表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
433/755

3カ国分割案は実現しない

すみません、読まれる前に言っておきますが、今回長いです。ひたすら会話が続くという。短くしたかったのですが、説明しておかないと後の辻褄も合わなくなるので、本当に申し訳ありませんが、お読みくださいませ。

「これほどの重要な話をここで明かしていいのか?帝国では最重要機密事項ではないのか?」

 と驚いた大公様が聞く。誰もがそう思っている。

「大丈夫です。すでにこの案は実現の可能性はなくなりました」

 とシュタインメッツ様は実にあっさりと言う。大公様は理由を尋ねる。


「なぜだ?」

「まずサキライ帝国ですが、今は内紛がひどく、もはや国としての体を成していません。誰が国の代表者で誰に話を持っていけばいいか分からない状態です。ですから外に出る力があれば、内の反対勢力に対して使った方が良いと考えるでしょう。最悪、国が分裂して有力者が独立して、小国がいくつか生まれるかも知れません。飛び抜けて勢力のある者がおらず、同じくらいの力を持った者が争っています。ですから西の脅威はないと考えて良いでしょう。

 あとシュミハリ辺境伯ですが、今回のヤロスラフ王国侵攻に際して、辺境伯はルーシ国王の承認を得ずにヤロスラフ王国内に侵攻しております。そのため、国王の心証が非常に悪くなったそうです。アレクサ公爵領を占領後、国王から辺境伯に事情を説明するよう召喚命令が発せられ、辺境伯は占領政策が固まっていないにもかかわらず、ギーブを離れルーシ王国王都に向かいました。その後、ご存じのように次男の暴走があり、帝国との関係悪化。さらに加えて、ギーブで黒死病が発生し撤退、そして辺境伯領にもギーブからの帰還者が黒死病を持ち込んだようです。ですので、今後しばらく辺境伯に外征する余裕はないと思われます。

 国王と辺境伯との関係も改善していないようで、非常に悪くなっているそうです。大公様の就任に際して、ルーシ王国からは国王の特使が参りましたが、辺境伯からは来ておりませんでしたよね?(大公様が頷いた)加えて、オーガの町を大公様に渡したのも国王の意向と聞いております。もちろん、辺境伯は自らの金と血(兵隊のこと?)で獲得したアレクサ公爵領を手放すつもりはなかったようですが、国王の命令で返却したと言われています。

 よって、今後ルーシ国王の承認なく辺境伯が動くことはなく、また黒死病の広がりによっては辺境伯領自体の維持も危ういかと思われます」

「それほどに辺境伯領の財政は傾いているのか?」

「アレクサ公爵領侵攻に伴い、領内の農民を徴発して兵士にし、連れて来ています。正確な数は分かりませんが2万くらいと言われています。それに伴い農業生産が大きく低下しているようです。今年の小麦の収穫に大きな打撃があったらしいです。占領後、すぐに兵士を辺境伯領に帰し収穫期に間に合わせる予定だったようですが、思いのほか時間がかかり、収穫できずに終わった小麦畑があったようです。辺境伯領の主たる財源は小麦ですから、これは大変な痛手でしょう。

 その上、ギーブから帰った者たちが、黒死病に感染しているという災禍が上乗せしています。兵士たちの感染者が多いという噂ですが、いったいどれくらいいるのか?黒死病がどれくらいの犠牲で鎮圧できるかによって、辺境伯領の財政は壊滅的になる可能性もあるでしょう。もしかなり酷いものになったとしても、国王と辺境伯の関係が悪いため、国王からの援助は期待できませんから。

 黒死病の制圧は、大公様がギーブで使われた方法が辺境伯領で使いたくとも使えませんから、かなり長引くものと思います」

「それは魔力持ちがいないから、ということか?」

「その通りでございます。魔力持ちの人間を魔女狩りと称して数十年前に殺し尽くしており、表向きは魔力持ちの人間は皆無となっています。そのため誰も呪文を使える者はおらず、もし黒死病鎮圧のために魔力持ちを集めてみたところで、誰も集まる者はいないでしょう。魔力を持っていると分かると黒死病が治まってから、殺されるかも知れませんから」

「辺境伯領において魔力持ちはそこまで嫌われているのか?」

「たぶん、骨の髄まで、ということだと」

「そうか。それなら辺境伯領ではどうやって黒死病を鎮圧しようとするのであろうか?」

「黒死病の発生した町を封鎖して住民ごと焼くのではないでしょうか?」

「それしかないのか?」

「ないでしょう」

 えらくゲロい話がされている。もしあの領都で黒死病が発生したなら、領都丸ごとシャットダウンして焼くっていうのか?この世界では祈祷とかおまじないとか、お札(あるのかしら?)が一般的なのかも知れない。治療の呪文を使うってのも結構なお金取るんだろうし、祈祷の方が安いんだろう(推定)。


「もしやするとシュミハリ辺境伯より、大公様に黒死病制圧のため助けを求めてくるやも知れません」

「黒死病制圧のため?攻め込んでおいて、どんな顔をして言ってくるというのだ?」

「そうです」

「もし来たならば断る。当然であろう?」

「当然でしょう。しかし、アレクサ様ご家族の身柄の引き渡しが条件となればどうでしょう?」

 あーそういうのと引き換えになるのか。ユィモァの父親が帰ってくると?果たしてどうかなぁ?ユィモァも会いたいのかなぁ?


「アレクサは生きているのか?」

「たぶん、と申し上げておきましょう。噂では王都に連れて行かれ、国王に面会した後、どこかで幽閉されていると言われております。人質は生かしておいてこそ、役に立ちます。いついかなる所で役に立つかわかりませんから。

 辺境伯が公爵領を占領したとき、直轄領にするかアレクサ公爵の息子を立て、大公国として名目上の独立国にしようと考えていたという話もありますから」

「まさか?それはあり得ないだろう?」

「それがあり得ます。名目でもアレクサ公爵の息子であれば辺境伯の手を離れていると強弁することもできますから。ただ大公国の執政に次男のマキシムを当て、宰相にリューブ卿を当てることも考えたと言われておりますよ。

 しかし、早々にリューブ卿が倒れてしまい、マキシムが失敗をやらかしましたから、それは実現しませんでしたが。ルーシ国王にはその選択肢も提言するつもりだったようですよ」

「それは……実現しなくて良かった。弟の息子を担ぎ上げられたなら、ヤロスラフ王国としても対応が難しい。」

「そうでしょう。ごもっともです。もしかしたら援助の要請については、大公様の頭越しにヤロスラフ国王直接に話が持ち込まれるかも知れません。くれぐれもご注意くださいませ」

 大公様はハッとした顔をされたが、

「わかった。気をつけよう。話は戻るが、ではゴダイ帝国のヤロスラフ王国への侵攻の意欲はどうなのだ?」

「正直言って、しばらくは大丈夫かと思います」

「ほう、それはなぜ?」

「それは私がここにいることも関係しております。一つは帝国の後継者争いでございます」

「皇太子と第2王子か?」

「その通りでございます。今までは皇帝陛下がお元気で、帝国の中心として手腕を振るわれていました。しかし高齢でだんだんとお身体が弱ってきております。

そこで皇太子が皇帝陛下の代わりに政務を担うということになるのですが、これが問題となっております。皇太子という後継者として決められた方がいらっしゃるのになぜ第2王子が後継者候補として上がるのか?大公様も1度皇太子と会っておられるので、そのわけはご理解いただけるでしょう?」

「ふむ、......多少は」

「それが臣下を巻き込んで大きな問題となっております。皇太子は養育者の宰相が後ろ楯となって次期皇帝として歩んでおりますが、その性格ゆえ人の好悪が激しく、かく言う私も嫌われております。それゆえ、ここにおります」

「シュタインメッツも皇太子から遠ざけられたと?」

「その通りでございます。皇帝陛下の側近と言われた方々は、中央からほとんどいなくなりました。その代わり皇太子のお気に入りが登用され、政治に関与するようになっております。私も皇太子に煙たがられ、参謀本部の本部長という役職ながら最近はまったくのお飾りになっておりました。そのため実務からは外れて機密事項を知ることはなくなりました。そして私の部下が私の代わりに皇太子に重用されてきたので、私の居場所はなくなったと言う訳です。そのまま死ぬまで閑席に座っているだろうか、と思っていましたが、第2王子派から私を使い大公様に伝手を持とうとする動きがあり、ここに参りました」

「そうか、だとしたらシュタインメッツが連れてきた者たちはどうなのだ?」

「この者たちは第2王子派の者たちばかりです。私の監視役でもあり、第2王子との連絡役でもあります」

「うむ、易々と信用するわけにはいかないが、話の筋道は通っている。今は信用しておこう」

「ありがとうございます」

「あと他に外に侵攻しない理由があるのか?」

「はい財政上の問題です。当然ですが、チェルニに軍を派遣し、長期間滞在していたので、その費用たるや莫大な物で帝国の財政を圧迫しています。彼らの多くも帝国に戻れば労働者ですので、農業、工業の生産が停滞しておりしばらく外征は無理でしょう。元々、帝国は軍事主体の国家であるためヤロスラフ王国に比べ税が重うございます。これ以上の増税は国民が破綻する可能性があります。まともな為政者なら当面外征は行わないと考えます」

「まともな為政者なら?」

「そうです。まともな為政者なら、です」

「分かった」

 大公様の言葉に、シュタインメッツ様が頭を下げた。


「大公様、私の方から一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 シュタインメッツ様の方が口を開いた。

「良い。何であろう?」

「ハルキフから辺境伯領都に行く道路を作っているのをご存じでしょうか?」

「ああ、ハルキフからドニブロ川に橋を架けていると聞いていたが完成したのか?」

「間もなく完成する見込みです。ハルキフに滞在中、見に行っておりました」

「そうか。それは便利になるな」

「それで、もし今後、帝国が辺境伯領に攻め込むとして、大公様に援軍を出すよう頼んで来たとしたら、どうされますか?」

「うぅ......そんなことがあるのか?」

「先の皇太子との戦いでハルキフの帝国軍から僅かですが、大公様に援軍が出ておりました。それを考えると、お断りになられますか?」

「援軍を送ってもらった手前......断れないであろう」

「そうでございますよね。その場合、たぶん領都に着くのは帝国軍の方が早いかと思います。そうなると辺境伯領は帝国のものになるでしょう」

「しかし、辺境伯領に帝国が攻め込むとルーシ王国は黙っていないだろう?」

「それがルーシ王国は黙認する可能性がございます」

「なぜだ?そんなことはあるまい?」

「ゴダイ帝国とルーシ王国は、ラトガ湖の北方で今も国境を挟んで戦闘が続いております。ゴダイ帝国の優勢で推移しておりますが、このままルーシ王国領内にゴダイ帝国軍が攻め込むこともあるかと思います」

「本当か?」

「もちろん真実でございます」

「しかし、それが辺境伯領の侵攻とどう関わる?」

「戦闘終了の落としどころの一つでございます。ルーシ王国としてどこかで手を打ちたいと考えます。ルーシ王国としては元の国境の状態に戻したいと考え、その代わりにゴダイ帝国に何か渡す必要が生じます」

「それが辺境伯領への帝国の侵攻を黙認するということか?」

「そうです。ルーシ王国と辺境伯領では民族が異なります。ですからルーシ王国の世論としては辺境伯領がゴダイ帝国のモノになろうと、ルーシ王国とゴダイ帝国の講和が図られ、不戦条約もしくは不可侵条約が結ばれれば良いと考えるでしょう」

「そんな都合良く行くのか?」

「もちろん何もせずにそのようになるわけがございません」

「と言うと?」

「ルーシ王国の貴族たちにゴダイ帝国からいろいろな餌を与えます。なに、貴族はみな贅沢に生きておりますので、たいていの貴族は餌に食いつきます。要するに自分さえ安全で今まで通り生活ができれば、多少他の貴族が苦しもうと困りはしないのです」

「大変な話だな」

「そうです。そうなるとヤロスラフ王国は北と東がゴダイ帝国領と接することになります。北と東から同時に攻め込まれて、ヤロスラフ王国は保つでしょうか?」

「無理であろうな」

「ゴダイ帝国からすると、辺境伯領が手に入るというのは大きいのです。一つは、ヤロスラフ王国に侵攻したとき辺境伯が邪魔をしないということ。もう一つは辺境伯領の大穀倉地帯が手に入ること。帝国にとっては後の方の食糧事情が改善される方が大きいと思いますが」


 外野から「なんの国民が命がけで戦えばきっと勝つ!!」などという精神論が聞こえてきたけど、そりゃあ負け惜しみのようなものでしょう。誰が考えても負けるわな。オレでも分かるわ(^_^;)。

「それならば、辺境伯と大公様が過去のこだわりを捨て、友好関係を持つことが必要と思われませんか?」

「確かにその通りだ。しかし、こちらから頭を下げることもあるまい?」

「いえ、私が思うに、今こそ大公様より手を差し伸べるべきかと?」

 大公様はいたって冷静そうに見えるけど、外野がエキサイトしてきた。なぜそんなことをしないといけないのだ、とか、辺境伯なんぞ向こうから頭を下げてくるのが当たり前、とか。要はメンツの問題らしい。どっちが先に頭を下げるか、メンツが立つか立たないかということでしょうね。面倒臭さ――――!!


「近い将来、帝国で皇太子が皇帝になれば必ずヤロスラフ王国に攻めて来ます。どう戦われるおつもりですか?」

「......」

「本来、そのようなことを考えるのは国王であったり皇太子であったりするはずですが、お二人は考えそうにないでしょう?この国でそれを懸念されているのは大公様だけではありませんか?」

「......」

 そんなこと考える人って誰もいないでしょ?あ、1人いた、ヒューイ様、この人なら考えていそうだね。


「もし、大公様が私を信用して頂けるなら、参謀本部を作り対ゴダイ帝国戦の計画を立てましょう。いかがでしょうか?」

 なるほどーーー!!回り回って、シュタインメッツ様はご自分の売り込みをしたんですね。確かに、この人しか適任者はいないわぁ!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ