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麦飯とろろを堪能する

 店のドアを開けると威勢のいい声が聞こえてきた。

「「「いらっしゃいませ!!」」」

 おーっと、この店も変わってない。デニルさんの顔を見たからか、

「麦飯とろろかけでいいんですかい?」

 といきなり聞いてくる。

「それを頼む。入れ物ごと持ち帰りたいので10人前くらいできるけぇ?」

 デニルさんがオレに代わって交渉してくれる、ありがたや。

「えーっと、麦飯を釜ごと買っていかれるってことですかい?その他に麦飯とろろを10人前ってことですっけ?」

「うん、もっとできるなら買っていくって言っとられるけど?」

「いやいや、それくらいで勘弁してくだせえ。他のお客もありますんで、残しておかないといけねえし」

「なら、それで頼むわ!」

「あんがとございまーす!!」


 勢いで頼んだけど、ビクトルは食べれるのだろうか?顔を見ると、ちょっと不安そうだし。オレが蚕を食べる時のようなものだろうか?食べれなかったら、オレが持ち帰るわ。これって野営したときの、オレ専用の食事になるし、どれだけあっても良いんだよね。これってミワさんが喜ぶかなぁ?もう1度、あの店にビクトルを連れて行ってやりたいし、その時ミワさんに食べさせたいし。

 あ、やっぱ鰺の焼いたの、食べたいなぁ。醤油があれば100点だけど、ないから塩ふったんでいいし。皮の焼いたところがパリパリって旨いんだよなぁ。うめーーよ!!ついでに鰺の焼いたのもポケットに入れた。


 ビクトルは運ばれて来た麦飯とろろをジロジロ見つめ、においを嗅ぎ、そして一口食べて、微妙な顔をしているけど、何も言わず続けて食べている。魚醤がダメかと思ったけど、なんとか許容範囲だったみたい。ビクトルとは関係なく、オレは大変美味しく頂きました。やっぱり川魚はダメだよ、海魚だねーーーこれは偏見です。


 食事が終わって、まったりしていると、デニルさんの所に若いもんが慎重に壺を5つばかり運んで来た。壺にはロープ掛けてあって、転がっても蓋が開かないようになっている。これはもしや?と思ってデニルさんの顔を見ると、ニヤリとしていらっしゃいますね!

「これはあれですか?」

「そうだ、あれだ。マモル様は、たまに取り寄せしているんでないか?1度食ったら病み付きになったんだろう?コイツが好きってヤツがいるんだよなぁ」

 ニマニマと笑いながら言って来るけど、

「違うんですよ。こいつは武器になるんです。かなわない敵に当たったとき、最後の最後で投げつけて、中身が掛かれば敵を戦闘不能にできるんですわ」

「え、これを相手に投げつけて浴びせるんか?それはえげつないなぁ、あははは」

 デニルさんの嫌そうな顔。

「でしょう?でもねぇ、効きますよ、これが。鼻を持ってるヤツなら全部使えます」

「そりゃ、そうだろうなぁ」

 と話をしていると、ビクトルが

「これが武器ですか?投げつけると言われましたが、中に何が入っているのですか?」

 とネストルと同じ反応するので、ロープをほどいて蓋をひょいっとずらして臭いを嗅がせると、

「ぎゃあーーー!!」

 ビクトル、鼻を押さえて卒倒した。

「げげげげーーー!」

「ダンナぁーー、止めてくでせえーーー!!」

「誰だぁーーーばかやろーーーー!!」

 と阿鼻叫喚の世界が発現してしまった。


 これはマズい!?ビクトルに試したのが、店中に被害が広まった。ほんのイタズラ心だったんですよ、ごめんなさいね~~。

『Clean』『Clean』『Clean』『Clean』『Clean』

 と臭いを消して、鼻を押さえている人には『Cure』を掛けて回る。風を吹かせることができれば良いけど、それはできない・知らないので、これくらいしかできない。


 一応、店の中の異臭悪臭が収まった所で、デニルさんと店主からこってりと絞られた。そりゃ2度目なんだもんなぁ。

 ただ店主の言うには、

「こんなもんを食いたいっていう客もいるんで、迷惑すっけど客は客だから、出すことは出すけどなぁ」

 とぼやいていた。やっぱり、これを食う勇気ある者がいるんだ。


「マモル様、手持ちはこの5個だけだが、まだいるなら港に入ってきたとき、押さえとくぞ。どうする?」

 と言うので、

「取っといてください。それでポツン村に送っといてください」

「分かったぞ。やっとく。他に何かあるかね?」

「いやぁ、特に思い付きませんが、欲しいものは米くらいですね。あれはどれだけ有っても足りないくらい欲しいです」

「米かぁーー。あれはいつ入ってくるか、分からんなぁ。ほれ、途中で嵐にあって船が難破するとおじゃんになるしのぉ」

「そうですよねぇ」

 麦飯とろろを食って、腹一杯になったので午後から何をしようと考えている。青果市場に行こうか、土産を探そうか?どうしようか?

 ふと思い付いたので聞いてみる。

「デニルさんは、西隣のサキライ帝国に行ったことがありますか?」

「ああ、あるよ。なんでい、マモル様は向こうに行きたいのかい?」

「え、いや、行きたいというわけではないですが、見れるものなら1度見てみたいと思いまして」

 いつか戦いに行くかも知れないし。


「じゃあ、見てくるか?サキライ帝国とザーイの境には川が流れているだけだから、なんもないけどな。川と言っても、ザーイの東側の川(ドニブロ川のこと)から水を引いて川にしているだけなんだけどな。もしかしてよぉ、サキライ帝国が攻めてきたときに、そこで防ごうって考えたんだろうが、ヤツらが海から船に乗って攻めてきたら、なんも役にも立ちゃしねえのによぉ。まぁ、ないよりはマシだがな。

 まぁ、そんなに見たいなら、オレが連れて行ってやってもいいぜ?」

「じゃあ、お願いします」

「良いけどよぉ、ホントになんもない所だぜぇ。行ってみて、なんもないからガッカリしたなんて、言わんでくれよな?」

「分かりました、大丈夫です。それにビクトルに広い海を見せてやりたいですし」

「ああ海か。あそこなら辺り一面海しか見えねえから、満足してもらえっかも知れんな。まぁ、待ってな、馬車を呼んでくらぁ」

 よっこいしょ、と言って腰を上げ、デニルさんが店を出て行った。



 同じ頃、クルコフ子爵とシュタインメッツはザーイでも有数の高級レストランで昼食を摂っていた。

「クルコフ様、さすがにこの店は何を食べても旨いですね」

「さすがザーイと言ったところでしょう。シュタインメッツ様はギーブにおられましたから、なかなか美味しい物は食べられなかったでしょう?町の復興はまだ途上でしょうし」

「そうですね、町の復興というのはまず道路から始まって、次は建物ですからねぇ。高級な宿、食堂などというものは最後になりますし。そのような金を使うことのできる者が集まって来ないと、できませんし。今は宿の食事で腹を満たしていますよ」

「シュタインメッツ様は魚料理は大丈夫なのですね?」

「そうです。帝国にいる間は海の魚を食べることはなかったのですが、前の世界にいるときはハンブルグという港町で勤務しているときがありまして、その時は肉より魚を食べることが多かったですよ」

 そのような話をしているとき、従者が紙を持って来た。細かく折りたたまれており、重要なものと思われる。


 クルコフ子爵が中を開けて読み、シュタインメッツに渡す。

「伝書鳥便ですね。すぐにギーブに来いということだ。兵は連れて来なくて良いから、身一つで来いと」

「何か起きましたか、重大なことが」

「タチバナ男爵には招集が掛かっていないので、領主に集まれと言うことなのでしょう」

 シュタインメッツは考えながら、

「私にも来いとお呼びがかかる、ということはゴダイ帝国がらみということでしょうね」

 というとクルコフ子爵は頷きながら、

「きっとそうだろう。あまり良い話とは思えないが、今すぐヘルソンまで行って、バンデーラの所で泊めてもらいましょう。明日はブカヒンまで船で行って、ブカヒンからギーブに向かうのがもっとも早いと思います」

「では私もご一緒致します」

「それでは早く食事を済ませてしまいましょう」

 クルコフ子爵は部下を呼び、すぐにヘルソン領主のバンデーラ子爵の所に走らせる。バンデーラ子爵の所にも同じタイミングで伝書鳥便が来ているはずである。歩調を合わせて行く方が良いであろう。

 


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