新しい食物に挑みます
次の日、ジンの予言通り、騎士様たちが来た。
騎士様たちは3人で、村の中に入るのがイヤなのか、村の外でジンたちと話をして帰っていったという。
オレは騎士様たちに会わずに終わった。と言うのも、ジンが会わせたくなかったようだし、騎士様たちがこの村の中に入って、人に会いたくないというのがあったらしい。たぶん、この村の住人は臭いから(村全体が臭いから)会いたくないし、入りたくなかったんだろうね。臭いが身体に染みついてしまうかと思ったかな。無理もない。臭~い、人が済ませたばかりのトイレに入ると、鼻からも息したくないし、口もその空気を入れたくないと思うのと同じじゃないかな?そういうオレもだいぶ馴染んできましたけど。
もし騎士様に会っていたら、この世界でも異質なもの、黒目黒髪は興味を引くだろうし,オレみたいに周りより15㎝も大きいと、すぐに連れて帰ると言いだしそうなので、土産の胡椒を持たせて帰らせたという。胡椒はダンに作ってもらった容器を使った。まぁ。連れて帰りたくても臭いオレをどうやって運ぶか、準備してきてないだろうから、無理だろうけど、万が一ということもあるからな、ということらしい。
駐屯場の中の一角に畑を作る、胡椒を一から作るため。鍬を使うのだが、鍬が木で作られているので、一向にはかどらない。村雨くんだって、土を耕すのに使えるわけではないし。そりゃ、サクサクと土を切るだけだから役に立つわけないし、村雨クンもそんな使われ方したら腐ってしまうしね。
やっぱり鉄器が欲しいなぁ。あと、農耕馬もいればいいけど。効率が段違いなんだから、トラクターや耕運機なんて贅沢言わない、魔石を動力源にしてどうの、というような異世界ノベルのチートな力があれば、と思うけど、それは無理。
駐屯場の一角に植えた、胡椒の枝が根を生やし、育つのを見守るしかない。せめて窒素肥料があれば......。でも窒素肥料があると次は絶対、殺虫剤が欲しくなるだろうし、まぁ、何もないのがいいんだろう。
畑を作るのは、森の木を切って根っこを掘って耕していくのと、草原を耕していくのと2種類の方法がある。一見森を畑にするのが大変そうなのだけど、草原の方は土壌が悪いから草しか生えていないように思える。草原をちょっと掘ってみたが、森はモコモコした黒い土なのに、草原の方は砂地に近い土のように見える。森と草原で線引きされているのが不思議だったけど、土壌の違いで分かれているんだろうか?しかし、どうして土壌に差が付いているんだろう?昔、ここら辺に大河があって、上流から運んできた土砂の影響とかあるのだろうか?
考えていても仕方ないので、森の恵みが他にないか、捜すことにする。
果物は森の周辺にあったり、柵の中にある植林されている木々でまかなえているし、ジャガイモ畑で主食や日常の野菜類が採れている。ただ、これらは現在の生活を維持するためにカツカツのものであり、人口が少し増えたら餓死レベルに近づくんだろう。そうなると、森の中で第2の胡椒となるようなものを捜して、それを領都かどこかで交換して、生活必需品を仕入れることを考えないといけない。何かプラスになるものをこの村に植え付けたい。
今日も今日とて、ジンと森を進む。
森はどこまで続くか分からないように、うっそうと茂っており、上を見れば木々のてっぺんが見えないくらい高い。日本では屋久島(行ったことないけど)の森がこんなんじゃないだろうか?『も〇のけ姫』に出てくる森がこういう森なんだろうか?針葉樹が多いように思うが、広葉樹が密集しているところもある。針葉樹を切り倒し、広葉樹を植樹していきたいな、なんとなく趣味で。どうぶつの森みたいな、穴掘って実を植えて、3日くらい経つと実が収穫できるのならいいんだけど。
ずんずん進んで行くと、最初に胡椒の木を発見した場所に着く。
ここら辺の胡椒はほぼ採り尽くしたんだろう、見なくなった。ここの気候では年何回採れるのか分からないが、期待しておこう。日本よりは少し南の気候のように思うから、最低年2回は収穫できないかな?アレ?そもそも、今は何月なんだろう?ここの気候とか、どんなだか知らなかった。ジンに聞いても、気にしてなさそうだな。こういう生活していれば、今が何月何日かなんて関係ないよな。
ジンの獲物の罠も空振りだったので、ジンにお願いして、その先に連れて行ってもらう。森の奥に入るのは危険過ぎるということで、森の縁を移動しているようだ。森の奥にはエルフの里があるのが定番なんですけど?エルフなんて知らない、そうですか。ドローンがあればなぁ。異世界ノベルだと神さまから定期的に贈り物をもらえたりするのにね、オレは何もないよな。ドローンくれないかなぁ。でも、ドローンの前に醤油かな?いや味噌?いや、そもそも塩?その前にトイレットペーパー欲しい!!この世界でトイレットペーパーあれば、世界征服できるんじゃないか?異世界ノベルでトイレットペーパー作った人はいないよね?どうしてたんだろう、困らなかったのかね、あぁ、ないものねだりしても仕方ない。
しばらく歩いて行くと、桑の木が群生していた。
「ジン、ここに桑の木があるけど、カイコって知ってるか?」
「カイコ?なんだそりゃ?」
あ、やっぱり知らないのか。
「もしかして、絹織物とかも知らない?」
「絹織物?綿とか麻とかと違うのか?」
「違うんだ、もっと光沢があって、お偉いさまが着ていると思うけど、薄くてキラキラしている布なんだけど」
「あーーー、貴族様が着ているヤツか、あれとこの葉っぱが何か関係あるのか?」
「うん、この葉っぱを好んで食べる虫、芋虫のデカいのが糸を出すと、あの絹糸っていうのになるんだよ」
「そうなのか?この葉っぱに付いてる虫って、これだろ、ほら」
「あ......」
出た、カイコだけど、デカい。長さが20㎝ほどあって、丸々している。直径5㎝ほどありますよ。世界が違うとカイコも違うんですね。確か日本では野生のカイコはいなかったと思うけど、ここにはいるんだ。
「確かにこれだけど、オレのいた世界よりデカい、気持ち悪い」
「なんだ、気持ち悪い?バカなこと言うなよ、これはオレらの食料源だぞ。見つけたから、持って帰って今日の夕飯で食うぞ」
「え......」
これを食べるのか......確かに高タンパクで......栄養価が高くて......虫で。
「あれ、マモルの世界では食べないのか?こんな丸々して旨いモノを。ほら、そこにもいるぞ。カゴに入れろ」
あぁ、確かにイナゴの佃煮とか聞きます。よくテレビで東南アジアに行って、現地の普段の食事に出てくるのは知ってます!でも、今ここで食べる!もう一度言います、長さ20㎝で直径5㎝はあると思いますよ?口に入れたら、一匹で口がいっぱいになるから!あぁ、異世界転生ノベルで虫食うのってありましたっけ?蜘蛛になった、とかスライムになった、とかいうなら虫を食っても仕方ないけど、オレは人間になっているのに虫を食べる!もしかしたら、オレはこれでダメかも知れない。とにかく何か手を考えよう。
「ジン、この虫は絹糸と言って高価な繊維の素になる糸を出すかも知れない。オレは試してみたいから、数匹と桑の葉を持って帰るから。それと、大変申し訳ないが、オレはこの虫を食べれない、だろう。オレの婆さまから、金を生む虫を食べてはいけないと言われているんだ(ウソだけど)。だから、みんなには悪いけど遠慮する」
「そうか?美味しいのになぁ。なら、今晩ノンが持っていったら、マモルの分はミンに食わせてやってくれ。ミンが好きなんだよな、喜ぶぞ」
「あぁ、分かったから。もしかして、今日の夕ごはんは、この虫だけか?」
「まさか、そんなことないぞ。もし、この虫だけだったら、ここで採れないと食うものがないだろう?」
「良かった......」
桑の葉をカゴに詰めるだけ詰め、カイコを数匹入れる。
「マモル、そんなに葉っぱを詰める必要ないぞ」
「え?」
「その葉っぱなら、村の近くにいっぱいあるから、そっちで取ればいいから」
ア、ソウデスカ。
この辺りは広葉樹だから、低木も多くて進むのは枝をかき分けて大変だ。でも、針葉樹林と違って、地面まで太陽の光が届いている証拠なんだよね。
あれ、この花って?
「ジン、この花って見たことあるか?」
「あぁ、これか。見たことあるぞ。群生している所も知ってるし」
なんですとぉぉぉぉぉぉ!!これはチョウジの木ではありませんか?庭になってると臭いヤツ、イヤ失礼、香ばしい匂いが漂う木ですがな。
「ほれ、ジン、これを口に入れて噛んでみて」
と言って、チョウジを渡す。ジンは恐る恐る口に入れて噛んでみると顔がパッと明るくなる。
「お、これは良いな。口の中がスッキリしたぞ。口の中の匂いが変わったような気がするな」
そうです、口臭消えましたよ。コレハ、ゼヒモッテカエロウ。
「これはチョウジと言って、胡椒と同じ香辛料になるんだ。上手くいけば金になる。持って帰ろう」
桑の葉を捨て、チョウジの花をとにかく詰める。カイコはジンに任せた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。日本でも出身地によって、食べ物が違うことを重々承知しております。でもちょっと虫と貝はいけません。人それぞれですから、そこは大きな心で見てやってください。




