凶賊を迎え討つ準備を進める
森でオレが切った木を枝打ちし、丸太は村の中に運び、枝は訪問団の駐屯場で燃やす。
「凶賊はここに入れるんだ」
ドンが説明してくれた。
「え、凶賊をここに入れるのか?入ってくれって言ったら、入るのか?」
「ああ、そうだ(鷹揚に頷く)。大抵奴らは隣国に行く途中の訪問団だとウソを言ってくる。領都からこの村まで丸5日かかる。凶賊がどこからくるか分からないが、たいていは夕方にここに着く。
この先の草原に日が暮れてから通るのは危険だから、まず間違いなくこの村で一泊する。奴らは隣の国に行く途中で泊めさせてくれというから、ここに入れ1泊させる。まぁ、凶賊だとバレてるし、奴らもそれを承知しているんだが、ここで泊めてやるんだ。泊めないというと必ず戦いになるから、戦って、こっちにデカい被害がでても困るしな。
それで次の朝に奴らがそのまま、隣国に行ってくれればいいが、たぶん夜に村を襲うだろう。奴らは隣国に行くための食料をここで調達しようと考える。だから夜のうちに村に入り、オレらを殺して食料を奪おうとする。女も子どもも皆殺しにしようとする、口封じのためにな」
「待て!奴らがこの村に来たとき、食料を要求してこないのか?」
「してくる。だが、断る。この村は元々やっと生活ができる線で生きている。食べ物も余るほど持っていない。だから、隣国の訪問団が領都から来るときは、この村で食料を調達しない。むしろ、領都から塩を運んで来てくれる。それに見合った干し肉とは交換するがな。だから、向こうが、凶賊が何か交換するものがあれば、交換する。食料をくれと無理に言うなら戦うことになるがな」
「それで済むのか?」
「済まない。向こうにしても、昼戦うと被害が大きくなると考えるから、夜に襲ってくるだろう。当然、こちらも警戒しているし、奴らもバカじゃないから、警戒されているのを分かっていても襲ってくる。ここで食料を調達しないと、この先の隣の国に行けないから、絶対に必要なんだ」
話をしているとバゥがやってきた。
「オレたちはこの村を守らないといけないから、絶対に戦わないといけないんだ。マモルは人を殺したことがないんだろう?」
「ああ、獣を殺すのだって、前の世界ではしたことがなかったよ。ここに来て初めてだ。だから人を斬ったことはない」
「そうだろう、獣を殺すのと人を殺すのは違う。だが、凶賊を殺さないとオレたちが殺される。女は犯されて殺される。小さい子どもも赤ん坊もみんな殺される。だからヤツらを殺すのをためらってはいけないぞ」
「分かった。肝に銘じておく」
「頼む」
駐屯場の火は任せて、村の中に入り、櫓や足場組みを手伝う。元々、そういう前提で柵が組まれていたようで、足場はすでにできあがっていた。一番変えられていたのは駐屯場スペ-スから村に入る門の所で、門から入ったところから村の奥に向かって両側に丸太を塀のように重ねて村に入る通路にしている。
そこにジンが来たので聞いてみた。
「これは何をしているんだ?」
「これは、凶賊が門を破って入ってきたとき、ここで殺すためだ。この門は余り頑丈に作ってないから、割と簡単に凶賊は突破できる」
「え?それで良いのか?」
「良いんだ、門が頑丈すぎると、なかなか中に入れなくて、最悪の場合ヤツらは村に火を付けようとするから、火を使わせないように、門の中に誘い入れるんだよ。そして門を抜けて、奴らが中に入ってきたとき、両側に塀を作っておくと、真っ直ぐにしか来れないだろ?そのために作っているんだよ」
「なるほど」
「そこでだ、両側から槍で突いて、だいたいのヤツを倒す。それをかいくぐって来たヤツを、オレとマモルと(え?オレ)バゥとドンで迎え打つ」
「その、オレがジンたちの中に入って、大丈夫なのか?」
「何を言ってるんだ?マモルが来てから、森に行くと必ず獲物を持って帰ってるじゃないか。牛、狼、イノシシ、ウサギ、羊、なんて普通は無傷じゃ絶対仕留められないぞ。経験がまだ足りないが、実力を見れば、オレと同等かオレ以上だな。そんなマモルが前面に立たないで、誰が立つんだよ。もしマモルに足りないモノがあるとしたら、人を斬った経験だけだぞ」
「そうかなぁ......オレにできるかなぁ、ハァ。それで、ここで迎え打つとしても凶賊がここから入ってくると、どうして分かるんだ?」
「そうか、そう思うか。凶賊が昼に攻めてくるときは、どこから攻めるか分からないが、夜ならこの門の所しかないんだ」
「どうしてだ?」
「野営しているところと、村を繋ぐ門はここしかないからだ」
「え、どうして断言できるんだ。草原の方の門に回るかも知れないだろ?」
「普通はそう考えるが、それは無理だ。昼ならともかく、夜の柵の外は獣がウヨウヨいるから、別の入り口に回り込もうとすると、オレたちを襲う前に、自分たちが獣に殺られてしまう可能性が大きい。月灯りがあろうとなかろうと、夜は人間より獣の方が目が利く。狙われたら絶対に負ける。獣が寄ってこないように火を持ってたら、オレたちから居場所が分かるから、槍で殺す。灯りがないと、すぐ側に獣が来てても分からないぞ。万が一、囮を出そうとするかも知れないが、柵の外に出た途端、狼にやられるぞ。ここの門が本命だ」
「そう言われればそうだな。それで、凶賊はどのくらいくると思うか?」
「たぶん20人から多くて30人と言ったところだろう。討伐隊に追われているなら、そんな大人数ではないはずだ。まあ、とにかくヤツらにこっちが色々準備しているのを見せたくないから、明日は何も知らないような顔をして、ヤツらを待って過ごす。たぶん、凶賊の本体の前に先行して偵察に来るヤツがいるはずだから、こっちの準備を見られたくないしな」
オレの考えることはみんな手当されている。ジンがこれだけ考えてるなら、負ける気がしないな。




