シュタインメッツの処遇が決まる
「使いたいが、そのような大公国の根幹に関わるような業務を、シュタインメッツに信用してまかせるだけの器量は余にはないな」
と大公様。ちょっと苦笑気味のおっしゃりようです。迷っておられますよねぇ、使いたいけど使えない、ということでしょうか。
「当然でございますね」
とシュタインメッツ様。
惜しいなー、ここは、つい最近まで敵だったヤツを、スカッと手元に置いて信じ切って使うのが定番ではないだろうか?確か曹操がそんなことしてなかったっけ?でもさ、良くあるじゃないですか?敵方で散々邪魔して反抗して、もう少しで自分を殺しかけた相手を味方の犠牲の上でなんとか捕縛して、そいつの縄を切って「これからは余に仕えよ」って言うの。あれが格好良いんだけどなぁ。歴史上の英雄ってのはたいていそういうことをする、はず?
「シュタインメッツが、余を高く評価してくれていることは分かった。しかしシュタインメッツ自身も分かっていようが、こちら側としてはシュタインメッツが刺客かも知れず、シュタインメッツの連れが刺客かも知れないと考えるのが普通だ。刺客でないとしても、埋伏毒の可能性もある。余が信用すると言った所で、余の周りがそれを納得するものではない」
確かにそう言われればそうですけど、ここは「余が信用すると言ったのだ!!その方どもは控えておれ!!」って一喝するのが、あるあるの展開だったような?
「分かっております。私もすぐに大公様に使って頂けるとは思っておりません」
とシュタインメッツ様も納得したようで。え、なんかこういう話の流れって、もしかして、この後オレの所にシュタインメッツ様を預けるとかって流れじゃない?困るなぁ、この先ずっとバカバカ言われるのって。いくら温厚なオレでもガマンの限界ってものがあるし。村人の目もあるんだけど。
「では、手始めにヒューイの下で大公国がどのように進めば良いのか検討し、余に報告してくれ。期待している」
と大公様が言うと、シュタインメッツ様も
「分かりました。ヒューイ様、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく頼みます。お手柔らかに」
良かったぁーーーオレじゃなくて。
それなのに、
「大公様、宜しければポツン村を訪問したいと思うのですがよろしいでしょうか?」
とシュタインメッツ様が言い出した。へ?どうして?
「私がタチバナ男爵にお願いしていた、ピルスナーのできを味わいたいと思いますので、いかがでしょうか?」
「許可する。ヒューイと一緒に行けば良い」
「ありがとうございます。では、さっそく行かせて頂きます」
シュタインメッツ様はオレの方を見て、顎で合図してくる。まだこの人と一緒に旅するのかぁ?もう十分なんだけどぉ。
「マモル、よろしく頼む。マモルの村でどんなピルスナーができているか楽しみだ」
「はい……たぶん、プロイセン帝国にはまだまだ及ばないと思いますが、それなりにレベルの高い物ができていると思います」
「そうか、それはいい」
シュタインメッツ様がニコッとした、ニコッと。この人って、いつもしかめっ面してて、たまに表情変わるけどニコッとはしない人と思っていたけど、そうでもないのね。
シュタインメッツ様と話をしているところにヒューイ様がやって来た。この2人、根っこは同じような気がするんだよなぁ。ヒューイ様は外勤向けでシュタインメッツ様は内勤向けっていう違いはあるけど、参謀とか調略とかさせると同じ方法考えそうな脳の仕組みが同じような気がする。
「シュタインメッツ様、お久しぶりです」
「ヒューイ様、こちらこそお久しぶりです。私は現在、無官ですので呼び捨てで構いませんよ。タチバナ男爵は貴族位を持っているにもかかわらず、誰もが下の名前を呼び捨てなのは驚いておりますが」
言われてみて気が付いた。普通は姓で呼ばれる。オレだけ名前呼び、しかも呼び捨て。まぁ、いいけど。え?ということはオレもシュタインメッツ様でなく、シュタインメッツって呼び捨てで良いってことなの?
「ではシュタインメッツ。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「答えられることであればなんでも」
「チェルニの戦いに行ったとき、マモルと偵察に行ったんだよ。その時、森の中の木こり小屋に行ったら、中から私たちに光の棒と言っていいのか、ものすごい威力のものが飛び出してきたんだ。あれは何か知っているかい」
「あぁ、あれですか?あのとき、あの部隊が全滅したのはヒューイ様とマモルに遭遇してやられたんですね。あれは軍中央で騒ぎになったのですよ。優秀な偵察部隊だったのですが、小隊が丸ごと、ある日突然連絡が途絶えてしまって、消息も途絶えたままになって。お二人に潰されてしまったのなら納得です。
それでその光の棒ですか?それについては言えません。と言うより、分かりません。あれは呪文ではなく、個人の能力です。習って身に付くものではないですよ」
「そうなのかぁ、残念だねぇ。習って身に付くのなら、是非教えてもらいたかったんだけどねぇ。それは仕方ないけど、アレは何と呼んでいるの?」
「あれは電撃と呼ばれていますね。この世界で言うなら雷でしょう。あれはかなり強力ですよ。直撃したら死ぬこともありますから」
電撃、ということはレー〇ガン。う~~ん、いいなぁ憧れる。ウチの村に約1名いるけど、まだあそこまでの域には達していないだろうなぁ。
「あと一つ聞きたいんだけど、私たちが帝国軍の周りを歩いていると、居場所が知られたんだよ。陣地からはかなり離れていたし、身を隠していたから目に付いたとは思えないのだけど、あれはどうして分かったのだろうか?答えられないなら良いけど」
「それは大丈夫です。答えられます。あれはですね、魔力を感知できる者がいたのです。これも当人だけの能力ですが、魔力持ちがいると分かるらしいのですよ。それも魔力の量が大きければ大きいほど分かりやすいそうです。あのとき、どえらい大きい魔力が陣地の周りにいると言い出して、見に行かせたのですが、5人全員が帰って来ませんでした。あれはお二人でしたか?」
そう言われて、ヒューイ様と顔を見合わせてしまった。バレバレですな。
「そうなんだ。あの相手をしたのは私たちだったんだよ。大きい魔力持ちというのはマモルのことなんだろうね、きっと」
「そうですか。あの時の5人は優秀な兵士だったので惜しかったですね。それに森の中の15人も亡くしてしまったし。チェルニに展開した軍は元々軍事行動を起こす予定はなく、示威だけ示してヤロスラフ王国の軍を集めるためのものでしたから、特に問題はなかったのですが、優秀な人間を失ったのは痛かったですね」
ふむふむと頷きながらヒューイ様が、
「シュタインメッツ、あと他にこれはと思うような呪文が帝国にはないのだろうか?帝国の中では学校があって、呪文を教えていると聞いているのだが?」
「ヒューイ様、申し訳ありませんが、呪文については問われれば答えますが、自ら明かすようなことはできません。それに正直言って、呪文については個人の能力に負うところが大きくて、私もよく分からないのですよ。
それに魔力のある者を集めて学校に入れていますが、そこと参謀本部は仲が悪くて私には学校の中が見えていませんでした」
「どうして仲が悪かったんだい?」
「参謀本部が好き勝手に立てた作戦で、魔力持ちの人材が擦り潰される、無駄遣いされると言われまして」
それは分かるような気がするなーーでも仕方ないと思うンだけど。
「そう言ってもシュタインメッツも魔力持ちなんだろう?」
「ごくごく少量ですが。魔力袋が使える程度ですよ」
これはウソだろうなぁ。ヒューイ様だって自分がどれくらい使えるかって言わないし。まぁしょうがないけど。
こんなことを言っている間に、ポツン村では大変なことが起きていた。




