待ってるうちにいろいろな話をします
夕方になり、かなり暗くなってきた、オレはずっと緊張して過ごしている。夕ごはんを食べた後はしばらくして灯りを消し、息を潜めるように待機している。向こうも灯りを消し、寝たふりをしている(んだろう)。
オレはジンたちと一緒に、門から続く臨時に作った塀に挟まれた通路の先で座っている。あとは待つだけだ。今日は、満月が二つ照っているから、夜でも明るい。目が慣れてきたので、人の顔も認識できるくらいだ。
「マモル、あまり緊張しないで、ゆったり構えていないと朝まで保たないぞ」
「なんだ、ジン。ドンだって同じじゃないか?」
「オマエ、自分の足を見てみろよ、なんだその足のゆすり方は?」
言われてみれば、ひどい貧乏ゆすりしていた。まぁ初体験なのだから大目に見てくれ。
「そんなことより、ジンはあいつらがいつ攻めてくると思うんだ」
「たぶん、明日の朝の少し前、夜明け前だと思う。これはバゥも一緒の見方だ」
「なぜだ?」
「向こうはオレたちが緊張して待っているのを知ってる。寝ないで待ってると思ってる。でもな、緊張するのは、そんな続かないことも知ってるんだよ。夜明け少し前は、どうしても緊張が切れてきて少し眠くなるから、その時を狙ってくるだろうな。ヤツらは商隊を襲うときもそうだろうしな。待つ方は辛いが仕方ないさ。ヤツらは襲い慣れているから、いつ頃襲うのが一番効果あるのか知ってる」
バゥが笑って、顎をしゃくってドンを指した。
「そうさ、マモル。ドンを見てみろ、静かに寝てるぞ」
ドンはそう言われて目を開けた。
「オレか?オレは毎晩、マモルとアンがうるさくて眠れないから、ここで寝ておこうと思ってな。ここだとギンに攻められなくて、安眠できるさ」
ジンの馬鹿野郎がその話に乗っかる。
「そうだろう、マモルが来てからうるさくて、村のみんなが眠りが浅くて困っているよな。今晩はみんなよく眠れるぞ ははは」
バゥまで喜んで話に加わる。こんな話で場が和むけど、それもいいか。
「そうだよ、何をしたら、あんなに騒がしいのか、マモルに教えてもらわないといけないな」
「バカだなぁ、マモルに教わったら、かみさんに実行してくれと言われるぞ、今日も明日もって。そうしたら教えられた通り、できるのかよオマエが、ははは」
「いやぁ、そりゃ無理だわはぁ。それなら、教わらない方がいいわ」
「そうだぞ、マモルは何も言わなかったから、と口裏合わせておこうや」
「そうだ、マモル、オレたちに教えたなんて言うなよ、ははは」
「そうだそうだ、オレたちを困らせるんじゃないぞ、もし口を滑らせたら、この村から追い出すからなぁ」
「......」
すみません、迷惑かけてます。何も言えません。
しばらく沈黙が続いたが、ジンが思い出したように言い出した。
「今思えば、オレたちのシショーは偉かったな、バゥ」
「そうだな、ジン。シショーは大したもんだと思うよ。シショーなら平気な顔をして、こんなときでもきっと寝てるだろうな」
ジンとバゥは分かったような話をしているけど、オレとドンは何の話なのか全然分かりませんよ。
「なんだ、ジンとバゥは分かっているようだが、オレには分からんぞ。オレとマモルにも分かるように言ってくれ」
とドンが聞いてくれた。
「あぁ、昔の話だがな。オレとバゥが領都で衛兵をやってるとき、剣と槍と弓を教えてくれた人がいたんだよ。その人はオレたちは教えてもらっているからマスターと呼んだら、シショーと呼んでくれと言ったんだよ」
シショー?やっぱり師匠か?日本人か?
「そうだ、変わった人だったが、とにかくスゴかった。剣も槍も弓も誰もかなう人がいなかったな」
「あぁ、一緒に衛兵やってたヤツはみんなデシになったもんな」
デシ?弟子?
「それと言うのもデイリがあったからだよな」
「デイリか?何だそりゃ、オレは初めて聞いたぞ」
聞いていたドンが問いかけた。デイリって出入りのことか?師匠と言い、弟子と言い、出入りと言い、その人は日本出身じゃないのか?
「デイリというのはシショーが言ったんだよ。奇妙な言い方するから、オレは真似たのさ。デイリはシショーのいた国で悪党同士がケンカをするときのことを言うそうだ」
「デイリってのはな、オレたちの衛兵隊の詰め所の近くで悪党同士のケンカが大きくなってさ、ある夜広場の真ん中で大げんかになったんだよ。それまでは下っ端同士の小競り合いだったんだが、メンツが立たないとか言い出して、ボスが出てきたんだよ」
「あいつらバカだよな。あれがなければ、泣きを見ることもなかったのにな」
「そうだな。その夜、オレとジンとシショーが衛兵詰め所にいたとき、警邏隊からお呼びがかかったんだよ、悪党同士がケンカしてて、誰も止められないから手を貸してくれって」
「普通は警邏隊だけで済むのに、オレたちに助けを求めたって、収まるはずないさ。領軍を派遣してもらわないと治まらないとオレは思ったね。バゥなんて、びびりやがって、そんなケンカ場行きたくない、ってゴネたんだよな?」
「何言ってんだよ、ジン。オマエだって、あからさまにイヤな顔をしてただろ?
でもな、オレらが行ったって、端の方で離れて見ているしかないだろうって。領軍来るまで、端っこで迷惑掛けないようにするしかないって思ったさ」
「そしたら、いつもは静かにしているシショーがな、それまではオレらは陰でじいさんと呼んでたよな、今考えると失礼だな、バゥよ」
「なんだよジン、オマエが先に言ったんだろう、オレはそんな失礼な言い方したこと一度もないぞ、シショーに向かって」
「ま、とにかくシショーが急に立ち上がって、オレたちに向かって『詰め所にあるだけの剣を持って付いて来い』と言ったんだよ。あんときは驚いたね、この人何をするんだ?ってな」
「そうだ、オレも驚いたよ。オレたちが行っても役に立たないのに、何しに行くんだってな。それでもシショーが言うから、半信半疑で剣を持って付いて行ったさ。ケンカしている所に着くと、そりゃケンカどころの話じゃなかったな、戦争だよ、戦争。警邏隊はケンカ止めるより、関係ない人間が被害に遭わないようにするのでいっぱいいっぱいだったさ」
「そうだったな、みんな遠巻きで見てるというか。バゥはびびっていただろ?シショーの陰に隠れていたの知ってるぞ、ははは」
「何言ってんだ、ジンだってオレの陰に隠れていたくせに、ふふ」
ドンが上手く合いの手を入れる。
「なんだ、それでどうしたんだよ」
「はは、ドン、聞きたいか?やっぱりこの話はハズレがないな、バゥ」
「そうだな、ジン。それでな、広場に着いたら、シショーがオレたちに言ったんだよ。『これからオレが奴らを斬るから、オマエら付いて来い』って。『斬って剣が斬れなくなったら、声を掛けるから代わりの剣を差し出せ』って、言ったんだよ。オマエらは誰も斬らなくていいから、付いてくるだけで良いって」
驚いてドンが聞いた。
「え、斬らなくていいのか?」
「あぁ、オレらが斬ると余計な恨みを買うかも知れないから、オレたちに手を出すなって。シショーが斬れば、シショーにだけ恨みが向かうからって、言ってな」
ナニこの男前。シショーってかっこいいわぁ、惚れてしまいます。




