凶賊到着
朝、目が覚めると横にアンはおらず、床の板の間にノンとミンがいた。明るいところでノンを見ると中学生くらいにしか見えない。アンより少し上くらいにしか見えないか。この世界の女の人はみんなこうなんだろうか?いや、婆さまは婆さんだしな、オバチャンたちはオバチャンだから、アンとノンだけなのかも知れない。背が小さいというのは、若く見えることに通じるのかしら?
しばらくしてノンが目を覚ました。オレが見ているのに気が付き、ニッと笑う。
「マモル、起きてたの?おはよう」
「あぁ、おはよう。オレも目が覚めたばかりだ」
「そうなの?アタシは朝ごはんの用意してくるから、ミンはこのまま寝かせておくね」
「いいよ、行ってくれ」
「ミンが起きたら、アタシを呼んでくれればいいよ。じゃあね、お願いします」
と、ノンは出て行った。結局、ミンはノンが朝食を持ってくるまで寝ていた。
朝ごはんを終えてから、ジンの所に行く。ジンはバゥと話をしていた。
「マモル、おはよう。今日は柵の外から見て、何か村の中で備えをしているようなことは見せないようにするんだ。オレたちが防備を固めていると知られるとやっかいだからな。だから、外には出ないようにする。奴らが予想と違って、昼間に攻めてくることもあるかもしれないしな。
とにかく内々で準備だけはしておくんだ。もちろん、見張りは立てて街道を見ておくが」
特にジンからオレに指示はなかったので、オレは剣を練習することにした。ジンとバゥは守りの確認をして回るという。
オレはいつもの場所で剣を練習する。リュービもだいぶ上手くできるようになった、気がする。気が付くと、後ろでジンとバゥが見ていた。
「バゥ、どうだ、マモルはスゴいだろ?」
「そうだな、驚いた。マモルの剣の速さはシショーと同じくらいのような気がするな。剣の速さだけなら、この村で一番だな。やっぱり、迎え打つのはマモルが一番だな」
「そうだろう、人を斬った経験がないと言うが、1人斬れば2人も3人も変わらない。最初に上手く斬れれば、後は心配いらないな」
シショーはバゥも知ってる。
「オレもそう思う。マモルしかいないな」
「マモル、門を入ったところで迎え打つのは、マモルとドンが剣で、オレたち2人が弓矢をもつ。オレたち2人で入って来たヤツを矢でやるから、残って突破してきたヤツをオマエとドンで殺る。オレたちの後ろにいるヤツには、槍を持たせているが、だいぶ力が落ちるからオレたちの線を突破されたら、村に入られてしまうと思え」
「門からここまでは、両側に丸太が組んであるが、そこは通してしまうのか?」
「いや違う。丸太の間に隙間を作ってあるから、隙間から槍で刺す」
槍衾というヤツか。
「わかった、とにかくやってみなければ分からないな」
「そうだ、あと凶賊と言っても戦い慣れているわけではないからな。ヤツらは、旅の馬車とか襲うのは慣れていても、こういう防備のある村を攻めたことはないはずだ。向こうもこうやって戦うのは初めてのヤツがほとんどのはずだ」
「それにだ、凶賊だからと言って、人を殺し慣れているわけじゃない。たいてい馬車を襲う時は、ボスが1人2人殺して脅して金を盗れば終わりだから、後のヤツらは一緒に付いているだけの数合わせのようなものだからな。
ヤツらがあんまり人を殺しすぎると、今回みたいに手配されて逃げなくちゃいけないんだ。何事もほどほどにしておくのが一番だ」
「そうだぞ、ヤツらの中にマモルほど使えるヤツはいないと思うぞ。だから、相手を舐めてもいかんが、必要以上に大きく見ることもない。
マモル、剣の練習はこれくらいで止めておけ。今晩はずっと起きていることになると思うし、今から寝ておけ。山賊が姿を現すと、あの板を叩いて知らせるから、とにかく休んでおけ。気が高ぶって寝れないかも知れないが、とにかく目を閉じてるだけでもいいから身体を休めておけ」
言われるまま、小屋に帰り、ベッドで横になる。ノンとミンは気を遣ってか、やって来ない。夕べは何もしなかったにもかかわらず眠くなり、意識が落ちた。
カーーーーンと音がしたので目が覚めた。
来た!と思い、小屋の外に出ると、みんなオレが最初に村に入ったときの街道沿いの門に集まっている。ジンとバゥは台の上に立ち、外を見ている。ジンに呼ばれたので、台に上がり外を見ると1㎞ほど離れたところに人の集団が見える。ほとんどが徒歩で馬に乗っているのは1人か2人いるだけだ。なんか、えらくしょぼくれたように見える.遠目だからか?負け犬の都落ち、と言った感じか。
だんだんと近づいてきたが、最初の印象は変わらないな。みんな、うす汚れていて覇気がなく、やっとここまで来た、という感じに見える。奴らもこっちが見ていることを意識したのか、少し、しゃんとしてやってきた。せいぜい20人くらいか、少し欠けるかな、ジンの予見したように、夕暮れ少し前に村に着いたな。
村まであと30mと言ったところでジンが大声で呼びかけた。
「オーーイ、おまえらは一体何者だ?」
集団の中から、馬に乗った男が出てきて先頭に立つ。こいつがボスか?
「オレたちは領都から隣国に行く途中だ。すまんが、この村に泊まらせてくれないか」
「何もしないなら、泊めてもいいけどな」
「何を言うんだ、何かするわけないだろう」
向こうの男は悪党面をニマっとさせるが、元々の悪党面がもっと悪く見える。
「バカめ。そんな言い訳が通用するわけ、ないだろう、ははは~~」
「おい、変なこと言うなよ。オレたちがなんだと言うんだ」
ジンは大きく笑った。
「あはははぁ、オレには全部見えてるよ。オマエらは領都から追われてきた凶賊だろ?どうしたんだ、隊商たちを殺したか?それとも貴族か大商人の家族でも殺して、身代金が付いたか?何かやって、領都にいられなくなったんだろ?バカだなぁ、ほどほどって言葉を知らないのか?」
そう言われて、向こうのボスが激高した。
「バカ言うな!!オレたちは何にもしていないぞ。オマエらはオレたちを泊めてくれれば良いんだよ。つべこべ言うな!!」
「あぁ、泊めるだけは、してやるよ。でもな、食い物も何にも渡さんぞ。この村は貧乏だから、オマエたちに渡すと、オレたちが飢えてしまう。隣の国に行く訪問団は、オレたちに食い物を持ってきてくれるんだよ。変なことをするとほらな、バゥ」
「あいよ」
ジンの横にいたバゥが弓を構える間もなく、矢をシュッと放った。矢は一直線に飛んで行き、奴らの一番後ろにいて、弓を構えようとしていたヤツに刺さり、そいつは倒れた。
凶賊たちに殺気が湧く。
「おいおい、そいつが矢を射ようとしていたんだぞ。だから先手を打っただけだ。こっちはこれだけ離れていても、こんなに正確に射れることが分かっただろ?今夜はおとなしく寝るんだな。ほら、こっちの柵の中に入るんだ。そこなら夜も獣に襲われないからな、隣国に行く商隊もここで泊まるぞ。ただし、外に出たら知らんがな」
バゥが矢を構えたままなので、山賊たちは何もできず、黙って駐屯場に入って行く。駐屯場に入って、馬から荷物を下ろし、たき火を焚いて寝る準備を始めた。森に燃料とする木を採りにいく者、テントを建てる者と動き始めた。一応、食べ物は持ってきているらしい。
こっちは高い所から監視している。このまま、明日の朝まで持てばいいな、できれば人を斬りたくない。
ジンやバゥなんかは、殺すか殺されるかだから、殺して当たり前、と言ってるしオレもそうだと思うけど、実際にその場に直面して、実行できるのだろうか?




