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戦いの中

 工場の高所から外を見たとき、凶賊がいると思われる所が赤々と光っており、その上にキノコ雲が上がっているのが、下から照らされて見えた。それを見て、勝っているのか負けているのか、何も分からない。ただただ不安がかき立てられるだけ。

 サラは周り中から問われる。

「何が起きたんでしょう?」

「勝っているのかしら?」

「夫はどうでしょう?」

 聞かれても一緒に工場の中にいるのだから、分かるはずがない。

「見に行ったらどう?」

「誰か知らないかな?」

「怖い」

 と言って泣き出す者もいる。泣きたいのは私だよ、と思いつつ、

「落ち着いて。私たちが向こうに行っても、なんの役にも立たないし、足手まといなだけだから」

 と言ってみんなを落ち着かせようとするのだが、だんだんと騒がしくなってきている。ここで誰か1人でも外に出すと収まりが付かなくなることは分かっている。

「ダメ、待ちましょう!信じて待ちましょう!」

 とサラは叫ぶ。あなたたちが叫ぶほど、カタリナ様の心労が加わるでしょう?少しでも大人しくしててよ!!と思いつつ、口に出せず、とにかくなだめすかしている。それも限界に近い。


 ユィは目の前で起きた落雷と炎の玉に驚きながら、次は自分の番だと考えていた。ただ炎の光がだんだんと弱くなってきて、あれ?2人は帰って来れるのかな?と不安に思った。何か目印ないと戻って来れないんじゃない?と思い、光を振れば分かるんじゃない?という方向に考えが進み、光を灯して振ってみることにした。

 そもそも真っ暗な中、モァとスーフィリアが凶賊の近くまで行ったのは、頭から抜け落ちていて、2人が安全に帰ってくるのはどうしたらいい?と思ってしまったから。

 横にバゥがいるのだから、相談すればいいのだが、そこは気にもしなかった。


 ユィは立ち上がって、

「こっちぃーーーー!!」

 と指先に灯りを点して、左右に振る。

 モァがその光を見つけ、

「あ、あれ!ユィ!!あそこ、あそこに行って!!」

 とフィリポの頭をポカポカたたき出す。フィリポは痛いのだが、モァに叩かれて嬉しくてかなわない。走る速度をより一層上げ、光を目がけて飛び込んだ。


 ユィの光の合図でフィリポとジューダが導かれたが、凶賊たちもその光を目がけて走って来ている。これはそこに村があるだろう、なんてことは考えておらず、さっきの惨劇から逃げ出したい一心で、光のある方向に行けばなんとかなるだろうという思う者たちがほとんどだった。


 バゥはユィが灯りを点けたのに「マズい!?」と思ったが、人前でユィを咎めることも憚られたので、黙っていた。しかし、モァとスーフィリアの後ろに凶賊たちがついてきたので、凶賊たちがばらけずまとまっていることに良かったと思い直した。そして、

「ユィ様、そろそろです!!」

「ハイ!!」

「ひかりだぁーーー!!目をつぶれーーー!!」

 と全力の大声で叫んだ。


 そして一瞬の間の後、モァとスーフィリアが飛び込んで来て、

『Light!!』

 ユィの指先から、さっきの雷以上の強い光が発せられた。

 凶賊たちは目に刺さるような光に、思わず立ち止まり目を押さえる。光が収まってもまだ、視力が回復せず棒立ちのまま動けずにいた。


 弩隊は一瞬目を閉じた後、目を開けると目の前に凶賊たちが呆然と立ち尽くしているのを見た。そして矢を撃ち始める。当たろうと当たるまいと、自分の矢が当たったのか外れたのか、分かりもしない。とにかく矢を撃ちまくる。光がだんだんと薄れていき、暗くなってきたとき、今度は後ろから火矢が凶賊目がけて飛び始める。

 火矢が刺さった凶賊がいる。それを目がけて矢が降り注ぐ。それを避けた凶賊目がけて火矢が刺さる。そしてまた、その火を目がけて矢が降り注ぐ。凶賊のほとんどが矢の餌食となり倒れる。


 ようやく空が少し明るくなってきている。人の顔は判別できないが、物のありかまでは分かるようになってきた。


 それでもユィの点した灯りを頼りに、走って来ている凶賊がいる。剣を抜き、集団となって突撃してくる。村人は凶賊が近づいて焦り始め、的は大きくなったのに当たらなくなって凶賊を止めることができない。凶賊の動きについて行けない。

 凶賊たちは、矢が当たらなくなってきたことで「やったぜ!!」と思っていた。しかし、村の人間との距離があと少しになったとき、突然目の前に氷の塊が現れた。何もないところに、突然人の背を越えるような氷の塊が!!驚いて立ち止まってしまう。


 棒立ちになった凶賊は弩の格好の的になった。どんどん矢が当たる。ハリネズミのようになる。それでも動こうとする凶賊に対して、バゥが槍を手に持ち、

「死ね!!」

 と言いながら投げる。槍は一直線に飛び、凶賊の胸から背中に抜ける。凶賊が、

「クワッ!?」

 と叫び、槍に貫かれたままドウと倒れた。


 氷の塊の向こう側にいたヤツが、恐れをなして逃げ出したが、その背中に向けて矢が注ぎ込まれる。

 立っている凶賊に対し、矢が途切れることなく、刺さっていく。そして1人として立っている者はいなくなった。

「やったか?」

「死んだか?」

「勝ったか?」

 村人は勝ったであろうと感じて歓声を上げようとするが、

「待て!!オレが確認してくる、ミコラ、オレグ、ゴリ、シモンさんと福音派の者たち。一緒について来てくれ。トドメ刺して回ろう。生かしておいても面倒だ。全部殺そう。もしかしたら、死んだ真似をしているヤツもいるかも知れん。槍で突いてまわろう」

 とバゥが言うので、それもそうだと思い、歓声を一瞬飲み込んだ。しかし、見渡す限り立っているのは村人ばかり。すぐに喜びが爆発した。


 その中にサラの息子、ビクトルもいて呆然としている。


 ビクトルは、凶賊と戦うことになったとサラから聞かされて、自分は剣で凶賊をなぎ倒し、役に立つのだと言うことをみんなに認めてもらおうと最初は思っていた。けれど、バゥの妻のユリがビクトルを見つけ、

「ビクトルの坊ちゃん(ユリはビクトルをこう呼ぶが、これが嫌で堪らない)。剣なんていらないかも知れないから、はいこれ(と弩を差し出され持たされる)、これで敵を射るんだよ。剣で戦うのは、最後の手段だよ。凶賊たちが、わたしらのとこまで攻め込んで来て、剣で戦うようになったら、もう最後の最後だからね!?」

「そう言っても、私は剣で......」

「男はごちゃごちゃ言わないの。ホラ、アタシについて来て」

 とユリに言われて、手を引かれて盾の置かれた凶賊から見た真正面と言っていい場所に座らされた。もちろんユリは側にいる。

 

 あとはずっと待っているだけだった。朝前に戦闘があるだろうと聞かされていたが、その間は何もすることがなく、ユリの横に座っているだけ。

「ビクトルの坊ちゃん、眠ければ寝ていいんだよ。ほら!」

 ユリは自分の太ももの辺りをポンポンと叩いて膝枕をすると言っているけど、もちろん周りの目があるわけで、

「いい」

「あら?嫌われたかしら?」

 ユリの一言で、見ていた者たちからワッと声が上がった。緊張している場が少し緩んだ。ビクトルは膝を抱えてジッとしていたが、いつのうちにか眠っていたようだ。肩を揺すられ、目が覚めた。耳元で、

「ビクトルの坊ちゃん、始まりますよ」

 ユリが囁く。その声で脳が覚醒し、今自分の置かれている状況を思い出した。周りを見回すと、寝ていた者はほとんどいないようで、「ビクトルの坊ちゃんは肝が太いね。初めてなのに寝ていたんだ」などと感心と呆れと両方混じったようなことを囁かれている。

 ちょっと恥ずかしいけど無視することにする。


 まだ空は星が瞬き、辺りは真っ暗なのに、後方から人がやってきた。見て驚いた。ユィモァが来た。暗くても2人は輝いているように明るく見える。ビクトルの横の盾が左右に開けられ、そこから男とモァ、スーフィリアが外に出た。モァとスーフィリアは男に背負われ、凶賊のいる方に向かって走って行った。

 残ったユィがバゥと一緒に台の上に立って、前方を見ている。ついついユィの顔を見つめてしまった。脇腹をグイグイ押されて振り返るとユリがいた。

「ビクトルの坊ちゃん、ユィ様を視ていたい気持ちは分かるけど、今はそういう状況じゃないからね。ガマンしてくださいな」

 ニマニマと笑っている。違う、そんなんじゃないと言いたいが、周り中が生ぬるい視線でビクトルを見ているし、この声がユィに聞かれたくないので黙るしかなかった。ユィは聞こえてなかったのか、モァたちが走って行った方向をずっと見ている。


 突然の光と轟音と振動がモァたちの行った方から起きた。周りがみんな驚いているうちに、青白い玉が宙に生まれ投げられると、玉が爆発し飛沫が飛び散った。遠目ではあるけれど、モァとスーフィリアがこちらに向かって走り出したのが見える。

 その後を追うようにして凶賊たちが走って来ている。

「さあ、出番だよ!!準備しな!!」

 ユリの号令で周り中が弩に矢をセットし始め、前方を見る。モァたちがこっちに向かって走ってきているので、まだ矢を放つことはもちろん、弩を向けることもできない。戦場の興奮で誤射することがある。

 心臓の鼓動が高まってきている。ドンドン早くなり、爆発するんじゃないか!?と思うくらいに働いている。こ、こ、これは、心臓が破裂するかも?と思った時、大事な所を掴む手があった。驚いて手の先を見ると、ユリがニヤッと笑っている。耳元にくちびるを寄せ、

「ビクトルの坊ちゃん、緊張しているときはこれが一番です!男にやられると嫌でしょうけど、アタシならいいでしょ?」

 と言うけど、あっけに取られて言葉が出ない。アソコをムニュムニュと揉んでユリの手が去った。手の感触が、余韻が残っている。あやっ!さっきまでの緊張が緩んでいた。視野が広がっていた。モァたちしか見えなかったのが、周りが見えるようになっていた。ユリに感謝するが、他にもやり方あったんじゃないかと思うのだが。


「待つんだよ!早まるんじゃないよ!!」

 ユリが周りに声を掛け、抑えている。

「早い男は嫌われるからね!バゥみたいになるんじゃないよ!!」

 という声に笑いが上がり、みんながバゥの方を見るが、もちろん知らん顔をしているバゥ。しかし、横に立つユィが笑っている。


 ユィが手に灯りを点け振りだした。

「こっちこっち!モァ、スゥ!!早く早く!!」

 と叫んでいる。モァたちは後ろの凶賊たちを引き離している。背負っている男たちの脚力が優れているんだろう。まだ暗い中、つまずいたり転んだりしないものだと感心しつつ、自分もモァを背負いたいなぁ、いやユィを背負いたいと想像してしまう。


 モァたちが盾の隙間に飛び込んだ瞬間、

「ひかりーーー!!」

 と声が上がり、力一杯目を瞑った。それでも網膜が明るくなったのが分かった。まだ暗くならないうちに、

「撃てーーーー!!撃つんだぁーーーー!!」

 ユリが号令を掛けてきた。目を開けると目の前に凶賊たちが棒立ちになっている。それに向けて矢を撃つ。

「どんどん撃ってぇーーー!!落ちついて撃つんだよぉーーー!!」

 横でユリが怒鳴っている。あれ?言ってること矛盾してないか?と思いつつ、どんどん撃つ。弩にセットしようとした矢が手につかず落としたりするが、気にせずとにかく数を撃つ。

 凶賊が矢だらけになって、倒れるとその後ろの凶賊が現れる。その凶賊目がけて矢が降り注がれる。あっという間に隙間ないくらいに矢が刺さり、倒れる。そして、後ろの者が見えるとその者に矢が注がれる。

 それでも凶賊たちは前進してきているように見える。凶賊が矢を避けようとして動くと、それに釣られて矢が動くが、凶賊の動きを予測して射ることができず、なかなか当たらなくなってきた。その時、目の前に白い塊が現れ視界を塞がれた。

「止まったぞー今だ、射ろぉーーー!!」

 という声が聞こえて離れた所から矢が発射されている。ビクトルたちは移動して凶賊の見える所に行き、矢を撃つ。立っている凶賊に矢が集中する。最後にバゥが凶賊の頭領とおぼしき男を槍で貫いた。凶賊で立っている者はいなくなった。

「やったな?」

「勝ったぞ?」

「誰も立っていないぞ?

 バゥが「待てぇーーー!!」と言って、喜びの爆発を制止させた。その時、ビクトルは後ろの方に担がれていくユィを見た。あれ?どうしたの?大丈夫かな?と心配したとき、ユリが抱きついてきた。

「ビクトルの坊ちゃん!!やったぁ、やったよぉーー!!」

 ユリの声を合図にして周り中、歓声が上がった。ビクトルはユリに抱きしめられ、ユリの胸に顔を押しつけられている。苦しいが、この感触がなんとも言えない。サラと違って豊満と言って良い胸の感触が頰に気持ちイイ。ただ、息ができなくなって、苦しくて、手をユリの身体に当て、顔をユリの胸から引き剥がしたら、手はユリの胸を掴んでいた。それも鷲づかみというヤツで。

「あらぁ、ビクトルの坊ちゃん、いくら興奮したからと言って、こんな時に掴まなくても良いんだよ?後でいくらでも相手してあげるからさ♡」

 周りの男も女もヤンヤヤンヤと盛り上がっている。ビクトルの手首をユリががっちりと掴んで、ユリの胸から手を離すことができない。

 

 ビクトル、ただ呆然。




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