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福音派のみなさんとおよばれする

「ところで......」

 とオレが言ったら以心伝心というごとく、

「リヨンのことでございますか?」

 と長老から聞き返された。

「よく分かりますね」

「ええ、いろいろとご迷惑をお掛けしているようで......」

「実はそうで。ちょっと対応に困っていて......」

「そうでございますか。それはそのう、大変申し訳ございません」

「でも、長老はリヨンさんのことを知っておられる?」

「はい、今は多くの者が知っております。実はタチバナ様がギーブからおられなくなってから、しばらく経ってリヨンが見たことのない食べ物を1人で食べているのを目撃されまして......」

「あーーーー」

「それで問い詰めたところ、タチバナ様から頂いたと白状しまして」

「あーーーー」

「私どもでは見たこともないようなモノを食べておりました。それに食料事情が悪いギーブの中で1人で食料を独占して食べ、しかもその食料が非常に高価であろうと思われるものであったので、とことん聞きました」

「ということは、オレの嫁になっても、という話も?」

「はい、それは申し訳なく、まことに申し訳ない、としか言いようがございません」

「でもよく見つけましたね、食べている所」

「それが、リヨンは割とガサツな性格でして、煮炊きしているところを見つかってしまったのでございます。本人は隠れてやっているつもりだったと思いますが、煙が上がれば何をやっているのだろうと気づく者もおりますし」

「そりゃあ、そうですよね」

「ええ、たかだか17の娘のすることと思い許してやってくださいませ」

 もう一度、長老が頭を下げる。リヨンさん、あなた中身は30過ぎてるんでしょ?それなのに長老に何度も頭を下げさせて、アンタはそれでいいのかい?って思うよ。


 居住地の奥には集会場らしき建物があり、たぶん福音派のほとんどの人が集まっていた。ただしリヨンさんはいない。

「リヨンさんはどうしたの?」

「今日はブラウン先生のところに教わりに行っております」

「と言うことは医学のこと?」

「はい、そうです。リヨンを待っていても遅くなるばかりですので、我々は黒死病の時、我々を救って頂いたタチバナ様に対し感謝の気持ちをお伝えする祈念式を行いたいと思います」

「ほう、それは、どうもありがとうございます」

 そんな大げさな、と思ったけどやってくれるというのを断るのも失礼だし。


「こちらにお座りください」

 と真ん中の席に誘導された。奥から食事が運ばれてくる。正直言って、とても豪華と言えず貧しい内容だ。まだまだ食糧も行き渡っているとは言いがたい状況で、オレが訪れるってことで精一杯準備してくれていたのか。黒死病が流行らなくとも慎ましい生活をしていたと聞くし、今ならもっと厳しい状況だろうに、オレが来るってことで準備してもらえたんだろう。申し訳ないっていう気持ちになった。


 そのとき、ヨハネがポケットから大銅貨数十数枚と銅貨を多数出して、オレの前に置いた。ヨハネはひざまずき、

「マモル様、このお金でマモル様がお持ちの食料を出しては頂けないでしょうか?この金は、私がギーブに行くと聞いたポツン村の福音派の仲間が、何かギーブの福音派の同朋に対して援助したいと言い、私に持たせてくれた物です。

 私は魔法のカバンを持っておりませんので、このようにお願いするしかございません。なにとぞ、この居住地の同朋たちに食料を売ってやってくださいませ。わずかばかりの金でマモル様から見られれば、呆れるような話でしょうが、なにとぞよろしくお願い致します」


 あれ?ヨハネはさっきオレが屋台でお土産に食べ物買ってたの、見てたでしょ?それとは別に何かを売ってくれって言うの?ポツン村の信者だって、すっごい切り詰めた生活してなかったっけ?贅沢なんて何もしてなくて、あれってこういう時のためにわずかばかりの給料を貯めていたの?なんか、胸が熱くなるなぁ。ちょっと上を見上げたくなる。


「マモル様、ぜひこの金は受け取って頂きたいのです。もしかすると、マモル様はこのような、わずかな金は受け取らなくていい、ただでやるとおっしゃるかも知れません。しかし、我々は施しを受けることはできないのです。対価を払うことができる状態ですので、是非受け取って頂きたいのです。それこそ、何一つお渡しするものがないのであれば、施しを頂きます。しかし今は、このようにお渡しするものがございます。

 何とぞ、よろしくお願いいたします」

 と言い、再度頭を下げてきた。これはもう受け取るしかないよな。


「ありがとう、受け取るよ。ヨハネ、ありがとう」

 思わずヨハネの手を取って握ってしまった。目が熱いよ。


「さて、それなら食べ物出すから」

 そう宣言して、最初に近くの屋台で買い込んだ食料を出す。

「これはお土産だから。さっきのお金とは別ね」

「わぁ~~!?」

 子どもたちが素直な歓声を上げてくれる。こういう反応があると嬉しいなぁ。でも、あんまりオレが食べ物をドンドン出すと、せっかく用意してもらった料理が霞んじゃうよね。

「あんまり出しても、余っちゃうかも知れないし、後は食材を出して行くけどいいかな?」

 長老の顔を見ると、

「ありがとうございます。私らは何でも結構でございます」

 と言うので、部屋の壁に小麦、大麦、砂糖、胡椒と並べていく。さっきもらった金額の10倍以上出したけど、まぁいいよ。ヨハネへの気持ちだから。


 あと最後におまけ!!

「これはヨハネたちが作ったビールだ!!」

 ドンと樽ごと出す。

「なんと......」

 樽がオレのポケットから出て来たことに驚かれてしまった。


「ヨハネたちが作ったビールだから、よーく味わってくださいね!!」

 照れてるヨハネは置いといて(オヤジが照れるという景色は正直キツいが)樽から汲んでもらおうとしたら長老が、

「タチバナ様、その前にキーエフ様に感謝を致します」

 と言い、この場にいる者が一斉に頭を下げ、何かをブツブツ言い始めた。確か、聖句?を唱えている?


 しばらくして長老は晴れやかな顔で、

「タチバナ様、感謝いたします。ありがとうございます」

 と言い、食事会が始まった。ポツン村ビールは至って好評で安心した。福音派のみなさんって、大勢でも酔っ払って大声上げたりしないんだね。和気あいあいという雰囲気で食事をするんだ。


 宴たけなわというとき、

「ただいま戻りました」

 という聞いたことある声がした。入り口から少女がすすすーと長老の前に来て、挨拶しようとしたとき、ふとオレの方を見て、

「あーーーーーーー!!!!????」

 人を指差し、大声を上げる。キミ、気持ちは分かるけど、絶叫してはいけないよ。

「ま、ま、マモル、タチバナさまぁぁ~~~!?」

 キミ、お客様に対してその態度はなんだね?敬う気持ちってのはないのかね?という思いが周りに伝わったようで、長老が一喝した。

「リヨン!!何度言ったら分かるんだ!!あれほど言ったであろう、タチバナ様に対してその態度!!不敬にもほどがある、謝罪しなさい!!」

 周りからもギャンギャン言われている。ちょっと気の毒かなー?と思っていたらヨハネが、

「その通りです。リヨン様、平民のあなたが男爵のタチバナ様に対しその態度。斬り捨てられたとしても文句の言えることではありません。(ヨハネはオレに向き直り)タチバナ男爵様、どうかこの娘の命をお助けくださいませ。二度とこのようなぶしつけな態度は取らせません。どうぞ、お目こぼしをお願い致します」

 と言い頭を下げると、場のみんなが頭を下げる。その中で、オレとリヨンさんだけが立っている状況。リヨンさんもハッとして頭を下げた。


「許します」

 と言ったことで、みんなの頭が上がる。リヨンさんはちょっと気まずそうな顔をしている。ほら、後ろの方にいるオレとリヨンさんの関係知らない人は、明らかにホッとしているよ。

「リヨンさん、ポツン村のビールを持って来たので、呑んで見てください」

 と言って、カップのビールを渡す。これが透明ガラスだったら良いんだけどねぇ。

 一口、口に含んで、

「美味しい、何これ!?」

 と言ってゴクゴクゴクとジョッキを一気に飲み干した。腰に手を当て仁王立ちで。

「あーーーーー旨い!!」

 ってリヨンさん、どこぞのおっさんですがな。

「お代わり!!」

 とコップを突き出してくる。

「リヨン!!」

 長老からツッコミが入りましたよ。おかわりを継ぐと一気に呑んで、また継ぐと一気呑み。

「プアーーーーーッ!!」

 リヨンさん、もろおっさん。この人、日本にいるときはおっさんだったんじゃないかと思うけど?

「みなさん、もう無礼講で良いですから。それから、リヨンさん、魚の干物持ってるけど食べる?」

「食べる!!」

 と即答!!


 魚の干物は臭いので、外に出て2人で食べました。そしてリヨンさんは飲み過ぎで、潰れてしまいました。久々のビールであっという間に酔いが回ったようです。


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