村の周りで薬草を捜す
村の周りは1人で大丈夫かと思ったけど、ジンは付いてくるというので一緒に村を出る。
大学の時、選択教養科目で「薬になる雑草」だったか「漢方薬の原料になる草木」だったか、講師の女性が美魔女さんだと言われていたので趣味で取ったけど、それがこんなところで役に立つとは。でも内容はほとんど覚えていないのが、残念だけど。
ジンと二人でテクテク歩いていると、すぐにドクダミがある。ほら、たくさんあるよ。ドクダミなんて、捜せばどこにでもある植物だもんな。
「ジン、これがドクダミという草で、乾燥して煎じて飲めば、胃腸の調子を整えたり、鼻詰まりを直したりする」
「なんだ、こりゃ。こんなの、どこにでもある臭いだけの草じゃないか?」
臭い草、ってアンタがそれを言うか?
「まぁ、マモルが言うから間違いないだろ、集めて行くわ」
「うん、集めて行こう」
血止め草ないかな?これが一番必要としていると思うんだ。後は、ジンの罰ゲーム用センブリだわ。
お、こんなことろにゲンノショウコある。やっぱ、そういう目で見れば、薬草ってたくさん、あるんだな。
「ジン、これはゲンノショウコって言って、下痢止めなんだ。これも干して煎じて飲めばいいぞ。軽い下痢なら効果あるはずだ」
「下痢止めか、それは本当に助かる。下痢は多いんだ。ひどいときは、下痢から死んでしまうこともあるしな」
赤痢だって、コレラだって、みんな腹を下したように見えるだろうし、腹を下すというのは、現象としては単純だけど、原因はたくさんあるんだろうし。そんなのにはもちろん、ゲンノショウコは効かないけど。
「そうか、よく覚えておいてくれ。おっと、根っこまで取らなくていいから。根っこを残しておくと、次に生えてくるのが早くなるんだ。草というか、野菜なんかも(ここで草と野菜の区別があるのかどうか知らないが)、根っこを食べるものは別として、根っこを残しておくと、次に早く収穫できるから注意してくれ。これは、どれだけあっても足りるということはないと思う。ここで生活していると、飲み水とか衛生面がひどいから、下痢をしないのが不思議なくらいだからな」
「そうか?オレはそんなに悪いことはないと思うがな、そうかな?オレの思うに領都にいたときより、少し悪いくらいだがな......オレは長く住んでるから分からなくなっているのかもしれん。後で何が悪いのか教えてくれ」
環境が人を作るんですね。
「ああ、いいよ」
おぉ、こんなところにまたゲンノショウコがある!
「ジン、ゲンノショウコがこれだけ群生しているなら、後で教えるけど煎じて飲めばいいぞ。これを飲み過ぎて具合が悪くなることもないはずだから、水の代わりに飲めばいい。水も本当は生水を飲まず、一回沸かした水を飲めばいいんだが。水を一回沸かして飲むというのは、無駄のように思えるだろうな。でも、これを煎じて飲めば無駄なことをしていると思わなくなるから、両方でいいはずだ」
「わかった、やってみよう。それで煎じるっていうのは何だ?」
そうですね、そこからでした。
血止め草はないけれど、センブリはありましたがな。特に何に使うあてがあるわけではないですが。血止め草なんて、ほっといてもウジャウジャ生えてきて、むしろ生える地域を限定するのは、どうすればいいかなんて、困ってたくらいなのにな、前の世界では。
森の周りを捜していたが、血止め草がない。他にも効用のある草があるのかも知れないが、オレの知識にないだけで、『遺失知識の復活』とかいうチートスキルがあれば、そこからこの世界にないものをシャンシャン作って無双できるんだろうなぁ、錬金術で雑草をポーションにするとか?でも、昔そういう転移者がいて、悪い結果を招いたんだっけ?まぁ、そんなヤツがいれば、そいつとそいつの周りだけ幸せになるんだろうし、長い長いタイトルの異世界ノベルなんかが実際あったら、転移先の世界のみなさんは迷惑しそうな気がするけど。
この村の、たぶんこの世界の人が死ぬのは当たり前、という常識をなんとかしたいんだけどな。オレがこの村に来て10日ほどなのに、顔も良く知らないけど村人は2人死んでるし、山賊のヤツらは多数死んだ。山賊が死ぬのは仕方ないと思うけど、人が死ぬのが慣れていく、という感覚が進行するのは人としてどうよ、とは思う。
森の周辺での薬草の探索は止めて、草原を捜すことにする。
改めて草原を見ると、見渡す限りの草原で草丈の高い低いはあるけれど、地平線まで草原が続いている。森が草原に伸びていかなかったのは土壌が違って伸びることできなかったのか?何か理由があったのかな?
「ジン、この草原の先には何があるんだ?」
「隣の国があるぞ」
「草原がずっと隣の国まで続いているのか?」
「隣の国の間に川があるんだよ。そこが一応、国境と言われている。オレは行ったことないがな」
「なるほど、川が国境になるというのは、どの世界でも同じなんだな」
「川は毎年のように洪水起きるそうだから、あっちこっちに流れを移動するそうだぞ。婆さまの話じゃ、昔、川が大氾濫を起こして、村の近くまで水が来たこともあったそうだ」
「だから、森が草原の方に伸びていかないのか」
「そうかも知れんな」
「この先は街道の先に宿場が一つあって領軍の駐屯場があるだけだよ。ここから川まで歩いて2日かかると言われているから、その途中でどこかで泊まらないといけないから、宿場があるんだと言われている。草原の真ん中で野宿するなんてことは危ないから、必ず柵で囲まれた、獣が入ってこない場所を用意しておかないと、いけないからな」
「へえ~この先に人は、その他に住んでいいないのか?」
「オレたちの知らないのが住んでるかも知れないが、オレが知ってるのはそこだけだ。そこでは水が出るだけだから、食料や必要なものはみんな領都から運んでいるよ。もし、隣の国が攻めてくるときは、そこが前線基地になるしな。ま、隣の国に行く商人がいないわけじゃないから、そういうのが必要なんだよ。商人たちはがっちり護衛で固めて通るがな。マモルみたいに1人で通ろうとするヤツはいないぞ」
ありゃ、不可抗力というものですがな。
草原の中に入っても仕方ないように思う(根拠はないけど怖いし)ので、草原の縁の方を歩く。足下には森と草原の間にずっと流れている小川がある。こういう所に生えてないかと思ったら、ありました。
「ジン、これだ。これが血止め草だ」
「ほう、これか。やっぱり教えられないと分からないな。これなら、柵の周りにいっぱい生えてるぞ」
「なんだ、そうなのか。オレが気が付かないだけなのか。とにかく、これをよく洗って、揉んだり擦り潰したりして血の出ているところに塗ると小さい傷なら血が止まる。いいか、よく洗ってから使うんだぞ」
「分かったが、本当にこれが効くのかな?信じられんなぁ。マモルに教えてもらったのは、前から見てた草ばかりで、使い方を知らないのばかりだ。もしかしたらオレが知らないだけで、領都の学者様は知ってるのかも知れないけどな。オレも領都にいるとき、もっと勉強しとけば良かったよ」
知ってると言っても、ドクダミやチドメクサなんて厄介な方のカテゴリーに入る雑草だから、微妙なんだけど。
見渡す限りの草原を眺める。
「なあ、ジン。この草原には何が生えているか知ってるか?」
「そりゃ、草じゃねえか。草原に入るなんてオレたちも滅多にないんだぞ。前にマモルを迎えに行ったのだって特別なことだからな。みんな、あんな所まで行ったのは初めてだった。だから、そんなこと考えたこともなかったし」
「そうなのか、稲があるとは思えないけど、小麦とか穀物が生えてないかなぁ」
「小麦は辺境伯領内で収穫されるぞ。小麦はここまで回ってこないがな」
「なんだ、そうなのか?」
「そうさ、ここに小麦を送っても無駄だと思われてるんだよ。こっちに送られてきたヤツの親類が送ってくるくらいだよ。辺境伯領で取れた小麦は金になるから、王都や他の領に売るさ」
この村の存在意義が良く分からないけど、余分な金はかけない村なんだろう。
「もしかしたら、綿の栽培もしているか?」
「ああ、してるぞ。麻もどこかでやっているはずだ。ここの辺境伯領は王国内の有数の農業地帯だから、いろんなものをやってるはずだ。オレは領都で衛兵しかやったことがなかったから、よく知らんがな」
そうか、ここは農業地帯の一角なのか。なら農学部出た、理論ばかりの実地知らずのオレは役に立つのかなぁ。農薬なんてないだろうし、オレが農薬作ることなんてできないし、余り役に立つこと、ないような気がする。窒素肥料が開発できればいいんだけどなぁ。ずっと、ここにいてアンと、たまにノンとミンと暮らすのもいいかしら。あと15年の短い生涯なんだし。
草原の遠くにバッファローの大群が見える。ヤツらはこっちの来ないのかな?バッファローって、最初に会ったのかしら?あれは牛だっけ?牛とバッファローと違うのかな?
「ジン、ずっと向こうに見えるバッファローの大群が見えるか?」
「あぁ、あれか?あれは野牛だろう。なんだ、バッファローというのは?」
そうですか、みんな牛なんですね、確かに牛です。乳牛も肉牛も牛は牛だし、細かく分ける私が変なだけですよね、ジンさんの常識に従うのが一番です。
「あの大群はすごいな。あれだけいれば一年は肉に困らないなぁ」
「じゃ、捕まえれば?」
「そうだな、マモルが100人くらいいれば、捕まえられるかも知れないな。でも、その前に捕まえた野牛を入れておく柵を作らないといけないな。お、野牛の群れの終わりにいる仔牛に狼が襲いかかろうとしてるな」
「そうだな、オレはもう狼はいいよ。肉も大して旨くないから」
「マモルの口は贅沢だな。オレは肉が食べられるだけで幸せだ」
遠目で牛と狼の群れを見て、柵の中に引き返す。さすがにあんな遠くの群れから、オレの所にやって来るヤツはいませんでした。
夕飯も終わって、さぁ寝るだけか?と思うと、なぜかミンが小屋にいた。ドウシテ、アナタハキタノデショウ?
「アン、どうしてミンがここにいるんだ?」
「アタシも知らない。マモルが呼んだのかと思った」
とアンが言うけど、どうも勝手に来たのか?
「いいや、何も言ってないし、オレはミンに用はないのだけど」
アンが怪訝な顔をしてミンに尋ねる。
「ミン、どうしたの?ノンには言ってあるの?ここに何しに来たの?」
まさか、オレとアンのいたすところを見に来た?
「マモルのお話を聞きにきた」
とミンがおっしゃる。
「え、あれは昨日だけだったんだぞ」
アンの目が???となる。
「マモル、お話って何?」
そりゃ、不思議に思いますよね。と、いうときノンがやってきた。
「ミン、捜したんだから。1人で小屋を出ていったらダメだと言ったでしょ。心配したんだからね!!」
うん、やっぱりノンはアンより語彙が多いよね。
「だって、マモルのお話、聞きたかったもん」
とミンは言うけれどノンが止める。
「あれは、昨日だけだからって言ったでしょ。今日からアンがマモルの所に戻ってきたから、アタシとミンは自分たちの小屋に戻るの」
「でも聞きたい」
よくあるパターンですよね。一揉めして、ノンがミンをなだめすかして、でもグズグズ言ってるミンを抱えてノンが自分の小屋に戻る絵面が見えたのですが、アンが割り込んできた。
「お話って何?アタシも聞きたい」
アンさん、あなたがそこでそれを言いますか?
「アンも聞きたいと言ってるよ?」
ミン、その話に乗ってはいけません。
「ミン、マモルに無理を言ったら悪いから。アンも帰って来たんだし」
とノンがオレの顔を覗き込んで
「でも、何だったらアタシもここに泊まっていってもいいよ。アタシもマモルの好きにしていいからさ」
ノンさん、何を言っているんですか!ミンの教育上、良くないでしょうが?
「「マモル、お話して!」」
「あ~仕方ない。話をするから、聞いたら帰るんだぞ、ミン」
「わかった、マモル、お願いします」
と言っても何を話せば良いんだろう?小さい子に勧善懲悪とか、良くないと思うし、ディ〇ニーは誰かをやっつけちゃう話が多いし、日本の昔話でも金太郎とか桃太郎とかカチカチ山とか、誰かひどい目に遭わせる話多いし、と考えた結果、浦島太郎に決めました。
が、いたって不評でした。海については見たことない3人だったので、湖ということでごまかし、大亀もそういうのがいるんだと言い、竜宮城で乙姫様の大歓迎を受け、までは良かったのです。でも、故郷の村に帰ろうとすると「どうして、楽しくて、ちゃんと食べれる生活を捨てて元の貧しい村に戻るの?」とアンとノンからまっとうな突っ込みが入り、浜に着いて知った人が誰もいなくて玉手箱を開け、という所では「知らない人ばかりだからと言って、どうして玉手箱を開けて、年取るの?」と3人からクレームを浴び、散々でした。
メンタル折れ、泣きそうになってしまったところにミンから「もいちど、昨日のお話をして」とせがまれたので『木馬が〇った白い船』を再演したところ、3人に涙を流して満足していただきました。
ノンとミンは2度目だけど、原作が優秀だとオレの下手な再演でも感動を呼ぶのですね、立原さん。もう一度、記憶をたどって、もっと作者の意図に添った内容を再現してみます。きっと明日もせがまれるでしょう。宮〇アニメにいいのがなかったか?火〇るの墓はオレが感動して泣きそうだし、でも反応見たいけど。
ちなみに、その夜ノンとミンは泊まらず、自分の小屋に帰って行かれました。




