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決戦直前の会議

 凶賊は村に近づくにつれ、警戒し始めた。まさか襲って来る者がいるとは思わないが、もしや領軍が来ているのでは?という心配がある。


 夕暮れ近くになって、草原の果てに村が見えたとき、凶賊たちは歓声を上げた。今さら村の者に見つかったからどうという気持ちはない。見つかるなら見つかったでいい、逃げるなら逃げたでいい、食い物だけ残しておいてくれれば、くらいの気持ちになっていた。丸1日歩いて疲れ果てていた。水が飲めないので仕方なく酒を飲みながら、果物を食べながら水分を補給し歩いて来ていた。村が見えた時点で全員が、もう明日の朝だ、という気分になっていた。日が暮れて、ろくにテントも立てず寝ることになった。頭が命令せずとも、これまでの経験で早く眠り、夜明け前に村に押し入る。そして村人の男を殺し尽くして、女たちを集め、食事の用意をさせ......と流れが共有化されている。

 明日は楽しいことが待っている、そう言い聞かせて干し肉と葡萄酒を腹に収め、眠りについた。


 福音派のフィリポとアンデレが凶賊の停止を監視していた。村から見えるか見えないかの距離。村が警戒していなければ、翌朝あっという間に暴力に飲み込まれるだろう。今は何もせず、情報を持ち帰るのが良い。ただ、凶賊がどこにいるのか目印を残しておかないといけない。凶賊たちから少し離れた所に棒を立て、凶賊たちを囲んでおく。

「これでいいだろう。戻ろう」

 2人はさささーと凶賊から離れて村に戻った。


 村の中は2人のもたらした情報で湧き上がった。

 女たちをビール工場に移動させ、男たちとユリの率いる弓隊が明日の朝まで、村の外の盾の所で待機となる。ユィモァとスーフィリアも結局、誰彼となく働きかけたけれど、誰も言うことを聞いてくれず、カタリナとサラに手を引かれて、ビール工場に押し込められてしまった。

 村人は見張りを立て、仮眠を順に取ることにしているが、戦闘を前に眠るなどということがそうそうできるはずがない。これから数時間後に命をかけたイベントが待っているのだ。少し酒を飲めば眠くなるか、と配られた酒もちっとも役に立たない。


 バゥ、ミコラ、オレグ、ロビン、シモン、そしてロマノウ商会から送られて来たゴリが頭を寄せて相談している。

「このままじゃ、明日の朝には疲れ果ててしまうぜ」

 とバゥが言うとミコラも、

「あぁ、こんなんじゃ、一番働いてもらいたい頃に、待ちくたびれて疲れて寝てしまってるモンもいるだろうな」

「凶賊たちは朝方の襲撃を慣れているだろうから、今頃ぐっすり寝ているんだろうな」

「そうでしょう。私も緊張して高ぶって、もう一睡もできそうにありません」

 とオレグが言うと、

「普通はそうですよ。戦い慣れている歴戦の勇士だけです。普通は血がたぎって眠れないものです」

 とシモンが受ける。

「では、どうする?このままでは負けてしまうぞ?」

 というロビンにゴリが、

「少し早いですが攻め込んではどうですかね?戦っているうちに明るくなって来ますから」

 と言うとミコラがそれを受け、

「それも考えたが、相討ちが怖くてな。ただでさえ戦闘に慣れてないんだ、それに暗いと弓矢が使えねぇ」

「確かに。オレたちは弩を使えることが大きい。これを使って、最初にあらかたやってしまおうと算段してるからなぁ。真っ暗な中、闇雲に打っちまうのは無駄が多いぜ?ヤツらがいないところに撃っても、後でホントにヤツらが攻めて来て矢が足りなくなった、なんてことも予想できるしな。それができねえってのは辛いぞ」

 とバゥが答える。

「それなら、やっぱり待つか?夜明け近くまで?」

「でもよ、シモンさんの話しじゃ、凶賊どもは早くに寝たというじゃないか?そんなら、ヤツらの方こそ、夜明け前、まだ暗い内に起きて攻めて来るかもしれねえぜ。オレたちは絶対に先手を取りてえよな」

 とミコラが言う。

「何か灯りを点けてみるか?」

「灯りを準備している間に、向こうも気が付くだろう?」

「そうだな。1本2本松明を点けるくらいなら時間もかからないが、10本15本と点けてる間に絶対に気づかれるって。それじゃあ、間に合わねぇ。いっそのこと、火矢を向こうに撃って入れるってのはどうだ?」

「そっちにしても、準備して火を焚けば分かるって」

 何人集まったところで、良い案が出ない。このまま朝を迎えれば良い結果が待っているような気がしない。


 その時、

「スゥがいるわ!!」

 と打合せの輪の外で大声がした。みんなが振り返ると、モァが仁王立ちして睨んでいる。両側に、モァを押さえようとしているユィと口をパクパクさせているスーフィリアがいた。


「ユィ様、モァ様、ど、どうしてここに?お二人は工場にいらっしゃるはずじゃ?」

 とバゥが言えば、

「だ、ダメでしょう?こんな危険な所にいらっしゃっちゃあ。何かあったらマモル様に顔向けできませんって」

 ミコラも続く。

「この方たちは、どなたですか?何がおできになるんですか?」

 と事情を知らないゴリが聞くと、オレグが顔の下半分を手で押さえながら、

「この方たちはマモル様のお嬢さんとその侍女なんです。できると言っても......」

 と言った所でモァが遮って、

「スゥならできるわ!大きい火の玉を作って、敵の真ん中に投げ込めばいいのよ!私たち3人で、秘密に特訓してきた成果を今こそみんなに見せてあげる!!その威力に驚きなさい!!」

 と言い切った。


 当のスーフィリアはアワワワと言っている。それを聞いたゴリが、

「ほう、スゥさんは火の玉を出せるのですか?おや、お三人は、私がタチバナ村に応援に行った時はおられませんでしたね?だから、私も知らないのですね。それでスゥさんの他のお二人は何かできるのでしょうか?何か武器となるモノを持っていらっしゃるのでしょうか?」

 と聞くと、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりにモァが、

「そうよ、私は雷を落とせるわ。凶賊の真ん中に雷を落としてみせる。殺すことまでできないかも知れないけど、痺れてしばらく動けなくさせることくらいはできるわ!それにほら、ユィ、言って、自分で言って」

「わ、私は氷の呪文を、使えます。遠くの敵に放り込むことはできないけど、近づいてくれば氷の矢を撃つことが、できます。それと、一瞬だけど、光、かな?」

 とユィが言うと「ホゥ」とゴリが感心したように言う。

「そしてあなたが炎を扱えると言うのですか?スゥさん」

 ゴリが聞くとスーフィリアはコクコクと頷いた。


 ゴリは振り返り男たちを見て、

「みなさん、この3人を頼るしかないでしょう?他に良い案はないんだし。やりましょうや」

 残りの男たちはただ無言。仕方ないという気持ちと、何かあったらと言う気持ちが交錯している。これが平民の娘だったり、サラやアノンの連れ子というなら、なんの異論もなく戦場に投入している。そう、スーフィリアだけなら使っても問題ないと思っているのだ。しかし、ユィモァが......。


 ゴリを除く全員が思っていた。モァの言う通り、最初の一撃で済むならまだいい。モァが絶対無茶をしそうなのだ。モァに引きずられユィも何かやらかしそうだ。調子に乗って何かやらかすのでないかという心配が先に立つ。2人が戦場にいることで、言いようがない不安を抱かされてしまっている。ただ、ここまで来て、ダメという言葉が出ない。他に案がない。

 

「誰も異論がないようですね。では、それでやりましょうや。夜が明ける前に、一発ガツンとやってしまいましょう!!」

 とゴリが言うと、

「そうよ、この人の言う通りよ!やってしまうのよ!」

 と拳を突き上げるモァ。ユィとスーフィリアはつられて上げている。


 みんな仕方ないと腰を上げた。いったい、どうやって工場から抜け出してきたんですか?という言葉を腹の中にしまって。あの3人がここに来た時点で、どうせこうなると思ってましたよ、という言葉も飲み込んで。


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