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3人は決戦の場に向かう

 決戦に遡ること数時間前。


「私たちが戦わないといけないわ!」

 とモァが言うと、

「そうね、私たちにはノーラの仇を討つ義務があるもの!」

 ユィも同調する。


 村の女、子どもが避難している工場の隅でユィモァとスーフィリアの3人が人知れず決起集会を開いていた。日暮れて夕食を食べてから、まだいくらも時間が経っていない。大人はみんな気が立っているので、子どももいつもは寝る時間なのだが、大人につられて落ち着かず中々眠ることができない。工場の中は外に灯りが漏れないよう、必要最小限の灯りしか点していない。

 

 カタリナとサラはユィモァの監視役を自認していた。スーフィリアはともかく、この2人はきっと何かやらかすだろうと思っていたし、バゥたちからも言われていたから。

 しかしカタリナはつわりがひどく、座っていることも辛くて横になっている。サラは気が立っている村の女たちをなだめるために、工場の中を回っている。

 ユィモァは工場に入って始めのうちは、カタリナとサラの目があるので良い子にしていた。2人が安心して監視の目を緩めれば、必ず工場から脱出するチャンスがあると信じていたから。いつになく良い子のふりをして、村の子どもたちの相手をして、抜け出す機会を覗っている。


 時間が経つと、緊張と疲れでだんだんと眠る者が増えてきた。サラの目も他に向いている。3人はこの時のために、たっぷりと昼寝をして準備してきている。そして工場の隅で、時間が過ぎるのを待っている。いや、ユィモァは起きているが、スーフィリアは寝ている。

 スーフィリアは昔から、寝ようと思えばどこでもすぐに寝てしまう子である。ベッドがなくとも、麦わらでも床の上でも、何かを抱えていれば寝てしまうという特技を持っていた。今はなぜかユィの腰を抱えて眠っている。2人は臨時の麦わらのベッドもどきの上に座っている。スーフィリアが横になって、ユィの腰を抱えた途端、コトンと墜落睡眠してしまった。ユィモァはスーフィリアの寝息を聞きながら、じっと時間が過ぎるのを待っている。時折サラが見に来るので、抜け出すタイミングを見ている。


「スゥって昔からこうだったよね」

「そうよね、一番最初に館に来たとき、私たちを守りますって言って、夜になったら私たちのベッドに入って来て、一番先に寝ちゃうの、うふふ」

「そうよ。あのとき、スゥは自分の部屋で一人で眠るのが淋しいからなのに、言えなくて来たのよね。部屋が広くて怖いって、言えなかったのよね」

「そう。それからずっと3人で寝ることになって」

「3人で並んで寝たはずなのに、スゥに蹴飛ばされて私たちが端っこに寝てて、朝起きたスゥが『お二人、どうされたのですか?もっと真ん中で眠られれば良いのに』って言ったのよね」

「そうだった。でさ、スゥはいつも何かを抱いて寝ないと眠れなくてさ、私の枕を取ってしまって、抱いて寝たり」

「そうよ、その枕を取り上げると、今度は私の枕を取っちゃうし」

 今は何も抱える物がないので、ユィの腰を抱えている......。

「スゥって、そういう子なのよねぇ」

「そうなの、何かと手の掛かる子なのよねぇ」

「それなのに、人前ではしっかりと受け答えするお利口さんなのに、ね」

「私たちの前では、転んだり、物を壊したり、いろいろドジばっかりするのよねぇ」

 ユィモァより年上のお姉さんなのだが、実はお子ちゃまのスーフィリアである。


 夜が更けるに従い、工場の中がだんだんと静かになってきた。サラの他、起きている者はもちろんいる。その者は眠っている者たちの邪魔にならないように、工場の入り口近くにいる。その集まりから離れて、工場の端のさらに隅っこでユィモァとスーフィリアの3人はちんまりと潜んでいた。もちろん、スーフィリアは起きて正常運転になっている。そして近くに勝手口があることを確認してある。ただ勝手口には、3人が逃げ出さないように(と言うより、本来は外からの侵入を防ぐため)鍵が掛けられて、外にはかんぬきが掛けられている。内にかんぬきがなく、外にあるということ自体、3人が抜け出そうとするだろうという前提で掛けられているのだが。

 鍵はサラが持っていたが、当然予備はあり、たいていの予備の鍵は集められて掛けられているという工場あるあるで、棚からモァが拝借してきている。


 真夜中になった時分に、3人は密かに動き出す。ずっと向こうにサラたちの集まっている灯りが見えている。

 そぉーとモァ、ユィ、スーフィリアの順で列を作り、勝手口に向かう。真ん中のユィの付けた足下の灯りを頼りに、ソロソロと縮こまりながら、進む。途中、スーフィリアがホウキにけつまずき音を立て「チュウ」とネズミの真似をする、ということもなく、無事ドアの前に着いた。


 鍵を開けたが外にかんぬきが掛かっていた。

「どうしよ?」

 モァがユィとスーフィリアに問いかけると、

「外から開けてもらうとか?」

 とスーフィリアから定番の返しが。外から誰が開けてくれるのか、ユィモァには見当がつかないが、スーフィリアの頭の中には見えているのかも知れないが。


「あの窓から?」

 と3人が見上げた窓はずっと高い所にある。そもそも外に出れないので、その案は却下のはずなのだが。

「焼き切りましょうか?」

 とスーフィリアと提案するが当然、

「スゥ、却下。そんなことしたら工場が燃えちゃうじゃない。私の雷も光るから、ここはユィのお任せよね。ユィ、なんとかして、お願いね!」

「うん、やってみる!」

 ドアの隙間にユィが立ち、隙間に向かって人指し指を向け小声で呪文を唱えると指先が白く光り、1本の白い棒が隙間に向かって伸びて行く。そのままユィが指先を隙間に添って下げていく。

 外でカランという音がして、かんぬきが落ちたのが分かった。

「ユィ、やったね!!」

「さすがです!!」

 モァとスーフィリアから褒められ、ちょっと自慢げで嬉しそうなユィ。明るければユィは嬉しそうに白いほっぺを紅くしているんだろうなぁ、とモァは思っている。


 ドアをそーっと開け、3人は外に出た。空には三日月があるだけなので、かなり暗い。モァが、

「行くわよ、足下気をつけてね。小さい灯りを点けて足下照らして行きましょう」

「そうね、ほらスゥ、灯りを点けて」

「申し訳ありません、ミオナ様、いやモァ様。実は私は灯りが未だに上手く使えなくて」

「そうだっけ?じゃあ、小さい火を出すとか?」

「申し訳ありません。火の大きさの調整も上手くできず、大きくすることはできるのですが、小さい火を安定して出すことはできないのです」

「あれ、そうなんだ?じゃあ、ユィがスゥの足下も照らして」

「わかった。ほらね」

 とユィは両手に小さい灯りを点して、自分の足下とスーフィリアの足下を照らす。が、

「アッ!?」

 とスーフィリアが叫んで前のめりに転ぶ。

「「しぃーーーー!!」

「も、申し訳ございません......」

「もう、スゥは慌てなくていいんだから」

「スゥは昔から何もない所で転ぶのよねぇ」

「ハイ......」

「ゆっくり転ばないように行きましょうね」

「ハイ......」


 3人が陣地に近寄って行くと、3人の点した灯りにすぐに気づかれた。

「誰?」

 と入り口付近にいた若者が3人に問いただすと、

「私、モァ。バゥに呼ばれてきたの」

 こういう時は、開き直って堂々としている方が良い、ということをモァは経験則で知っている。

「あ、モァ姫。いや、モァ様。後ろはユィ様、とスーフィリアさんですか?分かりました。先導します。ついて来てください」

 この兄ちゃん、ユィモァの隠れファンであり、こんな時間、こんな場所にユィモァが現れて、おまけに先導までできたので内心ウキウキである。

 スーフィリアはまだ村に来て時間も短く、それにいつもユィモァの影に隠れるようにしているので、ふれ合う機会もなく『美少女だなぁ』くらいの印象は若い兄ちゃんたちはみんな持っているが、ジンジャーという保護者がいるため、近づきたくとも近づけないという背景もある。そのため、ユィモァに比べスーフィリアのファンの数は少ない。


 バゥたちが話しあっている場所に来て、気づかれないように3人は話を聞いていた。そして、先ほどのモァの発言に繋がるのである。


 ユィモァとスーフィリアがやって来たのを、アノンは見ていた。が、「やっぱりね。そうなると思っていたわ」と内心、呟いて終わらせる。3人がここまでやってきた以上、何を言っても工場に帰ることはないのだ。せめておとなしくしていてくればいいのに、と願うばかりだ。


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