオレの首に腕を回したまま、動かない。やっぱりダメかも知れない。魔力は止めず、そのまま続ける。ファティマは何も言わず、動かない。これは効果あって動かないのか、お姫さまに当てた手が動くのを待っているのか?
魔力に強弱付けてみる。ファティマに魔力は流れ込んでいる。跳ね返されていないから、入っている。浸透している。『Cure』を掛けたとき、ハチセや父親、兄は上っ面で掛かった感じだったが、ファティマは中に染みこむような感じがした。それが、この魔力の浸透感だったのか?
でも反応がないのはなぜ?




