大公様に呼ばれる
あの村から送られてくるコーヒー豆の品質が悪い!
最初から、そんな上手く行くはずがないだろう、過大な期待はしないと思っていたが、思った以上に悪い。
1回目に送られて来たのは半分くらいがコーヒー豆だったが、いまや3分の1くらいしかコーヒーの豆が入っていない。おまけにそのコーヒー豆の品質が良くない。ろくに成熟していないのを無理矢理叩き落として集めたって感じもモノも混じっている。量を出しとけば問題ないでしょう、って感じのもの。昔、海の向こう側にある大国のローカルメーカーに発注するとこんなことが良くあったんだよなぁ。見た目がおんなじなら、材質は何でできていても分からないでしょ?ってヤツ。使ってみたら寿命が全然違うっていう子どもだましが普通に起きる。ちょっと前まで、下水溝に浮いてる油を集めてきて、それを濾して食用油です!って売ることをしてた国柄だし。まったく、ああいうのが思い浮かぶよ、はぁ。
これは1度、指導に行ってガツンと言わなければいけないだろうと思っていたら、またイズ公爵様、いやイズ大公様からお呼び出しがかかってしまった。オレに村長の仕事をするな、ということだろうか?新しい畑の開墾という重要な仕事なんだが。麦畑の開墾はなかなか進まないのだが。
ちなみに村の運営はサラ村長代理にオレグ、リーナ、ロビンという優秀なスタッフに最近加わったジンジャーという見習いがなかなか有望で、オレが口出すよりよほど円滑に進めてくれている。そのため、オレはひたすら肉体労働にいそしむという羽目に陥っている。開墾が別にイヤというわけではないのだが。しかし、畑を開墾し、その周りに獣の侵入を阻止するための濠を掘るという、永遠に近い作業を続けている。
毎日、土と向き合い、畑を耕し、作物の生育を見ていると、もうそろそろ村の外に出たいなぁ、という気持ちが湧いて出るのは仕方ないと思う。であるから、内心、大公様の招集は嬉しかった。
さて従者を誰にするか?というのは難しい。事務系の男たちは村の経営の柱になりつつある。であるから、大公様のところに行って、ずっと戻ってこないなんてことになると、サラさんが困るだけなので、生産性のない武力系の男たちを連れていくしかないということになる。となるとバゥかミコラという選択肢しかない。でもなぁ、こいつら皇太子との戦闘で体験した女遊びを、村の祭りで酔った勢いで盛って話しやがって、後で奥さん連中にえらい目にあってるんだよなぁ。それに一度病気もらったヤツもいるし。
この2人はオレの従者でどこか行くと聞くと、夜のチャレンジが必ずあると思っていやがるし、かと言って行かせないと、行きたいと散歩をねだる犬のような目で訴えてくるし、どうしたもんだろうと思う。
他に誰かないかなぁ?と思っていたところに、ビール製造の経過報告に来たヨハネが目に付いた。ヨハネはいいよな、口が固いし、何か珍しいものを見てもイチイチ騒がないし、常識もある。ヨハネがいいよな、決めた。大公様の所に行くことはバゥとミコラには黙っておこう。そうしないとブヒブヒ文句を言うだろうし。
イズ大公様はまだギーブにいらっしゃるということで、馬に乗ってギーブに向かう。もちろんヨハネは歩き。それでも馬車よりはよほど早い。倍くらいのスピードが出ている。時速6~8㎞は出ているんじゃないのか?馬車は空だと時速4㎞は出るけど、荷物を積んでいると人の歩くより遅くなる。馬の数と荷物の兼ね合いだけど、とにかく馬に乗って移動すると早い。人目がなければ、馬に乗らずヨハネと一緒に走るんだけどな。村から村の距離が40~50㎞ほどだと思うので、走れば1日で3村ぶんくらいは距離を稼げる。
そんなこんなで、ポツン村を出た翌々日にはコーヒー村に着いた。この村のことはヨハネも覚えていて、村の復興ぶりに驚いている。村長の息子のドンガを呼び出して、コーヒー品質について、もう1度刷り込みを行った。
豆の採集現場を見ると、ドンガがろくに指導もせず、とにかくそれらしいのを集めて来いといってるだけで、集めた豆を選別もせず袋詰めしている。なんちゅうか、集めればいいってもんじゃないんだよ、ドンガくん!!
ドンガを叱っていたら、ドンガのカミさんらしき女の人が出て来て一緒に謝り始めた。彼女の言うには「ドンガは村長の息子っていうだけで、細かな仕事ってできないんです。なんでも人任せにしているから自分でできないんです。これからアタシが面倒見ますので許してください」と言うし、ドンガに対する見方がオレと同じようなので、カミさんに任せることにする。
こいつもカミさんにケツを叩いてもらわないとだめなんだろうな。
夜になると、オレはもう身分がバレているので、村の端っこにテントを張って、なんてことができるはずもなく、前に泊められた家に泊められた。そして夕ご飯を提供された。その食事を持って来てくれたのが、あのたゆんたゆんとしたお母さん。それも、今回も胸の奥が見えそうな、大きく開いた服を着ていらっしゃる。胸もたゆんたゆんとされていますが、お腹もたゆんとされていますね。
お母さんのインパクトがありすぎて、後に娘がついてきているのが見えなかった。
「ごくろうさま、お母さんを手伝ってえらいね~~これはお小遣いだよ」
と女の子に銅貨1枚握らせる。お母さんが、片目を大きく開けて見せてニンマリ笑い、
「もしや男爵様、これは今晩来いということでしょうか♡」
おい、なぜ、そういう解釈になる?
「いや、違うよ。どうしてそういう風に受け取るんだよ?」
「はぁ?ということは娘の方ですか?もしかしたら、男爵様が娘で、私はお付きの方のお相手でしょうか?」
なぜ、そうなる?あんたから見て男っていう者は、とにかく女を抱きたい動物か?女と見ればみさかいなく、猛るものなのか?おれは遠慮するけど、一応ヨハネにも聞いてみようか。
「ヨハネはどうする?オレはいいけど」
「私は遠慮いたします。確認ですが、マモル様の「いいけど」というのは、この方の娘さんなら良いとうことなのでしょうか?」
「あ、違う。いらないってこと、女いなくていいから、呼ばないから」
「マモル様、私のことでしたらお気になさらずに、他の女でも呼ばれてはどうですか?私は奥さま方に喋ることはございませんよ?」
ヨハネはオレという人間をどういう風に見ているんだ?下半身に人格がないと思っていないか?
「ヨハネ、別にオレはいいんだ。そんな女が欲しいわけじゃないから」
ヨハネは半信半疑という感じだけど、お母さんの方は極めて残念そうで、未練たっぷりで下がっていった。
「もし、ご入り用でしたらいつでもおっしゃってくださいね♡」
と言い残して。
2人が家を出て行ったら、外で村長がお母さんに、
「どうだ、来いって言われたか?」
と尋ねている声がする。
「いいえ、いらないそうです」
「そうか、前は奥さまがいらっしゃったから、お前のことをいらないと言われたのかと思ったのだが、違ったのだろうか?女が嫌いなわけじゃなかろうが、どうしたもんだろうの?」
「そうですよね、アタシなら男は百発百中のはずなんですけど。おかしいですねぇ」
という会話が聞こえてきた。百発百中ですと?確かに顔は愛嬌あるけどなぁ、あの脱いだらすごいボディが、たぶん脱いだらブリンブリンブリンとしたのが隠れているだって。オレは手に余るからいいわぁ。あっと、必要ありませんから。




