表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
463/755

御前会議3

「では、ゴダイ帝国の参謀本部ではヤロスラフ王国全土を占領するのに、どのくらいの年数を予定していたのだ?」

 大公がシュタインメッツに聞く。

「ざっと50年ほどと考えておりました。ハルキフをご覧いただければ分かると思いますが、占領地の税を軽減し、平民の帝国占領状態の評判を上げます。それにより、オーガやギーブにまで、帝国占領状態の生活のしやすさが伝わってきていると思います。(ギレイが頷く)そして、その評判が周辺地域に行き渡り、周りの平民たちが帝国の占領下に入った方が、暮らし向きが良くなると考えるようになるのを見計らい、侵攻に伴う理由を作り、侵攻・占領する。そして、その占領地に善政を敷き、平民の暮らし向きを向上させるという繰り返しです。

 占領地の貴族を一掃するだけでも、いくらか平民にかかる税を軽減できます。平民から見れば、自分たちの犠牲の上に成り立っている貴族の暮らしが、帝国占領によって貴族がいなくなるので、その負担がなくなったと目に見えますから、実質の負担は変わらなくとも平民は歓迎してくれるわけです」

「しかし、帝国の占領する行政府の者たちを、平民は支えていることに変わりはないだろう?」

 クルコフが尋ねる。

「いいえ、行政府の連中の給料ははるかに安いのです。行政府トップの者でも騎士爵とかわりない生活ぶりでしょう。給料が安いにもかかわらず、夜昼なく働いております。いわゆる寝る間を惜しんで働く、というヤツですな。そうは言っても、帝国の軍事費は大きいもので、平民は税の重さにあえいでいます。占領地も最初は、驚くほど税が安くされますが、その後周りが帝国領となると、税を重くするということになります。結局、ヤロスラフ王国と変わらない税負担となります。

 大公国の貴族の皆さまの暮らしぶりを見ると、さほど平民の負担は大きくないように思います。しかし、ヒューイ様の前後の領主の時の暮らしぶりは大変なものでした。最後は、贅沢のしすぎで税だけでは足りず帝国商人からの借金まみれでしたから。チェルニ領主のポトツキ伯爵やタンネ領主のダビドフ伯爵、王国第2王子のノエル様もなかなかな暮らしぶりで、平民にかなりの重税が課されていると聞いています」

「もう、良い。分かった」

 シュタインメッツの話を大公が遮った。会議の空気が重くなった。このまま行けば、ヤロスラフ王国のバカ貴族のせいで、ゴダイ帝国に飲み込まれてしまうことは必至であるとしか、考えられなくなってしまう。


「シュタインメッツよ、今話したようなことをこの場で喋っても良いのか?秘密事項ではないのか?」

 大公が聞く。シュタインメッツが帝国の拡大に関わる重要事項を簡単に話しているように思えてきたからだ。シュタインメッツが話すほどに、内容の信頼性が薄らぐように感じていた。

 しかしシュタインメッツは薄らと笑い、

「これは、すでに5年程前に帝国のヤロスラフ王国侵攻方針として上申してあります。文書にして広く配布されていることですので、帝国内では特に秘密とされている内容でもないので、私がどこで喋ろうと帝国としては特に痛みを感じないと思います。

 その文書には、いくつかの侵攻試案を添付しておりましたので、そのどれを採用されるかは、帝国首脳部次第です。むしろ私には、その存在をヤロスラフ王国で知られていないということが驚きです。ヤロスラフ王国から見て、ゴダイ帝国は侵攻を想定される敵国ですから、帝国で何を検討し、どう動こうとしているのか、調査するのが必要なはずですが、どうもそれがなされていないのが、なんと言っていいのか、危機感の不足と言って良いかと。

 私が参謀本部の現場を離れてから、新しく侵攻試案を検討しているはずですから、今は方向性が変わっているかも知れません。それについて、私が多少聞き及んでいることもありますが、この場で語ることはできません。それを語ると、その話に惑わされて本筋から離れることになるかも知れません」


 シュタインメッツの話を受け、大公が質問する。

「では、今、大公国としては何をすべきだろうか?大公国が王国と一体となって帝国対策を取るということは難しい。大公国独自でできることを話せ」

「はい、まずは帝国第2王子様との間に協約の取り結びを協議されるべきでしょう。そして、協約の下地ができた時点で、大公様が第2王子様と1度直接会われることが重要です。第2王子様が大公様に会われ、大公様のその人となりを第2王子様が知ることで、お二人が互いに人間として信用されることになり、協約が信頼できるものになります。大公様と第2王子様の信頼が全てと言っても良いので、それを最優先で行うべきと考えます」

「分かった。そうしよう。ギレイ、シュタインメッツと共に第2王子と会えるよう道を探れ」

「「分かりました」」

 ギレイとシュタインメッツが共に頭を下げる。

「シュタインメッツ、他にやるべきことはないか?」

「はい、帝国から戦費を奪うことと考えます。戦争を行うためには1にも2にも、金がかかることは皆さまご存じだと思います。昨年、一昨年、帝国の小麦生産が不良のため、ヤロスラフ王国から輸入しているのはご存じかと思います。(知らなかったという声が上がる。それを無視して続ける)ですから、来年も帝国は金がなく、大規模な軍事行動は起こしてこないでしょう。穀物の出来不出来というモノは自然に依存するものですので、経済的な戦争を仕掛け、帝国の金を大公国に吸い上げることを考えます。

 具体的には、砂糖や香辛料の価格を上げ、帝国から吸い上げるようにすれば良いかと。砂糖や香辛料はもはや富裕層の食事に必須のモノとなり、ふんだんに使用しております。そして、平民の食卓にも浸透しつつあります。富裕層だけでなく平民の金がなくなれば、帝国民全体の生活が苦しくなります。生活が苦しいのに、さらに苦しくなる対外戦争を始めようとする政府に対して、反発が生まれるのは当然です。政府としてはその声を無視することができなくなり、対外戦争を延期せざるを得なくなります。

 政府から見れば、そのような高級品を買わずガマンせよ、と言いたいところですが、モノが目の前にあるのですから、値段が上がろうとモノがあれば購入せざるを得なくなっています。ですから、必ず購入致します。地道な方策ですが、これが友好な手段と考えます。

あとは砂糖、香辛料の輸出の道筋を変えます。

 現在はポペ村、ポツン村からブカヒン、ブカヒンからユニエイト、ユニエイトからチェルニに渡り帝国に入っておりますよね?これではユニエイト、チェルニで町を通るごとに通行税が掛けられていますよね。これをブカヒンからギーブを通り、ハルキフに至る道筋に変えるのです。これなら、大公国内を通過する分には税金が掛からず、ハルキフに入る価格を多少高くしても、チェルニから帝国に入る価格に比べ安くなります。そしてハルキフで多少、通行税を掛けても、帝国本国に入る値段はチェルニ経由より安くなります。そして、ハルキフも潤います。結果として、第2王子様の基盤安定に繋がります。

 帝国としての砂糖や香辛料の予想購買量は今の2倍以上あるでしょう。ヤロスラフ王国内の流通量を減らしても帝国輸出を増やすべきです」

「分かった、クルコフ、今のシュタインメッツの言、実施するようにせよ」

「分かりました」

 クルコフが頭を下げた。そして発言する。

「大公様、先日私とシュタインメッツ様がフメリニ辺境伯に会って来ました。こちらの方も早く会って頂けますよう、お願い致します」

「分かった。クルコフとバンデーラが日程を調整せよ」

「「分かりました」」

 2人が頭を下げる。

「私の方からの議題は以上だ。何かこの際、伝えたいことがあれば発言せよ」

 大公が促すと、シュタインメッツが手を挙げ、再度発言を求める。

「シュタインメッツ、発言を許す」

「大公様、ありがとうございます。帝国皇太子の行動の傾向について、ご説明しておきたいとおもいます。

 皇太子は自意識が高く、承認欲求も人一倍強くあります。そのため常に周りをアッと言わせたいという思いがあります。そのため自分を実際以上に評価し賛美する者を周りに置きたがる傾向がございます。何かを行おうとすると、自分が先頭に立ち、短期で成果を求める傾向が強く出ます。そのため、ヤロスラフ王国侵攻という決定が帝国で発せられた場合、周囲が止めても皇太子自らが軍の先頭に立ち短期決戦を挑んでくる可能性が大きいと思います。この場合、ヤロスラフ王国国民の犠牲は大きいものがあると推定致しますが、皇太子を倒す機会もあると思われます。必ず皇太子に隙が生まれると考えます。

 それと一つ伺いたいのですが、ヤロスラフ王国からゴダイ帝国に対して、諜報活動はどのようにされているのでしょうか?」

 大公はきょとんとした顔をして、

「特に何もしていないと思うが。商人たちに時折、担当の者が世間話を聞くくらいだろうか?それが上に伝わって来るくらいだろう」

「そうですか。ゴダイ帝国が侵攻してくるであろう隣国であるため、帝国では仮想敵国と呼んでいましたが、これから帝国の情報は微に入り細に入り集めるべきと考えます。帝国政府の動きから平民の声、物価の上下、穀物の出来不出来など、ありとあらゆる情報を収集すべきだと思います。それを集め、精査し大公様とここにいらっしゃる方々と共有化することが必要かと思います」

「分かった。それについてはヒューイと検討せよ。参謀本部と言えないまでも、それに当たる組織を作れ、頼んだぞ」

「「了解いたしました」」

 ヒューイとシュタインメッツが頭を下げた。


 これで長い長い会議が終了し、各々の領主が動き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] シュタインメッツ、超優秀ーーーー どこぞの一流商社に勤めていたら、30代でも本部長になってるでしょうね。 (普通、一流商社の本部長は40代後半でも優秀な方でしょう) この世界の商会だったら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ