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出るものが出る

「この家、夜になると出るんです」

 突然、ボルトが真剣な顔で言ってくる。それはさっきも聞いたけど。

「そうか、サラさんなら視えるだろう」

「分かりました。マモル様に浄化していただきましょう」

 大聖堂の時のノリでサラさんと話をすると、ジンジャーが

「タチバナ様、出るのですよ!!」

 って言うし、スーフィリアは、

「村の人で見たという人がいるのです!信じてください!」

 と力説してくる。けど、オレもサラさんもイヤと言うほど見てきてるし。あっと、オレは見ていないんだった。サラさんから、アッチです、コッチです、と言われるままに『Clean』と唱えていただけだった。


 3人はオレたちがあっさり流したので、自分たちの危機感が伝わっていないと思ったんだろうけど、声を大きくして、

「「「出るんです!!」」」

 分かったから、聞こえたって。ほら、サラさんが笑ってるって。

「ボルト、出るのは分かったけど、その出るのが何か悪さするのか?」

「「は?何もしないと聞いてます。しかしぃ、出るのです!夜になると出るのです!」

 としつこい。こいつ、こんなしつこいのなら農作業に向いているかも知れん。


 夜になると出ると言われている家の中にオレとサラさん、ジンジャーとスーフィリア+ボルトでいると、出る話で盛り上がっている。出る、という話は、どこでもどの時代でもある話だよな。そんで盛り上がる。実際に出なくても、出るぞ出るぞ、ということで場が暖まる。オレとサラさんはリラックスしているが、3人はまだ明るいのに緊張?しているし。ま、ゼッタイ大丈夫なんてことはなくて、ヌエみたいなのが出てくることもあるので油断禁物なんだけど。

 結局3人はオレたちの態度が変わらないので、言っても無駄だと思ったようで黙ってしまった。3人の言うことを聞いていると、自分が見たのじゃなくて、人が見たという話を聞いた、というあるある話なんだよなぁ。

 

 夕方になって泊まりの馬車が到着しだすと3人がソワソワしだした。村人が総出で泊まりの手伝いをしているのに3人はオレが預かっているからと言って、手伝わなくていいという気持ちになれないんだろう。

「いいよ、手伝いに行ってきな。帰ってきたら夕ごはんを準備しておくから食べなさい。オレたちは先に食べているから、遅くなっても構わないぞ」

「「「ハイッ!!」」」

 3人は飛び出して行った。やはりいつも一緒にやっている仕事を抜けるというのは心苦しいんだろう。


 村の中が賑やかになってきた。昨日は村の端にテントを張ったから分からなかったが、村人の家は客がいれば明け渡し、住人は納屋に泊まったり、晴れていれば屋根の下という場合もあるようだ。当然、食堂もあって賑わっている。食堂と言っても、この村は農作物の生産がほとんどできてなさそうだから、他所から運んできたものを料理して出しているだけなんだろうし、儲けはほとんどないだろうな。


 サラさんと2人で夕ごはんを食べ、ジンジャーとスーフィリア、ボルトの分を用意して帰ってくるのを待っている。用意していると言っても、旅行中は一切料理しないのでポケットにあるものを消費しているだけだから。あと、サラさんの料理の腕はちょっと残念なので、何もしてもらわない方が安心だから。


 もう日が暮れてから、かなり時間が経っているけど村の中は、賑やかしい。3人が何をしているのか知らないけど、帰ってくるのには時間がかかるんだろう。

 サラさんが何やら天井を見ている。目があっちこっちと彷徨っている。何を見ているのか、いや魂を視ているんだろう。

「サラさん、魂はたくさんいるの?視ているんでしょう?」

「マモル様、分かりますか?すみません、お相手もせず。さっきから視ているのですが、思ったほど魂がいないのです。この村でもたくさんの人が死んだと聞いていたのですが、大聖堂よりははるかに少ないのですよ」

「へぇー、あ、でもそうかも知れない。前に医療団でここに来たとき、村の中で消毒するつもりで『Clean』を掛けまくったから。その時は村の中をキレイにするつもりだったけど、結果的に浄化してたんだと思う。きっとたくさん浄化してしまったんだろうな」

「そうでしたか、それならば納得です。できれば3人の親の魂を見つけることができれば、と思っていたのですが?」

「え、視て分かるの?この魂はジンジャーとスーフィリアの両親だとか?」

「申し訳ありません。それが全然ダメです。ほとんどの魂は白い塊くらいにしか見えなくて、人の顔になって視えたりするのはほとんどありません。マヤさんのダンナさんの時のようにはいかないです」

「そりゃ、そうだろう。あのときはオレでも分かったもん」

「そうですよねぇ。視えるからって、すぐに何でも視えるようになるとは限りませんから。少しずつ使えるようになってくるのですかね?」

「サラさんが視えるなら、浄化しておこうか?」

「視えますが、もしか3人の誰かの親かも知れないので、このまましておこうかと思います」

「それもそうだね。じゃあ、そのままにしておこう。と言ってもオレには分からないけど」

「それにしても3人はなかなか帰って来ないですね」

 と言ったところに

「「「ただいま帰りました」」」

 3人が帰ってきた。


「おかえり」

「待ってましたよ。お腹空いたでしょう。食べてくださいね」

 とサラさんが3人を座らせ、皿にスープを盛り付け渡していく。スーフィリアとボルトが、

「奥さまにして頂いて......」「申し訳ありません」

 と謝ってくるが、サラさんはニコニコである。どうも「奥さま」という言葉が響いたらしい。意外なところに、ちっちゃいけれど喜びがこぼれているもんだ。


「食べながらでいいから聞いてね」

 と言ってサラさんが、大聖堂での浄化について説明する。もちろん、浴室でのことは省いて。3人とも信じられないという顔をしている。

「ということは両親の魂はまだ残っているのでしょうか?」

 ジンジャーが聞いてきた。当然、そう思うよな。

「そう思うのは当然だと思うけど、ご両親の魂を視ることができないと分からないわ」

 ジンジャーとスーフィリア、黙ってしまった。

「2人は自分に魔力があることを自覚しているのでしょう?」

 サラさんが聞くと2人とも頷く。

「じゃあ、魔力を溜めるということはできる?」

「私はできません。というより、やったことがありません」

 とジンジャーが答えたが、スーフィリアの方は、

「私はあります」

「兄妹なのに違うの?」

 サラさんが思わず聞く。ジンジャーが答えた。

「私とスーフィリアは育った場所が異なるのです。私は家にいたのですが、スーフィリアは公爵様のお館におりましたので」

 兄妹でも育った環境が違う、と。

「そうなの。じゃあ仕方ないわね。一応、簡単に言うと魔力を目に集めると魂が視えるようになる人がいるの。誰でも視ることができるわけじゃなくて、私は視ることができるけどマモル様は視えないのよ。だから余り期待しないで欲しいの」


 すごく簡単な説明だけど、一応主旨は伝わったようで2人で試し始めている。

「あそこに魂がいるんだけど」

 とサラさんが指さした方をみんなが見るけど、オレは見えない。けれどスーフィリアが、

「あ、なんか白くモヤッとしているのが視える」

 と叫んだ。が、ジンジャーにはみえなかったようで、ボルトも

「オレは見えん」

 と男は3人とも視えず、女は視えるという性別格差が存在するようである。この不公平感、損した感じは結構キツい。

「スーフィリアさん、もっと具体的に視える?」

「具体的とは、どのようなことでしょうか?」

「そうねぇ、顔の感じとか、身体の輪郭とか、掴めない?」

「分かりません、モヤッとしているとか」

「そっか、だとしたら2人のご両親ということではなさそうね。ではマモル様、浄化して頂けますか?」

 2人の両親だともっと具体的に見えるのだろうか?という気もするけど、サラさんが言うのだから、従うだけなので、

「分かったよ。『Clean』」

「あ、消えた!」

 スーフィリアが声をあげるが、男3人は沈黙している。視えないことの疎外感を味わっているんだろうな。うん、うん、分かる、分かるよ、その気持ち。オレはずっとその気持ちを味わってきたんだから。


「この部屋の魂は浄化されたから、村の中を回りましょう」

 サラさんがリーダーシップを取り、引率して頂きます。


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