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ジンジャーと妹

「お腹、いっぱいになった?」

 サラさんの2人を見る目が完全にお母さんになっているね。サラさんの問いかけに対して、2人は揃って頭を下げ、

「「ありがとうございました」」

 なんてイイ子なんだろう。


 2人が食べているとき、サラさんがオレに耳打ちしてきた。

「マモル様、兄の方も白い色が見えましたが、この妹の方がもっと強いです。赤い色です」

「妹が赤い色?オレより強いの?」

「はい、マモル様よりも強いです」

「そうか、もし良い子なら連れて帰りたいね。ポツン村はまだまだ成長していくと思うから、能力ある子はどれだけいても足りないと思うし」

「それがよろしいかと」

 と会話して、2人の旺盛な食欲を見守った。まだ、少し会話して直感だけの判断なのだけど、ちゃんと礼儀作法ができるだけでも、採用基準は超えている。一応、タチバナ男爵家の一員として働いてもらうとき、礼儀作法を教えるという工数が省けることは大きい。


 2人が満腹になったようなので、質問タイムに入ろう。妹の方は腹を撫でているよ。この娘、美少女というよりは美人さんだな。眉がきりりとしていて、目力がスゴくある。八重歯が見えてちょっと愛嬌あるし。なかなかの別嬪さんだ。


「さて、キミたちのことを聞きたいんだけど」

 と言ったら、

「聞きたいと言われましたが、何を聞かれたいのでしょうか?」

 とジンジャーが逆に聞き返してきた。確かにそうだわ。

「あぁ、ゴメンね。確かにそうだわ」

 とオレが言ったところで、サラさんが聞きだした。

「ジンジャーくん?キミは言葉使いを聞くと貴族出身のようだけど、どうしてこの村にいるのですか?この村で生まれ育ったようには見えないのだけど。

 その前に私たちのことを話しますね。私たちはもう気が付いていると思うけど、実は貴族で、この方は私の夫でマモル・タチバナ男爵様、ブカヒンの近くのポツン村の領主です。私はタチバナ男爵の妻でサラと申します。2人はポツン村のことは、ご存じかしら?」

 2人はハッとして一瞬目を見張ったけどすぐに我に返って、ジンジャーが

「はい、存じております。名乗りが遅れて申し訳ございません。私はジンジャー・ベイカーと申しましてギーブの騎士爵グレイ・ベイカーの息子です。これは(と妹の背中を押し)妹のスーフィリア・ベイカーです。今日はお招き頂きありがとうございました」

 ともう一度頭を下げた。なんと丁寧な。


「2人は何才なのでしょうか?あとご両親はどうされたのでしょう?それと、どうして2人はここにいるのか、良かったら聞かせて頂けないかしら?」

 オレが聞くより、サラさんが聞いた方がずっと上手くいきます汗。そしてジンジャーが語り始める。


「私の父、グレイ・ベイカーはアレクサ公爵様の元で騎士爵を務めておりましたが、ルーシ王国、いやシュミハリ辺境伯にギーブが占領され、辺境伯がギーブを治められることになり、占領前に勤めていた官職を解かれました。そのため、使用人はすべて解雇し、両親と私と妹の4人で暮らしておりました。

 そして、黒死病がギーブに発生し、ブカヒンの親戚を頼って家族でこの村まで逃げて来たのですが、ブカヒンとの境界が閉鎖されておりました。そのうち両親が病に倒れ動けなくなってしまい、ついには両親は亡くなり、私たちも黒死病にかかったとき、イズ公爵様の医療団と言われる方々がこの村に来られ、私と妹が治療を受け、辛うじて生き残りました」


 おぉ、この子ら、あん時の治療した中にいたんだ。

「その後、両親を埋葬し、ブカヒンに行こうかギーブに戻ろうかと迷っていたのですが、持っていた金銭が底を尽き、乗って来た馬や馬車も売ってしまって、どうすることもできず、この村で働き生計を立てておりました。

 ギーブに行けば、知り合いの貴族の方を頼って、家の再興を果たしたいと思ったのですが、今の状態ではギーブ行きの馬車に乗せてもらう金さえもなく、日々の生活だけで精一杯です。それに私たちの医療費や両親の埋葬料やら、いろいろ金がかかり、村の方たちに借金があり、村を出るに出られなくなってしまいました」


 最後の方は、涙が混じってきて、ジンジャーは手を握りしめ、ポツンと1滴涙をこぼした。泣いてはいけないと思っているのだろう。妹のスーフィリアの方も泣くのをガマンしている、なんとけなげな子たちなんだろう。サラさんも涙を流しているし、気がついたらオレも涙を溜めていた。


「質問があるのだけど、ジンジャーとスーフィリアが治療してもらったのは、どういう人だったか覚えている?」

 オレはこの2人を覚えていないけど、2人に何か記憶はあるかなぁ?

「はい、治療して頂いたのは若い女の人だったと聞いております。その時は意識が曖昧だったのですが、治ってから教えてもらいました。黒い大きなご夫婦と一緒に治療に当たっていらっしゃったそうです」

 やっぱりね、ブラウンさんたちだ。ということはアノンさんが診たのか?若い女の人、ではないけどね。見た目は若そうに見える女の人です。

「両親は黒い大きい方が診られたそうですが、もう遅く手の施しようがなかった、と。私と妹は女の方の治療で治りました」

「その女の人と何か話をしたの?」

「はい、お礼を申し上げましたら「がんばったわね、治って良かったじゃないの。ご両親は亡くなったけど、妹さんと2人でご両親の分も生きるのよ!」と明るく励まされました」

 あーそー、それはアノンさんだわ。

「黒いご夫婦を黒い神々と言う人もいましたし、女の人を女神と呼ぶ人もいました。私も本当にそう思います」

 アノンさんが女神?本人に聞かせたいなぁ。それはともかくとして、

「オレがポツン村の領主ってことはさっきサラさんが話ししたよね。それで2人が良ければ、ポツン村に連れて帰りたいと思うんだけど?」

「それはどういうことで?」

「ポツン村に来て、村の手伝いをしてもらおうかと。もし、ジンジャーの働きが良ければ騎士爵に上げるけど。おっと、忘れていたけど、ジンジャーとスーフィリアは何才なの?」

「私は15才、妹は12才です」

「まだ若いね。それにしてはしっかりして見える」

「はい、よく言われます。それでポツン村のことですが......」

「うん、オレは男爵なので、好きなだけというか、養えるだけ騎士爵は増やすことができるよ。このサラさんの息子、オレの義理の息子なんだけど、15才になったら騎士爵にしようと思っているし。キミたちが役に立つと言うことが分かれば、叙爵してもイイと思うし。キミらがギーブで騎士爵になりたいと言うなら止めはしないけど」


 騎士爵、という言葉を聞いて2人の目に灯りが点ったような気がした。この村に居ても将来が見えない生活。この生活から脱出できるアテがない毎日。オレの申し出はきっと、沼に沈みそうな2人にもたらした1本のロープだと思うのだが。


「大変ありがたいお話なのですが、ちょっと相談させてください」

 とジンジャーとスーフィリアがあっちを向いて小声で相談しだした。サラさんと顔を見合わせニマッと笑う。断る理由がないと思うのだけどねぇ。


 2人の相談が終わって、オレたちの方を向いた2人の顔色は冴えなかった。

「申し訳ありませんが、お誘いはお受けできません」

 え、なぜ?


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