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御前会議1

 ギーブにある大公公邸に、イズ大公国内の領主が集められていた。

 ギーブ領主のヒューイ、オーガ領主のギレイ、ブカヒン領主のクルコフ、そして新たにヘルソン領主に就任したバンデーラの4人である。それらが机の両側に座り、奥の中央に大公であるイズ・ヤロスラフが座っている。領主の後ろに各々の従者が立っており、シュタインメッツがその従者の並びの最後に立っている。


「皆の者、忙しい中、集まってくれて礼を言う。由々しき事態が起きている。その情報を皆と分かち合い、対応について意見を聞きたく、集まってもらった」

 イズ大公がそう言うと、一同が頭を下げた。


「由々しき事態というのは2つある。1つはゴダイ帝国の第2王子がハルキフに来たようだ」

 おーーっ!!という声が一同から上がる。

「第2王子がハルキフに来た、と言えば簡単だが、なぜ来たのか、その理由次第ではヤロスラフ王国の行く末に大きな影響が生じることは皆も分かっていよう。

 今の時点で分かっていることは、帝国を追放ということではなく、ハルキフ領政府の司令官になったようだ。中央との関係が良いのか悪いのかは分からない。ただ、左遷されたということは間違いないようだ。果たして第2王子が帝都政府に対して、どのような感情を持っているのかは分からない」

 と大公が話したところでクルコフ子爵が聞いた。

「第2王子がハルキフに来たというのは、皇帝の跡継ぎになれなかった、皇太子との後継争いに敗れたということでしょうか?」

「帝都の動きはよく分かっていないが、結果を見ればそういうことだろう。シュタインメッツ、どうだ?」

 と大公がシュタインメッツに意見を求める。


「大公様、確かに第2王子様は後継者争いに敗れたのでしょうが、皇太子との関係はそれほど悪くなっていないのかは微妙です。何か、人事を行った者が考えてハルキフに移ることになったのでないかと推測致します。これまで帝国の例を申し上げれば、皇帝の兄弟で優秀な者は宰相や軍司令官、近衛府長官などの重要ポストに就きます。もし、政府の要職を担うに足りないと判断されると帝都から出され、地方の司令官に飛ばされたり致します。ただ、その場合、権限は何も持たされず、お飾りにすぎないので飼い殺しと同じでございます。

 しかし、第2王子様は聡明な方でありますゆえ、皇太子が帝位に就かれれば、第2王子様は宰相もしくは重要な省庁の長官に就かれても不思議ではないのですが。皇太子に忖度する者がおり、今回の人事となったのか、それとも第2王子様が、帝都に嫌気が差して離れようとされたのか?

ただ、皇帝陛下の体調はどうなのでしょうか?第2王子の派遣を皇帝陛下が裁量したのか、皇帝陛下が体調悪く、皇帝陛下の知らないところで決めたのか、それが重要と思われます」


 シュタインメッツの言葉に大公は頷き、

「皇帝がこの人事を裁断したかどうかは不明だ。最近、皇帝が姿を人前に見せることはほとんどないと言われている。しかし、重病という情報もなく、もちろん亡くなったという噂もない。高齢であるが健在であることは間違いないであろう。シュタインメッツが国を出るとき、皇帝はいかようであったのか?聞かせてくれ」

「私が国を出る時、皇帝陛下のご尊顔を拝受しておりません。そのため退去の挨拶もさせて頂いておりません」

 と語った。続けて、大公が問う。

「シュタインメッツは参謀本部の本部長という重職であったのに、皇帝に会えなかったと?」

「はい。本部長職を解かれてから国を出るまで、しばらく時間があったのですが、ご挨拶したいと申請しておりましたが、その願いは叶いませんでした。皇帝陛下のご体調がどうかは、ご高齢ではありますがご病気ということは聞いておりませんでした。ご政務を執られることは、最近少なくなったと聞いておりました。しかし、皇太子が摂政になられたとも聞いておりませんし」

「摂政とは何か?」

「皇帝陛下が何らかの理由で、政務をお執りできなくなった場合、皇太子もしくはそれに準じる者が代行する役職です。過去には皇帝が病気になられたとき、皇太子か皇弟が務めています」

「そうか。特に制度上の変化はないようだが。それに参謀本部でも皇帝の現状については分からなかったか?」

「皇帝陛下の周りは近衛府が固めておりますので、いたって風通しが悪く、参謀本部は不可侵でした。元々参謀本部は体外的な諜報活動や作戦立案をする組織であり、国内については余り活動を行っておりませんので、耳の数が少のうございました。ましてや、皇帝陛下の周りはほとんど耳を置くことができず、情報が入ってきませんでした」

「なるほど。やはり皇帝の動静は不明か。もし、皇帝が亡くなっていても、近衛府が隠し通せば分からないのでないか?」

「そうですね、可能かと思います。いささか不遜なことではありますが」

「では、シュタインメッツ。其方は第2王子と面識があるだろう?ハルキフに行き、第2王子に会うことが可能か?」

「はい、面識はございます。ただ、王子の方が会ってくれるかどうか。今の私はヤロスラフ王国側の人間と認識されておりますので、公式の場で会うことは、帝都に対してどう聞こえるのか、それを配慮されると思います」

「そうか、分かった。とりあえず、会うよう動いてくれ。この国の肩書なしでは王子に会うことはできまい。帝国の大使などという、よく分からない肩書は誰も理解できていないだろう。これからは大公国男爵として動くが良い。後で叙爵しておけ」

「ありがとうございます。ご命令の件、了解致しました」

「皆の中に何か意見のある者はいないか?」

 大公が出席者に意見を求めた。オーガ領主のギレイが、

「ハルキフの前の司令官はどうなったのでしょうか?帝都に帰還したのか、そのままいるのでしょうか?」

 と聞くと、ギーブ領主のヒューイが答えた。

「聞くところによると、帝都には戻っていないようです。そのままハルキフにいるようで、そうなると司令官を降り副司令官になったのではないかと思います」

 それに続きシュタインメッツが、

「発言をお許しください。ハルキフの前司令官のリシリッツアは心情的には第2王子派だったと認識しております。そのため、第2王子を受け入れ、自分が降格するには特に差し障りはなかったかと推察致します。もしかしたら、リシリッツアが第2王子の受け入れを望んだのかも知れません」

 大公がさらにシュタインメッツに聞く。

「第2王子派というのは軍部が全部ということか?それともリシリッツアだけが第2王子派ということか?」

「軍部が丸ごと第2王子派ということはございません。皇太子派よりは多い、と言ったところでしょう。もっとも多いのは中立派でしょう」

「そうか、これはやはりシュタインメッツが第2王子に会って、話を聞いてくるしかあるまい」

「大公様、会ってくるのはよろしいですが、それだけで良いのでしょうか?」

「ふむ、それだけ以上は何があるのだ?」

「第2王子と何か協約を結ぶという手もございます。すぐには無理でしょうが、大公様がいつか直接第2王子をお会いになられ、互いの信頼を深められれば、不可侵あるいは外敵に共同で対応するとか、可能かと思います」

「外敵から攻められたとき、共同して戦うとか、か?」

「はい。例えばルーシ王国がまた攻めて来たときや、他の勢力が攻めてきたとき、互いに助け合うということです」

「分かった。考えてみよう。公国としては必要なことであるし、ヤロスラフ王国としても重要だ」

「はい、よろしくお願いいたします。私は第2王子と接触が可能か調査致します」

「頼む」

「他に意見はないか?」

 大公が見回すが、誰も発言しない。

「では第2王子の件については以上とする。それでだ、もう1件の方だが、同じ帝国の第4王子が亡命を求めてきているという噂がある」

 そこまで大公が話したとき、「ええーーっ!!」と先ほどより大きな声が上がった。後ろにいる従者たちも驚いている。ヒューイだけは事前に聞かされているようで表情を変えていない。大公が続ける。

「これはあくまでも噂なので、ゼッタイに広めないように。

 亡命を求めて来ているというのは、チェルニのポトツキ伯爵に要請の文書が来たらしい。今、第4王子は、追放され国境の町のペトラに住んでいるようだ。ペトラを出てポトツキ伯爵に庇護を求めているらしい。それ以上のことは分かっていない。今は噂の域を出ない」

「なんと......」

 ギレイがため息をついた。騒乱の火種がやって来ようとしていると誰もが考えた。


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