餓死寸前だった一家に再会する
翌朝、すがすがしい気分でギーブの街を後にした。夕べ、リヨンさんは......酔い潰れてしまったので、肝心なことは何も話していない。今はブラウンさんのところで真面目に勉強しているんだから(たぶん)、オレが何か口を出す必要はないと思うし。ヨハネも用は済んだ、という顔つきで何も言って来ないからオレから言うこともないし。
ハルキフに向かう道は、ブカヒンからギーブに繋がる道ほど交通量は多くない。それでも前に通ったときに比べて、明らかにハルキフから来る馬車が多くなっている。
途中1泊を挟んで、あの家に着いた。そう、死にそうな病人を2人抱えていたお母さんと子どものいた家である。どうしようか迷ったけど、やっぱり通りかかった以上は、様子を見ずに通り過ぎるわけにはいかない。
その家の周りには宿屋ができているのが見えた。それも3軒。やはり交通量が増えるにつれて、宿屋を出そうと思う者がいたのだろう。
宿屋に泊まった方がいいだろうと思いチェックインした後、一応あの家に顔を出した。
「こんばんは、久しぶりだが?」
と家の中に顔を出すと、あのお母さんとダンナ、子どもがいた。オレが誰か、すぐに分かったようで(やっぱり特徴的だから、黒目黒髪平たい顔)、
「あのときの貴族様!!あのときはありがとうございました!!」
とお母さんが駆け寄ってきた。後ろからダンナが「誰だっけ?」というような顔をしているけど歩いてくる。お母さんが「ほら、あんたを治してくれた方だよ!忘れたのかい?アンタと姉さんが寝込んだとき診てもらった貴族様だよぉ!!命の恩人だよ、ほら、お礼を申し上げて、ほら!!」
ダンナの背中をバンバンと叩きながらオレの前に出してきた。あのお母さんはこんな感じだったっけ?えらく元気になった気がする。声に活力がこもってるなぁ。
ダンナがやっと合点いったようで、
「あのときの貴族様でございますか、どうもありがとうございます。おかげさまで、あれからしばらくしてベッドから出て働けるようになりました。置いていって頂いた食料で食いつなぐことができました。本当に命の恩人と言っても言い過ぎではありません。ありがとうございました」
と言い頭を下げた。それに合わせてお母さんと子どもたちも頭を下げた。前にここに来たときは、全員骨と皮状態で、もう1週間もすれば餓死したんじゃないかと思うくらいの外見だったけど、今はそこそこ肉がのっている。良かったね、本当に。
「あのときのお姉さんはどうした?」
「姉はあの後、死にました」
「そうか、それは残念なことをしたな」
「いえ、貴族様に診ていただき楽になったようです。次の次の朝に眠るように死んでおりました」
「そうだったのか。診たときはもう危ういと思っていたが、やっぱりそうだったか」
ダンナが、
「いろいろとありがとうございました。ワシの方はあれから元気に働いております。どれだけお礼を申し上げても足りません」
「いやいいよ。誰か具合の悪い者がいれば診るけど、どうかな?」
「ありがとうございます。今はみんな元気でやっております。あの、今日は隣の宿屋にお泊まりで?」
「そうだ」
「そうですか。ワシどももみんな宿屋で働いております。またお見かけすることもあろうと思いますが、よろしくお願いいたします」
何をよろしくお願いされるのだろう?と思いつつ、宿屋に戻る。感謝されて、あの家に泊まれと言われても困るし、返してくれて良かったよ。ん、ヨハネがちょっと思案顔。どうした?
「マモル様、さっきの話を聞くと前にここに来られたことがあり、あの一家を診られたようですが?」
「そうだよ、オレグと一緒にハルキフからギーブに行く途中にここで1泊したんだ。そのとき、あの一家のダンナとその姉さんを診た」
「やはりそうですか。それだけですか?何か施しを置いていかれませんでしたか?」
「よく分かるね。当面の食糧を置いていった」
「とすると、あの母親が夜にマモル様の所に参ったでしょう?」
「そうだよ、それも分かる?すごいね」
「いえ、それくらいのことは容易に想像つきますから。となれば、今夜もあの母親がマモル様の所に参ります」
「え、そうなの?来なくてもいいのに」
「そういうわけにはいきません。マモル様が顔を見せた、ということは今夜来い、と言うに等しいことでしょう。気の回る者なら必ず参ります。もし来たら、断ってはいけませんよ?よろしいですね」
「断っては、いけない、と?」
「はい、そうです。一般常識として、いかなる理由があろうと、女が男のところに訪れてきているのに、はねのけるのはよくありません。受け止めてやってくださいませ」
「そんな重大なことなのか?」
「はい、それで丸く収まりますから。今後も似たようなことがあろうかと思いますが、くれぐれもご注意をなさってください」
「そうなんですか、分かりました」
返事したものの、さっきの家の中に何もなかったなぁ?と思い出した。
食事も済み風呂もないので、そろそろ寝たいなぁーと思っているとき、部屋の外に人が来た。ヨハネの予想通りのことが起きたということ。ドアがノックされ、ドアを開けるとあのお母さんが立っていた。
「貴族様、いろいろとして頂きありがとうございました。あのとき、抱いていただきましたが、して頂いた分にはとても足りておらず、今晩も抱いてくださいませ。お返しにはほど遠いですが、わたしらにはこれくらいしかできることがございませんので、申し訳ありません」
最後の方は、懇願に近い感じで涙が混じっているような気もしたけど、ここは受け取らなくちゃ済まないのは良く分かったので、部屋に入れた。
「よろしくお願いいたします」
とお母さんが抱きついてきた。あれ?お母さんの顎を指で上げる。お母さんはキスを求められたと思ったのだろう、目を閉じくちびるを出してきた。クンクンクンとお母さんの息を嗅ぐ。これって病人臭じゃないか?なんの病気かは分からないけど、どこか悪いような気がする。
オレがキスしてこないので待ちくたびれたのか、お母さんが目を開けた。不思議そうな顔で、
「どうかされましたか?やっぱり、わたしのような女は......」
と言うから、
「そうじゃないから。一度、オレの顔に息を吹きかけてくれないか?」
「はい?」
「オレの顔にふぅーと息を掛けてくれ」
「はぁ、分かりました。ふぅぅぅぅー」
やっぱり病人臭がしている、と思う。どこが悪いなんてことは分からない。けど、ありそうな気がする。
「何かありましたか?」
不安そうに聞いてくるお母さん。
「このベッドに横になってくれるか?」
と言ったら服を脱ぎ、下着も脱いでベッドに横になってくれた。ありがたや、まあいいや。でもやっぱり痩せてるなぁ。服を着ているとごまかされているけど、前の骨と皮というより幾分肉が付いた、というくらいだ。
「どこか、具合の悪い所ってないの?」
と聞きながらおっぱいを触る。何をするの?って不審がられてるよな。あちこち触ってしこりがないか調べ、おなかを押さえて固く感じるところがないか調べる。本職でないのではっきり分からないけど、右胸の下の方を押さえると「ウッ!?」と反応があった。
確かにそこに魔力を当ててみると、何か塊があるような気がする。
「ここが痛くない?」
「今、押さえられたら痛かったです」
なんか医者と患者みたいな会話だなぁ?と思いつつ、オレはニセ医者なんだけどと思いながら。
その塊みたいのに向けて、
『Cure』
と魔力を注ぐ。「あっ!」と声が上がった。けど、その後の反応がないので、
「どう?何か違った?」
「分かりません。あ、押さえられるとまだ痛いです」
「そう?じゃあもう一度。『Cure』悪いけど、オレはこれしか知らないんだよ、ゴメンね」
「そんな、謝っていただくことなんてありません。こんなことしていただいて、何もお返しできないのに……あっっ、でもだいぶ痛みは弱くなりました」
ふむ、効いているようだ。もう一度、
「『Cure』どうかな?」
「押されても痛くありません。お気遣いありがとうございます」
「押して痛いからって、病気って限らないけどね。でも、さっき息を嗅いだら病気持ってるように感じたから、やっとくに越したことないかなぁ、と思ったんだ。これは病気じゃないかも知れないから、お代はいらないからね」
「ほんとにありがとうございます」
とお母さんに言われたとき、ハタと気が付いた。スッポンポンの裸のお母さんをベッドに寝かせて、手であちこち触ったり、押したり撫でたりしている。病気の治療というのといわゆる愛撫ってのは、見た目はほとんど違いがないってこと。気のせいか、お母さんは最初は気をつけの姿勢で足を閉じていたけど、今は少し広げています。侵入OKに自然となってますが。
「申し訳ございません、わたしにはこれくらいしかできなくて......」
お母さん、オレのズボンを下げて孝行息子を外に出してくれ、そのままパクッと咥えてくれました。実はずっと貯まっていたんですよ、ポツン村を出てからずっと。暴発寸前だったんです、えへへへ。




