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サキライ帝国との国境の町に行く

 クルコフとシュタインメッツがギーブに向かって、慌ただしく出発しようとしているとき、マモルとビクトルはデニルに連れられ、サキライ帝国との国境に向かって馬車を歩かせていた。馬車は人の歩く速さと同じくらいなので、お世辞にも走らせているとは言いがたい。幌のない剥き出しの馬車なので、日差しが強く暑い。ポツン村より太陽の日差しが厳しいような気がする。道は海沿いにずっと伸びているので、海面の照り返しがあるせいかも知れないが。

 最初に大海原を見たときは、キャーキャー騒いでいたビクトルも、今は厭きてしまって無言になっている。行けども行けども景色が変わらない。国境の山がだんだんと近づいてきたくらいしか変わらず、後ろを振り向けばザーイが遠くなったなぁ、と思うくらいである。


 これっていつまで進めば着くのだろう?せいぜい2時間も馬車に乗れば着くのかと思っていたが、甘かったと内心反省している。


「デニルさん、国境っていつ着くんでしょう?」

「そうさな、夕暮れには着くかな?」

「え、夕暮れ?」

 まだ日は高いよ。夕暮れにはたっぷり時間がある。3,4時間はあるんじゃないか?

「そんな遠く?」

「そうじゃよ、嫌になったか?」

「まぁ、何も変わらず厭きたというか?」

「そりゃ無理ないわな。なら、帰るかい?」

「ここまで来て帰るのももったいないし。う~~ん、やっぱり行きましょうか」

「おお、そうじゃぞ、ここまで来て帰るバカはおらん」

「やっぱり」

「当たり前じゃ。それにマモル様、いつかサキライ帝国と戦争になるかも知れんのじゃろう。そん時は、これから行く町が戦場になるかも知れん?そこが戦場になる前に1度、見といた方が良いに決まっとる。じゃから、無理しても行った方がいい」

 デニルが力説してきた。

「確かに。国境の町って言うのは、隣の国から攻めてくることが容易に想像できますもんね」

「普通はそうじゃな。けれど、今から行く町は、メルトポリと言って、サキライ人の作った町じゃからの。サキライ帝国の迫害から逃げて来た連中が作った町なんじゃ。だから、ヤロスラフ王国と山を挟んだ反対側のサキライ帝国側にはウエストファリアという町があるんじゃが、そこに軍隊がおっての、いつサキライ帝国の軍隊が逃げたヤツを追って来るかも知れん。そうじゃなくとも、サキライ帝国がその町を拠点にしてザーイやヤロスラフ王国を攻めようとするかも知れんぞ。

 そこに行って、どんな人間が住んでおって、誰が治めとって、どう防衛しとるか見るだけでもええじゃろう。町並みや住んどる人間を見とくだけでも勉強になっぞ。大変じゃが、1度行っといた方がええ」

「分かりました」

「じゃがな、良い方の期待はせんほうがイイ。あそこは期待して行くとガッカリするところじゃ」

 なんて、行く前からモチベーション下げることを言ってくれる。それなら行かなきゃいいのにって内心思うなぁ。戦場と想定されるから行くだけで、なんも期待しないことにしよう。


 夕暮れ前に町の姿が見えてきた。山並みが海に入り込み、かろうじて1本の道が海と山の間に通っている。これは海が荒れると道が波で通れなくなってしまうパターンだ。その道に添って山側に町があった。町の周りには堀が巡らされており、その内側に板の塀が並んでいる。ポツン村と同じ作りであるが、ポツン村の方が堀が深く広い。ポツン村は濠と呼んでいいと思うが、ここのは堀としか呼べないだろう。

 そして塀もつぎはぎだらけで、統一された板を並べたものでなく、とりあえずあった板を並べました、という感じに見える。所々穴が開いているのは、そこから弓を射るためのものか、それとも朽ちて穴が開いたものなのか、薄暗くなってきたので良く分からない。


「町に入るには金がいる。1人大銅貨1枚じゃ」

 デニルが言うので、大銅貨を出そうとしたら、

「金は要らんよ。ロマノウ商会からあんたら2人で金貨1枚づつもらっとる。これで泊まったり食ったりする分も、女を抱く金も出すことになっとるから、なんも心配せんでもいいよ。オレに任せとけばいいからな」

 女を抱く金、それもロマノウ商会から出る。ということは、ここで致すことをロマノウ商会に知られる、ということか。いやいや、たぶんロマノウ商会ではオレがどこで何をしているかなんぞ、すべて知っているだろう。ここは出されたモノは全部食べるのが礼儀というものだ、と思う。これもロマノウ商会の接待の一環なのだ。好き嫌いを言わず、出されたモノを食べる。虫の料理以外は好き嫌いを言わず、食べることにする。


 だが、入ってみた町の中は汚かった。道は狭く、メインストリートらしいが、馬車が辛うじてすれ違うくらいの幅しかない。都市計画とは無縁の人口が増えるに従い、無秩序に広がってしまった町並みだと思わされる。ザーイから来たので、ついついザーイと比べてしまう。最高の町から最低水準の町に来たように思う。


 何か分からないが悪臭が漂っている。ビクトルは露骨に鼻を押さえているが、この臭いはたぶん、町のどこに行ってもついて回る臭いだと思う。排泄物やゴミ、腐臭などありとあらゆる悪臭が混じっているのでないだろうか?

 デニルは以前来たことがあるのだろうが、迷うことなく町の奥に馬車を進ませて行く。町中には怒号が飛び交っているが、ケンカしているわけでもないので、普通の会話ってことだろうか?

「王国とは言葉が違いますね?」

 とビクトルが言った。

「そうだ。ここはサキライ帝国とヤロスラフ王国の言葉が混じり合っている。住んでる者は両方使える者が多いからな」

 とデニルが答えたけど、オレにはよく分からん。翻訳機能が働いているのか、単にオレの耳がドンなのか?言葉だけでなく、人間も違う。ヤロスラフ王国とは人種が違うと言えばいいのか?ヤロスラフ王国の人間より鼻が高く、目の彫りが深い。髪の毛は黒く肌の色も茶色い。背もヤロスラフ王国の男の平均がが160㎝ほどのところ、ここは170㎝ほどの男も多くいて、手足が長いな。違う国に来たという感じがするな。


「ここだ」

 とデニルに言われて宿屋に着いたのが分かった。たぶん、今まで町で泊まった中で最低ランクの宿屋。これならギーブからブカヒンの間にある村の宿と同じくらいだろう。一応、3階建てだが、壊れないのが不思議なような。これなら震度4くらいで倒壊することを保証しよう。デニルさん、あーた、オレが金を出してもいいから、もうちょっと良い部屋をお願いしたかったけどなぁー?と思ってたら、顔に出てた様で、

「これでも、この町では良い方の宿だからガマンしてくださいよ、マモル様」

 デニルから念押しされた。

「あぁ、分かった。いいな、ビクトル、文句言うなよ?」

「分かりました」

 とビクトルは言ったが、顔には「こんな所に泊まるんですか?」という表情がアリアリと出ている。この際、世の中っていろいろな所があるってことを知っておけば、いいだろう。野宿よりマシってことを知ってもらわないとね。それでも、宿の中に入ると、いくらか悪臭が薄らいだ気がする。


 受付をしてくれたデニルから鍵を渡され、

「マモル様とビクトルは一番良い部屋を取りましたぜ。3階でさぁ。風呂なんてものはないから、中庭にある井戸で身体を洗ってくだせえ。便所は階ごとにあるはずです。3階はまだまともなはずです」

 と言われる。

 

 狭く暗い階段を上がる。ミシミシ音がする。これは震度4弱か、震度3でも危ないような気がする。

 部屋に入ると、辛うじて小さいランプがあった。しかし、照らす範囲は狭いので『Light』と唱え、部屋を明るくすると後悔した。部屋の中は掃除はしてあるのだろうが、古くさく天井や壁は所々穴が開いている。補修した跡があるが、追いつかなくてそのままになっているのだろう。ベッドも寝具も汚そうに見えるので、思わず『Clean』を掛けてしまった。途端に部屋の中から臭いが一掃された。無臭というのは、こんなに気持ちの良いモノなのか、と思う。隣の部屋から「あー!?」というビクトルの声がする。壁が薄いなぁ。カーテンが引いてあるよりマシと言うくらいのもんだろう。

 ビクトルの部屋もこんなモノだろうし、一応『Clean』を掛けておいてやろうか。


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