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治療する

 翌朝、また辺境伯に会いに行くと、辺境伯は頭を押さえ、しかめっ面をしている。あの後、どれだけ飲んだんだよ?周りの人間の吐く息が酒臭いって。もしかしたら、朝まで飲んでたとか?執事も申し訳なさそうな顔をしているし。


 どう見ても二日酔いにしか見えないので、

「辺境伯様、お加減が悪いように見えますが、もし宜しければ体調不良を取り去る呪文をお掛け致しますが?」

 と言う。とやっぱりそうだったようで、

「やっ、ありがたい。タチバナ男爵は治療の呪文が使えるか?雇っている者に呪文を掛けさせたのだが、効かなくてな。すまんがやってくれるか?」

 と頼まれた。クルコフ子爵様の顔を見ると、ヤレヤレという表情が浮かんでいる。まあ、仕方ないですよね。

 

 辺境伯に近づき、手の平を辺境伯の頭に向け『Cure』と唱える。キラキラキラと光の粒が辺境伯の頭に降りかかる。おぉ、今日は調子が良い!そうすると、

「おぉ!これは良い!!二日酔いが治ったぞ!そうだ、タチバナ男爵、騎士団の者たちにも呪文を掛けてやってもらえないか?礼はする。悪いが頼む!!」

 辺境伯からそう言われると断わることもできないし、クルコフ子爵の顔を見ると、やってやれ、というように頷いておられるので、

「分かりました。どちらに行けば宜しいので?」

 と聞くと、

「いや、わざわざ出向いてもらうことはない。ここに来させよう」

 と言われ、執事に呼びに行かせた。シュタインメッツ様からは、

「どうせ、話は進まないから好きなだけやってくれ」

 と耳打ちされるし。


 昨日の騎士団長、隊長が列を成してやってきた。一体全体何人が二日酔いなんだ?オレたちが帰った後、宴会の規模が大きくなって飲みまくったということか?

 そんなことを言うこともできないので、とにかく『Cure』を掛ける。途中、打撲した痕と見える腫れがあったので、そこにも「Cure』と掛ける。そうすると、

「お!!痛みが消えた!ありがとうございます!」

 と喜んでくれたので、嬉しくなって、切り傷があったりすると『Clean』『Cure』と掛けて行く。

 それを見ているクルコフ子爵とシュタインメッツ様は呆れているけど、何も言わない。ま、これで少しでも後の交渉が有利になるなら時間つぶしになるし、ちょうど良いわと思っているんだよね。


 どれだけ掛けても列が途切れない。おかしい、服装が騎士と思えない者がいる。そのうち、腹を押さえて「夕べからここの辺りが痛くて」と胃の辺りを押さえて言うヤツが出て来た。飲み過ぎか?昨日飲んでいたのが誰かは分からないし、騎士団だけでなく館にいた人全部の可能性もあるので、止めるわけに行かず、とにかく『Cure』を掛ける。

 チラッと辺境伯を見るとニヤニヤしているんだが。この人、オレにいつまでやらせるつもりなんだろう?数えていないけど50人は優に超えている。

 そのうち、腰が痛い、足が痛いという人も現れてきた。オレの『Cure』で効くんならやってしまえ、というノリで進める。


 もう何人診たのか分からないくらい診て、やっと終わった。「はぁあああーー」と大きくため息が出る。

 振り返ってクルコフ子爵とシュタインメッツ様を見ると「ごくろうさん」という顔をしているけど、辺境伯は目をまん丸にしている。横にいる騎士団の団長、執事も驚いている?なに、どうしたの?何か変なことしたっけ、オレ?


「スゴいな!!」

 と辺境伯が呟いた。騎士団長も、

「本当に。いったい何人診たのでしょうか?」

 と言うと執事が、

「おおよそ、130人ほどかと」

 と言う。

「バケモノか、タチバナ男爵は」

 辺境伯が失礼なことを言うが、それをクルコフ子爵様が受けて、

「タチバナ男爵がバケモノじみているというのは、大公国の中では常識でして。まだまだ大丈夫だと思いますよ」

 と勝手なことを言うとシュタインメッツ様も、

「そうです。魔力は底なしですから、タチバナ男爵は」

 などと輪をかけて失礼なことをおっしゃる。オレもそれなりに疲れているんですよ?


 辺境伯は言う。

「これほどの人数を診て、魔力の底が見えないのはロマノウ商会に勤めていたあの女、名前はなんと言ったか?」

「アノンでしょう。アレもすごかった」

 辺境伯の質問に、騎士団長が答えた。なに、アノンさんのこと?

「あの、昔サキライ帝国と紛争があったときに、ロマノウ商会から派遣された女でしょう?アレは助かりました」

 と話している。


「あのー、そのロマノウ商会のアノンという女は、たぶん私の妻のことです。治療の呪文の達人ですよね?」

 と言うと、

「あ!あの女は今、タチバナ男爵の妻になっているのか?え?はっきりとは分からないが、タチバナ男爵のだいぶ年上でないのか?」

 と騎士団長から痛い所を突いて来る。

「まあ、そうですね。だいぶ上です」

「ということは、タチバナ男爵はあの女、いや失礼、彼女の治療の腕を見込んで妻にした、ということなのか?彼女には辺境伯様に仕えよ、と勧めたが固持されたのだが、よくぞ口説き落としたな」

 と感心されてますが、いや成り行きで一緒になっただけです。そんなことをアノンさんに言うと怒るだろうけど。


 それでこのまま話をしていると曖昧にされ、有耶無耶になりそうなので、

「それでは130人治療したと言うことで、1人金貨1枚として金貨130枚の治療費を請求いたします」

 シラッと言うと、辺境伯はマジか!?と言う顔をするし、執事はやっぱりか?という顔つき、騎士団長は請求するの?という顔をしている。そりゃ、辺境伯だけなら善意でやったから無料だったけど、その後延々と治療したんですよ?その分請求するのは当然でしょう?しかし、執事が

「タチバナ男爵様、1人金貨1枚というのは少々お高いと思いますが?市井では高くて銀貨1枚と聞いております。辺境伯様が雇っておられる臣下の者の給料も月に銀貨10枚ですし?」

 と値切りにかかってくる。こいつ失礼なやっちゃなぁ。


「それは市井の者でしょう?私は男爵ですので、高いのは当たり前ではありませんか?それに辺境伯様が雇っておられる者の給料が月に銀貨10枚と言っても、その者の呪文は効かなかったと辺境伯様は言っておられました。しかし、私の呪文は効いたではありませんか?と言うことは、私の呪文の方が価値があるということでしょう?

 今さら、値引きしようというのは辺境伯様の沽券に関わることと思いますよ?ここは気前よく払われるのが良いと思いますが、いかがでしょうか?」

 クルコフ子爵様とシュタインメッツ様に「これでいいですよね?」と目で承認を求めると「好きにしろ」というアイコンタクトがあった。シュタインメッツ様は、面白くなってきた、という顔をしているけどね。


 執事が困って辺境伯に、なんとかしてくれというような顔をしているが、辺境伯は知らん顔している。仕方なく執事が、

「タチバナ男爵様、申し訳ございませんが、この場にすぐ金貨130枚を準備することはできませんので、明日お支払いするということではいけませんでしょうか?」

 辺境伯たるもの、治療費が払えないということで、支払いの繰り延べを言ってきた。辺境伯のメンツってものはないの?

「私としては、別に今日でなくとも構いません。明日でも1ヶ月後でもよろしいのですが、この話が下々に漏れると辺境伯様のお名前にキズが付くのではありませんか?それでよろしいのでしょうか?」

「と言われましても、金貨130枚というまとまった数の金貨をすぐに用意するということは難しく......」


 執事が顔をしかめて言葉が出なくなってしまった。

 オレとしては別に無料でも良かったんだけど、ラノベで勇者や賢者が無料で治療すると、治療費で生活している神官たちが迷惑すると書かれていたし、やはりここは適性価格を請求すべきでしょう?

 ここでシュタインメッツ様が助け船を出してくれた。


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