ロマノウ商会のセルジュ会頭に会う
翌朝、目が覚めてもベッドの横におばちゃんはいなかった、やれやれ。まったく期待しなかったと言えば嘘になるけど。
美味しく朝ごはんを頂き、昨日と同じく馬車に揺られながら、領都に向かう。オレは村についての疑問を聞いてみる。
「ポリシェン様、あの村のことについて聞きたいことがあります」
「何だ?」
「どうして、あの村はあんなにも貧しいのでしょう?彼らは生きるか死ぬかの生活を送っているのでしょうか?」
「それはな、あの村の成り立ちに関係しているのだ」
「成り立ちですか?」
「そうだ。あの村は、元々は罪を犯した貴族に関係していた者などが送られる村なのだ。もちろん、凶悪な者は送られていないが。あとは異端の者たちか、それは口にするのも憚られる」
驚いた、あそこは罪人ばかりなのか?
「あの村は罪を犯した者の家族や家来などが送られる。はるか昔は、罪を犯した者と一族郎党は皆同じ罪を背負うことがあったのだが、いろいろと不都合があり、罪を犯した当事者の家族や家来はあの村に送って済ませたのだ。そして、その子孫も領都に帰らせるわけにはいかないから、ずっとあの村に住まわせている。
だから、あの村の住人は先祖が領都で罪を犯した者に関係した子孫という者がほとんどだ。あとは孤児院上がりの者も望めば、送ったりしている。あの村に送った時点で、辺境伯領の人員登録から外しているから、ヤツらがどのような生活をしていようと、減ろうが増えようが辺境伯領としては与り知らないことだ」
江戸時代の島送り、ってやつか。行ったら帰って来なくていいってヤツ。死のうが生きようが、関知しないと言うヤツですね。
「ジンとバゥは宿場役という役目が付いているから、領都から派遣されているが、元々は彼らが希望して向こうに行ったので、領都に帰ってくることはないだろう。登録上は、あの村にいるのは、ジンとバゥの2人だけだ」
「そうなんですが。どうして、2人は向こうに行ったのでしょう?」
「分からんな。2人が向こうに行ったのは、私が騎士隊に転出してからなのだ。新しい衛兵隊長と何か、あったのかも知れないな」
言われる通り、衛兵隊で隊長が替わり、シショーがいなくなったので、2人に何か気持ちの変化があったのだろうか?
あとは何も話すことはなく、馬車は進む。
突然、馬に乗っている騎士からポリシェン様に話しかけてきた。
「ポリシェン様、向こうに馬車を襲っている賊がいる模様です。どうなさいますか?」
「どうするか?と聞かれるなら、賊を討伐しよう。辺境伯領の民を害するヤツらはすべて、退治する。行け!」
「はッ!!」
騎士たちは馬車の側を離れ、先に行くようだ。馬車はスピードアップする。そしてちょっと走って止まってしまったので、ポリシェン様に続いて外に出てみる。異世界ノベルの典型的なイベント発生ですが、外に出ても視点が低くてよく見えません。50mくらい先なんでしょうか、馬車を囲んで我々の付き添いの騎士様たちが汚そうな格好のヤツらと戦っているように見える。襲われた馬車の護衛と騎士様を合わせて7人いるけど、賊の方が多そうに見える。
ここは、オレが活躍して賊を征伐し、馬車の中にいる美少女と懇意になるパターンですよね?と、思う間もなくポリシェン様がどこから出したか、弓をキリキリと引き絞りパッ!と放つ。矢は一直線に飛び、賊の1人に刺さる。すごい、動いている賊を射止めてしまうなんて。ポリシェン様は2射目を放ち、賊がもう1人倒れる。賊がこっちに気が付いたけど、遠距離攻撃になすすべないんですよね、逃げようとする。オレも何かしないといけないか?という義務感に押されて、足下の石ころを拾い、セットポジションから剛速球を投げる~~~~なぜか、賊の1人に当たる、背中に!?でも、そいつは前のめりに倒れ、追いかけていた騎士に剣で刺されていた。
片や矢で賊を射殺す貴族様、片やその辺に転がっている石ころを投げて賊にちょっとダメージを与える『降り人』のオレ。これでは、なーんもイベント起きんよね?
「オマエは石を投げたのか?」
ポリシェン様、見て分かりませんでしたか?あなたの弓矢に比べるとチープな武器ですが、一応役に立ったと思いませんか?
「はい、足下に手頃な石があったので投げてみました」
「よく当たったな」
「まぁ、まぐれですね」
「そうだろうな、これだけ離れていて当たるはずがない」
そこは褒めて欲しかったんですけどね。おぁ、逃げ遅れた賊を騎士様たちが殺して回っています、スプラッターな景色です。目を背けてしまいます。
「ポリシェン様、あの賊は捕まえないのですか?」
「んん、なぜ捕まえる必要があるのか?」
「いや、例えば奴隷にして、鉱山送りにするとか?」
「オマエの世界では、山賊などを捕まえたら、奴隷に落とすのか?そして鉱山に送って働かせるのが普通なのか?なるほど、それも良い方法かも知れないが、辺境伯領には鉱山がないのだが、その場合はどうするのだ?」
と、真剣に聞き返されました。申し訳ございません、異世界ノベルの読み過ぎで、余計な知識が身に付いておりました。
「すみませんでした。もしかしたら、そういうこともあるのだろうかと考え、聞いてみました」
「ん、すみませんというのはどういう意味なのだ?よくわからないが、マモルのいた世界ではよく使われる言葉なのか?」
そんな、言葉尻を捉えなくてもいいじゃないですか、泣きそうです。
「はい、私のいた世界では、曖昧な言い方として『すみません』と言って、曖昧にすることが良くありました。しかし、この世界では『すみません』などという、言葉は使わない方がよさそうですね」
「そうだな。ここでははっきりと物を言った方が、余計な誤解を受けずに済むから心がけた方がよいぞ。下手に謝罪の意を示すと、自分が間違っていると受け取られかねないからな」
「はい、分かりました。それで、あのような犯罪者は私のいた世界では牢獄に入れて、罪に相当する期間牢獄の中で過ごさせておりました」
「そうなのか?また、なんとぬるいやり方だな。悪党どもを生かしておいても、食わせる食料が無駄ではないか?罪がはっきりしているのだから、すぐに殺してしまえば良いのだ。世界が違うと、ずいぶん違うものだな。
あの賊たちは、馬車を襲ったのは今回が初めてではないだろう。これまでも罪を重ねているであろうから、生かしておいても無駄なだけだ。だから、ここで始末しておく。死体は獣が処分してくれるからな」
おーーー、効率的と言えば、効率的な処分方法ですね。お、向こうの馬車から人が降りて、こっちに近づいて来ました。キレイな身なりをしたオヤジさんです、美少女はいないようですね。
「これはポリシェン様ではありませんか?お助けいただき、ありがとうございます。私はロマノウ商会のセルジュと申します。おかげさまで難を逃れました」
と丁寧に挨拶してくる。
「ほう、私のことを知っているのか?それより、何もなく無事なようで良かったな。それにしてもロマノウ商会のセルジュと言えば領都の商会の会頭でないか?そのような大物がなぜこんな所にいるのか?」
「ポリシェン様は私のことをご存じでしたか?私はミコライで用があり、カニフに行く途中でした。なにぶん、仕事上のことですので詳しいことは申し上げられませんので、お許しください。このお礼は領都に行きました後、させて頂きます」
と一礼して、馬車に戻って行った、あっさりと。
ロマノウ商会のセルジュなるオヤジさんが帰って行ったので、ポリシェン様は何事もなかったように馬車に乗り、騎士様たちが帰ってくるのを待っている。
「ロマノウ商会の会頭セルジュか。どうして私の顔を知っているのだ?」
とつぶやいておられますが、どうしてでしょうね?オレに分かるわけないです。




