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ポリシェン様の口からシショーのことが語られる

 馬車が出発して、しばらくしてからポリシェン様が語りだした。

「マモル、私はペトロ・ポリシェンと言う。領都で辺境伯軍第3騎士隊の隊長を務めている。

 今回は辺境伯領宰相のリューブ様の命を受け、マモルを迎えに来た。今回、マモルがジンに言って献上させたものをリューブ様がいたく気にされてな、作った者から直接話を聞きたいとおっしゃられてマモルを呼びにきたのだ。

 最初に言っておくが、マモルが献上したものについて、リューブ様の前以外では一切話をしてはならぬ。あれは辺境伯領にとって最重要な秘密案件とリューブ様がなされた。だから、繰り返すが他人に話をしてはならぬ。オマエに話を誘導してくる者がいるかも知れないが、私かリューブ様以外には話をしてはならない」

「分かりました。それでポリシェン様、質問をしてもよろしいでしょうか?」

「お、マモルはちゃんと会話ができるのだな?安心したぞ。『降り人』とは言え、あの村に住んでいると、乱暴な口のきき方しかできないのでないかと心配だったのだが。答えられることだけ答えるが、質問はなんだ?」


 ちゃんと失礼のない会話ができるということは、3年の営業経験がなせる技ですかね、良かったよ異世界で合格点もらって。

「例のものはナゼ、このような扱いになるのでしょうか?」

「あれは非常に高価なものだ。領内では採れないし、王国内でも採れない。そのため隣国の先の海外で買って運んで来ているから、王国から隣国に莫大な金が支払われている。そのためもし、この辺境伯領内で採れるということになると、大きな利権の絡む問題となると予想できる。

 金がからむものは必ず利権のおこぼれに預かろうと、有象無象のヤツがからんで来るからな。

 それで、そういうものを排除したくてな、誰に聞かせても良いと言うわけではないということだ」


 なるほど、利権が絡むから秘密に、ということですか。バスコ・ダ・ガマが喜望峰を回ってインドに達したインド航路を命がけで開拓したように、この世界でも香辛料というものは大きい利益を生むものか。でも、そこまで秘密にするのに他に漏れるものですか?インターネットもないし、郵便や電話もないのに他に伝わるんでしょうか?

「申し訳ありませんが、そこまで秘密にされても秘密が守れないということでしょうか?」

「そうだ、誰がこの話を誰に話すか分からない。オマエの前に住んでいた世界は、貴族はいたのか?」

「いいえ、貴族様はいらっしゃいませんでした」

「やはりそうか。私も『降り人』については過去の記録を見てきたのだが、『降り人』の中には少なからず貴族のいない世界に住んでいた者がいたと書かれていた。オマエもそうか。

 実は貴族の姻戚というものがやっかいなのだ。貴族は領内だけでなく、他の領や国の貴族と婚姻を結ぶことがある。そうなると婚姻を結んだ貴族同士は当然行き来が生じることは分かるな。そうなると互いの情報を渡すことが生じる。当人たちは意識していなくとも、自領の自慢したくなるのは自然の成り行きだろう、その自慢の中に、重要な機密が混じっておっても当人は気が付かないことがある。

 そういうこともあってな、貴族が他領の貴族と婚姻関係を持っている場合に取り交わした情報は、どんな重要なものでも罪とならないことが暗黙の了解となっているのだよ。だから今回のような話も、貴族が知って他領に伝えられても罪を問うわけにはいかないのだ。また、金の成る木を握っていると思うと人に自慢したくなるでないか?それなのだよ。

 オマエの住んでいる世界であれば、たいしたことでないかも知れないが、ここの領内で採れていない以上、非常に重要なことになるのだ。辺境伯領宰相のリューブ様がオマエを呼んだことだけでも意味の重さが分かると思う。よいな」

「分かりました。肝に銘じておきます」

「これについては、以後口にしないようにすることだ」

「分かりました。他にも知りたいことがありますので、教えていただけないでしょうか?あの村で聞いても何も分かりませんでしたから」

「良いぞ、私の知っている限り教えよう」


「ポロシェン様とジン、バゥはどのような関係であったのですか?なぜ、ジンはポリシェン様にご連絡したのでしょうか?」

「それは、以前ジンとバゥが領都で衛兵をしていたとき、私が衛兵隊の隊長だったからだろう」

「え、それはシショーと呼ばれる人が悪党を斬ったという話の時でしょうか?」

「そうだが、それはジンから聞いたのか。それなら、余計な説明はいらないと思うが、その時の隊長が私であったので、私しか信用できるものがいなかったのであろう。そのため私に連絡してきたのだと思う」

「ジンからそのときの話を聞いたのですが、シショーと言うのは私と同じ『降り人』だと思うのですが?」

「そうなのか?おかしいとは当時思っていたが、やはりそうか。なぜオマエはそう思ったのだ?」

「それは、そもそもシショーという呼び方からして、私のいた世界のもので、こちらの先生という意味と同じものなのです。それと、シショーがジンとバゥに語った経歴が私のいた世界に当てはまるものがあり、シショーの名前こそ、私のいた世界のものでした」

「そうなのか、シショーが名前だと思っていたがな。確か領都の記録もシショーとなっていた記憶があるが」

「そうなのですか。シショーは私のいた世界では、かなりの高官だったのですが戦争に負けて平民に落ちたという経歴を持っていたそうです」

「そうか、あの悪党どもを斬った後に話を直接聞いたが、とにかく肝の据わった男でな、私が何を言っても動揺せず、静かに答えていた記憶がある。

 とにかく、あの事件は領都が始まって以来の大事件で、私も大変な目にあったのだよ、ははは」

「それはそうでしょうね」

「当たり前だ。そもそも、人をあれだけ斬れるということが誰も信じられなかった。戦場であればまだしも、領都の真ん中の広場で、鎧を着ていないにもかかわらず、ヤツは傷一つ負っておらず、悪党どもを10人以上斬っておる。おまけに、それだけ斬ったにもかかわらず、涼しい顔をして私と話をしているしな、誰が見てもあれほど人を斬った者とは思えなかったよ」

「そうなのですか」

「そうだ。私が不思議に思い、どうしてそんな涼しい顔をしていられるのだ?と聞いたら、これまでに100人以上、人を斬っているので、ここで10人くらい悪党を斬ったところで変わりません、と言ったものだから驚いた。どこでそんなに斬ったのだ、と聞いたら、領都に来る前に住んでいた国だと言ったので、そういうものかと思ったのだが。

 そのシショーの話は報告書に上げて、それが回り回って宰相のリューブ様の目に止まって、私がリューブ様に呼び出され、色々と質問されるうちに私を覚えていただいたのだ。それをきっかけにしてリューブ様に使っていただけるようになり、騎士隊の第3隊の隊長を拝命するまでに引き上げて頂いた。そういう意味ではシショーがいなかったら、今の私はいなかったと思うから、シショーに感謝しないといけないな笑」

 ここにもシショーに関係していた人がいた。


 ポロシェン様の話は続く。

「宰相のリューブ様もシショーに興味を持たれて、一度会っておられる。直接、お会いすると大事になるので、宰相様のお屋敷の庭でシショーがたまたまいた、という形なのだが。いくつか質問されてリューブ様がシショーの剣技を見たいと言われたのだ。私は驚いて『リューブ様、この者がもし、敵対する者の手先でありましたらどう致します。この者が剣を持てば、私でも敵いません。絶対に、おやめください』と申し上げたが、笑って『構わない。宰相の代わりなど、どこにでもいるからな』と言われたので、仕方なくシショーの剣技を見ることになったのだ。

 シショーはリューブ様の前に出るから、剣を持っていなかったので『申し訳ありませんが、私によく切れる剣と紙を1枚貸していただけませんか?』と言ったので、リューブ様が手元の剣を渡された。シショーは二度三度素振りをして『良い剣ですな』と臆面もなく言ったので、私は血の気が引いたものだ。

 シショーは剣を持ち、紙をホイと宙に飛ばして、ヒラヒラ落ちてくるところを、剣でさっと斬ったのだ。見事に紙は両断されていた。リューブ様も私も驚いて声が出なかった。ヒラヒラ落ちてくる紙をさっと斬ったのだぞ!!」

 すごいですね、滝川さん。あなたの腕前をオレも見たかったです。


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