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ノンとミン

やっと新しいキャラが登場しました。

 ジンが予定していた準備はほぼ終わり、明日は柵の中で過ごすということで解散になった。


 婆さま、ジン、バゥと打合せをして、解散となる。

 小屋に帰ると、アンはおらず、知らない女の人がいた、小さい子どもも一緒に。知らないと言っても、小さい村だし顔くらいは見たことある2人だけど。

「マモル、こんばんは。アタシはノン、この子はアタシの娘でミンというの。よろしくね」

「え?アンは?朝いたのに」

「アンは女の日になったから、アタシがマモルの世話をするのに来たの。ジンから聞いているでしょ?」

 あぁ、アンは女の日になったのか。

「マモル、夕ごはんは食べてないよね?今、持ってくる」

 そう言ってノンは出て行く。ミンはオレと2人でいるのがイヤなのだろう、ノンに付いて行った。ま、初対面に近いんだから当然か。

 ノンはアンより少し大きくて150㎝ちょいくらいだろうか?胸もアンより大きいから前後の見分けは顔を見なくても分かる。それにしても、この村の女はみんな目が大きいな。


 ノンが3人分の夕ごはんを持ってきてくれた。3人で黙々と食べる、だって初対面で話すこともないし、オレは初対面とそんなに仲良く会話できないから。前の世界では営業マンとしては失格だったんだよなぁ。ミンはオレを凝視しながら食べている。ノンの年とか聞きたいけど、女の人に年を聞くのは失礼かも知れないし。


「ミン、この人がいろんなお肉を捕ってきてくれた人だよ」

「......」

 絵に描いたようなシーンです。テレビで見たことあったような気がします。40代くらいのヲタでデブでメガネかけてる未婚の男が、なんとか結婚しようとして、お見合いの席に来てみれば、相手はバツイチで子持ちだった、というヤツ。そんで、子どもがお母さんを取られるかと思って男を敵視するシーンと同じじゃないですか?

 この世界に来てまで、こんな思いしたくないのにナゼこうなる。

 本当は必要ないのだろうけど、なぜかミンとコミュニケーション取らないといけない、という強迫観念に襲われる。


 何事もなく、静かに夕ごはんが終わり、寝る時間となる。

 ノンとミンはベッドで寝るには狭いので、床に敷いてある板の間で寝るそうだ。ウン、それでいいから。ジンに言われたからって、オレは初対面の女の人をいきなり抱くなんてできないし、おまけに子どもが横にいるんだもん。アンの女の日が終わるまで、じっとしていよう。ジンに謝ればいいだろう、何もしなくても。


 と思っても、すぐ側に親子が寝ていると思うと、目がさえて寝れるはずもなく、ミンも慣れない場所で寝ているからグズグズ言ってる、仕方ないよ。

「お母さん、おっぱい」「えーまたぁ、ミンは甘えんぼさんだねぁ、ちょっとだけだよ」「うん、ちょっとだけでいい」「仕方ないなぁ」という、囁きが聞こえてくる。身近で親子の会話を聞くなんて、久しぶりだ。兄貴の奥さんと赤ん坊のやりとりを聞いて以来かな?ミンは結構大きいように見えたけど、おっぱい飲むんだ。それにノンはまだ、おっぱい出るの?いや、オレはおっぱい飲みたいとか、そういう趣味はないですから。


 2人のやりとりを聞いて、ほんわりした気持ちになったけど、眠れるはずもなく、いろいろ考える。『Sleep』って魔法はあるのかなぁ、『Sheep』だったら眠れないとき、代わりにカウントしてくれるのかなぁ、とバカなことを考えてしまう。


 ミンはしばらくしたら、寝てしまったのか静かになった。

 この世界に来てからのことを、あれこれ考える。明日のことを思うとなかなか眠れない。

「マモル、起きてる?眠った?」

 ノンが小声で聞いてきた。

「いや、起きてるよ」

 ノンがこっちを向いたのが分かった。

「ちょっとだけ話をしていい?」

「良いけど、ミンはいいのか?起きないか?」

「大丈夫だよ。ミンは寝るまでグズグズ言うけど、一度寝てしまえば朝まで起きないから」

「そうか、それなら良いけど」

「突然、アタシが来てゴメンね。突然なのに、おまけに子どもまで連れてきて。マモルはアンの代わりにくるなら、もっと可愛いい若い子が来ると思ってたでしょ?それなのに、こんなおばさんで」

 そんな気にすることなんだけどね、誰でもいい、ということもないけど。

「いや、別にいいさ」

 と一応言ってみる。

「実は、アンが女の日になったとき誰が代わりに行くんだ、という話になったとき、アタシが手を挙げたんだ」

「そうなのか」

「ウン、そうなんだ。本当にゴメンね」

 謝ってばかりだよ、そんなに気にすることかな?

「イヤ、いいよ。この村には若い子はアンとノンの2人しかいないというわけじゃないんだな」

「えへへへ、そんなわけないよ。マモルが獲物を捕ってきてくれたとき、村のみんなで食べたとき見たでしょ?」

「あぁ、そうだったな。でも、オレから見ると若い子はみんな同じくらいの年に見えるんだ。オレの世界とは違うから、よく分からなくてな。アンを最初見たときも、アンが20才とは思わなかったぞ。12才くらいかと思ったからな」

「あははは、なにそれ。12才?そんな幼く見えるの?よく、そんな子どもに見えるのに抱いたね?それなら、アタシはいくつに見えるの?」

「暗くてよく見えないから、分からない(下手に年のことを言っちゃいけませんよね。危ない質問でしょう、気をつけないと)」

「そっか。じゃあ、明日明るいところで見たら、教えてね」


 ちょっと沈黙の時間をまたいで

「どうして、ノンはオレの世話に手を挙げたんだ?」

 と聞いてみた。

「う~ん、特に理由はないけど、マモルと話をしてみたかったから?」

「話って、何を?」

「うん、マモルのいた世界って、どんなんのかなぁ?魔法ってあったのかなって?」

「いや、なかった」

「それなら、婆さまみたいに占いする人はいた?」

「それは、いた。オレのいた世界では占いが流行っていてな、誰もが占いをしていたぞ」

「え!!そうなの!!びっくりした」

「いろんな占いの本が出てて、それらもたくさん売ってたぞ」

「占いの本!本を売ってるの?すごいね、占いって、秘密にするものだって思ってたよ。それに本なんて、あんなに高いのに買える人がいるんだ。買うっていうことは読めるってこと?ここでは3人しか字が読めないけど、マモルのいた世界は字が読める人はたくさんいるの?」

「オレの世界では、紙は安いから本も安かったんだ。だから誰でも本は買えるし、字はほとんどの人が読めたぞ」

「そうなの、すごい世界だね、こことはずいぶん違うんだ」

「そうだよ、だからオレがこの村に来たときは、あんまり違うんで驚いた」

「あははは、そうだろうね。アタシもこの村に来たとき、驚いたもの。アタシは領都からここに来たんだ。領都に比べると、あんまり何もなくて、不便なことばかりで。食べる物だってろくにないし。だけど、ここの人はみんな家族みたいで、アタシみたいな女でも除け者にしないから......それが分かったら、ここがいいって思ったよ」

「ノンは領都から来たのか?」

「うん、アタシは領都の孤児院で育ったんだよ。孤児院の前に赤ん坊のとき、捨てられていたって。だから親の顔なんて知らないし、ノンという名前も孤児院の先生がつけてくれた」

「孤児院か、そのまま領都で暮らさずに、どうしてこっちに来たんだ?」

「うん、孤児院を出ても行くとことがなかったからね。どこかの店の下働きに出るか娼館に入って娼婦になるか、それくらいしか孤児院を出た女に道はないからさ。店の下働きだって、身元のしっかりした家の子どもは使ってくれるけど、孤児院の子どもはななかなか使ってくれないんだよ。

 それなら、この村に行ったらどうかと言われて申し込んだんだよ。まさか、こんなに田舎だとは思わなかったけどね。領都じゃさ、親のいない子は生きて行くのは大変だから、悪い方に落ちて行くのが多いけど」

「オレのいた世界でも、孤児が生きるのは大変だけどな。オレは運良く両親がいたから良かったけど」

「それはいいな。アタシは一度でいいから、親の顔を見てみたいと今でも思うけど。親の両方が揃っている子どもは少ないけど、どっちか片方がいるだけでも、やっぱり羨ましいよ。アタシはこの村に来て、一緒に住む人がいて、ミンが生まれた。ダンナは死んじゃったけど、ミンがいるから生きて行けるし、ここなら生活は楽じゃないけど、悪いことしなくても生きていけるから。もし、アタシが死んだとしても、みんながミンを育ててくれるから心配ないし。ただ、この村はとっても、とっても貧しいけど、へへへ」

「そうだな」


「うん、そう。それでね、マモルのいた世界で占いをたくさんの人がしているなら聞いてみたいけど、占いをする人って特別かな?」

「いや、そんなことはないぞ。占いするのは大勢いるから、特別でもなんでもないが、それがどうしたんだ?」

「それはね、これから言う話は誰にも話したことがないから黙ってて欲しいんだけど、ミンには婆さまと同じ占いの力があると婆さまから言われているんだ。占いの力って、ここでは特別だから、アタシとしては心配なんだよ」

「ミンに占いの力があるのか?」

「うん、婆さまから言われた。でも、今は小さいから、力が出てなくて、大きくなってから力が出てくるって、言われた。この力って、やがて婆さまから引き継がれるって言われていて、婆さまの占いの力がなくなったとき、ミンに力が現れるんだって。一番、ありそうなのは婆さまが死んだとき、移ってくると言われたよ」

 占いの力の、一子相伝?ですか。


「それで、ミンの力のことは黙っているように言われたの。人に知られると良くないことが起きるからって。もしかしたら、私とミンが引き離されるかも知れないからって」

「それはミンの力が知れると、利用しようとするヤツが出てくるかも知れないからだな」

「そうだと言われた。婆さまは、ミンの力はまだ、婆さまにしか分からないけど、そのうち誰もが分かるくらいの力になることがあるって。そうすると、ミンを利用しようと思うヤツが出てくるって。利用しようとするヤツは、悪いことを考えるヤツもいるから、ミンを攫われるかも知れない。だから黙っていろと言われた」

「そうだな、それはありそうだ。オレのいた世界に『沈黙は金』という格言があったけど、ミンがそうだな。黙っているしかないさ、ミンとずっと一緒に暮らして行きたいなら」

 あれ、ということはミンは巫女さんということかしら?

「占いしたり予言したりする女の人は、男と一緒になれないのか?ずっと、キレイな身体のままでいないといけないとか、ないのか?」

「あはは、何それ、そんなことないよ。マモルの世界ではそうなの?」

「いや、聞かれてみれば、占いしている人のほとんどはそんなことないな。昔は処女でないと神が降りてこない、とか言われていたこともあったような?」

「処女、あははは、そんなこと言ってたら、誰も占いする人いないよ?おかしい!!」

「あれ、婆さまはダンナがいたのか?」

「うん、確かそうだよ。子どももいたって聞いた」

「へぇーーーー、婆さまの子どもって誰だろ?顔を見てみたいな」

「今度聞いてあげるよ、マモルが見たいって、婆さまの子どもの顔がどんな顔してるか知りたいって言ってたって」

「止めてくれ、それはいいから」

「ふふん、アタシも興味あるけどね」


「この村で女の日になったら、どこに行くのか?」

「アンのこと?この村に女の日になった女が集まる小屋があるんだよ。領都ではこんなことなかったし、この村だけの決まりだね。アタシも不思議だったけど、女の日は血を流すから、それが女と一緒に暮らしている男に移ると不吉だからってことらしいよ。男が血を流すというのは、狩りをして血を流すことになって、血を流すのはケガをしたり死んだりすることになるから、ってことらしいよ」

「へぇ、難しいなぁ」

「アタシも最初聞いたときは驚いたけどね。マモルはアンに会いたいだろうけど、ガマンしてもらうしかないよ」

「あぁ、そこまで会いたいわけじゃないけどな」

「何言ってるのよ、アンにあんな声を出させておいて!」

「......」

「もう、村の女たちは大騒ぎなんだから。アタシも聞きにいこうって誘われたんだからね!アンが壊れちゃうんじゃないかって、みんな心配してたよ。もしかしたら、今も外でみんな待ってるかも知れないよ、早く始めてくれないかなって」

「そんなもんか?」

「そうだよ、この村って何も楽しみがないからさ、マモルが来て、それでアンがあんなことになったりすると、みんな興味持って大変なんだよ。だから、アタシは今晩しないと決めているんだ。マモル、ゴメンね」

「いいよ、オレも人が聞いてる中でやりたくないから」

「何言ってるのよ、人に聞かれたくないと言ってる人が、アンにあんなに声を出させてさ」

 へぇ、すいません。

「アタシもアンに聞いたもの。どうしたのって」

「アンは何って言ってた?」

「分かんないって言ってたよ。アンは何もしてないのに、自然とそうなったって。アタシも体験すれば分かるって。でも、アタシはアンみたいにならないから」

「それはオレも知らないよ。もう寝よ」

「ふーーん、そうだね、もう寝よ。明日は大変なんだしね」


 その夜は何事もなく、静かに眠った。本当に何事もなく。




読んでいただき、ありがとうございます。

孤児であることは、現在でも厳しいのに、かつてはもっと厳しく、天寿をまっとうすることも稀であったのではないかと思います。この村で生きて行くことは過酷ではありますが、ほんの小さな幸せがあると思います。

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