アンの視点
ある日突然、婆さまが『降り人』が来ると言った。
『降り人』って何?と聞いたら、アタシたちの住んでいる世界と違うところから来る人だと言う。違う世界、って何?と聞いたら、婆さまも『降り人』に会うのは初めてだから、分からない、と言う。婆さまの知らないものって何だろう?
アタシはこの村で生まれて、父と母と生活していたけど、小さいときに死んでしまって15のときに村の男と一緒に住むようになったけど、17のときに死んで、また一人ぼっちになってしまった。
それから婆さまと暮らしてきた。それなのに、突然婆さまがアタシに『降り人』の世話をしろと言われた。どうして?と聞いたら、20才くらいで1人なのはアタシくらいしかいないからだって。確かに、たいていは子どもいるからね、仕方ない。ただ、世話をしろ、って意味は抱かれろってことも混ぜてのことだって。まだ会ってもいない男に抱かれろって、あんまりだと思うよ?
そいつはなかなか来なくて、夕方の少し前にジンが『降り人』を連れて戻ってきた。『降り人』が来る途中に牛を1人で倒したそうだ。そして帰り道、狼の群れが襲ってきたけど、『降り人』とジンが中心になってやっつけたって!すごい、そんな人、今まで誰もいなかったよ。一体、どんな人なんだ?と思って、婆さまと一緒に待っていたら、その『降り人』は現れた。
それは、とんでもなく大きい人だ。アタシが見上げるくらい大きい。ジンやバゥと並んでも首から上が見えるくらい大きい。怖い、あんな大きい人は怖い。アタシがあれの世話をするの?アタシにできるの?無理だよ。婆さまに言ったら「大丈夫だよ。見た目は怖そうだけど、根はやさしいから」って言うけど、婆さまだって「見た目は怖い」と言ったでしょ?怖いんでしょ?世話するアタシはもっと怖いよ。
それなのに、やっぱりアタシは『降り人』の世話をすることになった、それは変わらなかった......仕方ない。婆さまから『降り人』(マモルと言うそうだ、変な名前だ)に着替えを持ってくるように言われた。マモルは返り血を浴びて、服が真っ赤になっている。あの服は、アタシが洗うのかなぁ、イヤだなぁ。
マモルを井戸に連れていく。マモルは服を脱いで、どうすればいいの?という顔をしているから、ヘチマタワシを渡して身体を洗うように言う。婆さまの言う通り、何も知らないんだ。マモルは全部脱いだから身体つきがみんな見える。見ようと思わなかったけど、思わず見てしまう。背が高いし痩せている。何もかもが、村の男たちに比べて一回り大きい。村のものはみんな、痩せこけていて骨が浮いている人がおおいけど、マモルはそんなことがない。腹に少し肉がついている。どこで何を食べて生きてきたのだろう?アレも見えてしまったけど、それが大きいんだけど?あれがアタシの中に入るって無理じゃない?ゼッタイ無理だと思う。だって、あれがもっと大きくなるんだろう?アタシ、壊れてしまうよ?オバチャンたちは「スゴいね」「立派だ」「イイねぇ」なって勝手なこと言ってるけど、アンタたちは世話しないから、そんなこと言えるんだって!?
マモルが来た日の夕ごはんは、マモルが狩ってきた牛を食べた。久しぶりに牛の肉だ、本当に美味しい。みんな、すごく喜んでいる。死んじゃったガイはかわいそうだけど、獣と戦って死ぬことはよくあるし、一緒に住んでたリィだって悲しそうな顔はしているけど、肉はバクバク食べている。だって、今食べないと次にいつ食べれるか分からないもの。牛の肉なんて、前はいつに食べたか忘れるくらいだ。マモルが来て、1つだけ良かったと思った、少しだけ感謝。
翌朝、マモルに朝ごはんを持って行ったら、ジンと剣の練習をしていた。スゴい、マモルの剣は速い。ジンと同じくらいの速さに見える。それに剣がキレイだ。この村の男たちが持ってる剣は、たいてい、刃が欠けていたり、少し曲がっていたりする。そして色が鈍い。それなのにマモルの剣はピカピカで、光りをはじいてまぶしいくらいだ。マモルをのぞき見している女たちも、マモルが剣を振るのに見とれている。
でも、朝ごはんをマモルはマズそうに食べた。
マモルはジンと森に出かけて行って、今度は大鹿を捕ってきた。2日続けて肉が食べれるなんて、生まれて初めてかもしれない。前がいつだったかなんて、覚えてないもの。今度、いつ肉が食べれるか分からないから、腹いっぱい食べておこう。みんな思うことは同じこと考えていて、動けなくなるまで食べてた。アタシは鹿の肉が好きだから本当に嬉しかった、幸せだ。
次の日、マモルはまたジンと胡椒の実というものを採りに行くと言って森に出かけた。でも帰ってきたら、イノシシを捕ってきた。何、これ?何が起きたのってくらい、の出来事。村のみんなが大喜び、もうこれ以上喜べないってくらい、喜んでいる。でもアタシはイノシシの肉は硬いから、余り好きじゃないんだけど。でも、こんなこと言えるのも、肉が3日続いたからで、こんなこと誰も経験したことないよ、きっと。さすがにイノシシの肉は硬くて、半分ほど余った。肉が余るなんて信じられない。でも3日続いて肉を食べたから、みんながっつかなくなってたかも。余った肉は干し肉になる。なんて幸せなんだろう?夢じゃないなら、目が醒めないで欲しい。
マモルの持って来た胡椒の実というものを房から外して集める。胡椒と言うけど、どこにでもなってる緑の実なんだけど、マモルの目にはどう違って見える?これって食べられるの?言われた通り日向に干すけど、食べれるようになるの?マモルは香辛料と言ってるけど、そもそも香辛料って何?聞いたことない。何が違うのか分からない。他にもいろいろと知ってるというけど。違う世界から来たというのはスゴいんだろう、いろいろと。だけど変なヤツ。
マモルについに抱かれたけど、アレって何が起きたか、よく分からない。覚えているのはマモルが1晩で3回もしたこと。バカじゃないの?って思った。マモルって獣?って思ったし。キスしたら舌、入れてくる。何?って思ったし。気持ち悪いったらない!!死んだダンナとはそんなこと、したことなかった。おまけに、死んだダンナとどうしていたか聞いてくる。ダンナはマモルみたいにしつこくなかったよ。ダンナはいつも、アタシの中に入ってきたら、少し動いて終わったし。
それにキスの後から、マモルは変なことばかりしてきた。おかしい、絶対に頭がおかしい。婆さまとジンから、何をされてもガマンしてくれと言われていたから、何とかガマンした。マモルのことを変態って言うんでしょ?気持ち悪い、でもガマンしないと。
次の日、痛かったから、歩くのも困ったし。久しぶりだったし、マモルのが大きかったし、それにマモルが3回もするからだよ......3回もだよ、ゼッタイにおかしいって。もう、マモルの液がダラダラ流れて臭いし大変なんだって。でも、マモルはやさしくて、乱暴もしないからまだいいけど。途中から何をされているか良く分からなくなって、気がついたら終わってた。アタシが止めないと、まだやったよ、あのバカ。
みんなが「どうして?」とか「何があったの?」とか「どうしてもらったの?」とか、聞いてくるけど、うるさい!!そんなに聞くなら、自分で体験してみて、代わってあげるよ!!と言いたい。その好奇心丸出しのエロエロの顔を向けるなっての!
マモルに抱かれる前に、マモルがギュッと抱きしめてじっとしている。そうすると、アタシの身体の中が軽くキレイになるような気がする。これは今まで経験したことがない。何をしているのか分からないけど。
これはマモルのいた世界でやられていたことかなぁ?これだけで、いいから、毎日してくれないかな?あとは面倒だし、気持ち悪くはないんだけど。うん、確かに気持ち良くはなる。いろんなところを舐められるってのは、気色悪いんだけど、あんな汚いところを舐められるってこと、ちょっとダメなんだけど。すっごく気持ち悪いんだ!でも、確かに何か良くなってきたりしてる。アタシが女の日になるとマモルに会えないから、あの何かだけはしてもらってもイイ。
アタシが女の日になったとき、アタシの代わりにマモルの世話をするのはノンだって。自分から手を挙げたっていうから驚いた。ノン、あんたは本当のマモルを知らないから、手を挙げるんだよ?変態のマモルを知れば、後悔するからね。オバチャンたちの「いいでしょ?いいでしょ?」とか「スゴいね、スゴいね」という攻撃に遭ってみればいいんだよ。マモルの相手をするのが、どんなに大変か分かるから。なんなら、ずっと代わってあげたいけど?
マモルが来てから肉を食べれるようになった。これはアタシだけじゃなく、村のみんなが喜んでいる。みんな、マモルがずっと村にいて、肉をたくさん食べさせてくれればいい、と思ってる。アタシもそう思うけど、マモルがいるのはほんのしばらくだけだから、と言われている。それは仕方ないさ。
もしアタシに子どもができたら、マモルがいなくなっても、1人で育てる。みんなそうしているから。マモルはきっと、この村から出て行く。でも、アタシは生まれたときから、この村から出たことがないし、他を知らない。だから、他の村に行って生活することなんて想像できない。領都に行くなんてもっと考えられない。アタシはずっと、この村で生きていくんだ。
アタシは子どもが欲しい。子どもと一緒に暮らしたい。ひとりぼっちはイヤだ、淋しい。
読んでいただき、ありがとうございます。
男の思い込みと、女の本音は距離がある、ということです。恋愛というもの自体、男の舞い上がりと女のリアリティーで動いていくことがほとんであろうと思いますが、いかがでしょうか?




