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村の中に入れてもらう

「着てる物、洗うからみんな脱いで。代わりにこれを着て」

 と言われたので、女の子に背を向けて脱ぐ。パンツをどうしたものかと思って振り向くと女の子が顎でクイっと合図するから、パンツを脱いで真っ裸になった。脱いだ物を渡して桶の水を浴び、女の子から手渡されたヘチマのようなもので身体をゴシゴシと洗う。石けんあれば良いけど、そんなものないよね。

 そう言えば、異世界ノベルでは大抵、主人公が石けん作るんだよね、オレも、もう少しして頑張って石けん作れば金儲けできるかな?オレは前の世界では化学系の商社に勤めていたから、石けんの材料はなんとなく知ってるし、中学校のとき理科の時間に作った経験あるし。でもさ、苛性ソーダや重曹なんて、言うほど簡単に手に入るものじゃないって。そりゃ2000年の日本なら簡単だけど、アフリカ奥地なんかだと難度高いでしょうが。


 などと思いつつ髪の毛を洗って、身体を洗って顔を上げると、こっちをガン見している女の子の視線に気が付いた。女の子、オレの下半身を見てない?それも息子の方。え、今は水が冷たいから縮こまっているんだけど、こいつ身体でかい割に小さいゾ、と思ってない?

 オレの視線に気が付いた女の子は視線を逸らして

「身体洗ったらこれを着て。連れて行かないと、婆さまのとこに戻れないでしょ?」

 そうですね、まぁ見られて減るもんでなし、勝手に見てちょうだい。


 渡された服のような(と思うくらい粗末な)ものを着て女の子の後について歩く。パンツがゴワゴワして痛いけど、これがきっとこの世界の標準なのね、ガマンするから。

 婆さまのところに戻ると、女の子はオレの洗濯物を抱えてどこかに消えた。ガイの遺体があった場所は遺体が片付けられて、代わりにオレの倒した牛と狼が並べられ、男たち女たちが群がって解体している。今、改めてみるとあの牛って小山のようなものだったんだ。前の世界で見た肉牛に比べても、一回り二回り大きい、よく倒せたよね。


「ガイが死んだのは仕方ないことじゃよ。狼の群れは10頭以上いたと聞いた。それで死んだのがガイ一人というのは奇跡に近い事じゃ。あんたのおかげで、こんな大きな野牛が食べられ、狼の毛皮が手に入った。有り難いことじゃ。ずっとこの村にいていいぞ」

 婆さんはオレの顔を見ながら告げた。

 それにしても身体を洗ってから気が付いたが、この村は全体に臭い。血の臭いは解体しているからもちろんするが、人の汗の臭い、小便の臭い、何か腐ったような臭いなどなど、全体に臭い。それを指摘するほどオレは空気読めない人じゃないので言わないけど。


 やっぱり、この世界では風呂に入る習慣がなくて井戸水で身体洗うだけなんだろうね。異世界ノベルじゃ、風呂に入るのは王侯貴族のたしなみなんだから、こんな下々の末端にいる人たちが風呂に入るはずがないよな、近くに温泉湧いてないかな。洗濯だって、たま~にするんだろうなぁ。みんな慣れてしまって臭いのが気にならないのだろうね。異世界ノベルの定番でオレが温泉を掘り当てて、保養所を作らないといけないのか?


 たぶん、オレは神様から五感も人並み以上にしてもらったから、嗅覚も人並み以上になってしまって、余計に臭いが気になるのだろうか?マズくない?こんな臭い中、生きて行けないかも知れないよ?昔、18世紀の西欧では下水道なんか街にないから、大小便も街のどこでもやってたんでしょ?ベルサイユ宮殿なんて庭の草木の陰で貴族たちがパーティーの合間に済ませてたそうだから、ものすごく臭くてその代わりガンガン香水振りかけて体臭消していたそうだし。

 う~~ん、臭くてたまらない、気になると余計気になる。何とかならないかな?どうしよう、どうしよう、どうしよう?魔法で何とかなるかな?でもさっきケガを治そうとしたけど治せなかったし。あれは何が悪かったのかな?神様からもらった魔法に治癒魔法は入っていなかったのかな?よくある異世界ノベルに出てくるメニューとか持ってないかな?


「メニュー」

 唱えてみたけど何もない。

「ステータス」

 やっぱり何もない。

 横で婆さまが、何それ?みたいな顔で見ている。こっぱずかしい~~やっぱ、どこか人の見ていないところで練習してから唱えることにしよう。臭気は慣れてくるのを期待しよう。


 そうこうしているうちに解体が終わったようで、広場の真ん中に焚き火が焚かれ、肉を焼き始めた。人がだんだん集まってきているけど、子どもと大人で老人はほとんどいないみたい。やっぱり神様の言ったとおり平均寿命40才なんだなぁ。

 肉を焼く人、鍋を火に掛け何かを煮る人、皿を持ってくる人、瓶のようなものを持ってくる人、コップを持ってくる人がいる。オレは婆さまと並んで席が作られ、座らされる。ジンが出てきてみんなに呼びかける。

「みんな、今日は『降り人』がこの村に来た。そしてでかい野牛を持ってきてくれた。運ぶ途中、狼の群れに襲われたが、『降り人』の助けでガイが死んだだけで他の者は助かった。ガイはかわいそうなことをしたが、仕方のないことだ。

 牛の肉を食べれるなんて久しぶりのことだから、肉を食べながらガイの魂を悼んでやってくれ。そして今日から『降り人』がこの村で暮らす。タチバナ・マモルというそうだ。何も知らないから教えて仲良くやってくれ」

 と話した。みんなは黙って聞きながら、話が終わったらオレの方を見た。

「村のみんなは野牛の肉なんて滅多に食べれないから、とても喜んでいる。ガイが死んだのは悲しいけど、仕方ないことだ。あんたはここのことを何も知らないから、あんたの世話はこのアンに面倒見させる。分からないことがあれば、誰にでも聞いてくれ。       

 ところであんたの名前はタチバナ・マモルというのは長い名前だから呼びやすい名前にしてくれないか?」

 と言われ

「タチバナというのはオレの世界の姓で、マモルが名前だからマモルと呼んでくれればいいよ」

 と答える。

「マモルか、分かった。みんなに伝えておくよ。アンがいないときは近くにいる者に声を掛ければいいから。あと、柵の外は獣がいるから呉々も勝手に外に出るんじゃないよ。と言っても牛を倒して、狼を3頭殺ったあんたに言うことじゃないね、あはは。 

 まず最初に牛を狩ってきたアンタが食べないと、みんな食べれないんだ。アンタがまず食べてくれ」

 と婆さまは言って、コップに入った白い飲み物をオレに渡す。そしてアンが取ってきてくれた肉が渡された。昼のコンビニ弁当から何も食べていなかったので、すごく腹が空いていて思わずかぶりついてしまう。おぉ、ちょっと塩味でうまい肉だ。満足して咀嚼して飲み込むと,村のみんながオレの方を見ていた。オレがうまかったと言うとみんな安心したように食べ出す。

 村のみんなは思い思いに食べながら話している。

「婆さま、オレを連れて帰る途中、1人死んじまったけど、オレを迎えに行ったことが悪かったんじゃないのか?」

「いや、気にせんでも良い。人の死ぬことはよくあることじゃ。領都に暮らしとったら死ぬことも少ないののかもしれんが、ここで生活しとると獣に襲われるのはしょっちゅうじゃから、ケガしたり死ぬこともある。じゃから、人の死ぬことにみんな慣れとる。

 このアンも(とオレに着替えをくれた女の子を指す)15で結婚したが17の時に亭主が病気で死んだ。亭主が病気やケガで死んだり、カミさんや子どもが病気で死ぬことはよくあるんじゃよ、あんたは気にせんでもいいから」

「そうなのか....(アンという女の子は結婚して亭主と死別してるのか、ガーーーン!ということは、今はいくつなんだ?)分かったよ、これからしばらくよろしくお願いします」

「そんな改まらんでええよ。あんたさえ良ければずっといてもいいんだよ。こちらこそ、よろしくお頼みします」


 婆さんと話をしていると、アンが皿に肉と白い塊を載せ、お椀に汁を入れ持ってきてくれた。白い塊は食べるとジャガイモだった。あれ、もしかしたらジャガイモが主食か。お椀は野菜のごった煮のようで塩味がついている。異世界物でよくあるように、醤油や味噌は自分で造らないといけない展開なのね。一応、木製のフォークのようなごついのが添えられていて、それで食べるようだ。


 そうこうしているうちに、食べる物がなくなったのか人がいなくなる。アンが側にやってきた。

「寝る所に連れて行ってあげる」

 と言い、先に立って歩き始めた。手には灯りを持って案内してくれる。街灯なんてないから、広場の焚き火頼りだし、少し離れると真っ暗だもんな、灯りが必要だ。

 少し路地を歩いてアンが小屋の前に止まって、戸を開けて中に入る。オレも一緒に入るが、奥に畳一畳分くらいの腰掛けのような板の台があって、その上に獣の皮が敷かれている。

「今日からここで寝て。寒かったら、あの皮を被ればいいから。おやすみなさい」

 と言って、小さい松明を部屋の真ん中にある囲炉裏のような所に置いてどこかに行ってしまった。


 あぁ、やっと異世界1日目が終わったのね。とにかく大変な1日だった。歯も磨いていないし、顔も洗っていないけど、とにかく寝よう。もう元の世界のようなベッドで寝るなんて無理なんだろうな。とにかく板の上の獣の皮の上に横になって、毛皮をかぶるとアッという間に眠りに落ちてしまった。

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