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凶賊が来るかも知れない

 朝起きるとアンはいないので、いつも通り井戸に顔を洗いに行く。いつも通りオバチャンたちに揶揄され、すごすごと小屋に戻る。だんだんと言われることが露骨になってきているもんな。自分で播いた種とは言え、あーだこーだ言われるのは、ちょっと凹む。小屋にはアンが朝食を準備して待っていたので一緒に食べる。アンはもっと言われているのだと思うが、オレの前では何も言わないし、表情も変えない。


「マモル、婆さまが来て欲しいと言ってたよ」

「あれ、夕べ会ったのにまたか?」

「うん」

「何だろうな?夜、アンの声がうるさくて眠れない、ということでもないだろ?」

「バカ!!それって誰のせいか、分かってるの!!」

「誰のせいなんだろ?オレは知らないけどな、ふふふ」

 アンが顔を真っ赤にして、頬を膨らましているのを笑いながら小屋を出て、婆さまの小屋に向かう。


 婆さまの小屋に入ると、ジンとバゥもいた。

「おはようございます。何かありましたか?」

「ああ、マモル、おはよう。悪かったね、朝から呼び出して」

「「おはよう」」

「いえ、どうせ朝はジンに剣を見てもらってますから、大丈夫です。それで何かオレに用ですか?」

「マモルにも集まってもらったのは、ワシの占いで良くない卦が出たからなんだよ」

「良くない卦、ですか?」

「そうなんだ、夕べから胸騒ぎがするから、朝占いをすると良くない卦が出たんだ。どうも領都の方から悪いモノがやってくる、ってね」

「婆さま、領都の方から何か来るということか?」

 とジンが婆さまに問うと、婆さまは皺だらけの顔をさらに皺くちゃにして言う。

「そうだ、領都の方からだ。マモルが来たときは、隣国の方から幸いが来る、と卦が出たんだよ。でも、今朝は悪い何かがやってくる、と出たんだ。近いうちに、明後日くらいに来るようだよ。だから、みんなに気を付けるように伝えて、準備しておくようにしておくれ」

「わかった、みんなに伝えて、準備させる。バゥ、手配してくれ。武器を確認して、いつでも戦えるように準備するぞ」


 婆さまとジン、バゥは何か思い当たることがあるようで、テキパキと進めているがオレはさっぱり分からないので聞いてみる。

「ジン、済まないがオレにも分かるように話してくれないか?」

「ああ、そうだな。マモルは初めてだから分からないか。婆さまの占いは、これまで外れたことがないのだが、今回のような悪いモノが来るというのは前にもあったんだ。前のときは凶賊が来た」

「凶賊か?」

「そうだ、凶賊だ。獣が来るときは森から来るし、隣国が攻めてくるときは、草原の向こうからやって来る。領都から来る悪いモノというと、凶賊が領都付近から追い払われて逃げて来るのだろう。奴らは隣国に逃げ込もうとするが、食料を途中調達するために、必ずこの村を襲い、食料を得ようとするはずだ。最悪の場合、火を掛けられるかも知れない。それを前提に防備を固める。雨が降ればいいんだが、当分降らないような気がする」

「分かった。でも婆さまは、来る日も正確に分かるのか?」

「分かる。今の話からすると、明日の夜から、明後日の夜にやってくるだろう。たぶん、向こうも必死だろうから明日の夜あたりから危ないな」

「分かった。それでオレ何で呼ばれたんだ?おれみたいな新参者は役に立つのか?オレは何をすればいいんだ」

「マモルが毎日のように獲物を獲ってきてくれることを考えると、マモルは重要な戦力になっているから知らせたんだ。今のところ、マモルは特に何もすることはないが、まず石を集めてくれ。それから、みんなの手伝いをしてくれ」

「石を集めるのか?分かった。他に何かできることがあれば、言ってくれ」


 ジンとバゥは緊張した顔で婆さまの小屋を出て行き、村のみんなを集めて説明し指示を始めた。みんなもみるみる緊張感を顔に出し、動き出す。

 男たちは丸太を納屋から出してきて、柵の内側に取り付け出した。村を囲む柵の高さが2mほどあるから、半分の1mくらいの高さに足場を設置している。

 オレは言われた通り、石を集めに行く。村の横にある訪問団の駐屯場には手頃な石がゴロゴロ置いてある場所があった。聞くと、こういこともあるかと思って地面に敷き詰めてあるそうだ。それなら、ジンと投球練習したとき運ばなくても良かったのに、と言うと、ジンの方針だという。ここにあるのを使い出すと、ドンドン使ってなくなってしまうから、持って来て投げる練習する、という気持ちが大事だそうだ。

 村のみんなは緊張感持って動いているが、オレは今イチ現実味がないので、どことなく人ごと感があるような気がする。これはオレも、だんだんと切迫してくるのだろうか?


 カゴに石を入れて数往復すると、丸太が足りないと言われたので森に連れて行かれる。柵の周りの木を切って使うそうだ。柵に近い木は、隠れるのに適しているから、隠れることができないように柵の近くの木は使わなくとも全部切ってしまい、柵の中に仕舞うんだそうだ。

 斧で切っているが、なんとなく剣で斬れそうな気がする。誰も見ていないのを確認して、剣に気を貯め、剣を振り下ろす。幹の直径が30㎝ほどあるのだが、スパンと一刀両断できた!!これはスゴい、自分でも驚いた。村正クンの切れ味の良さに驚いて、自分の腕の上達ぶりに驚いた。主に前者のせいなんだろうけど、スゴいわ。


 調子に乗ってドンドン切っていく。これが面白いように切れていく。切れた木が倒れて行くから離れて斧で切っていた男たちが、オレの近くに寄ってきて見始めた。

「スゴいな、マモル」

「イノシシや羊を切ったとき、スゴいと思ってたが、やっぱりスゴいわ」

「そうだな、ジンでもこれほど切れないだろうな」

「おう、マモルがこれだけ切ってくれるなら、オレたちは枝打ちして丸太を運ぼうぜ」

「そうだ、そうしよう。どんどんやるぞ。枝打ちした枝は向こうの空き地で燃やせ。残しておいて凶賊に使われないようにしないといけないからな」

「「「「よし、分かった」」」」

 見ていた男たちがテキパキ動き始める。オレはもう疲れてきたんですが、がんばるっす!!


 半日くらいかかって、柵の近くにあった木々を刈った。腕が棒のようになった気がする。でも疲れてから、余計な力が抜けて、うまく切れるようになった気がする。オレが切り終わった時点で休憩となった。それで男たちに不思議に思っていたことを聞いてみた。

「凶賊が来るというけど、凶賊が街道をやってくるのか?」

 みんなは奥の方に座っていた男の顔を見た。確か、隣の小屋に住んでるドンだったか?いつも夜がうるさくて、すみません。その人が、この伐採チームのリーダーになってる。

「確かにマモルの思うのは当然だな。凶賊と言うから街道以外の場所に根拠地があるもんだもんな」

「そうだろ?みんな不思議に思わないのか?」

「確かに領都の近くや国都の街道沿いはあるそうだが、こっちの方の山や森は結構危ないんだよ。強めの獣が多くてな。どんな凶賊や山賊でも狼の群れに襲われたら、ひとたまりもないからな」

「そうか、そうだな。オレが最初に狼の群れに襲われたときは10頭ほどだったが、もっと多い群れもいるんだろ?」

「あぁ、そうだ。実際、狼の群れに襲われて無傷で帰ってきたものはないし、ほとんどは死んじまっているから、何頭いるかは分からない。マモルが来たとき、狼が10頭も襲ってきて、死んだのがガイ一人ってのは奇跡だぞ。それに、草原は危ないから、オレらは普通行かないんだよ。

 遠くにいる群れを見ると、たくさんの数がいるのかな、というくらいだぞ。さあ、仕事を再開するぞ」


 





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